GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!!   作:混沌の魔法使い

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どうも混沌の魔法使いです。今回はガープをメインに書いていこうと思っています、第一部最後に相応しいように盛り上げていこうと思っているので、今回の更新もどうかよろしくお願いします


その15

 

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その15

 

全身に走る激痛に顔を歪める、ガープの神経毒を押し流す為に剣を突き刺して魔力を身体に流し込んだ。そのおかげで毒を押し流すことが出来たが、その代償はあまりに大きかった

 

(左腕は完全に死んだな、それと……中もだいぶイカれたか……)

 

剣を突き刺した左肩を中心に感覚が無い、それと臓器のほうもだいぶ損傷を受けている。さっきから息がし辛い、それに目の前も歪む。それでも歯を食いしばり平気そうな顔をする

 

「自爆テロか?止めとけよ、ハッタリは」

 

「は!そう言う貴様もやせ我慢は辞めたらどうだ?」

 

カウントを進めている火角結界のカウントは400……ずいぶんと長い時間で設定してある。これは本来10秒やそこらで起動するものだ、400なんて長時間でセットするなんて事はありえない

 

(ビュレト様。ハッタリでは?)

 

ひそひそと話しかけてくるブリュンヒルデに違うと断言する。こいつはハッタリで火角結界なんて持ち出さない、出した以上は間違いなく爆発させる。だがその対象に自分をも巻き込んでいるのがありえない、安全圏で発動するならまだしも、自分も結界の対象範囲にいれるなんて愚の骨頂である

 

(なにかあるのかもしれねえな……)

 

自分だけは助かるような何かを用意している可能性は十分にある。それに態々横島忠夫達まで結界の中に取り込んだのも何か理由があるのかもしれない、それに何よりも

 

(くえすが危ねぇ)

 

魔法陣の中に閉じ込められているくえすの方が危険だ、今こうしている間もくえすが魔族へと変化させられている……もしくえすが魔族になってしまえば、俺の魔力を十全に扱えるようになるだろう。そうなれば向こうの戦力が増す、なんとかして奪還したいが、その隙が無い。魔装術を展開した奴が魔法陣の近くに陣取っているのもあるが、ガープに背中を向けることの危険性を考えれば、強引にくえすを助けるなんて事も出来ない。どうするか考えているとガープが俺の後ろを見て

 

「ああ、死にたくないなら死に物狂いで足掻くが良いさ、私は助かるからな。君達が苦しむ姿を最後まで楽しむとしよう」

 

結界を調べている美神達にそう声を掛け瓦礫に腰掛けるガープ。俺の剣が貫いた左肩が痛むのか庇う仕草は見せているが、浅いのは俺が1番判っている、間違いなく動くと見て間違いないだろう

 

「下手に動くなよ?指が滑るかもしれないからな」

 

機械を手にしているガープ。おそらくカウントを無視して起爆する為の機械だろう……これで動くことが出来なくなった……

 

「さて、少し話をしようか、人間の愚かさについてな」

 

にやりと笑い話し始めるガープに対して俺が出来たのは睨みつける事だけだった……

 

 

 

『ああ、その通りだよ。チューブラーベル。それを美神令子の母親に植え付け……ヴラドーとか言う臆病者の吸血鬼に植え付け……ああ、そうだ今思い出した。ブラドーの妻の父を狂わせたのものに私だ、人間と吸血鬼の理想郷などと言う戯けた事を言う魔族の面汚しに制裁を加える為にな』

 

美知恵君の両親に……先ほどガープが告げた言葉。腸が煮えくり返るほど熱くなっているのに、それに対して嘘の様に頭が冷えている、それはきっと真実を知っているであろう私に対して、何も問いかけてこない美神君の姿があるからだろう

 

「唐巣先生!そっちはどうですか?」

 

反対側の結界の基盤を調べていた美神君の言葉にハッとなり、中断していた調査を再開する

 

「こっちは外れだ!次に移る」

 

火角結界は指示を出す1枚の基盤を元に10枚前後展開される。指示を出す基盤を見つけることが出来れば解除できる可能性はある、だがこれだけ巨大で、しかも人の心を惑わすガープだ。見つけたとしても認識できない可能性もある

 

「じゃ、今度は私が見るワケ」

 

小笠原君の言葉に頷き隣の基盤に移る。その時に聞こえてきたのはガープの言葉だ

 

