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ニューヨークの摩天楼を見下ろすその眼差しは、遥か下方の闇の中に注がれていた。
「まさかそんな手を使ってくるとはな」
男は拳を握りしめた。
「待っていろ。すぐに助けに行くぞ」
彼は屋上の縁から、勢いよく飛び降りた。
「感じる……巨大な悪の力だ!」
彼が目指す場所は―――
第33話「欲望の果て」
デスレ星雲人 デスフェル
グローザ星系人 グロルーラ
地獄星人 ヒッポリト星人
極悪宇宙人 テンペラー星人
暗黒宇宙人 ババルウ星人
登場
「砕けろ!!!」
ソールブレードが、ヒッポリト星人の繰り出す透明のバリアを斬り裂いた。
「フフフ! それではいつまでも攻撃が届かないなぁ! ソルよ!」
ヒッポリト星人は下品な笑い声を暗闇の中で轟かせた。
「ソル。奴のヒッポリトタールは内側からの攻撃に対しては凄まじい耐久性を持つ。絶対に捕まるな」
「はい!」
2対1の戦闘ではあったが、消耗していたのはソルたちの方であった。ヒッポリト星人は攻守を同時に行えるヒッポリトカプセルを次々に召喚し、ソルとタロウはその回避に専念せねばならない。路地という狭い環境はヒッポリト星人には好都合であった。
「そろそろ止めを刺してやろう……!」
ヒッポリト星人が体内にエネルギーを充填しているのを、ソルとタロウはすぐに見破った。
「まずい! カプセルの召喚が激しくなるぞ!」
「ならばその前に斬り込むまで!」
ソルは渾身の力で地面を蹴った。その時の彼女の瞬発力は凄まじく発揮され、蹴った地面は大きく凹んでいた。
「なにっ!」
ヒッポリト星人は、ソルの突撃の予想以上速さに反応できなかった。
ソルのブレードがヒッポリト星人の胸部を貫通――――
「ぐあぁぁ!」
――しかしそこに木霊した絶叫は、ソルの声であった。
「ソルよ。随分成長したようだな」
そしてその冷淡な声は、ソルの後ろに立っていたタロウの口から発せられた。
「せ、戦士タロウ……!?」
ソルは自分の背中に銀色の刃が突き刺さっており、それを放ったのが彼女の後ろに立っているタロウ自身であることを認めた。それは彼女の知る限り、偉大な戦士ウルトラマンタロウが持つ武器ではなかった。
「まさか……貴様!」
「ふっ……気付いたか。間抜けな戦士よ」
タロウの黄金の眼が、紫色の醜悪な光に変わった。
そして、どす黒いオーラが彼の全身を包んだ。
「初めましてだな。光の戦士ソルよ」
「お、お前は……!」
「――我が名はババルウ星人」
オーラが消え、そこに立つのが彼――ババルウ星人だ。彼は豊かな金髪をかき上げながら、ソルを指差した
「どうだ、なかなかの変装だっただろう? なぁにが『君の念力も合わせて共に探そう!』だ! フハハハハハ! 我ながら傑作だったよ。ときに……ヒッポリト」
「分かっている!」
ヒッポリトカプセルが、膝をついたソルを包んだ。
「だんだん死んでゆくのだ!」
カプセル内に緑色の煙が満ちていく。
「くっ……」
ソルはババルウ星人に刺されてしまった傷のために、全力を出せなかった。
「抗うなソル。その傷では動けまい」
「貴様……戦士タロウになりすますなんて……!」
「完全なる変装は我が力の一つに過ぎないが、大したものだろう? しかしお前はなかなかに用心深い女だ。終始私に対して隙を見せなかったな? なぜタロウを信用しない?」
「黙れ!」
「ふん。この状況でその威勢を保つか。殺すには惜しいな」
ソルは徐々に身体が硬化していることに気付いた。既に下半身はブロンズ像のようになってしまっている。
「さて、ヒッポリト星人よ。帰る準――」
ババルウ星人が何かに気づき、ソルの方に向き直った。
その瞬間、上空からの光線によってタールカプセルが破壊され、固まりかけだったソルの身体が少しずつ元に戻り始めた。
「まさか我が弟に化けていたとは……汚い真似をしてくれたな!」
何者かが恐ろしい勢いで地面に着地した。砂煙の中、黄金の双眼がはっきりと浮かび上がる。
「覚悟しろ! 悪しき者たち!」
「ふん……お前が来るとは思わなかったぞ。ウルトラマンエース!」
ババルウ星人の目の前に立ったのは、ウルトラマンエースであった。
「戦士エース!」
「遅れて済まなかったな、ソルよ。ここは私に任せてくれ!」
「粋がるなよエース!!」
ヒッポリト星人は、エースにカプセルを放つ。ババルウ星人はヒッポリト星人の後方に下がるが、エースは動かない。
「バーチカルギロチン!」
彼の放った円形の刃は高速で宙を舞い、2つのカプセルを一刀両断した。
「ヒッポリト星人。お前の同胞とは戦ったことがある。お前たちの攻撃パターンは読めているんだ。お前では私には勝てない!」
「調子に乗るな――」
「待てヒッポリト。ウルトラマンエースよ、我々はここで引こう」
ババルウ星人の突然の言葉に、ヒッポリト星人は激昂した。
「怖気づいたかババルウ!」
「落ち着け同胞よ。ここで無駄な血を流すことは無い」
戦闘の構えを取らず、薄ら笑いを浮かべるババルウ星人。しかしエースは一切の油断なく、彼を鋭く見据えている。
「我々を前に無傷で帰れると思うな!」
「フッフッフ……東の銀河のほうはいいのかね? 随分とお仲間が苦戦しているようだが?」
「やはり宇宙全域での混乱は貴様たちが!」
「フッ、さてね」
二人の周りに、黒いオーラが現れた。
「また会おう。偉大なる戦士たちよ。我々“星間連合”と貴様たちは、いずれ戦う運命にある」
その言葉を最後に、ババルウとヒッポリトはその場から姿を消した。
「……ソル。怪我は大丈夫か?」
彼らが消えたことを確認してから、エースは後ろに居るソルに振り返った。
「これくらいの傷。私が未熟なばかりに、不意打ちを食らいました」
「あのババルウ星人は、以前対峙した個体よりも強大な力を感じた。本来なら私も地球に残りたいが……」
「分かっています。エンペラ星人亡き後の混沌とした情勢では、あなた方兄弟が一つの星にとどまることは難しい」
「すまない、君には迷惑ばかりかける」
「いえ。ところで、そのあなたが何故地球に?」
「ザラブ星人の件だ。まさか君に取り入るために仲間を犠牲にするとは思わなかったが、光の国で教官をしているタロウが安易に持ち場を離れることはない。だから奴が偽物だと判断し、私がここへ来た」
「ババルウ星人たち……今奴らが同時に攻めてくる理由は」
「君たちがこの地に来たからだろう。奴らは狡猾だ。残忍な作戦に心乱された経験がある」
愛美や逢夜乃、草津たちの顔を思い浮かべ、ソルは拳を強く握りしめた。
「ソル。私は別の銀河へ行く、危険を感じた時はウルトラサインを送ってくれ」
「私は大丈夫で――」
突如ソルは、遠方に強大なマイナスエネルギーを感じた。それはエースも同様であった。
「ここからは私に任せて下さい。戦士エースは、急ぎ東の銀河へ!」
ソルはそう言いきって、エースに背を向けた。
――その2へ続く