留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第34話「明かされる真実」その1

 目が覚めると、私の隣には未だ眠っている早馴の顔があった。どうやらすぐ傍に寝させられていたらしい。

 

「私は……」

 

 徐々に思考が明確になる。私はすぐに、気絶する直前までに起こったことをはっきりと思い出した。

 

「助かりました。雪宮さん」

「うん」

 

 雪宮は数歩離れたところで、私に背を向けて立っていた。彼女から、私が気絶していた間に起こったことを全て聞き出した。

 

「鍵を渡してしまったのですか? しかしそれでは私と貴女のしたことが無駄に――」

「鍵の使い方は、私とレムとお前しか知らない。それに、あの時の私では勝てないと思う」

 

 私以上に戦闘のプロと言える雪宮が、自分が勝てないと判断したのならどうしようもない。第一、そのような状況で生き残っている事が奇跡と言えよう。

 それに奪われた鍵についても、今はどうすることも出来ない。鍵を奪った者の出方を待つとしよう。

 

「さて、雪宮さんは行ってください。誰かに見つかれば面倒なことになります」

「身体は?」

「もう平気です。あなたがワクチンを打ってくれたおかげです」

 

 私は、胸に刺さったままであった注射器を引き抜いて、手に取った。

 以前開発に成功した、ゴーデス細胞を死滅させるワクチンである。これによって私は、細胞汚染から救われたのだ。

 しかし、いくらデスフェルのアーマーを破るためとはいえ、ハイリスクな賭けであった。もし雪宮が暴走状態の私に負けてしまえば、私は再びゴーデスをこの世界に解き放つところだったのだから。

 

「改めて感謝しますよ」

「いい」

 

 雪宮は、遠くに落ちていた鉄扇を拾った。

 

「それは?」

「レムの……これしか残っていないから」

 

 歩き出した彼女に、私は言った。

 

「何故、デスフェルを殺せたのですか? 貴女は、彼女を慕っていると思っていました」

「……」

 

 彼女は立ち止ったが何も言わなかった。しかし、やがて口を開いた。

 

「私は……やっぱり宇宙人だったから」

 

 彼女は、私が瞬きしたわずかの間に姿を消していた。

 

「宇宙人、か」

 

 私は、眠り続ける早馴の傍らに立ち、雪宮の言葉の意味に考えを巡らせた。

 その後まもなく、零洸が廃工場にやってきた。

 

「レオルトン!」

「……零洸さん」

 

 雪宮が去った後間もなく、零洸が工場内に駆け込んできた。しかし早馴の姿を確認すると、わずかに表情が和らいだ。

 

「早馴さんは気絶しているだけのようです」

「何があった」

「実は――」

 

 私は雪宮の件を除き、ありのままを話した。雪宮はもはや害にはなり得ないし、彼女の情報はソルやGUYSに対するアドバンテージにしておきたかったのだ。

 

「そうか、紫苑先生が……」

 

 零洸は、その事実には驚きを隠せてはいなかった。

 

「彼女は“ガイアインパクト”を再度起こそうとしていました。そして彼女の口から“星間連合”という言葉も」

「星間連合……だと?」

 

 零洸は他に何か言いかけたが、途中で口をつぐんだ。

 

「ホテルに戻る途中で話す」

 

 戦闘の騒ぎを聞きつけたのか、廃工場の周りを通りかかった人間たちが、何人かやって来ていた。私がちらと視線を走らせると、零洸も頷いた。

 

「紫苑レムがデスフェルだったことは、私が解明したことにした方が自然だろう。GUYS・NYに私から連絡して、学園への説明を頼んでおく」

「よろしくお願いします」

「ああ。じゃあ戻ろう」

 

 零洸は早馴を抱え、私と共に出口へ向かった。

 

 

 

 

   第34話「明かされる真実」

 

          極悪宇宙人 テンペラー星人

          地獄星人 ヒッポリト星人

          暗黒宇宙人 ババルウ星人

                        登場

 

 

 

 ここは早馴、杏城、零洸が泊まる部屋である。私は眠ったままの早馴をホテルに連れ帰り、杏城の待つこの部屋へやってきたというわけだ。

 私は杏城に、事の顛末を話した。

 

「つまり、運よく零洸さんとそのお仲間と合流したレオルトンさんが、愛美さんを救出できたわけですね?」

「ええ、そうです」

 

 私は、隣に座る愛美に目をやった。

 

「安心して、逢夜乃。乱暴されたわけじゃないみたいだから」

 

 早馴自身、何も覚えていないためか、すっきりしない表情を無理やり笑い顔に変えた。

 

「それでは、私と零洸さんはもう一度先生方のところへ行ってきます。何かあれば電話して下さい」

 

 私と零洸は二人で部屋を出た。

 それから私たちは無言のまま、エレベーターに乗り込んだ。

 

「レオルトン。愛美のこと、恩に着る」

 

 彼女がおもむろに言った。

 

「いいえ。それよりも、私たちには考えるべきことが山積みです」

 

 早馴と共にホテルに戻る途中、零洸の口から伝えられた事実――“星間連合”と名乗ったババルウ星人とヒッポリト星人が現れたこと、テンペラー星人が私を狙ってホテルを襲撃したこと――私はそれらの事実をつなぎ合せ、ある結論に達していた。

 