「人間は愚かだ、些細な事で同族を迫害し、殺す。全く持って愚かだよ。長い間人間の心を見てきた私だから言える、人間は滅びたほうが良い種族だ」

 

何を勝手なことを言っていると叫びたかった、だが今はなんとしても結界の元を探して脱出することを優先しなければならない

 

(横島君や蛍君を助けなければ……)

 

結界の基盤を探しているのは私と美神君、それと小笠原君と3人はっきり言って効率が悪いが、知識が無い横島君には解体なんて出来るわけもないし、それになによりも意識を失っている蛍君を心配している横島君を引き離すのは可愛そうだ

 

(出来ればシズク君には手伝って欲しかったんだがな)

 

しかしそのシズク君も明らかに不調と言う感じであり、手伝いを強要するのは気が引けた

 

(くそ……こんなことを考えている場合じゃないというのに!)

 

避難誘導してくれている琉璃君がいるのがせめてもの幸いか……

 

「唐巣先生、場所交代してください」

 

「あ、ああ」

 

美神君の言葉に頷き場所を交代する。てきぱきと結界を調べている美神君を思わず見ていると

 

「今は何も聞かないです、祖父母とか言われても私は認識があるわけじゃないし、ママの事も私に話さなかったのは何か理由があるんですよね」

 

美神君の問いかけに思わず硬直してしまう。美神君はそんな私を見て

 

「気になるといえば気になりますけど、今は助かることだけ考えましょう。小竜姫様も動けないみたいですし……」

 

完全に硬直状態になっている小竜姫様達の方を見て呟く美神君にそうだねと返事を返し、結界の調査をしていると

 

(美神さん、唐巣神父)

 

小声で話しかけてくる蛍君の声が聞こえて振り返ると、まだ青い顔をしているが蛍君が姿勢を低くし、ガープに見つからないように私と美神君の方に来ていた

 

(蛍ちゃん。大丈夫なの?)

 

美神君が駆け寄って蛍君に尋ねると蛍君は小さく頭を振りながら

 

(まだ頭がぼーっとしますけど、大丈夫です)

 

大丈夫と言っているが、その顔は青くとても大丈夫そうには見えない。美神君もそう思ったのか

 

(無理をしないで横島君のほうに戻りなさい、結界の方は私達の方で何とかするから)

 

(その通りだよ、蛍君は戻って休んでなさい)

 

私と美神君で戻るように言うが蛍君は小さく首を振って

 

(私……これ何とか出来ると思います)

 

何だって?私と美神君が驚いて顔を見合わせている間に蛍君は私と美神君の間にある結界の前に立って

 

(多分……ここです)

 

そう呟いて霊力を込めた手刀を振るった。するとガコンっと言う音を立てて結界が開く、其処には私達が探していた結界の基盤があった

 

(凄いじゃない!蛍ちゃん!)

 

美神君が駆け寄って青い顔をしている蛍君を抱き止める。確かにこれは凄い、これで火角結界を解除出来るのだからガープの策は無力化出来たも同然だ。ハンドサインで小笠原君に戻る様に合図を出すと直ぐに小笠原君が戻ってきて、開いている結界と蛍君を見て

 

(本当。令子より先にスカウトしたかったワケ)

 

疲れた表情でそう呟く、ここ1番の粘り強さ、そして運の良さ、どれを見ても優秀なGSの卵と言えるだろう

 

(い、いえ……そ、そんな)

 

私達に褒められているのが恥ずかしかったのか、赤い顔をしている蛍ちゃんが小さく手を振る。だがこれは本当に凄い事だと言える、後は結界を解除して小竜姫様達に攻撃出来ると言う合図を出そうとしたした時

 

「……勝手な事言うんじゃねぇぇッ!!!!」

 

横島君の怒声が聞こえ、振り返ると横島君が拳を握り締めてガープへと駆け出していた……

 

 

 

火角結界を張り、あえて無駄話を聞かせていたのには意味がある。この程度の言葉でビュレトや美神令子が動揺するとは思ってなかった。これは全て横島忠夫を動かす為だけに聞かせていたのだ

 

「……馬鹿!横島戻れッ!!」」

 

