謎の宇宙人との接触から1週間がたった。
その間、私はこれまで地球に攻めてきた宇宙人についてのデータを集めたり、周辺の捜索をしたりなどもした。しかし手掛かりを見つけることは出来なかった。何度か小さなエネルギー反応も感知したが、どれも一瞬で消えてしまって追うことが出来ないでいた。
だからといって何か日常に変化があるかといえば、何もない。
唯一変ったことがあったとすれば……
「今日もお休みですか…」
杏城は、空いた零洸の席を見て不安げに呟いた。
「一体どうしたのだろうな。逢夜乃もこんなに心配しているというのに」
杏城は、草津が頭に触れようとしたのを優雅に避け、言葉を続けた。
「あの、草津さん一ついいですか?」
「いいだろう」
「最近わたくしのことを下の名前でお呼びしますけど、なにか心境の変化ですか?」
「もしかして嫌だったか? だとしたら済まなかった」
「い、いえ! 別に嫌ではありませんけど……」
「そうか!! 感激しているのか!! いやぁ、嬉しいぞ」
「そ、そこまで言ってませんのに!」
「ははは照れるな照れるな!! 愛美も構わんか?」
「どーぞ勝手にすればー」
早馴はつまらなさそうに文庫本を読んでいたが、やがてため息と共にそれを閉じた。
「元気がありませんね、早馴さん」
「草津の相手すると、なんだか胃もたれすんの」
早馴はあまり私に目を合わさずにそう言った。
やはり先週から気になっていたのだが、私は早馴に、心なしか避けられている気がする。原因は全く分からないが。
「草津さんのことは置いといて、心配じゃありません? 零洸さん」
再び杏城が零洸の話題に戻した。
ここ1週間、零洸は2回しか登校してこなかった。担任によれば家庭の事情ということだが。
「ご病気か何か、でしょうか」
「そう案ずるな、逢夜乃。零洸の欠席、遅刻、早退の多さは前と変わっていないだろう?」
草津の言葉に、杏城も苦笑いを隠せなかった。
最近聞いたことだが、零洸は何かと学園を休むことが多いらしい。(それでよく学級委員が務まるものだが)
しかし見た感じは、彼女は決して不良少女には見えない。恐らく何か別の理由があるのだろう。
「あのさ」
唐突に、早馴が私に声をかけてきた。
「何でしょう?」
「この前――」
早馴の言葉を切る様に、上着のポケットに入れていたスマートフォンが鳴りだした。
画面には『巨大エネルギー反応感知。場所ハ沙流市近郊廃工場内』という文字が並んでいる。
地球では感知できないような特別なエネルギーが発生した時、円盤の装置からスマートフォンへの通信で知らせるプログラムである。こうも早く引っ掛かるとは。
「……すみません皆さん。家庭の事情で早退しますので先生によろしくお伝えください」
「え、ちょっとお待ちに――」
杏城の声を無視して、私は教室を飛び出した。
場所は近い。今から向かえば何か分かるかもしれない。
「そっちに行ったぞ、
「分かってる!」
急いで駆け付けた甲斐があった。
廃工場周辺ではGUY隊員たちと何者かの戦闘が繰り広げられていた。私はその光景を少し離れた機材の山積みの陰から窺っている。私の目の前には、男女の隊員が銃を構えて何者かを追っていた。
「隊長、こちらブイレ。ターゲットを捕縛用電磁ネット発動地点まで誘導」
どうやら追われていた者はGUYSの罠にはまったらしい。
その時、工場内から青い光が見えた。
「やったね」
「ああ。奴もさすがに身動きが取れなくなっただろう。GUYSの基地に乗り込んで来るようなヤツにしては、大したことなかったな」
「こちら
その時、唸るような地響きが足元からやって来た。
「これは!?」
男の隊員が、女の方を支えながら、周辺を見回した。
「あれ見てっ!」
女隊員が指さす先、ここから遥か離れた森林地帯に突如巨大な鋼鉄ロボットが現れた。
「キングジョー!? でも黒いよ!?」
奴はただのキングジョーではない。かつてウルトラセブンと対決し、苦しめたという宇宙ロボットの後継機――キングジョー“ブラック”である。
「くそっ! GUYSのレーダーが見逃したってのか?」
「ふはははは。ブラックのステルス性能を舐めるな!!」
工場の壁が爆破され、その粉塵の中から宇宙服の男が現れた。
キングジョーの姿を見た瞬間、すぐに奴の名前が思い浮かんだ。
奴――早馴と杏城の前に現れた宇宙人――は、かつて地球でウルトラセブンに敗れた“ペダン星人”だったのだ。
「てめぇ、電磁ネットを抜け出たのか!」
「あの程度では俺を止められん。ふんっ!」
銃を構えた男の隊員の腕を、ペダン星人のビーム銃から放たれた光線がかすめた。
「人間ども、我々の科学力を見せてやる。キングジョーブラックよ! 街を焼き払え!!」
その時、キングジョーブラックの前に白い光が煌く。
「ソル! 来てくれたのね!」
女の隊員が天を仰いで声を上げた。
キングジョーの正面に立つ“奴”の姿は、私も直に目にするのは初めてだった。
線は細く、女性の身体つきだった。銀色の肌に覆われた彼女は儚げな光を放つが、弱々しさは微塵も感じられない。むしろ経験の豊富さと強さを身に纏わせていた。
あれこそ、ウルトラマンメビウスに代わりこの地球を護っている光の戦士“ソル”である。
私の倒すべき敵であり、地球侵略における最大の障害だ。
「ソルめ、やはり現れたか! 俺が直接血祭りにあげてやる!」
ペダン星人は強烈な閃光弾と共に姿を消した。
私もこの場には用は無い。隊員たちに気付かれぬよう、そっとその場から去った。
―――その4に続く