留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第36話「異次元王の降臨」その2

「唯ねーちゃん!行こう!」

「あ、え、うん!」

 

 長瀬唯とリュールを背に乗せたドラゴンは、低空を保ちながら逢夜乃たち4人に向かって飛翔した。

 

『ギャァァァス!!!』

 

 そのドラゴンの出現に、巨大怪獣が気付いた。

 怪獣は火の玉を口から放つ。

 

「唯ねーちゃん! しっかり掴まって!!」

 

 ドラゴンは旋回し、火の玉を華麗に避けた。火の玉は地上の黒い宇宙人たちを大量に焼き払った。

 

「アヤねーちゃん!!」

「リュール!!」

 

 ドラゴンはそのまま、一気に4人のもとに辿り着いた。

 

「リュール少年! 怪獣が狙っているぞ!」

 

 草津の叫びと共に、怪獣が再び火の弾を放った。

 しかし樫尾がまだ乗っておらず、ドラゴンは飛び立てない。

 

「白龍!!」

 

 リュールの声に反応し、ドラゴンが火の玉に向けて口を開く。

 そこから強烈な青い炎が放たれ、火の玉を消し去った。

 

「飛ぶよ!」

 

 全員が背に乗ったことを確認し、ドラゴンは再び空に上がった。怪獣の攻撃を避けるため、大きくその場から距離を取った。

 

「待ってリュールくん! 雪宮センパイが!」

 

 唯は、黒い宇宙人たちと戦っている雪宮を指差した。次々と宇宙人を斬り倒しているが、数の差があり過ぎた。遠目から見ても、雪宮が疲弊しているのは唯たちには分かってしまう。

 

 更には巨大怪獣がドラゴンを諦め、雪宮に迫ろうとしていた。

 

「リュールくん、一回でいい。ドラゴンの腕に僕を掴ませて、雪宮先輩の近くを飛んでほしい」

「早坂! テメェ正気か!?」

「大丈夫です!」

 

 早坂はこの場には似つかわしくないような笑顔で応え、ドラゴンの右手に身を任せた。

 彼は地上に頭を向ける形になり、その状態でドラゴンは雪宮に近づいた。

 

「早坂! チャンスは一度だぜ! 怪獣に気付かれたらしめェだ!」

「樫尾さん、了解です!」

 

 ドラゴンが雪宮の正面に迫る。

 それを、巨大怪獣は見逃さない。

 

「雪宮先輩!!!」

 

 早坂が叫ぶ。

 

「之道――」

 

 雪宮と早坂の視線が重なり、雪宮が片腕を上げた。

 しかしその瞬間、黒い宇宙人の攻撃によって雪宮は、上げた腕を下ろさざるを得なくなった。

 雪宮は早坂から目を離し、再び戦いに集中を――

 

「置いては行きません!!!」

 

 その一瞬に、早坂の両腕が雪宮の身体を捕えた。2人は逆さまに抱き合う形で、地上から離れた。

 その直後に、巨大怪獣の放った火の玉がその場を火の海に変えた。

 

「雪、みや、先輩。研究所での借り、返し、ましたから」

「……ふっ」

 

 7人を乗せたドラゴンは、空高く駆けて行った。

 その背に、再び巨大怪獣の火球が襲いかかる。

 

「みんな! 手を離さないでねっ!」

 

 ドラゴンは急回転、迫る火球に正面を切った。

 

「白龍!!」

 

 リュールの叫びと共に、ドラゴンの口に青い光が現れる。

 

「放て! 爆裂疾風弾!!」

 

 ドラゴンが青い光線を放った。それは数発の火球をかき消しながら一直線に進み、巨大怪獣の腹部を貫く。

 巨大怪獣は悲鳴を響かせながら爆散した。リュールたちを背に乗せたドラゴンは身を翻し、近くのビルの屋上に着陸した。

 7人は屋上に降り立つも、一時の落ち着きすら見せずに眼前の光景に目を奪われていた。

 割れた空から次々と現れる巨大怪獣、

 地上を堂々と闊歩する黒い宇宙人、

 そして割れた空の向こうに見える、巨大神殿。

 蹂躙される沙流市を前に、彼らは言葉を発することができなかった。

 

「……まさか、これは全部」

 

 ようやく口を開いた早坂に、全員の視線が集まった。

 そして彼の言わんとしていることを、唯とリュール以外の4人は察していた。

 

「違う。彼がヤプールと組むはずがない」

「ヤプール?」

 

 雪宮の言葉に、唯が反応した。

 

「さっき俺たちを襲った怪獣、いや“超獣”か。あれはヤプールという異次元人が操っているんだ」

 

 草津が雪宮の代わりに応えはじめる。草津は、地上をねり歩く黒い宇宙人を指差し「あれだ」と言った。

 

「ヤプールは、かつて地球を狙っていたと聞く。その際はウルトラマンエースが追い払ったが……リベンジを仕掛けてきたというわけだ」

「あのメフィラス星人が、ヤプールの力を借りるわけが無い」

 

 雪宮は冷静ながらも、どこか草津たちに言い聞かせるような口調だった。

 

「わたし、何だか目が回っちゃいそうです……」

 

 唯は唸りながら座り込み、頭を抱えた。

 

「リュールくんも雪宮センパイも実は宇宙人だったってだけで混乱しそうなのに……ってか愛美センパイとニルセンパイはどこ行っちゃったんですか?!」

「お2人とは……はぐれてしまいました」

 

 逢夜乃は、今にも泣きそうな顔をしながら、絞り出すようにして言葉を紡いだ。

 その手を、リュールは強く握った。

 

「アヤねーちゃん、大丈夫。きっとニルにーちゃんとアミねーちゃん、一緒にいるよ!」

 

 リュールの気遣いに、逢夜乃は無理やり微笑んだ。

 

「……あれは」

 

 不意に雪宮が、屋上の手すりに掴まりながら身を乗り出した。

 彼女が見ている先は、空の割れ目、そしてその奥の巨大神殿だった。

 

「ミクねーちゃん……それに、ニルにーちゃん!」

 

 人間をはるかに凌駕する視力によって、2人は目にすることができた。

 テンペラー星人によって巨大神殿に連行されていく零洸未来、そしてニル=レオルトン。

 彼らは両手両足を鎖で縛られ、ニルは目隠しを施されていた。

 

「リュール! お2人はどこにいますの!?」

 

 戸惑うリュールを問い詰める逢夜乃は、彼の視線の先に目を凝らした。もちろん未来とニルの姿を見ることは出来なかったが、彼女は何が起きていたのかを想像することは出来た。

 

「一体どうすれば……」

 

 逢夜乃は膝をつき、早坂と樫尾は黙ったまま俯き、草津は苦々しげに唇を噛んでいた。

 自分たちの友人――未来はソルとして、ニルはメフィラス星人として互いを憎み合い、戦っていた。その事実を受け入れることもできず、自分たちの無力さを噛みしめるだけだった。

 

「助けに……行きましょう」

 

 その時、唯が唐突に立ち上がり、声を上げた。

 

「助けに行きましょう! 未来センパイとニルセンパイのこと!」

「でもよ、俺らに何ができるって――」

 

 唯をなだめるように、樫尾は彼女の頭に触れようとした。しかし唯はその手を振り払った。

 

「何でもできますよ! だって、リュールくんは怪獣が味方だし……雪宮センパイはとっても強いじゃないですか!」

 

 彼女は大きな目いっぱいに涙を溜めていた。

 あまりにも頼りない姿、弱々しい姿だが、彼ら6人は目を背けずにはいられなかった。

 

「確かに、私たちはただの人間だし、宇宙人も怪獣も、とっても怖いです。でも……そんなの関係ないじゃないですか。友達がピンチだったら、何かしないといけないじゃないですかっ!!」

 

 しかしこの場に居る誰よりも、毅然とした真っ直ぐな言葉だった。

 

「皆さんも……ニルセンパイも未来センパイも、いつだってそうして助けてくれたじゃないですかっ!!!」

 

 そう言って、唯は掌で顔を抑えた。

 小さな嗚咽が寒空の中に、響いていた。

 そして最初に、樫尾が動き出した。

 

「……こいつは、いけねェぜ。図体と度胸が取り柄の俺が、ビビっちまってたみたいだ」

 

 彼は自らの頬をばちんと両手で叩いて言った。

 

「ふっ、そうだな。ここで黙って隠れているのは、俺たちらしくない」

「皆さんの言う通りですわね。諦められることなんて何もありませんわ!」

「行こう!」

 

 草津、逢夜乃、早坂もそれに応えた。

 小さな“火”が、彼らの心に灯ったのだ。

 

「……みんな、強いんだね」

 

 リュールが、隣に立つ雪宮を見上げた。

 

「……うん」

 

 彼女はそう応え、微かな笑みを浮かべるのだった。

 

 

―――その3に続く


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