留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第32話「交差する策謀」(その3)

 紫苑レムが愛美の前に現れたのと時を同じくして、未来はホテルの屋上に来た。

 

「約束通り来ました」

 

 もう一人、屋上に人影があった。

 

「戦士タロウ」

 

 そう呼ばれた男は、未来の方に振り返った。今はウルトラマンタロウではなく、人間の姿で立っていた。

 

「わざわざ来てもらって済まないな」

「いえ。わざわざ人間態に変身を?」

「これか? あぁ、念のためだ。久々にお前とゆっくり話したいところだが、その余裕は無い。手短に話すぞ」

 

 タロウは未来に近づいた。

 

「このNYに、凶悪な宇宙人が潜んでいるという情報を得た」

「宇宙人?」

「そうだ。奴の名は……ヒッポリト星人!」

 

 未来はその名に、戦慄せざるを得なかった。光の戦士なら、誰もが一瞬の恐れを抱く相手である。

 

「奴らは何度倒されても諦めない。地獄の底から帰ってくるのだ」

「いったいどうして奴が?」

「分からない。私は任務から帰還する途中にその情報を得て、単身ここにやって来た」

 

 タロウは一層表情を強張らせた。

 

「共に奴を探しだし、倒してほしい」

「もちろんです!」

「ありがとう。早速夜の街に向かい、奴を探したい。すでに潜伏しているはずなのだが、これ以上探知が出来なくてな。君の念力も合わせて共に探そう!」

「はい!」

 

 彼らは屋上を囲むフェンスを飛び越え、ビルとビルの間の狭い路地に向かって飛び降りた。

 

「よし、行くぞ!」

「はい」

 

 二人は駈け出した。

 

「戦士タロウ。奴の狙いは何でしょうか?」

「分からない。しかし今日のザラブ星人の襲撃を考えれば、奴らは裏で繋がっており、立て続けに騒ぎを起こしてGUYSや我々を混乱させようとしているのではないだろうか?」

「なるほど。しかし分かりません」

「何をだ?」

「タイミングが良すぎると思ったのです。私がNYに滞在中にこうも宇宙人の襲撃が相次ぐとは」

「……もしかすると、狙いは君かもしれないな」

「私が?」

「現在地球を守護する戦士を直接狙うのは、侵略者たちの常とう手段だ」

 

 タロウは立ち止った。

 

「私が今日の日中に調査していた時、奴の気配はこの辺りで途絶えた。この一帯に隠れているのかもしれない。何か感じるか?」

 

 未来は目を閉じた。

 

「……いえ。まだ何も」

「ヒッポリト星人は奇襲を得意としているわけではない。我々を襲う前に必ず姿を表す。二手に分かれよう。遭遇した時はテレパシーで呼び出すんだ」

 

 ソルが頷く。

 

「では、また後で会おう」

 

 タロウは曲り道の奥へと走り去っていった。水たまりを踏みつけた音が路地に響いた。

 

「ヒッポリト星人……どこにいる」

 

 ソルは目を閉じながら歩き出した。念力によって先鋭化された感覚が、視覚に頼らずとも空間を把握していた。

 

「っ!」

 

 わずかな空気の揺らぎを、ソルは感じ取った――これは人間のなせるものではない。

 空気に波紋を起こすほどの悪意――ソルはそれを敏感に感じ取り、その出所に足を向けた。

 

「……見つけた」

 

 ソルが光線を放つ。

 その標的は何もない空間だった。しかし光線は、目には見えない何かに弾かれ、近くの壁を粉砕した。

 立ち上る白い煙。そしてその中に、二つの小さな赤い光が差し込んでいた。

 

「くくく……目敏いな、ソルめ」

 

 醜悪な声。

 

「ヒッポリト星人!!」

 

 ソルはすぐさま光線を声のする方へ撃つ。

 何か固いものにぶつかる音が響く。

 

「その程度では破れんよ……!」

 

 土煙の幕が薄れ、声の主の全貌が現れ出た。

 透明の薄い盾に守られ、ヒッポリト星人はかん高い笑い声をあげた。

 

「光の戦士ソルよ。貴様を殺す」

「敗れるのはお前だ」

 

 ソルとヒッポリト星人。二人の視線が交差した。

 

「ソル!」

 

 ソルの背後に、タロウが現れる。

 

「現れたな……ヒッポリト!」

「くふふ! タロウも一緒だったか。だが関係ないわ」

 

 ヒッポリト星人は、歴戦の勇士を前にしても全く動じることなく、高らかに嗤い続けるのだった。

 

 

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「では先に風呂をもらうぞ!」

 

 草津がバスルームに入り、部屋はようやく静かになった。

 夕食後三十分以上、私は彼の追求に晒されていた。早馴のどんな所に惚れただの、いつから好きだの……誤魔化すのに骨が折れた。

 ピンポーン

 来客か。

 私は覗き穴から外を伺った。相手は紫苑レムだった。おそらく部屋の見回りか何かだろう。

 

「こんばんは」

「ええ。こんばんは」

 

 ドアを開いた先に立っていた彼女は、どこか上機嫌に見えた。

 

「どうしました? こんな時間に」

「ニル君。アナタに渡す物があったのよ」

「私ですか?」

「ええ」

 

 彼女は一枚の封筒を差し出してきたが、その封筒は彼女の手から落ちた。

 

「ごめんなさい」

 

 私はその封筒を拾い上げる。

 そして紫苑を見上げようとしたのが、既に彼女はそこに居なかった。

 どういうことだ……?

