留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第33話「欲望の果て」(その3)

 

「なにっ!!」

 

 目がくらむほどの光に、紫苑レムが驚嘆の声を上げる。

 やがて光はゆっくりと輝きを失い、私は再び目を開いた。

 

「ご協力感謝しますよ。雪宮悠氷。いえ、グロルーラ」

「悠氷ちゃん? 話が違うじゃない」

 

 雪宮の氷によって、紫苑の両足は凍り付いて地面に固定され、その両手は小さな氷塊によって、後ろ手に縛られている。

 

「本当ですよ。タイミングが全然違います。来るのが遅いです」

「ごめん。ちょっと用事が」

「悠氷ちゃん……これはどういうこと? どうしてアメリカにいるのかしら?」

 

 口元を引きつらせながら、紫苑はわなわなと震えながら雪宮に問いかける。

 

「ごめんなさい。レム」

 

 雪宮の握る氷の剣の切っ先は、紫苑の喉元に向けられていた。

 

「デスフェル。貴女がこのタイミングで私に仕掛けてくることは、全て彼女から聞きました」

 

―――――

―――

――約一週間前、その着信は予想外のタイミングで私の携帯に来たのである。

 

「――その声は、雪宮悠氷」

『話がある』

「重要な話ですか」

『うん』

「でしたら、今日の深夜1時に公園で」

 

 

 約束の時刻。私が公園に到着した頃には、既に雪宮が待っていた。

 

「要件は?」

「紫苑レムの正体は、デスレ星雲人デスフェル」

「な……」

 

 突然の告白に私は若干動揺したが、すぐに思考を始めた。

 

「貴女を操っていたのは彼女だったのですか」

「そう」

「紫苑もこの地球を狙っている宇宙人……まさか、学園生を洗脳したあの事件は――」

「あれを仕組んだのはレム。私も協力した」

「紫苑レムと貴女が協力関係にあることは分かりました。しかし何故、そのことを私に話したのですか?」

「……私は、もう彼女の仲間ではいられない」

 

 雪宮は、静かにそう言った。

 

「……まさか、人間を好きになりましたか」

「もう傷つけられない」

 

 これは彼女の本心か、もしくはデスフェルの差し金か……。

 いや、これは雪宮の独断だ。

 そうでなければ、わざわざ紫苑の正体を話すわけが無い。私をおびき出すだけならば“メフィラス星人”の名前を出すだけで良いのだから。

 それにグロルーラが早坂冥奈の研究所に現れた時のことを早坂に聞いた限り、グロルーラは人間を傷つけるを躊躇っているふしがある。

 私がそう考えることすら織り込み済みの罠、という可能性もあるが……私の知らない所で、彼女は何かを感じ取ったのかもしれない。多くの人間との触れ合いが、彼女を変えたとでもいうのだろうか。

 

「レムは、近々お前を狙う。そして大きなことをする」

「大きなこと?」

「ガイアインパクト」

「まさか……あれを再度起こそうと?」

「今日、レムはキョウトに行っていた。必要な物を探しに」

「……なるほど。ちなみに、奴はどうやって私を狙うつもりですか?」

「修学旅行の間、早馴愛美をさらう」

「早馴さんを?」

「彼女が必要だと言っていた」

 

 さしずめ、私に対する人質といったところか。

 それから雪宮の知る限り、紫苑の計画の詳細を聞きだした。

 

「分かりました。ならば、彼女の好きなようにさせておきましょう」

「なぜ?」

「奴を油断させるためです。隙ができた時に奴を無力化します。その時は私が合図を送りましょう」

 

 私は目を閉じて見せた。

 

「これが合図です」

「分かった」

「それから、これを貴女に差し上げます。目くらましに役立ちますよ」

 

 私は前に草津からもらった『草津式閃光爆弾』を雪宮に渡した。

 

――

―――

―――――

 

 紫苑は目を見開いて、雪宮を凝視する。

 

「裏切ったのね……この私を!」

 

 紫苑はそう叫びながら、氷の手錠を外そうとするも、出来ないでいた。

 

「レム。私はもう、人間を傷つけられない」

「まさか、人間に感化されちゃったのかしら? ふっ……まぁいいわ。どうやらアナタを学園に潜入させておいたのは間違いだったようね」

 

 紫苑は悔しげに声を上げるしかなかった。

 そんな彼女に、私と雪宮は歩み寄った。雪宮の刀が、紫苑の首筋に触れる。

 

「デスフェル。命が惜しかったら“鍵”から手を離して、下に落としてください」

「……ねぇ、メフィラス。どうして悠氷ちゃんを疑わなかったの? 彼女の裏切りは私が仕向けた嘘だったかもしれないわよ?」

「彼女のことは、ある程度知っているつもりですから」

「ふふ……甘いのね」

「さぁ、鍵を」

 