私の魔力に当てられて動くことがシズクが戻るように叫ぶが、言葉だけで横島忠夫は止まらない。私の言葉を否定するには横島は若すぎる、例え身体を抑えられてもそれを振りほどき私に向かって来ていただろう、霊力も篭っていない拳を握り締めて走ってくる。そんな攻撃など片手で弾くだけで防ぐ事が出来るし横島忠夫を殺す事だってが出来るが、殺してしまっては意味は無い。障壁を張ってその拳を止める、ついでにだが横島を回収されては意味が無いのでビュレト達が近づけないように結界を同時に展開する

 

「ぐっ!横島さん!戻って!殺されてしまいます!」

 

小竜姫が誰よりも先に叫ぶ、その顔は動揺と横島忠夫が死ぬことに対する恐怖の色が浮かんでいて

 

(ふむ、これは面白いな)

 

あれは確実に横島忠夫に想いを寄せている。いや、小竜姫だけではないか……

 

「横島!戻って!死んじゃうから!お願いだから戻ってッ!!!」

 

いつの間にか意識を取り戻していた芦蛍が戻るように叫ぶ。ここで横島忠夫を回収して洗脳するだけで何人かは攻撃を躊躇うな……精神操作をするのも完全に精神操作をしてしまうのではなく、元の記憶や感情を残した方が精神的ダメージを与えることが出来そうだな

 

(まぁまずは横島忠夫を捕まえてからだな)

 

これで特異点も確保できたな……人格を知らないから精神操作は難しいが、洗脳する事が出来れば、あらゆる陣営に精神的ダメージを与えることが出来る武器を手にする事が出来ただけで十分か、後で少しずつ調整していけば私の求める役割を十分に務めてくれるだろう

 

「ぐあっ!う、うわああああああああッ!!!」

 

障壁にぶつかり、拳を突き出した体勢のまま横島忠夫を見る、どうせ気絶しているだろうがなと思い目を向けて驚いた

 

(目が死んでいない……だと)

 

私の魔力で出来た障壁からの衝撃で意識を失って当然なのに、まだ目が死んでいない。しっかりと地面を踏みしめ、前に進んでくる横島忠夫を見て本気で驚いた。もう精神的にも肉体的ダメージの事を考えても気絶してもおかしくないというのに……

 

「……せっ」

 

「なんだ?」

 

「ブリュンヒルデ!早く結界の解除を!このままでは横島さんが!」

 

「待ってください!結界破壊は難しいんです!」

 

「ええい!どけッ!俺が破壊するッ!!!」

 

小竜姫がブリュンヒルデに詰め寄ってそう怒鳴り、ビュレトが怒号の中剣を振り下ろしているせいでよく聞こえないが、何かを呟いてる

 

「……えせ……」

 

小さな声で何かを呟いている横島忠夫の言葉に意識を集中する

 

「……神宮寺さんを……返せッ!」

 

私に殴りかかろうと右拳を突き出す、だが霊力も篭ってない拳で……そもそも人間が私の障壁を貫けるわけが無い。だがその目と闘志を見てこのままでは不味いと本能的に悟った。この手の人間の危険性は知っている……殺さなければ後で治療は出来る、左手を横島忠夫に向けようとした瞬間

 

「そうはさせないわよ」

 

耳元で聞こえた声、そして首に絡まる腕……あまりに予想通り過ぎて思わず失笑してしまった

 

「やはり裏切ったか」

 

「あら、裏切ったつもりは無いわよ。最初からあたしは貴方に忠誠を誓ったつもりなんて無いわ」

 

魔装術を展開した勘九朗がそう呟く、ああ、それも判っていた。だからここで処理しておくとしよう

 

「なら死んでおけ、お前に私の足止めなど出来ない」

 

全身から魔力を炎へと変換し噴出する。かつてベリアルから教わった術だ、漆黒のその炎は一瞬で勘九朗の全身を包み込む

 

「あ、ぎゃああああああああッ!!!!」

 

魔装術が焼けて苦悶の悲鳴を上げるが、私を押さえ込み続ける。馬鹿な!?精神と肉体の同時を焼く炎にどうして耐えることが出来るというのだ

 

「あたしはねえ!!!白竜会の長兄よッ!自分の家族を玩具にされて黙ってられるものかッ!!半端者の意地を舐めるんじゃないわよッ!!!」

 

精神が肉体を凌駕するという甘いものではない、文字通り魂を燃やして私の炎に対抗している。輪廻転生の輪から外れる覚悟をしている、覚悟を決めた人間は強い。文字通りその命を燃やして奇跡を起こす。数秒と言う時間を横島に与えた、そしてその数秒が私の命運を分けた

 

「……お、おおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」

 

(ば、馬鹿なッ!?)

 

その一瞬の動揺。そして横島忠夫から目を逸らした一瞬……その一瞬で信じられない事が起きていた

 

「神宮寺さんを返しやがれええええッ!!!!」

 

真紅に輝く双眸。そして鈍い輝きを放つ黒い篭手に包まれた右腕……しかし何よりも私の目を引いたのは、背中から噴出している翼を思わせる漆黒の魔力……

 

(先祖がえりだと!?いや、ありえない!?なんだこれは!?)

 

人間が霊力と魔力を同時に発するなんて事はありえない。霊力に魔力が混じるのは判る、だが両方同時に発するなんて事はありえない。ありえてはならない

 

「え?どうして横島から魔力が……」

 

「こいつは……俺の……魔力だと!?いや……今はどうでも良い!ブリュンヒルデ!次の一撃を全力で叩き込める様に俺にルーンを使えッ!」

 

漆黒の魔力を見て、あちこちから動揺する声が聞こえてくる。私自身も動揺し、そして避ける事と防御することを完全に忘れた……

 

(くそ!もう間に合わん!)

 

仮に間に合ったとしても腕を押さえられているので魔術を使うことも出来ない、かと言って転移することも出来ない。全ての敗因は人間の意地を計算に入れていなかった私のミスだ。そう気付いた時にはもう遅かった。限界まで引き絞られた右拳が迫ってくる、とっさに歯を食いしばり、意識が飛ばされないように身構える

 

「がっはぁッ!!!!」

 

顔面に突き刺さる漆黒の拳。そのあまりの激痛に意識が飛びかける、だがその衝撃で私を押さえ込んで勘九朗も吹き飛ぶ

 

「……ッ!計算外だったが、それもここまでだ」

 

自由になった両腕で魔術を行使しようとした瞬間。横島忠夫の背中の魔力の翼からさらに魔力が噴出し、拳を振り切ったままの体勢の横島が弾丸のように突っ込んでくる。不味い、これは不味い!とっさに魔力障壁を展開出来たのは本当に本能としか言いようが無い

 

「滅殺の……ファイナルブリッドッ!!!」

 

地面を抉りながら放たれたアッパーが私の障壁を貫き、腹に突き刺さり上空高く殴り飛ばされる

 

「がっはああ!?」

 

い、息が出来ない……意識を失うだけのダメージだったが、腹を抉られた事で死ぬほど苦しいのに、意識はやけにハッキリしていた。

 

「神宮寺さん!」

 

もう私に興味は無いと言わんばかりに神宮寺くえすを覆っていた魔法陣を破壊し、倒れてくる神宮寺くえすを左手で掴み自分のほうに引き寄せる横島忠夫の姿……

 

(しかたあるまい)

 

ここで殺してしまうのは惜しいが、このままほっておくとどこまで成長するか判らない。横島忠夫の危険性を理解し、ここで殺す事を決め呪文の詠唱をしようとした瞬間

 

「ガープゥゥゥッ!!!!」

 

近くから聞こえてきたビュレトの怒声に振り返る、それが全ての間違いだった

 

「火精招来!くらいなさい!」

 

「アンサズッ!!」

 

下から放たれた小竜姫の火炎放射とブリュンヒルデの火のルーン魔術の直撃を喰らい、悲鳴を上げる間もなく炎に包み込まれ、周囲の酸素が燃え呪文を詠唱することが出来ない、その致命的な隙をビュレトが見逃す訳も無く

 

「くたばれぇぇッ!!!」

 

ルーン魔術で強化されたビュレトの一撃が胴を貫く、そこからビュレトの魔力とルーン魔術が流れ込んできて、全身がバラバラになりそうな痛みが走る、しかもビュレトの攻撃はそれで留まらず

 

「おおおおおッ!!!」

 

両手を頭の上で組み、渾身の力で振り下ろす。ルーン魔術のブーストを受けたその両拳の凄まじい威力に意識が飛びかける

 

「ぐはああっ!?」

 

トドメだと言わんばかりに投げつけられた剣。とっさに回避したが、右肩を貫かれた。だがその痛みのおかげで途切れかけた意識がはっきりとしてくる

 

「ぐう……殺してやる!!!」

 

痛む両肩に眉を顰めながら、右手をビュレトに向かって突き出した瞬間。背筋に氷を突っ込まれたような恐怖を感じた

 

「貴様が死ね、かつての配下の不始末は我がつける」

 

「ぐ、ぐはああああああああああああッ!!!!」

 

目の前に現れた魔法陣からあふれ出した蒼い炎。そして魔法陣の後ろで腕を組む緋色の髪を持つ魔神の姿を見たのだった……

 

 

 

突如私達の前に現れた緋色の髪をした男を見た瞬間。私が見たのは自分が死ぬ光景だった……何をしたわけではない、ただその場に立っているだけなのに死を感じた、思わずその場で膝を付いて倒れこんでしまった。私は半分魔族だったから意識を保つことが出来たが、美神さんや唐巣神父はその圧倒的な魔力に耐えることが出来ず、意識を失ってその場に倒れてしまった。幸いな事に離れていた横島やエミさんが意識を保っていてくれた事が不幸中の幸いだと言えるだろう

 

「あ、ああああ……アマイモン閣下ッ!?!?」

 

ブリュンヒルデさんの悲痛にも似た悲鳴が試合会場に響く、あ、アマイモン?……それって確かエノクの書に名前を刻まれた最上位の魔神!?

 

「オーディンの娘か、我がここにいることは不問とせよ。その代わりに……ガープは我が潰す」

 

組んでいた腕を解き拳を握り締めたアマイモンがガープに向かって

 

「かつての配下だ。その不始末……我がつけるが道理。これだけはほかの誰にもさせん」

 

力強く地面を踏みしめ、そう呟くアマイモンの目には僅かな悲しみの色が見て取れた。それはかつての部下を自分で始末しなければならないことに対して悲しみを感じていたからかもしれない。小竜姫様とビュレトさんも何か言いたげだったけど、アマイモンに任せることにしたのか2人とも剣を納めてガープから離れた

 

「くっはははは!!!!剣も鎧も持たず、私に勝てると思っているのか!アマイモン!衰えた今の貴様など恐れるに「……遺言はそれだけか?」ぐはあッ!?」

 

ぜ、全然見えなかった……アマイモンは一瞬で間合いを詰め、ガープの頭を鷲づかみにして地面に叩きつけていた

 

「ああ、確かに我は衰えたな、身体も重い、思うように動けんさ」

 

「ぐふっ!?」

 

無造作にガープを蹴り上げながら呟くアマイモン。こ、これで鈍っているっていうの……全盛期がどれだけの脅威だったのか想像も出来ない

 

「だがお前を滅することなど他愛ないのさ」

 

空気が爆発するような音が響き、ガープの苦悶の悲鳴と強烈な打撃音だけが試合会場に響く

 

「ぐっふう……ば、馬鹿な……これほどの力を……未だに保っているだと……」

 

結界に背中から叩きつけられたガープが大量の血液を吐きながら、信じられないと言う様子で呟く

 

「格が違うんだよ、ガープ。分不相応な想いを抱いたな、だがそれもここまで潔く死ね」

 

倒れているガープに向かって腕を伸ばすアマイモンだったが、その腕を止めて顔を上げる。それにつられて顔を上げると火角結界のカウントが残り5秒になっていた、慌てて火角結界を停止させる。

 

(お父さんの馬鹿……は。恥ずかしいじゃないの……)

 

どうして私がすぐに結界の制御装置を見つけることが出来たかと言うと、これでもかって目印があったのだ。しかも……私と横島の名前を書いた相合傘の下に制御装置だよ?と書いてあった。もう恥ずかしくて顔から火が出そうだったが、そのおかげで結界を解除できたと考えるとお父さんを責める事も出来ない

 

「ふ、ふふふふ……こうなったのなら全てを巻き込んで自爆するだけだ。後は全てアスモデウスに任せれば……ば、馬鹿な!?」

 

多分ガープの敗因はお父さんを頼ったことだと思う。そうでなかったのなら、私含め全員が死んでいたかもしれない

 

「何をしでかすつもりだったかは判らんが……死んで詫びろッ!ガープッ!?!?」

 

トドメと言わんばかりにアマイモンが腕を振り下ろした瞬間。アマイモンの右腕が肩から消え去った……斬られた訳ではない、かと言って魔術を使ったわけでもない、唐突にまるで最初から存在しなかったかのように消え去ったのだ。一瞬呆けたアマイモンだったが、直ぐにその激痛に気付き、肩を押さえ、苦悶の表情で蹲るアマイモンを見たブリュンヒルデさんが慌てて駆け寄り