 ともかく、私はその封筒を開けた。中には一枚の写真が――

 

「っ!」

 

 その写真には、早馴が写っていた。

 客室のベッドの上で、彼女はバスローブ一枚を羽織ったまま倒れ、目を閉じていた。

 そしてその写真の裏には――

 

――Dear Mephilas――の文字が書かれていた。

 

「紫苑レム……!」

 

 私は駈け出した。

 向かった先は、早馴の泊まる部屋である。

 

「早馴さん、杏城さん。開けてください」

 

 私は呼び鈴に加えてドアを叩いたが、反応が無い。

 別の女子生徒に見られては面倒だ。私はカードキーの差込口に触れ、電流を流した。誤作動を起こしたドアキーが外れる音がした。

 

「二人とも!」

 

 部屋には誰も居ない。

 早馴が倒れていたであろうベッドも、綺麗に整えられて何も乗ってはいなかった。

 

「いったい何処に……」

 

 ガチャリ

 その時、私の背後でドアが開いた音がした。

 

「早馴――」

「れ、レオルトン、さん?」

「杏城さん」

 

 しまった。

 私はちょうど、風呂上がりの杏城と鉢合わせてしまった。

 彼女は濡れた髪をタオルで押さえながら、何故か全裸で立っていた。

 

「い、いえ……あの、バスローブが何故か無くて……でも部屋の中にいるのは愛美さんだけですし……別にいいかなと思っただけですのよ。れ、レオルトンさんがいると知っていたらこんな格好では――って、どうして殿方のあなたがここにいるのですか!!!!」

「待ってください、事情が……とその前に、身体を隠してください」

「そんな――きゃぁぁぁぁ!!!」

 

 ピピピピ

 

 携帯の着信音だ。私は非通知からの着信だと確認し、通話ボタンを押した。

 

『ふふ。今頃愛美ちゃんのお部屋かしら? 逢夜乃ちゃんがお風呂に入っていたから、鉢合わせしないように気を付けてね』

 

 紫苑レムの声だった。

 

「どこですか。どうせ私をおびき寄せたいのでしょう?」

『察しが良くて助かるわ。今メールで位置情報を送るから、そこに来なさい。近くの廃工場の中よ』

 

 私は電話を切り、再び杏城の方に向き直った。

 

「杏城さん。落ち着いて聞いてください」

「な、なんですの?」

 

 既にバスタオルを体に巻いた彼女は、顔を真っ赤にしていた。

 

「早馴さんが何者かに誘拐されました。それで私はここにやって来たのです」

「ほ、本当ですの!?」

 

 赤みを帯びていた彼女の頬は、すぐに真っ青になった。

 

「ええ。犯人は私の携帯に電話をかけて、彼女の居場所を告げました。私は今からそこに行ってきます」

「そんな……危険すぎますわ! すぐに警察に――」

「駄目です。誰かにこの話を漏らせば、早馴さんの命の保証はないと言われました。とはいえ零洸さんにだけは伝え、秘密裏に動いてもらっています」

 

 こうでも言わないと、杏城は納得しないだろう。

 

「杏城さんはこちらに待機して、万が一の場合に備えてください。もし私が2時間で戻らない、もしくは連絡をよこさない場合、すぐに警察に通報してください」

「……そうするしかないようですわね」

 

 杏城が務めて冷静にそう言ったが、悔しげな表情で視線を落としていた。

 

「大丈夫です。必ず戻ってきます」

 

 私はそっと杏城の肩に手を触れ、すぐに背を向けた。

 

「必ず帰ってきてください!」

「はい。それから杏城さん」

「なんですか?」

「裸を見てしまって、すみませんでした」

 

 一瞬顔を赤らめた彼女を背に、私は部屋を出て行った。

 

 

―――その4に続く




地獄星人 ヒッポリト星人
登場作品:ウルトラマンAなど
ウルトラ5兄弟を全滅させたすごいやつ。超8兄弟ではボスにもなり、ダークネス・ファイブでも活躍(?)
技も多芸に富んでいるシリーズを通しての強敵ですね。A本編での夕日に映るウルトラ兄弟のブロンズ像からの次回へつづくはインパクトあります。

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