留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第31話「現るは―――」(その4)

 

「ふははは! アメリカよ、俺を歓迎するがいいっ!」

 

 無事飛行機は空港に到着した。日本に比べて湿度が低いせいか、なかなか寒い。

 それに周囲の建造物の醸し出す雰囲気、看板の英語、練り歩く人々の様子……どれもが日本とは異なっている。私の故郷は惑星全土の文化が画一化されているため、このように地域による文化の差異は新鮮なものだった。

それからすぐ、早速班別行動が始まった。草津はいつも通りの異常に高いテンションだったが、相変わらず油断できない。

 そして早馴も、いつもと変わらぬ様子だった。しかし、何となく彼女は私を避けているようだった。

 

「みんな元気でいいわねー」

 

 私たちがバス停で待っていると、そこに紫苑レムがやって来た。

 

「紫苑先生! 相変わらずお美しいっ!」

 

 草津が騒いでいるのをよそに、彼女はこちらへ近づいてきた。

 

「おはよう、レオルトン君」

 

 彼女は、何か意味ありげな視線を私に送ってきた。

 

「昨日何かあった?」

「はい?」

「ううん、何でもないわ。それじゃ、気をつけて行ってらっしゃい」

 

 彼女は笑顔で手を振り、別の教員のところへ戻って行った。

 昨日の悪戯のことを言っているのなら、なかなか意地の悪い奴だ。

 

「紫苑女史インアメリカ!」

「何をお馬鹿なこと言ってますの? ほら、バスが来ましたわ」

 

 飛行機から降りてすっかり調子を取り戻した杏城は、草津の背中を押して、やって来たバスの中に押し込んだ。

 

「さよーならー! 紫苑せんせー!!」

 

 草津の声は、きっと届いていないだろう。

 私たちは空いていた席に座り、そのままGUYS・NYへ向かった。このバスは基地見学用の送迎バスだった。運転手もGUYSの隊員服を着ているが、あくまでイベント用に隊員服を模した服だった。

 

「む! このバス、シーガルファントップにそっくりだな」

「なんですの? それは」

「8年前の第一次星間戦争で使用された救護機の名称でな。これは……」

 

 草津と杏城は、草津の持ってきたGUYSに関する本を読みながら会話に夢中になっていた。

 一方、普段から物静かな零洸は、車窓から見える風景に目を向けていた。その瞳には、何故か憂いの色が伺えた。

 そして早馴。彼女の表情にもどこか陰りがあった。

 それは、両親を失った地に足を踏み入れたから、なのだろうか?

 そして私は、あらかじめ購入しておいた旅行ガイドと独自に集めた資料を両手にアメリカについての知識を更に吸収する作業に取り掛かった。そうこうしているうちに、バスは基地敷地内に進入していた。

 

「うおぉぉぉぉ!!! これがGUYS本部!! 地球を守る巨大組織の本拠地か!!」

 

 草津の嘆声につられて、私も基地の風景に目を向けた。どれもデータ上で目にしたことのある物ばかりだが、多くの戦闘機や戦車などが配備されていた。まさに地球防衛の要といったところか。

 それから私たちは本部ビルの前に降ろされた。目の前には大きな自動ドアが設置されている。おそらく観光者向けの出入り口と思われるが、警備員はもれなく配置されている。

 

「みんな、聞いてくれ」

 

 突如零洸が口を開いた。

 

「悪いが、私はここから別行動させてくれ。少し用事を思い出した」

「用事って……」

 

 早馴が困惑気味に、零洸と、班の面々を見回した。

 私にも零洸の真意は分からない。しかし、その真剣な表情を見ると、ふざけているようには思えない。もし怪獣がらみであればさっさと片付けてもらいたいところだし、ここは助け舟を出してやろう。

 

「良いんじゃないですか。別行動といっても、敷地内には居るのでしょう?」

「ああ」

「じゃあ終了予定時間にバス乗り場で待ち合わせましょう」

「済まない。助かる」

「ちょっと未来さん……」

 

 何か言いたげな杏城を顧みず、零洸はその場を離れていった。

 

「よろしいのですか?」

「問題無いだろう。彼女はGUYSの隊員だ。いざという時は基地の面々と連携も取れるしな」

 

 草津含め、異議を唱えるものは居なかった。あれほど鬼気迫る物言いをされたら、誰も止められないと言うのが正直なところだろう。

 

「あっ!!」

 

 突如、早馴が急に声を上げた。

 早馴の視線の先に目を向けると、ビルの自動ドアが開き、黒いロングコートに身を包んだ二人の男女が現れた。片方は金髪セミロングの女性。もう片方は黒髪の寡黙そうな男だった。

 

「愛美―!!! 元気しとったか!?」

 

 ロングコートの女性が、走って来て愛美を思い切り抱きしめた。

 

「ちょ、キクさん!」

「ひっさしぶりやなぁ」

 

 金髪の女性は聞き慣れないイントネーションの日本語で話し始める。これが方言というものか。

 

「キクさん……恥ずかしい」

「えーやんえーやん。アメリカじゃハグなんて普通やで?」

 

 金髪女性はそう言いながら、早馴の頭を撫でていた。最初こそ恥ずかしがっていた早馴も、今は目を細めて金髪女性の腰に手を回していた。

 

「ま、まさか……愛美よ。お前、このお二人と懇意なのか?」

「あーうん。日本で一緒に住んでた時期があるんだ。紹介するね。こっちは城臣 掬(キク=キシン)さん」

「よろしくな!」

 

 彼女は白い歯を見せてはにかんだ。

 

「こっちは桜井幸弥(コーヤ=サクライ)さん」

「桜井だ」

 

 寡黙そうな男は、恭しく頭を下げた。

 

「ま、まさか……あなた方に出会えるとは…」

 

 草津は口をパクパクさせて呆然としていた。

 

「まさか……地球を救った英雄と出会えるなんて!」

「何言ってんねん。大げさやで」

「いえいえ!! 侵略者から地球を守ったスーパー――いえ、今はチーム=ガーネットでしたね」

「よく知っとるなぁ、自分」

「憧れですから!」

「あの、草津さん。このお二人は、どんなお方ですの?」

 

 杏城が遠慮気味に口を挟んだ。

 

「8年前、この地球を襲った悲劇を知っているな?」

「ええ。世界史にも出てくるぐらいですもの。ガイアインパクト、それから第1次星間戦争ですわね?」

「そうだ。この時――あ、いや、この話は見学しているうちに分かるだろう」

「じゃあ、早速見学行こか?」

「え、キクさんとコウヤさんが案内してくれるの?」

「うん! 久しぶりの家族との再会ときたらな。なぁ、コウヤ」

「そうだな。ん? 君は……」

 

 サクライが私の肩を掴み、じっとこちらを見てきた。

 

「名前は」

「ニル=レオルトンと申します」

「……そうか」

「こらコーヤ!怖がらせるなっちゅうねん」

「……ああ」

 

 それにしてもこの2人、普通の人間とは明らかに異なった雰囲気を持っている。8年前の激闘を生き残った人間の強靭な生命力と精神力、ということであろうか。そのためか、この二人は全く隙を感じさせない。私や草津、杏城が後に立つ時は、常に背後に気を配っている。早馴に対してだけは警戒心を持たないのは、おそらく他人以上の深い繋がりがあるのだろう。

 その後、様々なセクションを見学させてもらった。あんなに堂々と敵中視察ができたのは大きな成果であった。

 現在の私たちは、遅めの昼休憩ということで食堂にやって来ている。食堂内ではGUYSの隊員や作業員たちが一堂に会して、食事をしている。

 

「なんとボリューミィな見学だったろうか!」

 

 草津は夢心地な表情で天を仰いでいた。

 

「うちとコウヤは1時間ほど抜けるから、戻ってくるまで休憩ってことで。じゃ、またな」

 

 キシンとサクライは食堂から姿を消した。早馴はその姿を、何故か不自然なほど注意深く見送っていた。

 

「さて、お食事にしましょう」

 

 杏城が、テーブルの中央に立てられていたメニューを広げる。

 

「どれも美味しそうですわね。愛美さんどれになさいます?」

「……」

「愛美さん?」

「え、なに?」

「お食事、何を召しあがりますの?」

「あ、うん。でもゴメン。ちょっと私、昔の知り合いに合ってくるね」

「お知り合い?」

「うん。だからご飯はみんなで済ませておいて。あ、キクさんたちが戻ってきたらサタキさんに会いに行ったって言えば通じるから」

 

 早馴はそう言って、心なしか焦った様子で席を立った。

 

「じゃあね」

 

 早馴は席を離れ、食堂を後にした。

 

「愛美さん、何か様子が違いましたわね」

「まぁ、色々あった土地だ。俺たちでは分からない想いを抱いているのだろう」

 

 草津の言葉に、杏城は取りあえず納得した感じであった。

 

「とにかく、我々の任務は空腹を滅することだ。各員、心してかかれ!」

 

 草津はメニューを食い入るように見つめた。

 

 

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「またここに、来ることになるとはな……」

 

 零洸未来は、基地の敷地内に設置された慰霊碑の前に立っていた。そこには8年前の“ガイアインパクト”で命を散らしたGUYSクルーたちの名が刻まれていた。

 

「ダイさん、ミカさん。愛美は元気です」

 

 そこに連なる名前の中、未来は2つの名前――ダイ=サナレとミカ=サナレの名が掘られた場所に触れていた。

 

「今度こそ、私が守って――」

 

 未来の言葉をかき消すように、鞄の中の通信端末が着信を告げた。

 

『未来ちゃん、旅行楽しんでますかー?』

「レリア。調べてくれたか」

『はい。M78星雲に行って聞いてきましたよ。未来ちゃんの出生のこと』

「何か分かったか?」

『いいえ。未来ちゃんが言ってた、例の“声”のことですけど、手がかりは全くありませんでした』

「私の体内に、何か潜んでいる可能性は?」

『ゼロとは言えません。当時の研究記録には、スタイルチェンジ実現を目的に埋め込んだ特殊鉱石に“マイナスエネルギー”が混ざってしまったとだけが残っていました。研究所は事故で壊滅してますし、具体的な記録は諦めるしかないですね』

「……両親ならば、何か知っているだろうか」

『知っていたとしても、話せませんよ。彼らは銀河流しの身ですもの』

「そうだな。レリア、面倒をかけたな」

『いいんです!未来ちゃんのことですもの。それより、あれ以来“声”は聞こえてこないんですか?』

「ああ。何度か怪獣と戦闘したが、全く」

『そうですか……。未来ちゃん、そのうち一度、M78星雲に行ってみませんか? ウルトラマンヒカリとエイティに話したら、一度身体を診てくれるって言ってましたよ』

「そんな暇は無いよ」

『でも心配です!』

「レリア、私は悪い予感がしているんだ。この星に、強大な悪が迫っている気がする。今ここを離れる訳にはいかないんだ」

『……何かあれば、すぐに助けに行きます』

「頼むよ、レリア」

 

 未来は通話を切り、再び慰霊碑に向かい直った。

 

「闇に呑まれるつもりはない。私は――」

 

 ――大切な人を守るためなら、何だって利用してやる。

 

「またいつか、ここに来ます」

 

 未来は慰霊碑に背を向け、その場を後にした。

 

 

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―――その5に続く


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