 

「閣下!お気を確かに今治療を」

 

凄まじい流血をしているアマイモンに駆け寄り、治療を始めようとしたブリュンヒルデさんだったが、アマイモンは青い顔で脂汗を流しながらも強い口調で

 

「良い、我よりもガープの討伐を優先しろ!なんの為にお前が派遣されていると思っているッ!この愚か者がぁッ!!!」

 

1番ガープに近かったブリュンヒルデさんがアマイモンに駆け寄るが、アマイモンはそれを振り払い、ガープに向かえを叫ぶ。だがそれはあまりにも遅かった、小竜姫様が、ビュレトさんが慌ててガープへと迫るが遠すぎた。時間にしてそれは僅か数秒にも満たない時間。だがガープが逃げるには十分すぎる隙だった、アマイモンから離れたガープはボロボロの様子だったが、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。

 

「はぁ……はぁ……危なかった。い、今のは危なかった……」

 

肩で息をしているガープの体が……いや、違う、ガープが立っている周辺が消えていく……

 

「待て!ガープッ!」

 

ビュレトさんがガープへと手を伸ばすが、伸ばした先から粒子となって消えていくのを見て慌てて手を引くビュレトさん。なにが起こっていると言うの……目の前で起きている現象に思考が完全に停止した

 

「くっははは。全てを消し去る亜空間……お前達には触れることも出来まい……計画が妨害されたのは癪だが、アマイモンの右腕を奪った……そう考えれば今回は失敗ではなく、成功だったと言えるだろう」

 

下半身から消えていくガープ、トドメをさせる。だが近づく事が出来ないので逃げるのを見ていることしか出来ない。小竜姫様やビュレトさんの顔が歪んでいる。出来る事なら、この場でトドメを刺したかっただろう、そうすれば敵のブレインが消え、圧倒的に神魔側が有利になるのだから……

 

「くくくっ!では御機嫌よう……いずれまた会おう」

 

勝ち誇った笑みを浮かべ、消えていくガープを倒す事も、捕らえる事も出来ず。笑いながら消えていくガープを見ていることしか出来ないのだった……

 

 

 

完全に私達の負けだった……私は目の前の惨状を見て歯を噛み締めた。救援に来てくれたアマイモン閣下は右腕を失い、ビュレトは身体の中がボロボロでさっきまでは動き回っていたが、今は意識を失っている

 

「ブリュンヒルデ、シズク……治療はどうですか?」

 

私は治癒の術などは殆ど知らない、出来て応急処置程度だ、ここまで重症の相手を診ることは出来ず、シズクとブリュンヒルデに治療の経過を尋ねる。2人の表情は険しい物で

 

「……ビュレトだったか、こいつはしばらく安静だな。骨が折れて臓器がズタズタだ。よくここまで動いていた」

 

「アマイモン閣下は重症ですね。恐らく2度と前線に立つことは出来ないでしょう」

 

2人の診察結果に思わず私は眉を顰めた。アマイモン閣下は神魔混成軍のまとめ役をやっていた、そんな大将格の負傷。そしてガープに対抗する為に行動してくれていたビュレトも行動不能。死者が出なかったのが幸いだが、客観的に見れば私達の敗北だろう。私はガープを数秒とは言え、足止めしてしてくれた鎌田勘九朗の近くにしゃがみ込んで、彼の様子を見ることにした。ブリュンヒルデとシズクに見せる前に簡単でも応急処置をしておこうと思ったのだが……

 

(これは酷い)

 

魔装術で耐えた事で余計に酷い怪我をしている、正直ここまでの重傷を負ってしまっていたら、助けることが出来ない……シズクとブリュンヒルデに見せても結果は同じだろう、両手足が完全に炭化し、顔もケロイド状の火傷に負われている、魔装術があったおかげで生きて居るが、それのせいでもう助かる可能性は無いというのに生きている……どうすれば良いのか悩んでいると

 

「小竜姫、鎌田勘九朗はどうなった?死んでおるのか?」

 

ドクターカオスがマリアさん達を連れて、こっちに降りてくる。鎌田勘九朗……彼が居たから、神宮寺くえすを助ける隙が出来た。でもその対価として彼はもう瀕死の状態できっと神魔でも助けることが出来ないという状況だ

 

「は……はっ……はっ」

 

全身大火傷では仮にブリュンヒルデとシズクが治療してくれたとしても、助けることが出来ない。ただ死を待つだけの状態だ

 

「まだ生きておるんじゃな?それなら治しようもある。勘九朗はワシが引き取る」

 

治す?この状態からどうやって助けることが出来るというのか、私の視線に気付いたドクターカオスは

 

「本人の意志しだいじゃが、マリアとテレサの有機ボデイの試作が残っておる。それに魂を移し変える」

 

人道に反する行いだ、生きている人間を人形の身体に移すなど神の末席に名を連ねる者としては許すことの出来ない行いだ。だが……彼はたった1人で頑張った。そんな彼が報われないまま死んでいい物なのだろうか?そう思えば、私はドクターカオスを止めることが出来なかった

 

「彼をお願いします」

 

「うむ、任された。マリア、テレサ、揺らさないようにそっと運ぶんじゃ」

 

担架で運ばれていく鎌田勘九朗を見ていると、それと入れ違いで琉璃さんがこっちに降りてくる

 

「小竜姫様、美神さん達は?」

 

避難誘導をしてくれていた琉璃さんが試合会場に来て、私にそう尋ねてくる。私が美神さん達が居る方向を見ると、吊られて琉璃さんもその方向を見ると

 

「よがったぁッ!!!ありがどうッ!!たずがっでぐれで!!ありがどうッ!!」

 

「え、え……え……ど、どういうことですの!?」

 

神宮寺くえすを抱きしめて号泣している横島さんとそんな横島さんと神宮寺くえすを見て、蛍さんとおキヌさんがどす黒い瘴気を撒き散らしている

 

「……み、美神さん。私あの人殺しても良いですかね?」

 

【凄く……嫉ましいです。呪い殺したいほどに】

 

「落ち着きなさい!今はそんなことをしている場合じゃないのよ!?」

 

あんな事件の後だというのにいつも通りの雰囲気の蛍さんとおキヌさんには正直脱帽です。今はとてもそんなことをしている状況じゃないというのに……美神さんが必死で落ち着かせようとしているが、全く効果が出ていないのが判る

 

「小竜姫様。どうして助けた横島君の方が泣いているんですか?」

 

そう尋ねられた私は横島さんの性格を考えてから、私の見解ですがと前置きしてから

 

「横島さんは自分の無力さを知っています。それに彼は優しい人です、例え敵対していても助けたいと願うほどに」

 

横島さんのいい所はその優しさだと思う。誰に対しても平等で、神族だから、魔族だからといって偏見を持たず、自然体で接してくれる。そしてその優しさがあるから、誰とでも仲良くなることが出来る。

 

(でもその優しさゆえに力を求めてしまうんですね)

 

人の心の痛みに共感できてしまうから、助けてあげたいと思うから力を求める。でも今の横島さんは力が無い、助けたいと思っても行動することが出来ない、だからきっと

 

「初めて自分の力だけで助けることが出来た、それがきっと嬉しくて、誇らしいんですよ」

 

神宮寺くえすも自分が助けられられたと言うことを理解したのか、優しい笑みを浮かべて

 

「ええ、ありがとうございます。私は貴方に助けられました……」

 

号泣している横島さんの背中を撫でてニヤッとした顔で蛍さん達を見ている、それが余計に蛍さん達の怒りに油を注いでいる。あの反応を見る限りでは、相当横島さんを意識しているのが判る

 

「本当横島君って凄い人たらしですね」

 

「そうですね、でもそれがきっと横島さんの良い所だと思いますよ」

 

きっと今回のことで彼女も横島さんに惹かれるようになるでしょうねと苦笑しながら、ガープがあれだけ動いても奇跡的に死傷者が出なかったことに感謝し

 

「ブリュンヒルデ。私は一度妙神山に報告に戻ります、後はお願いします」

 

治療が出来ない私がここにいても意味は無い、それよりも老師達に今後の指示を仰いだほうがいいと判断し、ブリュンヒルデにこの場を任せ妙神山へと戻るのだった……

 

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その16へ続く

 

 




次回で第一部完結となります、この後は外伝と言うことでオリジナルの話を少しと映画の話を書いてから第二部の話に入って行く予定です。次回はギャグメインで書いてみたいと思っています、アシュ様の絶叫とかそう言うのを


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