リポート22 英雄の見る夢は? その5
横島と義経の身体が重なったと思った瞬間。凄まじい光で視界が塞がれて、光が晴れたと思ったら横島はまた新しい眼魂を手にしていた
(精神感応で義経の中の牛若丸を呼び出した?)
眼魂はそれ自体も強力な霊体であり、物質でもあるという特徴を持ち。その中に魂を収納することができ、収められた魂をベルトを仲介することで横島がその力を行使する事が出来る。と言うのがお父さんの分析だった。眼魂に魂を収納する為にタイガーさんに精神感応を使わせた?だとしてもこんなことが出来る保証は当然無かっただろうし……思いっきり殴ったせいで白目をむいているタイガーさんを投げ捨て、目の前の光景の事を考える
(悪運が強いってことなのかしら)
状況は横島にとって圧倒的に不利だった。でも横島はその不利な状況から逆転出来るかもしれない可能性を引きずり出した……
【カイガン!牛若丸!シュバッと八艘!壇ノ浦ッ!】
のっぺらぼうのような姿から、着物を纏ったような姿に変化した時はさらに驚いた。これは私だけではなくて
「……義経の中から牛若丸の記憶だけを引き出した?」
「ありえない話ね。どうなってるのよ、令子。お宅の弟子は?」
「知らないわよ!まさか私もこんなことをするなんて思ってなかったんだから!!!」
さすがの美神さん達も混乱してるみたいね……今なら大丈夫そうね……。ポケットの中からお父さんから預かっていた小型の通信兵鬼を取り出して
(画像の記録をして、お父さんの所へ向かって)
【キュイ!】
返事を返して私の手の中から飛び立つ通信兵鬼。直ぐにステルスを展開して見えなくなった兵鬼から、横島と義経の戦いに視線を向ける
「はっ!!」
先ほどまでとは比べられない鋭い一撃を連続で繰り出す義経。それは掠っただけでも、四肢が飛ばされそうな鋭い一撃だ。周囲にはまるで台風のような鋭い風切り音が響き続けている
【美神さん、横島さんの手助けをしなくてもいいんですか?】
口ではそうは言っているが、おキヌさんだって判っているはず。美神さんは眉を顰めて
「あれだけ暴れてたら呪縛ロープも破魔札も狙って当てるなんて不可能よ」
集中してやっと動きを見ることが出来るような高速戦闘。いま下手に手助けをすれば、一気に流れが傾く可能性がある
「横島にあたる可能性もあるし、あたし達は見ていることしか出来ないワケ」
美神さんとエミさんの言葉を聞いてシズクを見るが、シズクも小さく首を振って
「……流石にあれだけ交互にお互いの立ち位置が変わっていたら、横島に当るかもしれない」
紅と紫の立ち位置が目まぐるしく変わっていく、確かにあれだと横島に当る可能性の方が高い
「はっ!」
打ち合いから急にリズムを変えて突きを繰り出す義経、あれは当る!そう思ったのだが、横島は
「せいっ!!」
その場で宙返りをして、その一撃を回避し、そのまま手を突いて連続でバク転をして義経から距離を取る。その凄まじい身のこなしは横島がやったとは信じられない……あんな軽業師の様な事を横島が出来るとは思えない
(これがあのベルトの力……)
韋駄天の時もそうだった。尋常ではない力を発揮していたけど、それは今回も同じで
「今度はこっちの番だっ!!」
攻撃を避ける為に腰のベルトにマウントしていた剣を引き抜いて、凄まじいスピードで義経との間合いを詰める横島の姿を見て、私は思わず恐怖を感じてしまった。それは横島が怖いとかではなく
(これだけの力が必要になるって事なの?)
逆行前の出来事とは違う。それは世界の修正力もあるが、それが無くては、無事に全てを終わらせることが出来ないと言う事もでもあるとお父さんは言っていた。だからもしこの横島の力が修正力によって生まれた物なら、それは逆行前の神魔大戦よりも激しい物になるかもしれないと言う事で
【横島さん……】
思い出せない所もあるが、私と同じように逆行前の記憶を持つ、おキヌさんの不安そうな顔を見て、私はこの予想が外れて欲しいと心の中から祈るのだった……
これは!この動きは!!私はバックステップで距離を取りながら、凄まじいスピードで間合いを詰めて来る先ほどの小僧を見て驚愕した。それはまだ稚拙で完成度は低いが……
(私の剣術!?)