 紫苑は項垂れた。長い髪が、氷の剣の刃にかかる。

 

「どうしてなのよ……悠氷ちゃん」

「レム。ごめんなさい」

「……」

 

 紫苑は無言だった。

 

「ごめんなさい」

 

 雪宮の再びの言葉に、紫苑の頭がかすかに震えた。

 

「レム――」

「本当に、悠氷ちゃんは――」

 

 紫苑が頭を上げた。

 

「馬鹿なコねぇ!」

 

 その瞬間、雪宮が大量の血を口から吐き出した。剣の切っ先が紫苑の首筋から離れ、そして雪宮の全身が燃え始めた。

 

「雪宮さ――」

「アナタにも分けてあげるわ」

 

 私の周囲に、空間を破る穴が何個も出現した。そこから無数の巨大な火の玉が現れ、私を襲った。

 

「くっ!!」

 

 私は急ぎそこから離れた。

 雪宮に視線を向ける。

 彼女はその場に倒れ、火だるまとなっていた。

 

「ぜーんぶ知っていたわよ。悠氷ちゃんの裏切りなんてお見通しなの」

 

 雪宮は、わずかに頭をもたげた。紫苑はその髪の毛を鷲掴みにする。

 

「アナタの身体の中にはね、私の業火の種を潜ませておいたの。私が念じれば、種は一気に巨大な炎となり、アナタに地獄の苦しみを与えるわ。そして私は、その種を通じてアナタの行動を全て知っていたわけ」

「な……」

「ずっと知っていたのよ。アナタが顔なじみの人間を助けていたことも。だからもう気づいていたわ。アナタが使い物にならなくなりそうなことぐらい」

 

 紫苑は燃え盛る雪宮の胸を踏みつけ、薄ら笑いを浮かべたまま私に視線を移した。

 

「さぁ、メフィラス。邪魔者は居なくなったし、また2人きりで楽しめるわね……」

 

 突如、紫苑の全身から妖気が溢れ出る。そして禍々しい光が彼女を包んだ。

 

「見せてあげるわ……私の本当の力を」

 

 光が一気に収縮し、彼女の姿が現れる。

 再び目の前に現れた紫苑レムは、銀色に輝くアーマーを身にまとっていた。上半身は細身の鎧、下半身はまるでスカートのように揺らめく鎖かたびらだった。そして右手には鉄扇のような武器が握られており、まるで中世時代の人間の貴夫人のようにも見える。

 

「なかなか綺麗でしょう?」

「っ!!」

 

 私は距離を取ったまま、光線を連射する。

 

「臆病なのね!!」

 

 紫苑は鉄扇を開き、光線を払いのけるように弾いた。大振りのモーションに見えながら、全ての光線に対応する素早い動作だった。まさに“踊るような”動きである。

 

「ならば――」

 

 私は一気に距離を詰め、右手に展開したエネルギーブレードで斬り込む。

 初手は、鉄扇によって阻まれる。

 しかし折り込み済みだ。

 

「な――」

 

 がら空きの左側。そこに向け、私は左手の“第二の”ブレードを突き刺す。

 

「――なんちゃって」

 

 ブレードは彼女の胸に突き刺さると同時に、まるで霧散したように消えてしまった。

 そして、背後に感じる気配――突如空間に現れた穴から巨大な火球が襲いかかり、私の背中に直撃した。連続して鉄扇の切っ先が私の胸を突き、無残にも地面に吹き飛ばされた。

 体勢を立て直そうとするも、紫苑の鉄扇の先に生じる火球が、そのひと振りと共に私に向かって飛来する。

 全ての火球が私の全身を燃やし、もはや私は立つことは出来ず、地面に倒れ伏した。

 

「このアーマー“メタルブレスト”は、あらゆるエネルギー攻撃を弾き、無効化させるの。光線技はもちろん反射できるし、同じエネルギーで構成された武器は効かないわ」

 

 なるほど……光線技が得意な私にとっては天敵と言うべきか。

 

「本当はね、アナタを殺すために使うつもりじゃなかったのだけど……まぁ、いいわね」

 

 紫苑は鉄扇を広げたまま、目の前に円を描くように動かした。その軌道に沿うように7つの穴が空間に現れ、再び火球が姿を現す。

 

「さようなら。私、アナタのこと気に入っていたわ」

 

 7つの巨大な火球が襲いかかってくる。

 ――もう、やるしかない。

 私は、その刹那に覚悟を決めた。

 そしてジャケットの内ポケットに手を入れた。

 

「何をするつもり!!」

 

 火球が迫る。

 私は、取り出した注射器の針を胸に突き刺す。

 その瞬間、火球は私の身体を焼いた。

 

「ふふふ……もっと苦しめるつもりだったけれど、死んでしまったかしら?」

 

 消えかかる意識の中、紫苑の声が私の耳に届いた。

 

 

―――その4に続く


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