「デスフェルは“星間連合”と言ったんだな?」

「ええ。聞き覚えは?」

「無い。ババルウ星人の言葉で、初めて認識した。“宇宙人連合”以外で、宇宙人が集結するなんて……」

 

 零洸がふと、何かを思い出したように目を見開いた。

 

「キミを狙ってホテルを襲撃したテンペラー星人も……」

「彼も“星間連合”の一員と考えれば、彼らが一斉に動いたことにも説明が付きます」

 

 デスフェルに正体が知られていた時点で、“星間連合”に私の情報が共有されていることは予想できる。だとすれば私をメフィラス星人だと認識してホテルを襲ったテンペラー星人も“星間連合”の構成員と考えるのが自然であろう。

 私への襲撃と同時に、零洸がババルウ星人たちに襲撃された事実を合わせれば、彼らの目的が「地球侵略に邪魔な光の戦士と私を抹殺する」作戦だったと、取りあえずは結論づけることができる。

 しかし、本当にそれだけが彼らの目的だったのか――ほんのわずかではあるが、その結論に違和感を覚えてしまうのは、杞憂なのだろうか。

 とはいえ、ウルトラマンエースの登場とデスフェルの裏切りによって、彼らの作戦は大きく狂っている。再度の襲撃は覚悟しておけなければならない。

 

「デスフェルに加え、ババルウやヒッポリト、テンペラーですか。“星間連合”は相当手強い敵になりそうですね」

 

 私の言葉に、零洸は神妙な顔つきで頷いた。

 

「だがデスフェルから“鍵”とやらを奪ったのも、奴らの一員なのだろうか?」

「それについては、何も断定できませんね」

 

 目下“星間連合”が警戒すべき敵であることは明白だが、雪宮から“鍵”を奪った者、さらには以前百夜過去を送り込んだ者も、敵であることには変わりはない。しばらくは気の抜けない日々が続きそうだ。

 

「……しかし、愛美が何も覚えていないのは、ある意味運が良かったかもしれない」

「それはどういうことですか?」

「愛美は“ガイアインパクト”をこの国で経験した。それが再び起こるかもしれないと分かったら……」

「不安、でしょうね」

 

 往路の飛行機でも、早馴は8年前のことを話してくれた。

 人間の感情を解さない私でさえ、早馴が“ガイアインパクト”に対して強い恐怖心を覚えていることぐらいは理解できた。

 

「そういえば、あなたもアメリカにいたと言っていましたね」

「ああ。私もここで、彼女に何度か会っている。零洸未来としてではなく、別の名前を名乗ってはいたが」

 

 彼女の拳が強く握られ、わずかに震えている。

 

「あの時私が――」

 

 エレベーターが一階に止まった。

 扉が開き、ホテルのスタッフが大勢行き交うロビーの光景が目に入った。

 

「未来!」

 

 キク=キシンとコウヤ=サクライが険しい顔つきでこちらにやってきた。

 

「愛美は!?」

「大丈夫です。今部屋で休んでいます」

 

 零洸は、愛美の状況を事細かに2人に話していた。私は先にその場を離れようとした。

 

「どこへ行くんだい?」

 

 サクライが私の肩を掴んだ。

 

「……先生の所へ。明日以降の予定を聞きに行こうかと」

「そのことやけど、さっきうちらが話してきたんや」

 

 私たちはエレベーターの前から離れ、ぼろぼろになったソファーにかけた。

 

「修学旅行な、まだ続けるんやって」

「どういうことですか!?」

 

 零洸が、信じられないと言わんばかりに立ち上がった。

 

「我々は安全面から中止を進言したのだが、理事長が許可しないそうだ」

 

 サクライは、若干の苛立ちを露わにしながら話し始めた。今回の修学旅行に同行していた沙流学園理事長は、航空機が予約できない、せっかくの思い出だからという理由で、最終日のランチクルーズを決行してから夜の便で日本に帰ると言って妥協しないそうだ。

 

「そんな理由で……」

「未来、お前は生徒の中に紛れて目を光らせておけ」

「目を光らせる?」

「そうだ。ここを襲った奴が、また君たちを襲いに来ないと言う保証はない」

「GIG」

「それと君……ニル=レオルトン。君は未来の協力をしてくれ」

「な……レオルトンはただの学生ですよ?」

「確かにそうかもしれない。しかし彼は普通の男の子には見えない。何か特別な気がする」

 

 私は、あえて何も言わなかった。

 

「それに彼は、君がGUYS隊員であることを前から知っているのだろう? なら助けになれる場面も来るかもしれない。もちろん、危険の伴わない範囲での話だが」

「分かりました。大丈夫ですよ、零洸さん」

「……ああ」

「じゃあ、ウチらは行こうか」

「そうだな」

 

 キシンとサクライは急ぎ足でホテルを出て行った。

 

「すまない。色々と巻き込んでしまって」

 

 彼らが見えなくなるとすぐ、零洸が口を開いた。

 

「いえ。むしろ色々嘘をつかせてしまっていて、申し訳ありません」

「キミの正体を知られるわけにはいかないのだろう?」

「助かります。ところで明日は……」

「ああ。奴らがこれで引くとは思えない」

 

 奴ら――そんな言葉から、零洸の考えが読み取れた。

 彼女も私と同様、“星間連合”の動きに強い警戒心を抱いているのだ。

 

 

――その2へ続く


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