留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第30話「災いの予兆」(中編)

 明くる日、土曜日午前11時。

 私は普段通り、5分前に集合場所に現れた。

それにしても休日の街は人が多い。特にこの国は小さな面積のくせに人は多いため、どこも混雑しているのだ。

 

「早いじゃん、ニル」

「おはようこざいます」

 

 人はその服装によっても大分印象が変化するものと聞く。

 なるほど、久々に私服姿を見る早馴は、何となく新鮮な感じがする。しかし普段から付けているマフラーだけは変わらない。よほど気に入っているのだろう。

 

「可愛い? それとも綺麗でしょうか?」

「は?」

「早馴さんの恰好ですよ」

「な、何言ってるよ! ホント、お世辞だけは上手ですねぇー」

「決めました。可愛いにします」

「か、可愛いだなんて……そんなの……もう、ばかっ」

 

 私は何故か腕を叩かれた。

 

「……あ、あのさ、ニルは私のこと、変だと思わなかった?」

「今日の服装ですか?いいえ、とても素敵だと――」

「ちーがーうっ! 私がGUYS本部に行きたいなんて言ったこと」

「いえいえ。お好きなんでしょう?」

 

 正直なところ、早馴の提案には違和感を覚える。年頃の女子が地球防衛組織に関心があるのは珍しいことだ。しかし、彼女が何かを企んでいるわけもないだろうから、深くは考えなかった。

 

「別に、そういうんじゃないよ。たださ――」

「遅れてごめんなさーい」

 

 走ってやって来たのは杏城だった。相当急いで来たようだ。

 

「待ち合わせ場所を勘違いしてしまいましたわ。ふぅ…疲れた」

「逢夜乃、ずいぶん疲れてるね」

「ええ……。バスが遅れてまして、途中から走って参りましたの」

「じゃあ何か飲む?私喉乾いたから買ってこようと思って」

「いえいえ! わたくしが自分で――」

「いいのいいの。普通にお茶でいい?」

「それでは、お言葉に甘えて」

「おっけー。ちょっと待っててね」

 

 近くのコンビニに早馴は入って行った。

しかし珍しい。何かと面倒くさがる彼女が人のために行動するとは。

 

「早馴さんはお優しいですわ。こればっかりは変わりませんわね」

「え?」

「ふふっ、レオルトンさん、やっぱり勘違いしてましたわね。早馴さん、普段は面倒とか言ってばかりですけど、人のためになら何でもする人ですの。一年生の時はよく助けられましたわ」

 

 私が頼みごとをすると大概断られるのだがな…。

 

「素直じゃないだけですのよ、彼女は。ですから……きちんと見ていてあげてくださいね?」

「あ、はい」

 

 たしかに、人の心配事に首を突っ込みたがる傾向には気づいていた。

 しかし、きちんと見ろとはどういう意味だろうか?

 

「すまん、遅れた」

「遅刻ですわよ、零洸さん」

 

 零洸も、もちろん私服姿だった。

 

「家を出た時、つい制服でな。着替えに戻ったら遅れてしまった」

「そのまま来てしまえばよかったのに」

「実は、前に同じ様なことがあって、制服のまま来たんだが、それを家の者に話したら怒られてしまってな」

「意外とおっちょこちょいですのね、零洸さん」

 

 もしかして、私と買い物に行った時か? そういえば、あの日彼女は制服だった。

 

「おっまたせー。あ、未来。来てたんだ」

 

 早馴がジュースの入った袋を引っ提げて戻ってきた。

 

「あ、ああ。遅れてしまった。済まない」

 

 彼女は目線を逸らしながら、そう言った。

 

「あ、うん、いいよいいよ。草津のバカがまだ来てないし」

「遅いですわね。電話してみます?」

「その心配は無用だ」

 

 草津が近くの木の陰からさっそうと現れた。

 

「今しがた来たところだ。いやぁ、君ら3人の私服姿につい興奮してしまって。そこら辺で頭を冷やしていたんだ」

「どこに感動してるんですの、あなたは」

 

 杏城が呆れ顔でそう言うが、草津は気にせずにやけていた。

 

「だってだってぇ、みんなカワイーんだもん! なぁ、レオルトン」

「そうですね。私もそう思います」

「なんだか、レオルトンさんも草津さんに似てきましたわね」

「女ったらし」

「はぁ……ほどほどにしてくれ」

 

 女子3人が草津を見るような目で私を見てきた。私はたまらず、話題を変えた。

 

「ともかく、どこか座れる所に行きませんか?今日は話し合いですし」

「そのまま昼食をとれるように、ファミレスあたりでいいんじゃないか?」

 

 草津の提案に全員が納得し、我々はショッピングビルに行くことになった。そして、その中にファミレス「サイ●●ヤ」に入店した。学生の集まるスポットとして調査済みだ。味も量もいまいちだが安さという武器があるらしい。取りあえず全員がドリンクバーを注文し、早速本題に入った。

 

「愛美さん、お知り合いの方は何とおっしゃっていましたか?」

「大丈夫だって。機密部分以外は基本的に見学自由らしいから、案内してもらえる」

「GUYSの方とお知り合いだなんて、すごいですわね」

「まぁ、ね」

 

 早馴が微妙な表情で受け答えた。照れだろうか?

