リポート1 もう1度始めよう その6
「♪」
バイクを買って欲しいと言うので最初は新品を買うつもりだったが、改造するつもりと言うので中古を買い与えた。朝からずっと機械弄りをしている蛍を見て、やっぱり娘と父親は似るんだなあと思いながら
「随分とご機嫌だね、蛍。何か良いことでもあったのかい?」
鼻歌交じりでバイクの調整をしている蛍にそう尋ねる。蛍は元の時間軸でバイクの免許を取っていたらしく、朝の内に免許を取りに行き。バイクの改造をずっとしているのだが、随分とご機嫌だ。これはバイクだけのせいじゃないなと思っていると
「昨日百合子さんと話が出来て凄く楽しかったんです」
百合子……昨日ハッキングを仕掛けてきた人間か、横島君の母と聞いていたが素晴らしい人材だ。演算処理に特化した土偶羅魔具羅
の防御を抜いた人間として私は高く評価している
「横島がGSを目指すなら私に任せてくれるって言ってくれたんですよ」
「それは良かったね。見たまえ蛍。倍率が更に下がっているよ」
1.3から1.2に下がっている。それだけ結ばれる可能性が高くなったことを教えると更に上機嫌になる
「バイクの調整を終えたら如何するんだい?」
「このまま横島を迎えに行って、一緒にGSになろうって誘うつもりです。ある程度は歴史に沿って動かないといけないから、強敵の膝元「美神除霊事務所」でアルバイトすることになりそうです」
あ、ああ……確か平安時代に私が作った魔族「メフィスト」の転生者の……かつての私の目的を考えると彼女の中のエネルギー結晶体は必要な物だったが、既に役目を果たせば魂の牢獄から開放されることが決まっているんだから、それほど気にすることはないのだが……
「大丈夫なのかい?あの守銭奴のことを考えると危険だと思うんだが?」
横島君を250円でこき使った事は蛍から聞いている。労働基準とか最低賃金とかに喧嘩を売っているとしか思えない美神玲子の所で将来の息子と愛娘を働かせるのは不安だ
「そこは何とか交渉のテーブルに持っていくから心配しないでお父さん。私の霊力ならなんとか美神さんの目に適うとおもう。横島を雇ってくれないなら私もお断りするし、それに時間は1年あるわ。少しの除霊の基礎を教えれば足手纏いにはならないとおもうから」
美神さんは見た目のいい助手を求めていた、私なら多分ギリギリセーフだとおもうと言う蛍。だけど私としては心配だ……しかし
(会いに行くのも不味いしなぁ)
下手に接触してメフィストの記憶を取り戻されても困るし、私は純魔族。人間界では余り表立って動きたくない、だから
「じゃあ私は百合子さんにお願いしておくよ。法律違反をしたら攻撃してくれって」
「それは……いや、良いか、それなら普通の時給はもらえそう」
命を賭けた仕事で薄給なんて認められない。なんとしてもある程度の時給は引きずり出してやる。そのためには百合子さんと接触する必要があるわけで
「あとで会いに行って来るよ。やはり親として話し合いの場を設けなければ」
「頑張ってね。お父さん、百合子さんは強敵だからね。よしっ完了♪」
バイクのネジを締めた蛍がにこりと笑う。その仕草は可愛いが、ニトロを積んでいたのを私は見逃さなかった。まぁ良いか……逃げるためと考えれば
「それじゃあ横島の学校まで迎えに行って来るね♪夕食までには戻るから」
そう笑って出て行く蛍を見送り、私はスーツに着替えに戻り
「少し出かけてくるよ」
「アシュタロス様?……はい。判りましたお気をつけください」
土偶羅魔具羅に見送られ街に出た私は近所で評判のパティスリーでケーキを買い、それを手土産に横島君の家に向かうのだった……
「うああああ……」
昨日の全力の自転車運転と霊力の消費で身体がズタボロの俺は机の上で呻いていた
「だ、大丈夫か横島?」
友人Aが心配そうに尋ねてくるので大丈夫だと小さく返事を返しながら時計を見る。帰りのSHRで帰宅できる、そうすればゆっくり休める
(明日が土日で良かったぜ)
じゃないとこの酷い筋肉痛は治らないだろう……親父は朝家の前で瀕死で倒れてたし、お袋は上機嫌だったけど、休むなと言う事で学校に出てきたが、正直授業どころではないダメージだ。ずっと寝ていたので授業を受けた記憶が無い
(蛍は大丈夫なんかなあ)
俺はボロボロになってるけど、蛍は見習いとは言えGS。多分元気なんだろうなあと思っていると教師が来てさっさとSHRを済ませたので、痛む身体に眉を顰めながら鞄を手に下駄箱に向かい靴を履いて
(あー帰るのに時間かかりそうだな)
朝も遅刻ギリギリだったしなぁと思いながら歩き出し、校門を出た所で派手なバイクなエンジン音が聞こえる。暴走族か?と思って振り返ると真紅のバイクが校門の前に止まり。ヘルメットを脱ぐ
「横島♪」
バイクを運転していたのは蛍だった。周囲の同級生は突然現れたバイクに跨る美少女に絶句している
「ほ、蛍ぅ!?何してるんや!」
かと言う俺も驚いて素の大阪弁が出ている。蛍はくすりと笑いながら
「はい」
「わわ!?なんやこれ?」
投げ渡されたヘルメットに驚いていると蛍は軽くバイクを吹かして
「そろそろ夕日が綺麗な時間なのよ、約束したでしょ?一緒に夕日を見るって」
確かに約束した。迎えに来てくれたのか……だけど
「俺後ろ?しがみ付いて怒らへん?」
「怒らないわよ。ほら」
手招きする蛍の後ろに回り、タンデムシートに座る。立場が逆だけどなんかしっくり来る。回りがざわざわしてるけどそれも全然気にならない。
「ヘルメットを被ってね」
「もう被ってる」
蛍の腰に手を回すと蛍もヘルメットを被って楽しそうな声で
「さぁいくわよ!横島!」
「うわあああ!?」
いきなりフルスロットルに入れた蛍、そのスピードに軽くなんて言ってられずしっかりとしがみ付き、吹っ飛んでいく景色の中
(やらかいなあ。それにいい匂いやあ)
初めて近くに感じる女性特有の柔らかい感触と甘い匂いに若干くらくらしてしまうのだった。なお残された横島の学校の生徒達は
「「「横島にあんな綺麗なお姉さんの彼女がいるなんてええええッ!!!」」」
スケベで馬鹿をやる横島に彼女がいると言う事実を認められる絶叫する男子に
「「「……ショックちょっと狙ってたのに……」」」
見る目のある一部の女子が深く溜息を吐いていたのだった……
「ほら、横島ここよ」
蛍の運転するバイクで来たのは東京タワーだった。確かにここの展望台から見ればさぞ絶景……あれ?
「あ、あのう蛍さん?何故に私を抱え上げているのでしょうか?」
しかもお姫様抱っこで、回りに人がいないから良いが。これはとんでもない羞恥プレイとしか思えない
「捕まっててね」
蛍は俺の言葉に返事を返さず、ジャンプする。すると一瞬だけ空中に板のような物が見えて、それを踏み台にしてドンドン上へ上へと上っていく蛍。
(これも霊能力なのか?)
一瞬しか見えないが翡翠のように輝く緑の板が見えた。もしかするとそれも霊能力なのかもしれないと思っていると
「とうちゃーく♪」
蛍にゆっくりと降ろされる。そこは展望台の屋根の上、凄い強風だけど蛍が手を握ってくれているので飛ばされることは無い
「ここに座りましょう」
鉄骨に背中を預けて座る蛍の横に座り夕日を見つめる。それは今まさに沈んでいこうとする所だった
「昼と夜の一瞬の隙間……短時間しか見れないからよけい美しいのね」
夕日を見ながらそう呟く蛍の顔はとんでもなく綺麗で、思わず見惚れてしまった。そしてそれと同時に
(な、何でワイなんかを)
こんな綺麗な人ならもっとかっこよくて頭の良い人が好きになってくれるはずなのに……なんでワイなんか」
「そんなに自分を卑下しなくても良いわ横島」
「なんでワイの考えてる事を!?」
もしかして俺の考えている事を全部読み取っているのか!?これも霊能力!?っと横島は驚いているが、ただ口に出ていただけである。蛍はそんな横島に苦笑しながら、その頬に手を伸ばして
「今はまだ横島は本当の力に目覚めてないだけよ、貴方が本当の力に目覚めたら私なんかよりももっと強くなるわ」
「そんなあ。嘘や」
俺にそんな力があるわけが無い、あの時の化け物だって蛍が居たから、俺は助かったような物だし
「あの時の私は殆ど霊力が残ってなかったの。だからあの刃は全部横島の力よ、だけど横島の霊力は強すぎるから、自分では思うように使えないんだわ」
「……漫画とかで見るリミッターってやつ?」
まさか?自分にそんな力は無いだろうと思いながら尋ねると蛍は
「そう、それに近いわ。もっと成長すれば貴方の力は開眼するわ横島。ねえ横島私と一緒にGSになりましょう」
俺の手を握って真剣な表情で俺を見る蛍。GSと言えば華の職業に思えるけど命懸けの職業で危ない、綺麗な奥さんを貰って退廃的な暮らしをしたい俺には無縁の職業といえる。だけど蛍の目を見ているともしかすると俺にも出来るのかもしれないと思えてくる。あの時の光り輝く刃の事を思い出す。そして蛍を助けたいと思った気持ちも
「ワイ本当にGSになれる?」
「なれるわ。横島なら誰よりも強いGSに……時間は掛かるけど絶対に」
蛍の信頼と好意……初めての女性からの純粋な好意に俺は赤面しながらも
「蛍が教えてくれるんか?GSになるにはどうしたらいいのか?」
「ええ。私が教えるわ、横島が霊力に目覚めるのはもっと先になると思うけど、GSとしての心構えとか霊力がなくても戦える方法とか」
美人の先生が教えてくれるんか!?それは気合が入るってもんやな!それに蛍と一緒にいるには俺もGSにならないと難しいのかもしれない……だから
「ならなるわ!俺もGSに」
「横島ッ!」
ぎゅっと抱きついてくる蛍。胸のやわらかい感触と甘い匂いに俺の意識は完全に吹き飛ばされ、更に
「ブッシャアアアアアアッ!!!!」
「ッきゃああああ!横島!横島ぁッ!!!」
目と耳と鼻から大量の血液を噴出し意識を失い倒れる俺が最後に見たのは
「白の……レース」
「えっきゃあ!?もうどこ見てるのよ!?」
そう言って後ずさる蛍の気配を感じながら俺は意識を失ったのだった……
「もう。横島ったら♪」
スカートを押さえて嬉しそうなのに恥ずかしがっているという器用な事をしている蛍は、気絶している横島の血をハンカチでふき取り。横島を抱きしめて
「これから2人で頑張りましょうね」
大切な宝物を抱きしめるような蛍は嬉しそうに笑いながらそう告げた。気絶している横島は
「おおう……」
意識が無いのに返事を返す横島に更に笑みを深め、蛍は横島を抱き抱えたまま東京タワーから降りたのだった……
「なるほどねえ……忠夫がそんな大層な力を持っているとは思えないだけどねえ」
蛍さんの父親を名乗る「芦優太郎」の言葉に私は眉を顰めた。芦さんが言うには忠夫はこれから先、神や悪魔からも一目置かれるほどに強い存在になるとの事らしいんだけど
「やっぱり信じられないわ」
「信じられなくとも事実です。これは決まっている未来なのですから」
芦さんは蛍さんと違って逆行はしてないらしいだけど、蛍さんの話と忠夫の霊力の分析で限りなく事実だと判断できたからこうして来てくれたそうだ
「六道とオカルトGメンに気をつければ良いのね?」
芦さんの話では遠い未来で忠夫が身につけるある力は神や魔族でさえ滅ぼすことが出来る究極の力。それを求める者が来るはず、酷い言い方をすれば忠夫を道具として利用しようとするような人間
「ええ。本当は美神も気をつけた方が良いのですが、横島君と美神の人間は深い縁がある。これを断ち切るのは難しいですから」
縁ね、蛍さんの縁とその美神令子の縁。どっちが上なのかしらね?と考えながら
「心配ないわ、うちの息子をそんなくだらないことに利用するって言うなら潰すから」
可愛い1人息子を利用するような連中に生きている価値はない。社会的な抹殺をしてくれる
「貴方のすごさは理解しているつもりですが、気をつけて。私には私のやるべきことがあるので表立っては協力できませんが、これを」
差し出されたのは名刺サイズの金属片。不思議と何の重みも金属の冷たさも感じない
「これは?」
「私との直通の連絡する物です。何か困った事があれば連絡ください、出来る限り協力させていただきます。それではまた今度」
そう笑って帰ろうとする芦さんを見送ろうと立ち上がったんだけど
「すいません、百合子さん。横島がおきなくて」
気絶している忠夫を連れて家の中に入ってきた蛍さんを見て
「折角ですし、ご夕食でもご一緒しません?芦さん」
「む……うーん。そうですね、折角だからご一緒します」
蛍さんも来たんだし一緒に夕食にしましょうと誘う。大樹は残業らしいのでいつ帰ってくるのかもわからないしね
「忠夫はリビングのソファーに寝かせておけば良いわ。多分その内起きて来るからね。芦さんはTVでも見ててください」
私はそう声をかけエプロンを身につけキッチンに向かった。忠夫がどうなるかなんてどうでも良いけど、ここまでうちの忠夫を心配してくれる蛍さんと芦さんは悪い人じゃないと判断した
「百合子さん、手伝います」
「あら本当?嬉しいわ」
それにこうして並んで料理をするのって結構夢だったのよね。忠夫が馬鹿をやって蛍さんに愛想をつかれないと良いんだけど……私はそんな事を考えながら夕食のお好み焼きの準備を始めたのだった……
「不味い!?血が足りなすぎる!?横島君!?目を覚ますんだ!死んだら駄目だぞ!?」
TVを見ていてくれと言われた芦は、出血多量で瀕死の横島を現世に呼び戻すために必死に延命措置を施していたのだった
横島が大量出血で生死の境目を彷徨っている頃
会いたい……
貴方は誰……?
東京から遠く離れたある場所では
「どこにいるの?」
巨大な岩から姿を現した少女はふらふらと導かれるようにその地を後にした。その場所は栃木県那須町のある巨大な岩が眠る場所……その岩の名前は「殺生石」と言うのだった……
リポート2 ナインテール・フォックス その1へ続く
はいこれでリポート1は終わりです、次回からはオリジナルの話を少し入れるつもりです、まぁタイトルとラストで判るとおもうんですけどね……好きなんですよ、あの人と言うか狐さん。多分GSを知ってる人は皆知っていると思います、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします