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駅前ビルの一室に、樫尾と早坂、そして杏城は閉じ込められていた。彼らの両腕は縛られている。樫尾に至っては、タオルで足も縛られ、口も塞がれて言葉を発することさえ叶わなかった。
「ニル君、急にどうしちゃったんだろう……」
長い沈黙を破ったのは、早坂だった。
しかし他の2人は何も答えなかった。
「もう閉じ込められて1時間くらい経ちましたわね。零洸さんは、どこに連れて行かれたのでしょう」
「多分、別の部屋にいるんだよ」
杏城と早坂は、これからどうするかを検討し始めた。途中早坂が、不自由ながらも扉を開けようとしたが、やはり開くことはなかった。
「やっぱりダメか……」
「携帯電話も取り上げられてしまいましたし、困りましたわね」
その時、扉の鍵が開く音がした。
「ありがとうございます。ふむ、こいつらが憎き宇宙人の手先ですね」
扉の向こうには見張りの男と、草津が立っていた
「く、草津さん!」
杏城の呼び声に、草津は怪訝そうに眉をひそめた。
「この裏切り者。俺の名前を気安く口にするな」
「おいアンタ、知り合いだったのか?」
男の質問に、草津は笑いながら答えた。
「お恥ずかしながら、一応。まさか友人を演じて私を騙していたとは気づきませんでしたが……」
「アンタ、あの方の命でここに来たと言ったが、本当か?」
「もちろん。彼こそ心の友! 私は彼の腹心といっても過言ではありません。彼の代わりに、私が尋問します!」
草津は、目の前の早坂を急に殴り飛ばし、その胸ぐらを掴んだ。
「お止めになって草津さん!」
「さぁ言え! 仲間はどこだ!?」
草津は杏城の言葉を無視し、早坂の顔に耳を近づけた。
「聞こえんなぁ……!」
草津は再び早坂を殴り、耳を近づける。
「っ! 今何かしゃべりました!」
「本当か?」
草津は、一緒に居た男を呼び寄せる。
「聞いてみてください。俺ではうまく聞こえないみたいで……。しかしあの方にとっても貴重な情報になるはずです!」
「いいだろう!」
男は意気揚々と早坂に近づく。草津は場所を譲るようにして後ろに下がった。
「ほら、しゃべってみ――」
「草津キック!」
突如草津の蹴りが男の側頭部に命中し、男は一発で気絶した。
「ふん、軟弱者め」
草津は隠していた紐で男の両手両足を縛り、猿ぐつわを取り付けた。
そして3人の拘束を解き、膝をついて深々と頭を下げた。
「演技とはいえ、申し訳なかった!!」
「ははは……結構痛かったよ……」
早坂は苦笑いで顔を抑えながら、座り込んでいた。
「草津さん!」
逢夜乃は安心しきったように涙を流し、草津に抱き付いた。
先ほどまでの様子が嘘のように、彼の顔が真っ赤になる。
「脱出ルートは考えてある。急いでここを出るぞ」
「でも零洸さんが……」
「あの特殊な拘束具を外すのは、俺には無理だ。一度俺たちだけで脱出し、その後救出だ」
草津の先導で、3人はビルの通路を走り抜けた。
「あの角の先に見張りが1人いる! 俺が倒すから、お前たちはそのまま走って――」
「ぐわぁ!!」
見張りと思しき男が、角の向こうから壁に向かって吹き飛ばされていた。
「キミたち!」
現れたのは、未来だった。
彼女も合流し、彼らは草津の案内でビルの外まで出ることに成功した。
「時間はかかってしまったが、何とか拘束具を破壊できた」
未来のぼろぼろになった制服は、彼女が無理やり拘束を解いたことを物語っていた。
「草津さんは、どうやってこの場所が分かったのです?」
杏城の問いに、草津は軽く咳払いをして答えた。
「俺はNYのホテルで怪我をしたから、お前たちとは別に少し早く沙流市に到着していたんだ。そこで今回の異変が起きて、お前たちとの合流を考えた。そしてたまたま、お前たちが捕まる瞬間を目撃することができたんだ。それから後をつけ、このビルを見つけたというわけだ」
「教えてくれ草津。私たちが閉じ込められていた間に何があったんだ?」
普段賑わっているはずの、無人の駅前広場を前に、未来は草津に尋ねる。
「……あれを見るのが手っ取り早い」
草津が指差したのは、別のビルの外壁に設置されている巨大モニターだった。
『人間たちよ、聞きなさい。今この地球は、宇宙人たちの襲撃を受けています』
そこに映し出されていたのは、黒い異形の宇宙人――メフィラス星人だった。
『これを見なさい。私と共に戦っていた光の戦士ソルが遺した、変身アイテムです』
「ちょっと待って下さい、草津さん……あれは!」
「気付いたか、逢夜乃」
「先ほど未来さんが奪われた道具ですわね。じゃああのメフィラス星人というのは――」
「その通りだ」
草津は俯き、悔しげに唇をかんだ。
『ソルは宇宙人に敗れ、死にました。その憎き宇宙人は、まだ地球に潜んでいます。しかし安心してください。彼女に代わり、私が地球を守って差し上げましょう――この地球を私にくれると、皆さんが言うのなら』
「この一時間ほど、繰り返し流れている。テレビチャンネルは全てこの映像が流れ、インターネット上でも広がっている。どうやら世界中で、同じ映像が見られるらしい」
草津はスマートフォンで某インターネット掲示板を開いて、4人に見せた。
「何も知らない大衆は、あの内容を信じ切っている。何故なんだ?」
「彼が発動させた装置が、人間の精神に介入している。彼の言葉を簡単に信じてしまうようにされているんだ」
未来は、捕まった際に見上げた空に、再び目を向けた。
しかし、あの時見た“円盤”は既に消えていた。
「つまり未来よ、奴本人を探しだし、その装置とやらを無力化するしかない。そうだな?」
「そうだ。その前に草津、携帯電話を貸してくれないだろうか」
彼女はGUYS・JAPANの緊急ダイヤルを入力した。しかし相手先からの反応は無かった。
「GUYSはもう、制圧されているかもしれない」
「そうか。ならば、事情を知っている俺たちが動くしかあるまい?」
「……いいや。ここからは私一人で行く。キミたちは付いて来るな」
「おい未来! 何言ってやがる!」
ずっと黙り込んでいた樫尾が、歩き出そうとした未来の前に立ち塞がった。
「……樫尾、邪魔をしないでくれ」
「んなことできるかよォ!」
「ヤツの居場所は、もう分かっている」
未来は既にウルトラ念力を使って、行くべき場所を探し当てていた。
「私は一人で、彼を止める」
「一人でって……今のお前は、変身できねェだろうが!」
樫尾は膝をついた。
「もう、全部分かっちまったんだよ……お前が、光の戦士ソルとして、ずっと戦ってたこと……!」
「……黙っていて、済まなかった」
「俺よォ……未来がGUYSの一員だって知った時から、せめて俺の目の前でぐれェ、手助けしたかったんだ。それがGUYSどころか、実はソルだったなんて……」
改めて言葉にされた真実に、逢夜乃も、早坂も、そして草津も、ただ黙って受け止めることしかできなかった。
にもかかわらず、彼らの想いは同じだった。
友人として、未来の力になりたい。
彼らは覚悟をたたえた目で、未来の言葉を待った。
「……それで、キミに何ができるんだ?」
樫尾は頭を上げた。
目の前の未来は、冷たい目線で樫尾を見下ろしていた。
「私がソルだと分かった今、尚更分かるだろう。はっきり言って、足手まといなんだ」
彼女は精一杯、突き放すような言い方をするよう努めた。
「ここからは別行動だ。4人でまとまって、どこか安全なところに隠れているんだ」
「……心得た」
草津は、立ち上がれないでいる樫尾の肩に手を置いた。
「行ってくる」
未来は彼らに背を向け、瞬間移動の準備に入った。
「……すまない」
誰にも聞こえないよう、小さな声で呟き、彼女はその場を去った。
そして次の瞬間には、未来は目的地に到着していた。
「……レオルトン」
樫尾たちの前では絶対に口に出さなかった名を呼ぶ。
「キミを止める」
そして未来は、CREW・GUYS・JAPANの本拠地『セイバーミラージュ』に向かって一歩を踏み出した。
―――その4に続く