リポート18 アリスちゃんと魔法の箒と騒がしき日々 その6
永遠に続く夢が終わった。永遠なんて物は存在しないと言うのは判っているが、私にはあの夢は永遠に思えた……
『長い夢を見終わった気分はどうだい?』
にやにやと笑いながら尋ねてくる私……いや……
「最悪とは言えないね……でも良い気分とは言えないよ。未来の私」
私の返答を聞いた未来の私は満足げに笑いながら立ち上がり
『ただの人間が神界・魔界・人間界を救い、そして得た物は恋人の死……なんとも無常じゃ無いか。そして愛した女は自分
の子供。英雄には悲劇がつきものだ。だがただの人間がどうしてこんな悲劇が訪れる?』
ああ。そうだ、これには私も納得が行かない。確かに幸せだったかもしれない、だがそれはあの馬鹿が求めたものでは無い……だからこそ
「逆行とは良くやるな、そんなに気に入ったのか?あの横島が」
未来の私に尋ねると嬉しそうに笑いながら
『だって私はあいつのせいで死んだけど、あいつのおかげで生き返った。神族と魔族に掛け合って居場所をくれたのもあいつだ。憎みはしたが、それでも私はあいつを……横島忠夫を愛している』
この私が、魔族のこのメドーサ様が人間を愛しているなんていうなんてね……未来を夢で見た。だがそれは見ただけだ、未来の私がどんな思いを抱いたのか?そこまでは私には判らない
『さて、今の私には選択肢がある』
指を2本立てた未来の私がしっかりと私を見据えて
『1つは私を受け入れ。そして未来を変える。そしてもう1つは私を拒絶しあの未来へ続くかもしれない世界を生きるか?』
お前は如何する?と尋ねてくる未来の私。でも尋ねられるまでも無い、私の答えはすでに決まっていたのだから……あのどこまでも優しいあの馬鹿を敵としてじゃ無い、今度は味方として助けてやるってね……
「うっ……」
ゆっくりと目を開けると激しい頭痛と共に知らない数々の出来事が私の頭の中に流れ込んでくる……
「……やることが多すぎるね」
その痛みは一瞬で治まるが、その代わりにこれから私がやらなければならない数々の出来事に頭が痛くなる
「まずはアシュ様に記憶を取り戻した報告……それと……勘九郎達も何とかしてやら無いと……」
雪之丞はまぁなんとかなると思う。あいつは只のバトルジャンキーだから、勘九朗も問題ない。あいつは強くなりたいってだけで私についてきた奴だ、多少本当の話をしなければならないだろうけど……私についてくるだろう。より強くなるために……そして陰念は……
「まぁどうでも良いか」
GS試験の後は気を静めるために坊主の修行をしていたらしいし、横島には魔装術の暴走例と戦わせて経験を積ませたいって言うのもあるから、倒された後に完全に魔族にならない程度の応急処置をしてやれば良いだろう
「さてと……じゃあ行くか……」
早くアシュ様に記憶を取り戻したと報告して指示を仰がないとね。これからどうすれば良いのか?その方向性は決まっているけど、アシュ様の作戦を妨害したら意味が無い。私はそんな事を考えながらアシュ様の宮殿を後にし人間界へと向かうのだった……
メドーサが記憶を取り戻し、アシュタロスの元へ向かっている頃。アシュタロスはと言うと……
「「ふっははっはー!で、出来たー!出来たぞーッ!!!」」
ドクターカオスと並んで楽しそうに高笑いしていた。2人の視線の先には玩具のような装置がついたベルト
「変神ベルト完成じゃな!アシュ!」
「ええ、結構難しかったですね!ドクターカオス」
かなりの日数徹夜していたのでお互いにハイになりながら笑い合う。おキヌ君や蛍から聞いた話を元に横島君に今必要な兵装を……それがこのベルトだ
「神族の韋駄天との融合。これが坊主の霊力の覚醒の始まりじゃ、そして融合度が高かったからこそ坊主の霊力の上限が大幅に上昇した筈じゃ」
ドクターカオスの言葉に頷く、横島君の潜在霊力は高いが、使える霊力は少ない。それは己の身体を護ろうとする人間として当たり前の防衛本能。だがここで韋駄天で融合したことにより、一時的にだが横島君の身体は人間の身体と言う枷が外れ、そして身体を癒す為に韋駄天の神通力を取り込んだ。これにより横島君の霊力の上限が上がり、後に心眼の竜気を取り込むことで、更に霊力の上限が上がった。そして奇跡の体現「文殊」へと至った
「全てにおいて横島君は恵まれていたのだろう。いや、宇宙意思に好かれていたのか?」
これだけの幸運が続くという事はありえない、横島君は私と言う存在に対する抑止力に宇宙意思に選ばれた……選ばれてしまったのかもしれない
「英雄の器か。宇宙意思も厄介なことをしてくれるわ」
忌々しそうに眉を顰めるドクターカオス。永い時を生きているのだからドクターカオスも宇宙意思に選ばれてしまった英雄を見てきたのかもしれない。その先にある悲劇も含めて……
「まぁ私達に出来るのはその悲劇を回避するだけの力を横島君につけさせる事ですからね」
「うむ。これでより韋駄天との融合係数があがるじゃろうな。使いこなせるかどうかは小僧次第じゃが」
このベルトは韋駄天の神通力を横島君の霊力と似た波長に整え、横島君の身体が取り込みやすいようにするため物だ。そして
「神族って意外と子供っぽいんですよね。ドクターカオス」
韋駄天八兵衛は英雄が好きだ、それも子供っぽい人間界のTVで出て来る様な者を特に好んでいる。だからそれを真似したベルトを作ったのだ、ちゃんとスーツの転送機能も準備してあるから本当に変身できるだろう
「ひまなんじゃろ?神界も」
「魔界も似たようなものですかねえ」
永い時を生きるというのは人間が羨むが、実際はそんなに良いものでは無い。なんせ暇を持て余すのだから、斉天大聖ことハヌマンがゲームを好むのも同じ理由かもしれない
「まぁ後は韋駄天八兵衛が来るタイミングをしっかり計ることじゃ、ワシの方じゃ接触は出来んからの、後は任せるぞ。家においてきたマリアとテレサが心配なんでの」
荷物を纏めているドクターカオス。マリア君だけなら連れてくることも出来たが、まだ精神的に幼いテレサ君を連れてきて、余計なことを覚えられては困ると言うドクターカオスの配慮で2人は家に残っている
「また今度よろしくお願いします」
「うむ。ではの」
背を向けて去っていくドクターカオス。私は目の前に置かれたベルトを見つめて
(本当は横島君に文珠なんて目覚めて欲しくない)
人並み程度の霊能力に目覚めて、人並み程度のGSになってくれれば私としてはそれが一番嬉しい。だが私以外のソロモンの魔神。しかもそれが複数動いている可能性が出てきてしまった以上人間側に「文珠使い」の存在は必要不可欠になる。
「……許してくれ、蛍。横島君」
仮に動いている魔神が1柱だけならば……私だけでも何とかなったかもしれない、だけど情報ではソロモンの魔神に加え、東洋やインドに関わる魔神までも行動している可能性があると聞いてしまった以上。横島君には前の歴史以上の力を身につけてもらわなくてはいけない……あんな悲劇が起きないようにと行動していたが、あの悲劇を上回る惨劇が起きる可能性が高い……本当に魔界側の情勢を知ることが出来る部下が必要だ……どうすればいいのか?と頭を抱えながら自分の部屋に戻ると
「メドーサ?体調はもう良いのかい?」
私の宮殿で休んでいるはずのメドーサがソファーに座って待っていたので体調はどうだ?と尋ねるとメドーサは私の前で片膝立ちになり
「アシュ様。大変お久しぶりです、こうしてまた出会うことが出来た事を大変喜ばしく思います」
まさか……私が驚いてメドーサの顔を見るとメドーサは悪戯っぽく笑いながら
「私は全てを思い出しました。これからはアシュ様の本当の願いを叶える為にご協力いたします」
このタイミングで……欲しいと待ち望んでいた手駒を手にすることが出来た
「助かる!メドーサ早速で悪いが魔界に飛んでくれ!魔界側の情勢を調べてきて欲しい!」
どの魔神が動いているのか、その手がかりだけでも良いとメドーサに頼むと
「判りました。早速行ってまいります」
二つ返事で魔界へと飛んでくれたメドーサ。これでほんの少しだけ光明が見えてきた……後はこの周囲に神通力に反応する結界を用意して、韋駄天が来たら直ぐに交渉出来るように準備をするだけだ
「頼んだよ。使い魔の諸君」
「「「キイ!」」」
蝙蝠の使い魔に私が作った結界を発生させる石を持たせ、街へと放つ。後は使い魔の皆が上手くやってくれるだろう……そう思った瞬間魔界へと続くゲートが開く、直接こんなことが出来るのは私と同じ魔神級だけだ。私が冷や汗を流していると
「ネビロスの爺さんに聞いてきたぜ。アシュタロス、久しぶりだな」
ファーの付いたジャケットを着込んだ若い青年がにやりと笑いながら私の前に立つ。こ、この魔力は……
「もしかして……ビュレトか?」
「おう。ビュレト様だ、お前に頼みがあって来てやったぜ」
にやっと笑うビュレトの顔を見て私は思わず頭を抱えた。その浮かべた笑みを見て絶対にろくな事にならないと直感で感じ取ってしまったから……
そしてアシュタロスが感じ取った嫌な予感。それはビュレトが人間界に来た理由に関係していた……ビュレトは知人の話で聞いていたのだ、ガープ達が最近神魔を誘拐して回っていると……そしてその絡みで必ず人間界に来ると確信していたからだ、そしてビュレトが人間界に訪れた頃神界では……
カツカツっと軽快な音を立てて歩く音が後ろから響く、全力で走っているのにまるで引き離せないことに焦りだけが募っていく……
「そんなに逃げなくても良いじゃ無いか、私は君と話をしたいだけなのだよ!韋駄天よ!!」
背後から聞こえてくる声に返事を返さず全力で走り続ける。視界に収まるだけでも駄目だ、それだけでも自分の動きが完全に束縛されることを逃げている韋駄天……いや九兵衛は悟っていた
(うかつだった!最近の神族と魔族の失踪にはあいつらが関わっていたのか!)
なんとしてもこの事を伝えなければ……そうで無ければ
(あいつに顔向け出来ん!!)
友人であり、好敵手でもある八兵衛に今は動かないほうがいいと言われてもなお、神界の連絡役としての使命を果たす為に仕事の依頼を受け、そして待っていたのは本来居るはずの無い魔神が3柱……動いていたと聞いていた魔神に加えてもう1柱が其処に存在していたのだ。ならば伝えなければならない、見た全てを、そしてあいつらが何をしようとしているのかを……
「そこまでだ。小ざかしい鼠」
「な……がぐああ!?」
突如目の前に現れた巨大な大岩……いや魔神の拳が俺を穿つ。そのあまりの激痛に上半身が消し飛んだかと思った
「しま……「そこまでと言ったはずだ」ぐあああああああ!?」
なんとか体勢を立て直し再び走り出そうとするが、それよりも早く俺の身体を踏みつける巨大な三面六臂の魔神……
「ぐううう!何故貴様がここに!アスラアア!!!」
東洋に関係する神族ならば知っている。この魔神を……デタント成立と共に幽閉されたはずの魔神アスラを
「答える理由は無い」
やはり取り付く島も無い、だがそれでも俺は諦めない
「外道焼身霊波光線ーーーーッ!!!」
神通力を暴走させ、爆発を起こしアスラを吹き飛ばそうとするが
「……猪口才な真似を……よほど死にたいようだなぁ!」
やはり力の差は歴然で吹き飛ばす所か、軽いダメージを与えるのがやっとだった
「ぐああああ!?くっふはははは!殺すなら殺すが良い!!!覚悟は決めたさッ!!!だが俺には判っている!貴様達の思い通りになる事など何も無い!!!所詮は今の神魔の世界に馴染めなかった只の敗北者なのだからな!!」
出来ることならば八兵衛と決着を付けたかったが、どうも俺はここで死ぬらしい
「なるほどならば死ねえ!!!「待て。誰が殺せと言った。貴重な実験体を勝手に処分するな」ガープ」
ゆっくりと姿を見せた魔神に眉を顰める。ここでアスラを挑発して殺されるつもりだったというのに!
「流石鬼族でありながら神族に至った者よ。その誇り高き魂賞賛に値する」
「黙れよ。戦争……がっぐうううう!?」
アスラが指先に力を込めたことにより身体が締め上げられ苦悶の悲鳴を上げる
「ふっふふ。この状況でもこれだけの口を利けるとは、やはり良いぞ。貴様は良い素材になる。アスラ、連れ帰るぞ」
「……ちっ!ああ、判ったよ。だが……我に働いた無礼の報いは受けてもらう!!!」
「がはあ!?」
アスラに全力で地面に叩きつけられ、その衝撃と激痛で薄れていく意識の中
(す、すまん……八兵衛)
俺の心配をしてくれた八兵衛の忠告を無視した結果がこれだ。きっとこれから俺は魔族へと堕とされるだろう……そして俺は俺で無くなる……その事に対する恐怖と俺を心配してくれた八兵衛に申し訳ないことをした……俺は薄れゆく意識の中ずっと八兵衛へと謝り続けるのだった……
天界でそんな騒動が起きているなどと当然ながら知らない横島はと言うと
「ほーら、チビーメロンだぞー」
「みーむう♪♪」
「うーきゅ?」
「モグラちゃんも待っててなー?今生ハムだすから」
「うーきゅー♪」
先日シルフィーに襲われかけたとき助けてくれたチビとモグラちゃんに豪華な食事を与え、飢えて倒れていたタマモを膝の上に乗せてその尻尾に丁寧にブラシをかけていた
「クーン♪」
丁寧にブラシをかけられ、膝の上で丸くなっているタマモはご機嫌な様子で横島に身体を預けているのだった……
なおシズクが何故居ないかと言うと
「……お前は兄だ。妹をしっかりと監視するべきではないのか?」
「いえ、本当その通りです。申し訳ありませんでした」
横島を襲撃したシルフィーの代わりに謝りに来たピートにかれこれ2時間以上説教をしている為だったりする……
リポート19 開眼!疾走する魂! その1へ続く
はい!次回は順番を変えて天龍童子の前に韋駄天を入れます、そして九兵衛が闇落ちしたのは過激派の仕業ってことにしようと思います。色々とイベントをやるつもりなので楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします