留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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1日遅くなりました。すみません。


第35話「その日常を切り裂いて」その4

 

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 CREW・GUYS・JAPANの本拠地『セイヴァーミラージュ』のブリーフィングルームに、私は居た。

 

「貴方の指示通り、アジア地域のGUYS全戦力をこの場所に集結させています。北米、ヨーロッパ等の戦力も、随時招集しているところです」

 

 GUYS・JAPAN総監代行の言葉に、私は頷いた。

 

「例の兵器は?」

「はい。間もなく当基地に到着予定です。それと、CREW GUYSの面々の拘束も完了しました。メシア以外の兵器に関してはいつでも稼働可能です」

「ご苦労様です。ところで、基地内の人間で不在の者のリスト、できていますか?」

「もちろんです」

 

 総監代行は、数枚の書類を手渡してきた。

 

「結構。貴方は各方面に指示を。迅速に対応するように伝えてください」

「GIG」

 

 彼は足早にブリーフィングルームを出て行った。

 零洸から変身アイテム『クリティムア』を奪った後、私は混乱の渦中にあった『セイヴァーミラージュ』へやって来た。先ほどと同様に基地内の人間を扇動して司令部を抑え、ソルの死亡を伝える映像を全世界に発信したのだ。

 私は大きなモニターを正面に、円卓の椅子に深々と腰かけた。

 基地内の人員は素早く統制を取り、反乱分子になり得る隊員は、あらかた監禁していた。特にCREW・GUYSの面々は最初に拘束し、今は地下の倉庫に閉じ込めてある。

 しかし気になるのは、この“不在者リスト”の中のある人物――CREW・GUYS隊長の星川聖良と、初期対応班のヒロ=ワタベ。この2人は、ゴーデス細胞の事件で私の想定以上の働きを見せていた。

 そして、ウルトラマンメビウスと共にエンペラ星人を破ったかつてのCREW・GUYSメンバーたちの名前も記されている。いずれも野放しにしておくには厄介な奴らだ。

 とはいえ、武器を持たない人間たちに何ができよう。

 それ以上に私が警戒すべきなのは――

 

「お早い到着ですね、ソル」

 

 目の眩むような光と共に現れたのは、鋭い眼光を放つ零洸未来だった。

 そして現れるやいなや、彼女の拳が凄まじい勢いで襲いかかってくる。

 私は咄嗟に頭を横にずらし、それを避ける。もたれていた椅子の上部が木端微塵に砕かれた。

 

「クリティムアを返してもらうぞ、メフィラス星人」

 

 もはや彼女の眼は“敵”に対して向けられるものだった。

 

「あの程度の拘束具では、貴女が脱出するのは時間の問題だったでしょうね。しかし、時間稼ぎには充分でした」

 

 私は傍に置いていたリモコンに手を触れる。

 

『侵入者あり。至急ブリーフィングルームに急行せよ』 

 

 基地のセキュリティシステムが起動し、けたたましいサイレン音が鳴り響く。

 彼女がここまでピンポイントでテレポートしてきたために自動で起動はしなかったが、間もなくGUYSの隊員がここに集まって来るだろう。

 

「無力な人間ではありますが、貴女にとっては効果があるでしょう」

「さぁな」

 

 彼女は後ろ手に光線を放ち、この部屋の唯一の出入り口の自動ドアをなぞる様に着弾させた。威力の押さえられた光線は、金属を溶接するようにしてドアを塞いだ。

 

「これで邪魔は入らない」

「……ふっ」

「何がおかしい」

 

 私は立ち上がった。

 私と零洸は、互いに吐息を感じるほどの距離で向かい合った。

 

「いつかはこうしなければと、考えていました」

 

 私はポケットに仕込んだブレスレットを左手首に着ける。

 

「自らの手で、光の戦士を倒さねばならないと」

 

 私は人間態への変身を解除した。

 そして本来の姿――メフィラス星人の姿に戻り、零洸に相対した。

 

「それがお前の答えなんだな……!」

 

 零洸は一歩、そして二歩後退する。

 彼女は右の袖をまくる。彼女の腕から紅いブレードが伸びた。

 私は手からグリップビームを放ち、零洸の接近をけん制する。しかし彼女は椅子やデスクの間や上を巧みに動き、光線はかすりさえしない。

 広い円卓に上がった零洸に、私はビームを再度放つ。彼女は天井に向け飛び、空中で半回転、天井を蹴って私に襲いかかった。

 私は紅いブレードをぎりぎりで避けたが、瞬時のうちに展開された左腕の青いブレードが私の首元に迫った。

 

「っ!!」

 

 私は地面を蹴って後退し、致命傷から逃れた。青いブレードは胸をかすめ、緑色の血が僅かに流れる。

 だが同時に私は、至近距離でグリップビームを零洸の腹部に命中させていた。にもかかわらず、彼女は痛みに顔を歪ませるだけで、姿勢を全く崩さない。

 私たちは一定の距離を保ちながら、お互いに出方を窺った。

 何の音も無い、一見すると穏やかにも思われる時間。しかし私たちの視線は互いから一瞬たりとも逸れることは無い。

 私は右腕をグリップビームの形に保ちながら、左腕のブレスレットに力を込めた。

 

「……変身アイテムを奪えば弱体化すると考えていましたが、どうやら勘違いだったようです。見たところ、炎と氷を操るスタイルへの変身は出来ないようですが」

「そう言うお前は、元の姿の方が強いみたいだな」

「貴女がた光の戦士と違って、人間への擬態はエネルギーを要しますから――」

 

 その刹那に、戦いの行方は大きく動いた。

 私の言葉が終わる直前、零洸の姿が私の視界から消えた。

 次の瞬間には、私のすぐ目の前に彼女の顔があった。

 そして彼女の右手のブレードが、私の肩と胸の間に突き刺さっていた。

 

「答えろ、レオルトン。何故お前が、地球を陥れるような真似をするんだ」

「何故、ですって……? 当たり前でしょう。私は、侵略者なのですから」

 

 突き刺さった傷口から、灼熱のような痛みが全身を走り回っていた。

 だがまだだ。まだ意識を保つのだ。

 

「愛美に、正体を知られたからか」

「関係……ありません」

「嘘を言うな。お前ほど慎重な奴が“星間連合”を野放しにしたまま自分の作戦を始めるわけがない」

「お前に……私の何が分かる」

「分かるさ。共に過ごした時間が、あっただろう。私だけじゃない、皆お前と一緒にいたんだ」

「だったら、宇宙人である私を、彼らは受け入れることができますか?」

 

 零洸の額から、小さな汗の滴が流れる。

 滴は私の左手首――ブレスレットの上に落ちた。

 その瞬間に、零洸の眼が大きく見開かれた。

 

「超魔光閃」

 

 ブレスレッドが一気に強い光を放ち、黒い光線を撃ち出す。

 零洸は反応できず、光線をその腹部にまともに食らった。彼女の身体は威力に押し負けて後方に吹き飛ばされる。

 私のエネルギーを予め充填してあるブレスレットから放たれる必殺技は、たとえ零洸でも致命傷になり得るはずだ。

 

「……まだだ!」

 

 壁に叩きつけられて倒れていた零洸は、なおも立ち上がった。腹を抑えながら、傍に倒れている椅子を頼りにしているものの、その闘志が尽きているようには全く見えなかった。

 

「……もういいじゃないですか」

 

 私はサイコキネシスを用いて、部屋に備え付けられていたモニターの電源を入れた。

 零洸は、突如点灯したモニターに目を向けた瞬間、その表情に驚嘆の色を浮かべた。

 

「どういうことだ……」

「これが……私の策です」

『首相官邸より中継です。急遽、総理大臣の会見が執り行われ、メフィラス星人による“光の戦士ソル敗北”の報告について重大な発言がなされました。会見の様子をVTRでお送りします!』

 

 興奮を隠せない報道レポーターの声が、静かな空間に淡々と響いた。

 

『沙流市を中心に起きているパニックは、敵性宇宙人による攻撃と考えられる。状況を鑑みるに、光の戦士ソルが敗北したことは間違いないと言わざるを得ない』

『総理! ではソルの代わりに人間を守ると発言したメフィラス星人についてはどうお考えですか!?』

『メフィラス星人が沙流市で人間を保護しており、GUYS・JAPAN本部でも指揮を執っているという情報を得ている。我々としても、この宇宙人攻撃の中最良の行動をとった彼の言葉は、信じるに値するとの見解を持っている』

『得体の知れない宇宙人の言葉を信じるのですか!?』

『肝心な時に現れないソルよりも、彼の方が現状、我々人間にとって有益な存在であることは明白だろう』

『それはソルに代わり、彼が地球の守護者と認める訳ですか!!』

 

 私はモニターのスイッチを切った。

 

「私の“円盤”から放たれる波長は、ある方向や対象に集中させることもできます。貴女がここに来る前に、この国の政治の中心地に狙いを定めていました。愚かな政治家も怪獣対策については貴女を取りあえず頼っていたようですが、今となっては自分たちを守ってくれそうな“都合の良い存在”である私を肯定したのです」

 

 何も答えない零洸に代わり、私が言葉を続けた。

 

「これで理解したでしょう。何故、私が変身アイテム1つを奪うことに固執していたかを。貴女の存在を一時的にも世間から隠し、その間にパニックを引き起こし、私がそれを止める。たったそれだけで、人間たちは私を受け入れる――新たなヒーローとして」

 

 必死に戦い、人間を護ってきたソル――彼女も所詮は宇宙人。

 人間たちは、上辺でしか彼女のことを信じてはいなかったのだ。

 

「私は無駄な殺生に興味はありません。貴女が地球を去ると言うのなら、追わないと約束しても良いのです」

 

 そうだ。彼女は人間に見捨てられたのだ。どこにも戦う理由など―――

 

「――私は地球を、護るんだ」

 

 零洸の言葉が、無音の室内に響き渡る。

 私は思わず、一瞬言葉を失った。

 

「……ふっ、何度も言っているでしょう。もう人間は貴女を必要とはしていない。ソルはいらないと言っているのですよ」

「そうかもしれないな」

 

 彼女は何故か、微笑んでいた。

 その笑みの意味は、私には露も理解できない。

 

「だが、それがなんだ。人々に必要とされているかどうかなど、知ったことではない」

「じゃあ何のために……!」

「友のためだ!」

 

 零洸は椅子から手を離し、真っ直ぐに立った。

 

「私には、友がいる。愛美や逢夜乃、樫尾たち、学園の者たち。かつて死地を潜り抜けた戦友、命を散らした戦友――私は彼らに約束したんだ!」

 

 零洸の右腕のブレードが変形し、しなやかな鞭に姿を変えた。

 そして目にもとまらぬ早さで鞭がしなり、私の首に巻きついた。

 

「忌々しい……まだ力を残して――」

「そして何よりも!!」

 

 彼女が腕を引く。

 私は力負けし、身体は大きく前方に動いた。

 同時に零洸が地面を蹴ってこちらに迫る。左腕のブレードの切っ先で私に狙いを定めながら。

 

「自分自身に誓ったんだ!!!」

 

 待ち受けていたブレードが顔面に、迫る。

 紙一重、私はブレードの切っ先から逃れた。しかし鞭に引き込まれた身体は、零洸の後方にある壁に衝突し、凄まじい衝撃が私を襲った。

 眩暈がするほどの衝撃だが、鞭がほどけたところで私は立ち上がる。

 一方の零洸も、膝を付きながらも真っ直ぐに私を見据えていた。

 

「誰にも信じてもらえなくていい……ただ私自身がやると決めたことは、やり抜くだけだ」

「戯言を……ごほっ!」

 

 くそっ…超魔光閃の消耗が激しかったようだ。これ以上無駄なエネルギー消費は避けなければならない。

 ――最後の一手だ。

 私は残るエネルギーを全身に行き渡らせ、準備をした。

 

「……巨大化して、私を倒すのか」

「ええ。変身アイテムが無ければ、貴女は小さな身体のまま。ひとひねりというわけです」

 

 全て終わりにするのだ。ソルを真に亡き者にし、私が地球の支配者として――

 

『警告、警告。基地内に怪獣出現。繰り返す。基地内に――』

 

 その時、セキュリティの音声と共に、大きな地鳴りが響いてきた。

 

―――その5に続く


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