GS芦蛍!絶対幸福大作戦!!!   作:混沌の魔法使い

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どうも混沌の魔法使いです。今回は雪之丞とピートの戦いを1話全て使って書いていこうと思っています
最初のほうは少しだけ横島を出しますけどね。それでは今回の更新もどうかよろしくお願いします


その8

 

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その8

 

シズクや私が止めたんだけど、どうしてもピートさんの激励に行くと言ってモグラちゃんに乗って医務室を出て行った横島だったけど、戻ってきた段階で顔色は青を通り越して白。思わずおキヌさんと一緒に悲鳴を上げてしまった。その後はシズクとショウトラの治療で顔色は僅かに赤みを帯びてきたけど、まだ青白く見ているだけで心配になる。チビは横島の顔の近くにちょこんと座り込んで

 

「みーむ?」

 

大丈夫?大丈夫?とでも言いたいのか、自分の餌のりんごやみかんを横島の近くに置いている。お見舞いをしているつもりなのだろうか?それとも食べて元気を出して?と言うことなのだろうか?まぁなんにせよとても賢いと言うのは判った

 

「……全くこの馬鹿はどうしてこうも無計画なんだ」

 

「うう……」

 

シズクが特別に調合したと言う霊水を飲ませた事で、先ほどより血の気のよくなった横島の頬を抓っているシズク。

 

(……なんなのよ、この圧倒的な年上感は……)

 

それは確かにシズクは水神で竜神だから事実圧倒的に年上だけど、今は小学校低学年程度の外見でどう見てもお姉さんと言う雰囲気はないはずなのに……圧倒的なまでの敗北感を感じる。正直言ってとても面白くない

 

「失礼しま……【キシャアアッ!!】きゃっ!?あ、あああああ!!危ないじゃないですか!!!」

 

小竜姫様が姿を見せた瞬間奇声を上げて包丁を持って突進するおキヌさん。傍から見ていると悪霊にしか見えない

 

【フーッ!】

 

「落ち着いて、落ち着いてください!ね?まずは横島さんの治療。そうでしょう?」

 

両手を上げて降参の意図を見せながら説得を試みている小竜姫様。あの狂戦士がおちつくかどうかそこが最大の問題だ。でも横島の名前が出ると流石に落ち着いたのかへんな事をしたら刺しますと宣言して離れる

 

「どうするつもりなんですか?」

 

シズクが治療と言うのは判るけど、正直小竜姫様に治療と言うイメージはなくてどうするつもりなんですか?と尋ねると小竜姫様は苦笑しながら

 

「これでも老師の弟子ですから。簡易的な陰陽術や仙道も修めているんですよ?まぁ今回は使いませんが」

 

小竜姫様って脳筋じゃなかったんだ……失礼だと思うけど小竜姫様にそう言う術を使うイメージをどうしても持つことは出来なかった。私がそんな事を考えていると小竜姫様が横島の右手を取り目を閉じる

 

「……なにをするつもりだ?」

 

シズクがそう尋ねると小竜姫様は目を閉じたまま

 

「天竜姫様と私の竜気が今横島さんの中にあります。天竜姫様は竜の頂点その回復力や治癒力は竜の中でも最高です、私の竜気を通して横島さんの中の天竜姫様の竜気を活性化させます。そうすれば大分楽になると思います」

 

竜気を活性化させて横島の治療。聞くだけでは簡単そうだけど、それって横島に負担をかけるんじゃ?

 

「……ある程度なら問題ない。横島は既に竜気にかなり適応しているからな」

 

そ、そうなんだ……まぁシズクがそう言うなら問題ないわよね。これで一安心よね……?医務室の椅子に腰掛け私が安堵の溜息を吐いたとほぼ同じタイミングで試合会場のほうから凄まじい歓声が響き渡る

 

「どうしたのかしら?ピートさん勝ったのかな?」

 

【どうでしょ?あんまり興味ないですしね】

 

その歓声は気になりはした物の横島の方が心配だったので、私もおキヌさんも動く事はなかったのだった……

 

 

 

 

「ぐっ……」

 

右頬に叩き込まれた拳の一撃でその場でよろめく。霊力の篭ってない攻撃は無効化される結界の中なので今の一撃は間違いなく霊力が篭っていた……そしてそれでいて重い一撃だった

 

(でもこの程度のダメージなら直ぐに回復する)

 

バンパイア・ハーフとしての肉体は物理的にも霊力的にも非常に打たれ強い。ダメージは大きいが、そこまで深刻なダメージではない、数分も時間稼ぎを擦れば十分に回復できるダメージだ

 

「どうしたよバンパイア・ハーフ。この程度か?っと」

 

返事の代わりに回し蹴りを顔目掛けて繰り出すが顔を逸らすだけで避けられてしまった

 

「よしよし、まだ元気だな?今度はこっちの番だ!」

 

僕の足を払ってえぐり込むように放たれた拳が腹に突き刺さる

 

「がっ……」

 

い、息が……その余りの強打に肺から酸素が強制的に吐き出され息が詰まる

 

「そらよっ!!」

 

「があッ!?」

 

更に至近距離から放たれた霊波で弾き飛ばされる。咄嗟に体勢を立て直したがリングアウト寸前だった

 

『おーっと!前々の芦選手と都津根選手の試合とは打って変わって激しい近距離での殴りあい!素晴らしい体術と霊力の応酬!これはいい試合です』

 

解説者の声が聞こえるがとてもではないが、いい試合と呼べるものではないと思う。目の前の対戦相手の伊達雪之丞も肩を竦めやれやれと言いたげな素振りをしながら

 

「この程度かよ。期待してガッカリだぜ」

 

「くっ……」

 

立ち上がろうとするが足に力が入らない。打撃のダメージだけじゃない、霊力で身体の中のバランスが崩れているんだ……

 

(道理でさっきからおかしいと思った)

 

霊力も思う様に使えないし、何よりもダメージが大きすぎる。いくら霊力の打撃と言ってもバンパイア・ハーフだ。ここまで大きいダメージを受けるわけがない、それにいつまでも抜けないダメージ。最初の一撃から肉体じゃなくて僕の霊基のほうにダメージを受けていたんだ……

 

「こんなつまらない試合とっとっと終わらせて次の試合に期待するか」

 

次の試合……次の試合は……横島さんだ……駄目だ。こんな危険な相手と横島さんを戦わせるわけにはいかない

 

「何を言っているんだ。お前の相手は……僕だろッ!」

 

「はっ!とろく……ちっ……味な真似してくれるじゃねえか」

 

拳が避けられるのは判っていた。だから避けられた瞬間肘を突き出してそのまま肘うちに切り替えた。だが完全に不意を突いたつもりだったが、軽く掠めただけで簡単に避けられてしまった

 

(くっ……つ、強い)

 

霊力の扱いもそうだが、何よりも体術のキレが桁違いだ。霊波は簡単に押し返され、かといって体術のレベルも違う

 

(近距離も遠距離も駄目だ。まるで勝てる気がしない……)

 

「さーて、今度はこっちの番だ!」

 

地面スレスレを通って放たれたアッパーを咄嗟で両手で受け止めるが

 

「なっ!?ぐああっ!?」

 

僕のガードを簡単に貫き、さらにそこから放たれた霊波に弾き飛ばされ、僕は試合会場の結界に叩きつけられてしまい、その凄まじいダメージのせいで薄れ行く意識の中

 

【自分の力を使い方を良く考えて見るんだな、妹では辿り着くことができない場所にお前は立つことが出来ている。その幸運の意味を知れ】

 

横島さんのバンダナに言われた言葉が繰り返し頭の中を過ぎり……

 

(僕に出来て……シルフィーに出来ない事?)

 

僕に出来てシルフィーに出来ない事……その時思い出したのは初めて唐巣先生に出会った時の事だった……

 

 

 

この程度か……振り切った拳を軽く振りながらつまらない試合だったと呟く。

 

(最初の一撃で気付かないんじゃ才能無しだな)

 

1番最初の拳、それは白竜会の十八番。打撃と共に霊力を相手に打ち込み、悪霊ならそれだけで浄化し妖怪変化などには体の中の霊力などのバランスを崩し弱体化させる。基本中の基本の技だが突き詰めれば己の拳だけで悪霊などを退治できる、基礎にして最高奥義だ

 

(自分の身体に頼り切ったくだらん奴だ)

 

バンパイア・ハーフの筋力と回復力に頼りきった向上心のまるでないくだらない相手だ

 

(さっさと叩き潰すか)

 

こいつを倒せば次は横島と戦える。こんなつまらない試合はさっさと終わらせるに限る

 

「あばよ」

 

倒れているピエトロの頭を掴んで霊波を直接叩き込もうとした所で背筋に強烈な寒気が走った

 

(なんだ!?こいつの眼は!?)

 

さっきまでとはまるで目の色が違う。真紅に輝く瞳を見て一瞬。一瞬だけ硬直した、その一瞬が致命的な隙になってしまった

 

「がっはあ……」

 

俺の腹に突き刺さっている拳。その余りのダメージに身体がくの字に折れる

 

「もう一発ッ!!!」

 

凄まじい衝撃を受けたと思った瞬間。俺の身体は宙を舞っていた

 

(なんだ!?なにが起きた!?)

 

その余りのダメージとピエトロの雰囲気の変化に頭が混乱する。それでも咄嗟に体勢を立て直した俺の目の前には奴が居た

 

「なに!?」

 

「はあッ!!!」

 

あいつが目の前に浮いていた。それに気付いた瞬間腕をクロスして防御の体勢に入る、それと同時に強烈な踵落としが叩き込まれ試合会場の床に叩きつけられる

 

「はっあ!!面白くなってきたぜ!!!」

 

咄嗟に受身に使った左腕が痺れて動かないが、あの高さから叩きつけられる事を考えれば、この程度のダメージで済んで御の字だ。受身を取った反動で右腕を突き出し霊波を打ち出すが

 

「いない……だと!?」

 

バンパイア・ハーフだから空を飛べる可能性は考えていた。もちろん身体を霧にして回避することも可能性として考えていた、だが目の前で見ると混乱する

 

「こっちだ!!」

 

背後に現れた気配。咄嗟に反転し無防備な背中に攻撃を喰らうことは回避したが

 

「がっはあ……」

 

まるでマシンガンのような連続攻撃が叩き込まれる。痺れている左腕で無理やり急所は回避したが、それでも凄まじいダメージだ……

 

(ちっ!煽りすぎたか!)

 

考えたくは無いが、俺が挑発を繰り返したせいで何かが吹っ切れたのだろう。この行き成りのパワーアップ。そうでなければ理由が考え付かない

 

(だが浅はかだ!)

 

左腕は間違いなく死んだ……骨折はしていないだろうが、この試合で動く事はない。しかし左腕を代償にした価値はあった

 

(ダメージが軽い)

 

霊力の篭った攻撃でなければ無効化される試合会場の結界。もし十分な霊力の練りこみが出来ていたのならば今のラッシュで俺は戦闘不能になっていた。恐らく吸血鬼の力を活性化した代わりに本来使っている唐巣神父とか言うGSの教えた技術が使えなくなったと見て間違いない。吸血鬼の力は闇、聖句は光。反発するのは当然……

 

(今度近づいてきて見やがれ、全力の一撃を叩き込んでやる)

 

遠距離攻撃はないはずだ。だから右腕に霊力を集中しカウンターで全力の一撃を叩き込んでやる。そう決めて意識を集中したその瞬間。俺の耳に飛び込んできたのは予想外の言葉だった

 

『主よ!聖霊よ!我が敵を打ち破る力を我に与えたまえ!願わくば悪を為す者に主の裁きを下したまえ!』

 

「馬鹿な!!」

 

吸血鬼の力と聖句を同時に使うだと!?そんな事が出来るはずがない!だが現に俺の目の前でピエトロの両手に光が集まっていく……

 

「くそがッ!!」

 

『アーメンッ!!!』

 

目の前に迫る白い光。避ける事も、防ぐことも出来ないと悟り。俺は悪態をつきながらその光に飲み込まれたのだった……

 

「見事……見事だよ。ピート君」

 

観客席で戦いを見ていた唐巣神父が手を叩きながらそう呟く。吸血鬼と聖句の力を組み合わせる、それは唐巣神父が考えていたピートの霊力の扱いの最終形態。無論荒削りとは言え、それを成功させた。その事に唐巣神父は感激していた……弟子の成長を喜ぶ師匠それは当然の事だが

 

「まだです。決まりが浅かった」

 

第三者として見ていた聖奈には見えていた。直撃を受けているように見えたが、命中の瞬間伊達の身体を覆った鎧を……

 

「はっははは!!!やるじゃないか!だがまだだ!!ここからが本当の勝負の始まりだッ!!!」

 

「魔装術!やっぱりあの男も使えたのね」

 

唐巣神父と一緒に試合を見ていた美神が忌まわしげに呟く。煙の中から姿を見せた伊達はダメージを受けた素振りも見せず高笑いをしながら、自ら展開したであろう魔装術の鎧に身を包みピートを睨んでいたのだった……

 

 

 

手応えはあった……今まで出来ないと思っていた吸血鬼と聖句の力の合一……

 

(土壇場で物にできた……)

 

唐巣先生に何度も何度も指南を受けていたけど、今まで全く使うことが出来なかった物が出来るようになった事に自らの成長を確かめる事が出来た

 

(勝った……あれを耐えることが出来る訳が無い)

 

完全に直撃だった。自らの勝利を確信していると

 

「はっははは!!!やるじゃないか!だがまだだ!!ここからが本当の勝負の始まりだッ!!!」

 

煙の中から姿を見せたのは甲殻類を思わせる鎧を纏った伊達雪之丞の姿……この可能性は判っていた筈だ。同じ胴着を着ているのだから同じ術を使う可能性は当然あった。慢心してしまったのだ、あの一撃を受けて動けるはずがない。自分の勝ちだと確信してしまった……

 

「はあッ!!!」

 

地面を蹴って凄まじいスピードで突っ込んでくる。は、速い……反応することは出来る。だが

 

(これでは霧化が出来ない!?)

 

今の僕では聖句と吸血鬼の力を同時に使うことが出来ない、僅かに意識を切り替えるための時間が必要だ。これだけのスピードで突っ込まれると霧化を使う事が出来ない

 

(なら!)

 

歯を食いしばり拳を強く握る。霧化で逃げることが出来ず、聖句を詠唱する時間もない。ならば覚悟を決めて向こうの土俵で戦うしかない

 

「「おおおおおおッ!!!!」」

 

僕と伊達の雄たけびが重なる。僕は距離を取るために、伊達は距離を詰める為に……自分の1番得意な距離で戦う為に拳を繰り出す。お互いの拳がぶつかり少しだけ弾き飛ばされるが直ぐに体勢を立て直すと同時に

 

「ちっ!」

 

「やっぱり」

 

今の打ち合いで判った。伊達は僕のこの反応がわかっていたと言わんばかりの態度をとる、その顔は歪んでいて、さっきまで優勢だった伊達とは思えないほどに苦しそうな表情だった

 

『ご、互角です!力も霊力も全くの互角!これは勝負がどうなるか判らなくなりましたー!!』

 

解説者の声が試合会場に響き渡る。今の攻防で判った。力も霊力も全くの互角……勝負を決めるのはどっちかの隙を突くしかない

 

『馬鹿者め。勝負が判らなくなった?普通に戦えばピエトロの勝ちじゃ』

 

『おっと?それはどう言う事でしょうか?』

 

ドクターカオスの解説に解説者が反応する。僕もドクターカオスの意見に賛成だ

 

『ピエトロのほうは力が安定しておるが、伊達の方は見てみい、こうしているだけでも消耗しておる。長期戦に持ち込めばピエトロの勝ちじゃ』

 

「はっ、あのじーさん。中々鋭い所を突いてくるぜ」

 

こうして向かい合っているだけでも酷く消耗しているのか、大粒の汗を流している伊達……どうもあの鎧を展開しているだけで相当な体力と霊力を消耗するのだろう

 

「ピート君!なんとか距離を取って持久戦に持ち込むんだ!!」

 

観客席から唐巣先生のアドバイスが聞こえる。確かに距離を取って霊波の打ち合いをしていればその内向こうは体力を使い果たして僕の勝ちになるだろう

 

「どうするよ?お前のお師匠さんは距離を取って戦えって言ってるぜ?」

 

にやにやと笑う伊達。完全に馬鹿にしたような笑みを浮かべている

 

「どうするって聞いてるんだよ。腰抜け!どうした!?距離を取って戦うんだろ?さっさとそうしたらどうだ!」

 

……きっと距離を取って戦うのが賢い選択なのだろう。それは判っている……でもそれで勝ったとして僕は胸を張って言うことができるのか?

 

(タイガーさんや横島さんは……)

 

辛い戦いだと理解していても前に出て戦っていた。ここで逃げる戦いをして2人に勝ったと胸を張って言えるのか?

 

「おおおっ!!!」

 

「そうこなくっちゃな!来いよ!男の勝負は昔から殴り合いだ!!」

 

唐巣先生のアドバイスを無視して、僕は拳を握り締め伊達と近距離で殴りあう事を選んだ……

 

 

 

いい試合ね……あたしは観客席で雪之丞とピエトロの試合を見て心の中でそう呟いた。お互いに一歩も引かない殴り合い。見ていて見応えのあるいい試合だ

 

(でもまあ……挑発のし過ぎね)

 

途中からしか見ていないが、雪之丞が挑発を繰りかえしていたのは見ていた。魔装術の展開時間の事を考えて挑発して自分のペースに持ち込んだ所は評価できる。でも……

 

「おおおっ!!!」

 

「がっ!舐めるな!!」

 

ピエトロの方が気合が乗っている。防御力や攻撃力は雪之丞の方が上だろうけど圧倒的にピエトロの方がタフだ……あたし達の十八番の霊力を相手の身体の中に打ち込む技も決まりが薄い。まぁそれは無理もない、魔装術を使った段階で霊力の鎧に覆われるのだから、細かい霊能力の操作が必要なあの打撃の決まりが薄いのは判っていた。

 

(それよりも期待してるわよ)

 

あの火の出るような打撃戦はきっと雪之丞に良い刺激を与えてくれるだろう。もしかするとガープの掛けた精神操作を突破する可能性だってある。あたしは正直その可能性に賭けていた

 

「はあああッ!!!」

 

「ぐっ!がはあっ!?」

 

霊力と体重移動がしっかり出来た左右のフックが雪之丞の顎を打ち抜く、かなりしっかり決まったのか雪之丞の足が揺れているのが見える。いくらタフでも頭を揺らされてしまったのでは意識はあっても戦うことは不可能だ

 

(これで決まりね)

 

魔装術を維持するにはとてつもない精神力と体力を消耗する。自分と同格と戦っていれば神経も削れるし、体力も勿論減っていく……雪之丞が維持できる時間はとっくにすぎている。それなのに暴走せず魔装術を維持できているのは正直言って雪之丞が気力で維持しているんだろうけど、それも確実に限界が近い。自分を取り戻すことが出来ないなら出来ないでそれでも構わない。これ以上戦ってガープの精神操作が酷くなり、陰念のように自分が無くなる前に負けてくれれば……ガープもこれ以上雪之丞に精神操作を施すメリットはないと判断して、時間は掛かるだろうけどきっと雪之丞は元に戻る

 

(陰念……あんたは大丈夫なの?)

 

横島にKOされた陰念。様子を見に行くことは出来ないけど、陰念の身体からはじき出された何かを横島が封印していたのは見ていた。きっとあれで陰念はもうガープに操られることも無く、リハビリをするだけで……いや、それは楽観的すぎる。傍から見ていて思ったのだが、横島がやっていたのは強制除霊に近い。最悪霊能者としての道が断たれているかも知れない……それでも生きていればきっと他の夢を見つける事だって出来る。生きてさえ居れば……いくらでもやり直しは利くのだから

 

(だから雪之丞……あんたも……もう倒れても良いのよ。後は全部あたしが上手くやるから)

 

膝が折れて雪之丞が倒れる……これであたしの不安は全部消える。後は全部あたしが上手くやればいい……心の中で対戦相手に感謝しながら観客席を後にしようとした瞬間

 

【ウウォアアアアアアアアアアアアッ!!!!!】

 

獣めいた咆哮が聞こえた瞬間。さっきの陰念の姿を思い出し、慌てて試合会場に戻る、そこであたしが見たのはもっとも見たくない光景だった

 

【アアアアアアアアアアーーーーーッ!!!】

 

魔装術が雪之丞の全身を覆いその形状を変えていく……両手は鋭い爪、背中には1対の翼、そして氷で出来た刃を持つ尾に氷の塊が鎚のような形状に変化する

 

「な【ガアアアアッ!!!】がはっ!?」

 

動揺しているピエトロの胴に氷の鎚が叩き込まれる。まるでボールのように弾き飛ばされるピエトロの後を追って尻尾が伸び、その首に巻きつく

 

「うっ、うぐう!?」

 

両手でその尻尾を外そうともがいているが、氷で出来た尾に全くダメージが通っていない

 

【シャアアッ!!!】

 

「う、うあわああああああ!?」

 

そして勢い良く尻尾を叩きつける、凄まじい勢いで試合会場の床に叩きつけられたピエトロを見て、観客席のあちこちから

 

「魔族だろ!?なんであんなのが参加してるんだ!?」

 

「失格にしろ!あれはどう考えても術が暴走してるぞ!!」

 

GS達がそう叫んでいるのが聞こえてくる、本当なら試合中止にするのが正しい。だがガープが動いているのが東條によって伝えられているので試合中止に出来ないのだろう。トドメだと言わんばかりに鎚を振りかぶる雪之丞を見て

 

「何してんのよ!雪之丞!」

 

咄嗟にあたしがそう叫ぶと、雪之丞は鎚を振り下ろす事は無かったが、興味を失ったという感じで尻尾を振るいピエトロを弾き飛ばす、それは奇しくもあたしの居る方向で、邪魔をするなという警告をしているように思えた。近くの壁に叩きつけられたピエトロに近寄る

 

「う……うう……」

 

それはさっきまで雪之丞と戦っていたピエトロで身体のあちこちが凍結し、通路に縫い付けられた痛々しいピエトロの姿と……

 

【ウォオオオオッ!!!】

 

雪の結晶を思わせる1対の翼を持った異形が自身の勝利を誇る様に雄たけびを上げる姿だった……

 

 

リポート25 GS試験本戦 ~終焉の前奏曲~その9へ続く

 

 




ピートがわりと頑張りましたが雪之丞が勝ちました。とは言え陰念と同じくガープの仕掛けで暴走状態での勝利でしたけどね。横島と雪之丞戦でも暴走モードが入る可能性がありますが、最初に言っておきます。次はライダー化はありません、ちゃんと別の手段で勝利する予定なので!それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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