幼い頃の私は小柄で腕力も無かった。それでも戦に出て戦果を上げ続けることが出来たのは、その小柄な身体を十分に生かす術を天狗に教わったからだ
「せいっ!やっ!とおっ!!!」
素早い動きと小柄な身体を生かした連続攻撃。それは自分よりも大人が多い戦場では非常に有利な戦術だった。相手の懐に飛び込み、一瞬で切り伏せる。成長し、背が伸びてからは使うことが無かったが、その動きは私自身が一番覚えている
「せえいっ!!!」
私の懐で回転し柄で殴りつけてきたタイミングに合わせて、小太刀の柄でその一撃を防ぎ
「貴様何をした」
なぜこいつが私の剣術を使える!?あの一瞬。私の中に何か入ってきた気配はしたが、まさかその時に私の記憶を見たとでも言うのか?だがそれだけで私の動きを完全に真似できるとは思えない。2人ならと言っていたが、そんな事はありえない。混乱しきった状態でそう問いかけると
【私が力を貸しているからだ!】
私の問い掛けに答えたのは小僧ではなく、幼い少女の声。その声に驚き一瞬動きが止まる
「がっはっ!?」
強烈な回し蹴りが胴に叩き込まれ、吹き飛ばされながら腹を押さえる
【同じ私ではあるが、私はお前を認めない!!!】
その痛みで歪む視界のせいか、私の目には小僧ではなく、幼い時の私の姿が見えていた
「くっ……くっくっくっ!!!」
胸の中に埋め込まれた何かが大きく脈動する。視界が真紅に染まり、ある考えだけに支配される
「憎い……」
そのたった一言。そのたった一言で今まで消えていた怒りが、憎悪が込み上げて来る
「憎い憎い憎い憎い憎い憎いッ!!!!」
もう1度思ってしまったら、もうその感情を抑える事などで気はしなかった
「お前は!知らないからそんな事が言えるんだッ!!!」
地面を蹴ると同時に刀を逆手に持ち替え、全力で振り下ろす
【っ!?】
私の予想通り後ろに下がって回避する、今度は正眼に構えていた小太刀を真っ直ぐに突き出す
「がっ!?」
ちっ!堅い!これが生身なら完全に心臓を貫いていただろうが、小太刀の刃は小僧の身体を覆っている奇妙な鎧に弾かれる
「あっ!あははははっははああああああッ!!!!!」
私が消えていく、視界が真紅に染まり。ただ1つの考えに支配される
「憎い!私を裏切った兄上がッ!!!私はあの人の為に戦った!他の道もあったのにッ!!!」
ああ。そうだ、私は女だったんだ。想い人と出会い、剣など取らぬ女としての幸福な人生を歩むことだって出来ただろう
「兄上が私にくれた物は何だ!!ああ、兄上は私に何もくれはしなかった!!それ所か私を恐怖した!!!!」
ただ私は兄上の為に戦った、怖かった。だが兄上のためならばと我慢する事が出来た。そしてほんの少しの言葉を掛けてもらえるだけで、誇らしかった
「何も知らない貴様にっ!!!私の何が判る!!!!」
子供の時の楽しかった思い出しか持たぬお前に!私の絶望が!怒りが!悲しみが理解出来るわけが無い!!!私は憎悪と怒りに身を委ねた……もういい、もう良い……全て全て!!!!
「【コワレテシマエッ!!!!】」
そして私は深い闇の中に飲み込まれていくのだった……
「【ウォアアアアアアッ!!!!】」
突然目の前で咆哮した義経の姿が闇に飲み込まれる。それを見て脳裏に過ぎったのは埠頭で見たあの異形の姿……
「美神さん!結界を強化してくださいッ!!!」
あの時は精霊石で即席の結界を作ったが、一瞬で破壊された。だが今回は違う、ちゃんとした結界が準備出来ているのだから、あの時とは違う。結界を強化すれば耐えれる筈だ……俺は目の前でまるで心臓のように脈動する闇を見て
(こりゃ逃げられないなあ)
あれはただの闇だ。目も何も感じないのに、見つめられ、手足を掴まれているかような感覚がする
【あれは私達を狙ってます、ここで迎え撃つしか……どうか気を緩めないでください】
牛若丸も同じ意見のようだ。牛若丸の警告にありがとうと小さく返事を返し、結界の中に入れというシズクと蛍の声もなんか聞こえにくい……
(へんな感じ……)
聞こえているのに聞こえない、見えているのに見えない。今の俺には目の前の闇の塊しか見えなかった。周囲の木々も寺も見えているのに意識できないのだ……
「【ガアアアアアッ!!!】」
突然闇が弾けて姿を見せた義経を見て、俺は思わずその場で後ずさってしまった
「ち、違う!?」
てっきり埠頭の時の姿になると思っていたのに、現れた義経の姿は全く異なる物だった。姿はさっきまでの義経よりも一回り大きく、手にした刀も刀と言うよりかは西洋剣に近い巨大で歪な姿となっており、そしてもっとも変わっていたのはその顔だ。牙が生え、額には角が飛び出しており、その姿は鬼を連想させた
「【シャアアッ!!!】」
「は、はええ!?」
さっきも速かったが今のはそれ以上に速い。咄嗟にしゃがみ込んでその一撃を避けるが
【危ない!】
「は?がはあっ!?」
牛若丸の警告の声が聞こえたと思った瞬間。腹に鎧に包まれた義経の爪先がめり込んでいた。そのあまりの激痛に視界が歪む、気絶出来たら楽だったかもしれないが、その激痛のせいで意識を失う事も出来ない
【転がって!早く!!】
焦ったような牛若丸の声が脳裏に響く、その声にしたがって咄嗟に転がると地面が爆発したかのような音を立てて、義経が手にしている剣が地面にめり込んでいた
【距離を取って!このままではやられる!】
あの威力を見れば一撃貰ったら死ぬと言う事は判った。転がった勢いで地面に手を叩きつけその反動を使って義経から距離を取る
(なんだあの馬鹿力!?)
剣がめり込むだけならまだ判る。だがその一撃は地面を砕き、地割れのようになっていた……その凄まじい力を見て冷や汗が頬を流れる。で、でも牛若丸が勝てるって言ってたから
【か、勝てない……】
うえ?脳裏に響いた牛若丸の呟きに一瞬目の前が真っ白になる、相手が急にパワーアップして、そしてその相手に勝つ為の頼みの綱が諦めてしまった
【うう……勝てる筈だったんです、貴方に力を貸せば勝てる筈だったんですよ……】
いやいや!?待って!泣かないで!?泣きたいのこっちだからね!?
「【ウルアッ!!!】」
「のおおっおおおっ!?」
まるで嵐のような連続攻撃をしゃがんだり、転がったり、ジャンプしながら必死に避ける。さっきまでは牛若丸のアドバイス通りに動いていたけど、今はそれがないので見苦しい避け方になっているが、そんな事を言っている場合じゃない
(待てよ?)
なんとか打開策は無いかと考えていて、ふと思いついたのはさっきの牛若丸の言葉
「【シャアアッ!!!】」
義経が凄まじい勢いで襲ってくるのでつい数秒前の言葉でさえ思い出すのも命懸けだ……えーとえーと
(牛若丸が俺に力を貸してくれている)
うんそうだよな?でも九兵衛と戦っていた時は……俺の意思はあったけど、身体を動かしていたのは九兵衛と八兵衛だ
(牛若丸)
【はい?すいません、私のせいで貴方が死んでしまう】
諦めるにはまだ早い。俺も牛若丸も間違っていたんだ、義経を調伏するのは俺では無理だ。もしそれが出来るとしたら俺じゃない……それは牛若丸本人しかいない
(俺の身体を預ける。牛若丸が戦うんだ)
【なぁ!?それがどういうことか判っているのですか!?幽霊に身体を預けてもし身体を乗っ取られたら!】
(大丈夫。俺は牛若丸を信じてる)
牛若丸はそんな事をしないと信じている。だから俺は牛若丸に身体を預けることが出来る、使いこなせない霊力も全て牛若丸なら引き出してくれると
【私を……信じて?】
呆然とした感じで呟く牛若丸。少ししか話をしてないし、しかも今はこんな状況だ。人を信じるなんていえる状況じゃない
「【ウガアアッ!!!】」
「ぐあっ!!!」
振り下ろされた義経の一撃をベルトから飛び出した剣の柄を両手で握り締めて、必死で受け止める
(ああ、そうだ!俺は牛若丸を信じる!!!)
柄を握っている手が痺れてくる。両足が地面にめり込んでいくのが判る
【……あって間もない私をどうしてそこまで信じることが出来るのですか】
(君が良い子だって判るから)
俺には正直判らない、なんでこんな良い子を兄貴である頼朝が何で信じることが出来なかったのか
(ぐぐぐっ!も、もう駄目だ……)
俺には剣術の心得なんて無い。ここからどうやってこの攻撃を防げばいいのかなんて判らない、もう駄目だ……そう思ったとき
【ならばその信頼!この牛若丸!見事応えて見せましょう!】
手が勝手に動き、叩きつけられていた剣を器用に受け流す……ここからは俺に出来ることはない、後は
(任せたぜ、牛若丸)
牛若丸が義経を倒すことを信じるだけだ……
さっきまであやふやだった、手の感覚がしっかりしてくる。柄を握り締め、地面をしっかり踏みつける
(おかしな人だ)
自分の身体を預けると言って霊である私に身体を預けた。普通なら身体を乗っ取られると考えて、退魔師としての心得があるならそんな愚行をする馬鹿は居ないだろう
(でも……悪い気持ちじゃない)
私に全幅の信頼を寄せてくれた……ならば私は全力を持ってその信頼に応えるだけだ、慣れた足幅に足を開き剣を握り締める。視界も足の歩幅も私の物と異なる筈なのに不思議なほどにしっくり来る
「【ウルルルルッ!!!】」
私の気配が変わった事に気付いたのか、警戒するようなそぶりを見せている化け物を見据える。
(あれが私の可能性か……)
憎悪に濡れ、怒りのみに支配された姿があれか……不思議と浮かんでくる感情は哀れみでも拒絶でもなく共感だった
(ああ、そうだな。判る)
義経は私に裏切られた記憶が無いといった。だが私は牛若丸ではあるが、義経でもある。むしろ大人になった私よりも深く絶望しただろう。なんせ私はまだ子供だ、大人になるまでに兄上と疎遠になった義経と違い、私には僅かに残っている兄上との思い出が全てだったから、私があの姿になっていたとしてもおかしくは無い
(だが私は……兄上を憎んではいない)
お互いに姿勢を低くする、成長したとしても私と義経の根本は同じ。天狗殿に師事し教わった、剣術と兵法。それが私の武器だ、それは成長した今も変わりはしない
「牛若丸……参るッ!!!」
全力で地面を蹴り間合いを一気に詰める、悔しいが力も速力も向こうの方が上だ。だが向こうには致命的なまでに知性が足りていない
「【グルオオオオオオオオッ!!!】」
咆哮をあげて突進してくる義経に向かっていき、自分に当る直前で地面を蹴りその一撃を跳躍して躱す
(見切れる、さっきまでは駄目だったのに)
さっきは見えていても反応することが出来なかった。だが今は違う、その攻撃の軌道も、速さもその全てが見えている、鋭い動きで拳を繰り出してきた義経の動きを見て
「危ない!!」
結界の中に居る少女が心配そうに叫ぶのが聞こえる。それは当然だろう、私は今跳躍しているので通常ならそれをかわす事など出来はしないだろう、だが……
「はっ!!」
着物の袖になっている部分でその拳を器用に絡めとり、それを起点にし身体をねじってその攻撃を紙一重でかわす
(これだ……懐かしい)
掴まれば死ぬ、当れば死ぬ……自分よりも大人と戦い続けてきた私にはこの感覚が懐かしくもあり、そして恐ろしくもあった……だがこの恐怖に近づけば近づくほど……自分が研ぎ澄まされて行くのが判る。もっと、もっと精神を研ぎ澄まさなければ……
「行くぞっ!!」
この身体は私の物ではない、だから本当なら安全に勝利する方法を考えるべきだろう。だがそれでは届かない、もっと前へ!恐怖を飲み干してさらに前に進まなければ私の刃は決して届かない
(行きます!恐ろしいと思いますが、どうか私を信じてください!)
先ほどまで脳裏に響いていた青年の声は聞こえない。私に身体を預けたときに意識を失っているのかもしれない、だから返事は無いと思っていた。そして事実返事は無かったけど……私の耳にはちゃんと聞こえていた。俺は牛若丸を信じる、発せられた声じゃなかった。でもちゃんと私には聞こえていた……その一言。その一言だけで……満たされる自分が居て、そしてその信頼に応えたいと思うのだった……
(ナンダコレハ……?)
闇の中に居てもその輝きは私の目に焼きついていた。この力を使えば私は負けないはずだった……なのに私の攻撃は届かない
「せやあああッ!!!」
肩に刀が突き刺さる。だがこの程度の攻撃ダメージの内に入らない。ただ振りほどいて反撃すればいい……そう判っているのに
(アア……ナンデコンナニモマブシイ……)
剣を打ち合うたびに……
攻撃が叩き込まれるたびに……
その輝きが闇の中に居る私へ向けられる……
ただ壊したかった筈なのに……
ただ■した■だけなのに
ただ殺したかった筈なのに……
ただまた■い■い■かった
ただ復讐したかった筈なのに……
ただもう■度■妹として……
「はあああああああッ!!!」
「【ガアアアアアッ!?】」
その輝きに目を奪われたせいか、鋭い斬撃音と共に私の腕が吹き飛んでいくのが判る。その痛みのせいか、意識がはっきりしてくる。目の前の光は拒絶しろ/受け入れろと……相反する思考が浮かんでは消えていく……
「鬼一が兵法、受けてみるか!」
【ダイカイガンッ!牛若丸!オメガドライブ!!!】
どこかから潮騒の音が聞こえてくる……咄嗟に動き出そうとしたが、足が重い……なんだ?と思い足元を見ると
(水……いや、これは……海!?)
潮の香りと寄せては返す波の音……そして周囲に浮かんでいる船……これはこの光景は……咄嗟に顔を上げると一番奥の船の上に佇む人影が見える
(これはオボエテイル……)
巨大な剣を構える。迎え撃たなければ……そう考えて構えると同時に人影が船の間を高速で飛び移って向かってくるのが判る
「【ガアアアアアッ!!!】」
海のせいで思うように動けない、だから飛び移るはずだった船目掛けて剣を投げつけ破壊する
「!?」
空中に浮かんだ破片を踏んで何とか体制を立て直した所に更に剣を投げつける
「ぐあっ!?」
身動きの取れない空中での一撃。遠くへ浮かぶ船へ叩きつけられる姿を見て
(トドメヲササナイト)
あれが居ては私は私で居られない、膝下まで発生している海を掻き分けて崩壊した船へ足を進める
「はああああああッ!!!」
「【!?】」
全く予想だにしなかった方向から聞こえてきた雄たけびに咄嗟に振り返るが、気付いたときはもう遅かった。もう避けることも防ぐことが出来ない距離……そこに私が……かつての私が居た
「壇ノ浦・八艘跳ッ!!!」
裂帛の気合と共に放たれた一撃……心臓の辺りを貫いている刃を見た。まだ身体は動く、最悪相打ちに持ち込むことが出来る……そう判っていた……だが私の言葉でそんな考えは消えた
「私の……私達の勝ちだ……」
奇妙な鎧を身に纏っている私の姿が、一本の刀を2人で持っている姿に見えた。ああ、そうか……
(私が戦っていたのは1人じゃなかったんだ……)
それは判っているはずの事だった……だが私はそれを忘れていた。ゆっくりと海の中に倒れこみながら
「ああ……そして……私の負けだ……」
今まで私を支配していた憎悪も何もかも消えて……ただとても懐かしい物を見た。そんな穏やかな気持ちを感じながら、私はゆっくりと海の中に倒れこむのだった……
刀を支えにして倒れる事を耐えている横島に駆け寄る。さっきまで存在していた海と船は跡形も無く消え去り、残っているのは心臓の辺りに大きな穴を開けて地面に倒れている義経と横島の姿だけだ
【オヤスミー】
私が近づくとベルトが粒子となって消える、咄嗟に横島に手を伸ばし抱きとめる。意識が朦朧としているのか酷く重く感じる
「……俺……勝ったんだよな?牛若丸とウィスプの力を借りたけど……俺勝ったんだよな?」
朦朧とした意識の中そう呟く横島を抱きしめながら
「ええ。見てた、横島が勝つ所をちゃんと見てた」
【横島さん!すっごく頑張ってて……凄く格好良かったです!】
私とおキヌさんの言葉を聞いて、横島は小さく笑って意識を失った。あのベルトのせいで霊力を消耗しすぎたのだろう、早くシズクの所に連れて行って治療しないと……
「貴方を封印することになるけど、良いわね?」
「ああ……かまわない、そうしてくれ……」
美神さんと義経の会話が聞こえてくる。横島を抱きかかえたまま振り返ると倒れている義経の周りに美神さんとエミさんが結界を書いているのが見える
「おたくを操っていた魔族のことは覚えてる?」
「……すまないが覚えていない」
封印を施す前に少しでも情報を手にしようとしている美神さん達。だが義経は小さく首を振って何も覚えていないと言う
「……操るだけ操ったら使い捨てるか……厄介なことをしてくれる」
横島を治すために近づいてきたシズクがそう呟く。英霊を操るだけ操ったら記憶を消す、もしも今後もこんな事が続くのなら、お父さんの起した神魔大戦よりも酷い争いが起きるかもしれない
「……私を止めてくれた礼だ……」
義経は震える手で貫かれた自身の心臓の位置に手を突きいれ、そこから何かを引っ張り出す、それは不気味に脈動する紅い石……それを見た瞬間。言いようの無い恐怖を感じた……まるで心臓をわしづかみされたような……
「厳重に封印を施せ……これは神魔……を狂わせる」
「これに操られてたってことね。ありがとう、しっかりと封印して……」
美神さんがその石に手を伸ばした瞬間。その石は一瞬で風化し、消え去った
(情報を渡す気はないって事か……)
きっと何者かの手に渡る前に消え去るように仕掛けを施されていたのだろう。実物が無いのは残念だが、私達が目で見て確認しているので口頭でも報告出来るからよしとするべきかもしれない
「消えてしまった……か、すまないな……現代の退魔師……よ、あの若武者に伝えてくれ……懐かしい物を見せて……くれて……大事な……事を……思い出させてくれて……ありが……とう……と」
穏やかな顔をしてそう告げた義経の身体が風化していく、その中から飛び出した義経の魂を美神さんとエミさんが封印する。また魔族に操られないための処置だが、出来ることならまた天界へ送ってあげたかったと思う
「ふーみんなお疲れ様……今回の功労賞は横島君だけど、皆本当に良く頑張ってくれたわ、とりあえず横島君をホテルに運んで、話はそれからにしましょうか」
美神さんの言葉に頷く、結界の維持で霊力は極端に消耗しているし、横島は意識を失っているから、どこかで休ませなければならない、気になることは山ほど残っているが、ここで話している内に横島の容態が急変しても困る。私は意識を失っている横島を背中に背負い、車の元へ向かって歩き出すのだった……
リポート22 英雄の見る夢は? その6へ続く
久しぶりのライダーでシリアス続きでした、どうしても戦闘回になるとシリアスが多くなりがちですね。次回のリポートは今回の補足などをメインにするので、少し短めになると思います。そしてその次のリポート23はGSらしさを出せるギャグとかの話にしたいと思っています。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします