留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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気づけば、本作の連載を始めて1年となりました。皆様の応援があってこそ、続けてこられたのだと思います。
いつも熱い声援、ありがとうございます。
あとどれだけこの物語が続くかは分かりませんが、どうか最後までお付き合い下さいませ!


第29話「百の夜が終わる時」(前編)

 

 

   第29話「百の夜が終わる時」

 

         異次元超人 ソールクラッシャー

                          登場

 

「……ここは」

「屋上だ。私がここまで運んできた」

 

 私は零洸に手伝ってもらいながら上半身だけ起こし、辺りを見回す。

 先ほどまで十字架に縛られていた早馴は、私の隣で眠っていた。

 

「百夜は」

「生死は分からなかったが、殆どエネルギーを感じない」

「そうでしょうね。私は彼女の脳を破壊しました」

 

 相手の脳にエネルギーを流し込んで脳に作用させ、記憶を操る能力ーーしかし使いようによっては脳の構造に干渉し、機能不全を引き起こすこともできる。どんなに強靭な肉体を持っていても、脳だけは鍛えようがないのだ。

 とはいえ百夜に対しては、予想外の効き方をしている。何か奴特有の要因があったのだろうか。

 

「……未来? それにニルまで」

 

 私の隣で、早馴が身体を起こしていた。

 

「良かった。気が付いたんだな」

「う、うん。それより、2人も何でぼろぼろなの!?」

「愛美、それは――」

 

 私は零洸に目で合図し、言葉を止めさせた。

 

「早馴さん、実は――」

「まだ……懲りずに嘘を付いているようね、メフィラス星人」

「っ!!」

 

 背中に突き刺さるような、大いなる闇の気配。

 信じられない。

 脳を破壊したはずなのに、百夜過去はまだ生きていた。校舎内から続く階段を上り、彼女は屋上に通じる扉に身体を預け、立っている。

 とはいえ、彼女も満身創痍と言った感じで、ふらふらと歩を進めていた。

 

「メフィラスって……どういうこと?」

「説明は後でします。零洸さん、早馴さんと一緒に下がってください」

「待て、レオルトン!」

 

 私は零洸の言葉を無視して2人の前に立ち、再び百夜と向かい合った。

 しかし私には殆ど力は残されていない。

 

「どいつも、こいつも……本当にたちが悪いわね。大人しく死んでくれないなんて」

 

 百夜は両手に双剣を握り、走って距離を詰める。

 私は両手で、その刃を受け止めた。

 左の刃は砕け散ったが、右の刃は私の手と共に、右胸も切り裂いた。

 

「ぐっ!!」

 

 私はその場に倒れた。もはや立ち上がることは、叶わなかった。

 

「もうただでは殺さないわよ、メフィラス。アンタの前で、この小娘を壊してあげるわ」

 

 百夜の手元に、今度は薙刀が現れる。

 

「死になさい!」

 

 刃が早馴に向けられる。

 

「愛美はやらせない!!」

 

 しかしその刃は、早馴には届かなかった。

 代わりに、早馴を庇った零洸の胸に、横一文字の傷を創り出した。

 

「あ……み……」

「いや……未来、未来ぅっ!!」

 

 零洸は目を閉じ、倒れた。

 真っ赤な血が広がり、早馴はその上に膝をつく。血まみれの零洸を抱きかかえながら。

 そして何度も何度も、早馴は零洸の名を呼び続けていた。

 

「いらいらするわ。今度こそ、愛美ちゃんの番……!」

 

百夜の薙刀の切っ先が、早馴の背中に触れる。

 

「やめろっ!!!」

 

 私は空しく叫んでいた。

 早馴は涙ぐんだ眼で、私を見た。

 

「ニル――」

 

 彼女の口が、そう動いた気がする。

 どうしてか、その一瞬は恐ろしく長く感じられ、

 

「愛美さんっ!!」

 

 私の叫び声は、一瞬で消え去ったように思われた。

 

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――――――――――

――――

 

 

 私は負けた。

 私は“光の戦士”として、誰も守れなかった。

 もはや命も失われようとしている。

 一生護り続けると誓った愛美。

 ――私は弱い。

 繰り返しだった。また何もできずに、守るべき人々を見殺しにしてしまう。

 そう、あの時のように――

 

『物事は犠牲無しでは成り立たないのだよ、ソル』

 

 誰だ?

 

『何かを得るためには何かを失わなければならない』

 

 誰だ!

 

『それは、ある時は他者であり、ある時は自身でもある』

 

 何が言いたい……!

 

『自らを犠牲にし、愛する者を守りたいと願うか?』

 

 ……出来るというのか。

 

『自らを闇に堕とす覚悟があるのならば』

 

 ……いいだろう。たとえ私が闇に呑まれたとしても、私には救いたい人がいる。

 

『よかろう。ソル、お前に力を貸してやる。しかしこの力はいずれお前自身を滅ぼす』

 

 望むところだ。その瞬間まで、私は愛美を、皆を守り続ける。

 

『契約成立だな。さぁ、受け取れ。我が力を――』

 

―――

――――――――

 

=========================================

 

「百夜ぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 零洸の叫びと、金属が砕かれる音が、同時に屋上に響き渡った。

 私自身、目の前の光景が信じられなかった。人間態のままで零洸が立ち上がり、百夜の刃を素手で受け止め、砕き、挙句の果てには―― 

 

「未来ちゃん、まだ生きて――」

 

 驚愕の色を見せた百夜は、その表情のまま自分の右腕が“あった場所”に視線を落とす。彼女の右腕は、あの一瞬で零洸が引きちぎったのだ。

 

「腕……私の――」

「死ね」

 

 無機質な零洸の声。

 そして彼女は、黒い光に包まれたままソルの姿へと変貌した。

 その光からは、凄まじい“マイナスエネルギー”が放たれており、波動のように拡散していた。

 

「意味……わかんない、未来ちゃん」

 

 黒いオーラをまといながら、ソルは回し蹴りを繰り出す。彼女の足は百夜の脇腹にめり込み、その身体は屋上の端まで飛んで行った。

 

「……」

 

 ソルは間髪入れずブレードを展開しながら百夜に迫り、倒れている彼女の胸に刃を突き立てた。その刃は黒く、百夜の血に染められて禍々しい輝きを放っていた。

 

「は、はは……まるで、悪役じゃない……未来、ちゃん」

「……」

「うぐっ」

 

 倒れた百夜の頭を、ソルは思い切り踏みつける。

 

「ははは……!私は、死ぬのね」

 

 これまでダメージをもろともせずに戦ってきたはず百夜は、この時になって何の抵抗もしなくなった。

 私が見てきた百夜の強さが、まるで霞んでしまったかのようだった。

 

「死ね」

「言われなくたって、もう死ぬでしょ、私」

「……」

 

 ソルの刃は、百夜の首筋に―――

 その時、ソルの目線が百夜から離れ、ある一点で止まる。

 

「あ……み」

 

 それは、私の近くで呆然と立ち尽くす早馴に注がれていた。

 ソルは動きを止めた。

 

「もう……やめて」

「敵……は、たお……さな……いと……」

「お願いだから……!」

 

 その瞬間、早馴の首元のペンダントが強烈な光を放った。私は眩しさのあまりに目を閉じた。

 そして再び目を開くと、ソルに纏わりついていた黒いオーラが消えていた。

 感じるエネルギーも、先程のような禍々しい印象は無い。

 

「未来……なんだよね?」

「……そうだ」

 

 ソルは早馴の呼びかけに応え、百夜の頭から足を上げた。そしてゆっくりとこちらに歩み寄って来た。

 

「来ないで!!」

「……愛美?」

「未来……どうして私に黙ってたの?」

「それは――」

「あの日、助けてくれなかったから!?」

「っ!」

 

 ソルの足が、止まる。

 私は何とか立ち上がり、早馴に近づく。

 

「来ないでっ!」

 

 私は一瞬、信じられないものを居たような感覚に襲われた。

 私の方に振り返った早馴の眼から放たれていた“憎しみ”の感情。

 早馴がそんな眼をすることが、私には理解できなかった。

 

「……聞いて下さい、早馴さん」

「嫌だ。何も聞きたくない」

 

 早馴が再び、私に背を向ける。

 迷っている暇はない。私は後ろから素早く彼女に接近し、その額に触れた。

 

「やっ……何を――」

 

 私の“能力”によって早馴は気を失った。

 糸の切れた操り人形のように倒れそうになった彼女を、私は寸でのところで抱き止めた。

 たった一度しか、人間相手に発動できない“記憶操作”の力。

 この瞬間にそれを使ったことは、果たして正しかったのだろうか。

 しかし、たとえそれが間違いだったとしても――あの“憎しみ”に染まった早馴の表情を目にすることは、私には何故か耐えられないように思われたのだった。

 

 

―――後編に続く

 

 


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