 

「詳しいことはこのパンフレットに書いてあるから見といて」

 

 早馴がバッグから人数分の冊子を取り出し、全員に配った。

 

「GUYS本部見学の手引き。こんなものがあったのか…」

 

 零洸が独り言のように呟いた。

 なるほど、本部の構造の全体像が見えてくるわけではないが、分かりやすく基地敷地内が説明されている。10年前、ウルトラマンメビウスが地球防衛に成功してからというもの、GUYSへの注目は一気に大きくなったと聞いている。その影響で、こんな代物が作られたのだろう。

 

「しかし用意がいいな。愛美とは思えんぞ」

 

 草津が異様に目を輝かせながら言った。

 

「うっさいなぁ。その代り、他のところは全部任せるからよろしくね」

「任された! さてさて――」

 

 それから話し合いは順調に進んだ。夜は杏城の希望通り、ミュージカル鑑賞となったが、一日の大半はGUYS本部で過ごすこととなった。ある程度の計画が立ったところで、一時食事のために休憩になった。

 

「皆さんのお飲み物を取ってきます。コップを貸してください」

 

 一番通路側に座っていた私が立ち上がると、その向かい側に座っている零洸も一緒に立ちあがった

 

「私も行こう。一人じゃ辛いだろう」

「……分かりました」

 

 私と零洸はドリンクバーへと足を運んだ。

 

「何か話でも?」

 

 私は他の3人から姿が見えなくなった瞬間に声をかけた。

 

「愛美は、本当に百夜とのことを忘れてしまっているんだな」

「無論です。もちろん貴女がソルだったことも、覚えてはいません」

 

 零洸の表情が一瞬曇るが、すぐに普段通りのしかめ面に戻っていた。

 

「私は卑怯だな」

 

 彼女は、杏城に頼まれたアイスティーを注ぎながら、そう言った。

 

「何がです?」

「友達に、嘘をついている」

「仕方のないことです。正体を知られてしまえば、何かと不都合でしょう? ならば隠し通すことです」

 

 不意に、百夜が去り際に言った言葉を思い出した。

 

「私も同じです。大事な友人でありながら、正体を隠しています。しかし彼らに危害を加える気などありませんから」

 

 私は自分と早馴のグラスにウーロン茶を注ぎ終え、話題を変えることにした。

 

「ところで、百夜過去がどうなったか、知っていますか?」

 

 あれ以来、私は百夜過去の行方を掴めずにいた。一応周辺のエネルギー反応に気を配っているが、一切の気配が無かった。

 

「分からない。GUYSも何も掴めていないんだ」

「いつ襲ってくるかも分からない、ということですね?」

「ああ。だが、彼女にはもう、私の前に現れて欲しくはない……」

 

 零洸は遠い目をした。

 しかし彼女の言葉に少しばかり疑問を感じる。

 その言葉は、まるで自分自身に言い聞かせているように聞こえたからだ。

 

「ところで、一つ言っておかなければいけないことがあります」

「ここで話せる内容か?」

「早めに話しておきたかったのです。実は、私の記憶改変はある対象に一度しか使用できません」

 

 だからこそ、私自身も慎重にならねばならなかった。

 

「次、愛美に知られればお終いか」

「察しが良くて助かります。それと、もう1つ聞きたいことが――」

 

 いや、今はよしておこう。もっと時間がある時に問い詰めるべきだ。

 あの“マイナスエネルギー”の正体。

 何故“光の戦士”であるソルが、あのような力を使っていたのだろうか。

 

「レオルトン?」

「すみません、何でもありません。戻りましょう」

 

 私も零洸も、険しい表情を元に戻して席へと戻った。

 

「お待たせしました」

 

 私は5人分のグラスを、零洸と共にテーブルに置いた。

 

「さんきゅー」

「早馴さん、それは――」

「ん?」

「もしかして、飲んでしまいましたか?」

「飲んだけど」

「早馴さんのグラス、こちらです」

「え」

「それは、私のです」

 

 早馴は2、3度目をぱちくりさせた。

 

「……べ、別に? 気にして……ないもん」

 

 それから、彼女の顔は見る見るうちに赤くなった。

 

「あらまぁ」

 

 何故か楽しそうに微笑む杏城。

 

「こ、これは……そうか! 俺がニルとキスをすれば早馴と間接キスに……! しかしそれでは……」

「草津、落ち着いてください。とりあえず私が早馴さんのを使いますからそれでよろしいですね?」

「よよよ、よろしくないでしょっ!」

 

 私は早馴に、思いきり頭をぶたれたのであった。

 その瞬間、巨大な爆音が耳をつんざいた。そして、大きな揺れが地震のように建物を揺らした。

 

―――後編に続く

 


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