留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第28話「過去」(後編)

 私は地球を出て、一度“次元の壁”を壊した地点までやって来ていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 強力なエネルギーを発生させれば“次元の壁”を壊せると思っていたが、甘かった。最初に来た時は“破壊”の宝玉の力があったからこそ、壁を壊せたんだ。それ程にあの宝玉の力は強大だったと思わされる。

 でもどうすれば……宝玉無しに故郷の惑星に戻る手立ては無いのだろうか。

 

「これが無くては帰れませんよ、あそこには」

 

 宇宙空間で呆然としていた私は、カリアの言葉を耳にした。一瞬、幻聴かとも思った。

 しかし暗い宇宙を飛んでやって来たのは、紛れもなくカリアだった。彼女も光の戦士としての本来の姿に変身していた。

 

「どうしました? 意外そうな顔をして」

「だって……まさか付いてくるなんて」

「私とて、想いは同じです。ですからぎりぎりのところまでは、イザ様の予言に抗ってみようと思いました」

 

 カリアは、私が置いて行った“創造”の宝玉を差し出した。

 

「カリア、いつの間にか不良の仲間入りね」

「な、何が不良ですか! しかも仲間って……」

「さぁ、故郷へ戻りましょう。そして敵を抹殺するわ」

 

 カリアが“破壊”の宝玉の力を解放した。そして2人で次元の境界線を越え、私たちの故郷の宇宙へと舞い戻ってきた。

 その瞬間、宝玉が強烈な熱さを放った。

 同時に私は感じた。宇宙全体に闇の力が満ちていることに。故郷の危機は、既に迫っているのだ。

 私は一直線に故郷の惑星に向かう。どんどん闇の力が大きく、深くなっている。

 

「っ!?」

 

 惑星の姿が目に入った時、すぐに私は危険を感じた。いつもは青と緑に輝く惑星が、今は黒と赤に染められている。

 そして見たこともないくらいの巨大な宇宙船が何隻も惑星を囲み、そこから怪獣らしきものが何体も投下されていた。

 もう、手遅れなの!?

 

「いや……今からでも! カリア、二手に分かれるわよ!」

「はい!」

 

 妹たちを救わなくちゃいけない!!

 カリアと別れ、灰色の雲を抜けて地上を目にする。

 何かが燃える臭い、血の臭い。

 そしておどろおどろしい怪獣の叫び声が聞こえた。

私は上空からエネルギー波を放つ。そして怪獣の頭上に蹴りを食らわせた。

 

「妹たち!!」

「ら、ラスお姉様…」

 

 数人の妹たちを率いて戦っていたのは、ルソアだった。彼女も戦士の姿に変身し、武器――ランスとシールドを手にしている。

 他の妹たちもそれぞれ異なる武器を持って、怪獣に立ち向かっている。しかしこの戦いで摩耗してしまったのか、どれもぼろぼろで、戦える状況には無い。

 それほどの相手ってことね……この醜い怪獣たちは!

 

「ここは任せなさい。レクシュウム光線!!」

 

 私は必殺の光線技で怪獣を倒す。しかし次から次へと怪獣が現れる。

 

「はぁ…はぁ……」

「ギャァァァァス」

「っ!」

 

 背後からの攻撃――

 

「お姉様っ!!」

 

 私の背中への光線を、ルソアがシールドで防御する。

 

「助かったわ!」

「いつまでも守られてばかりじゃありませんもの!」

 

 ルソアはランスの切っ先を怪獣に向け、突撃した。

 上品な言葉遣いと立ち居振る舞いの割に、戦いは荒っぽいのがルソアらしい。

 

「カイザーインパクト!」

 

 ランスを構えながらの突進は、まるでミサイルのような威力で怪獣の胴体を木端微塵にしてしまった。

 

「お姉様! ここは私たちが引き受けますから、城に!」

「それはできないわ。私はあなたたち助けに――」

「お早く!!」

「……必ず帰って来るのよ、ルソア!」

 

 私は前線から退き、城に向かった。妹たちを護るために…!

 しかし城の前に立った瞬間、城の右側から巨大な爆発が起こった。

 

「いやぁぁぁぁぁああああああああああ!! 助けて!!! お姉様!!!」

「っ!!すぐ行く!!」

 

 そこでは、金と青の巨体と数本の触手をもった怪獣が暴れていた。その巨躯は私たちの数倍はある。何人もの妹たちが、その怪獣に為すすべなく殺されていった。

 

「よくもぉぉっ!!」

 

 その怪獣に肉迫しかけたが、私は信じられない光景を目にした。

 

「い、イザ……?」

 

 怪獣に踏みつぶされていたのは、イザだった。

 評議会の長老でありながら、私やカリアにも引けを取らない戦闘力を持つ彼女。それほどの戦士が、傷一つつけることすらできずに倒されていた。

 久しく感じていなかった“緊張感”が私を支配する。

 

「いいわ……本気でやってあげる」

 

 一歩踏み出す。

 怪獣もこちらに触手を向ける。

 しかしその瞬間、目の前の怪獣とは異なる気配を感じた。

 

「貴様がこの次元最強の戦士だな」

 

 私の背後から現れたのは、深紅の身体の宇宙人だった。金色の双眼は禍々しい光を放ち、右手の刃は血に濡れていた。

 

「だいぶ戦士を狩ってきたはずだが、こんな大物が潜んでいたとはな」

 

 彼の合図で、青い巨大怪獣は触手の先端を地面に下ろした。

 

「アンタが怪獣どもを操ってるのね?」

「ふははは……その通り。あれは我々が作り出した超獣! 製作するのに少々手間取ったが、貴様の仲間たちを抹殺した超獣だ!!」

「じゃあまず、アンタを殺せば良いみたいね」

「ほう……やってみるか?」

 

 こいつを一瞬で殺して、あの青い怪獣をバラバラにする……挟み撃ちにあっているとはいえ、私なら簡単に―――

 

「おねぇさま!」

 

 突如上空から現れた妹――ニュイーズが、私と青い怪獣の間に立った。

 

「ニュイーズ、あんた――」

「イザ様は私が!」

 

 傷だらけになりながらも双剣を構え、ニュイーズは青い巨大怪獣に向かって走り出す。

 

「止めなさい!!」

「超獣よ! その娘も殺してしまえ!」

 

 宇宙人の合図で、怪獣が動き出す。

 同時にニュイーズの双剣に、彼女のエネルギーが集まっていく。

 

「ギャァァァァァス!!!」

 

 触手を華麗に避けながら、彼女は怪獣の腹に刃を突き刺した。

 しかし、その刃は粉々に砕け散った。

 

「え――」

「ニュイーズ!!!」

 

 怪獣の口から、恐ろしい程高エネルギーの光線が吐き出され、その光はニュイーズの下半身を一瞬で消し去った。

 そして追い打ちのように、怪獣の触手がニュイーズの上半身を吹き飛ばし、彼女の体は私のすぐ近くまで転がってきた。

 

「……ニュイーズ……?」

「お、ねー……さま」

 

 双剣を握りしめたまま、彼女の変身が解かれる。綺麗だったベージュの髪は、べっとりと赤い血で染まっていた。

 私は敵を前にしていることを忘れたかのように、彼女の傍らに膝をついた。

 

「おねぇさま……良かった。生きて、たんだね」

「ニュイーズ死なないで! お願いだからっ!」

「おねぇさま……大……好き――」

 

 ニュイーズの頭は、私の目の前で踏みつぶされた。赤い棘の生えた足も、私の身体も、ニュイーズの生温かい血で塗られた。

 

「そのまま城を破壊してしまえ!! ふははははは!!!」

「――けなさい」

「何ぃ?」

「足をどけなさい」

 

 私は宇宙人の膝を掴み、握り潰した。

 

「ぐあわぁぁぁ!」

 

 私は立ち上がり、のた打ち回る宇宙人の頭に片足を乗せた。

 

「分かる? 私ね――」

 

 私は力を込め、その頭を踏みつぶした。生暖かい感触が伝わって来るが、不思議と気分は悪くない。

 

「頭にきたわ」

「ギャァァァァァス」

 

 主人を失った青い怪獣に目を向ける。

 

「大丈夫よ。同じところに連れて行ってあげるから」

 

 

 

 

「お姉さまっ!」

 

 朦朧とした意識を呼び起こしたのは、カリアの声だった。

 彼女も戦っていたのだろうか。頭から血を流し、薙刀を杖のようにして立っていた。

 

「カリア……生きてたのね」

「お姉さま、これは……」

「あら。ちょっとね、遊び過ぎちゃったみたい」

 

 何人もの妹たちを殺した怪獣の肉塊を椅子代わりに、私はまどろんでいたようだ。

 

「それは……ニュイーズ、ですか?」

「ええ」

 

 うつらうつらとしながら抱きしめていたニュイーズの上半身。わずかの温かみも失われ、既に冷たくなっていた。

 

「ニュイーズが殺されて、かっとなって、この怪獣を八つ裂きってところ。そしたら思いの外疲れちゃってね」

 

 ニュイーズの遺体を置き、私は腰を上げた。

 

「まだ敵残ってるんでしょ?片付け行くわよ」

「……ラスお姉さま。残念ですが……もうこの星は終わりです。今こそ使命を果たす時です」

 

 カリアは悔しげに、空を見上げた。

 美しかった青空は、もはやそこには無い。黒煙に染められた鉛色の空が裂け、闇の向こう側から怪獣たちが次々に姿を現していた。

 

「……使命?」

「宝玉を持って、星を出ます!」

「……そうだ、それがあったじゃない」

「ええ。これさえあれば皆を救うことが――」

「全部壊せるのね」

 

 私はカリアの胸に手を触れた。

 そして無理やり、彼女の体内から宝玉を呼び寄せた。

 

「な、何を!」

 

 ルソアたちの叫び、イザの敗北、ニュイーズの最期。

 様々な情景が私の頭を巡り――

 

「消えて無くなれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 やがて真っ黒に染められた。

 カリアの体内から解き放たれた“破壊”の宝玉は、私の手の中でどす黒い光を放つ。私はそれを、自分の胸から体内にねじ込んだ。

 

「お姉さま!!!」

 

 衝撃波でカリアの身体が吹き飛ばされる。

 

「――すごいっ!!!」

 

 湧き上がる力、溢れんばかりの力。

 そう、これこそが力よ!!

 

「カリア、そこで見てなさい……すぐに終わらせるわ」

 

 私は人差し指を、上空から迫る怪獣たちに向けた。

 

「どーん」

 

 指先から放たれた“黒い”光線が、矢のように放たれる。

 一条の光は怪獣の群れを貫き、巨大な爆炎が一瞬で広がった。

 息を吐くように放った攻撃。

 私は悟った。

 全て壊せる。

 

「さーてと。大掃除の時間よ……」

 

 飛び立つ直前、口を開けて唖然としているカリアの姿が目に入った。

 私は声をかけることなく、空へ上がった。

 

「ざっと……200ってところかしら?」

 

 周囲と地上を見渡して怪獣の数を確認し、私は両腕を高く上げた。

 

「レクシュウム光線!」

 

 黒い光線が、全方向に拡散する。エネルギー波は全ての敵を飲み込み、消滅させた。

 

「はい、お終い」

 

 爆炎の中から、大量の肉塊が無様に落ちてゆく。地上の怪獣や建物を押し潰し、瓦礫の山を作り上げていった。

 その瓦礫の中には、各地で暴れていた怪獣たちも混ざっていた。それらは緑色の汚い血をまき散らし、ぐずぐずの残骸と化している。

 何故、あんな怪獣どもに手間取ったのかが不思議で仕方ない。

 何にせよ、一件落着と思っていいのかしら。敵は全滅させたし、もう疲れたから終わりに――

 

「お姉さま!!!」

「あらカリア、どうしたの? そんな怖い顔して。もう仕事は終わりよ」

 

 まるで仇に向けるような瞳。どうしてそんなものを、私に向けるのよ。

 

「お姉さま……下を見てください」

「すごいでしょ。一瞬で全部――」

「そうです……全部です。敵も、家族もっ!!!」

 

 彼女が指差す先――

 

「……あれ、ルソアじゃない」

 

 落下した怪獣の下敷きになったのだろうか、死骸の山の中から、ランスを握ったルソアの手がはみ出ていた。

 

「あなたが……殺したんですよ!!」

 

 カリアが薙刀を向け、一気に距離を詰めてくる。

 

「ちょっと、何なのよ」

 

 何度も振り下ろされる薙刀。

 

「お姉さま! 今すぐ“破壊”の宝玉を身体から出してください!」

「は?」

 

 私は指先にエネルギーを集め、斬撃を受け止めた。

 

「そう……カリア。アンタも欲しいってわけね。この力が!!!」

 

 がら空きになった横腹に、蹴りを叩き込む。骨が折れる音と共にカリアの身体は、地上に激突した。

 しかし、彼女はまだ立っていた。随分丈夫なことで――

 

「――何これ」

「宝玉の力に……呑まれ、ましたね……ラス!」

 

 私の四肢に光のバインドが絡み付き、身動きが取れない。

 

「イザ、生きてたのね」

「ラス。あなたには、ここで死んでもらいます」

 

 私の後ろを取ったイザは、銀色の宝剣を鞘から引き抜いた。

 

「何言ってるのよ!? 私はこの星を守って――」

「これが“守る”ということですか。家族の命を犠牲に、敵を倒すことが」

「はぁ? 最初に妹たちを見捨てろって言ったのはアンタでしょ?」

「私は言ったはずです。“創造”の宝玉を使って、全てを救って欲しいと! しかしもう手遅れです。“破壊”の宝玉を使ってしまった以上、“創造”の宝玉は力を失ったのですから」

「ぐちゃぐちゃうるさいわねっ!! 最初からこうして、敵を滅ぼしておけばよかったのよ! 悪いのはアンタじゃない……イザ!」

「堕ちましたね、ラス。やはり貴女を生かしてはおけない。これ以上宝玉の力に呑まれる前に!」

 

 地上から、薙刀を構えたカリアが猛スピードで突っ込んでくる。

 私を殺す気なの?

 姉である私を?

 敵を葬った私を?

 

「ふざけるんじゃ……ないわよぉぉ!!!!!」

 

 全身から溢れ出るエネルギーによって、バインドが砕け散る。

 

「馬鹿な!?」

 

 イザの首を掴み、超速で迫るカリアの前に向ける。

 カリアは勢いを止められず、そのままイザの胸に吸い込まれるように薙刀が突き刺ささった。

 そして盾となったイザの影からカリアの腹に、拳をねじ込んだ。

 

「ぐふっ……」

「カリア……強くて綺麗なアンタのこと、好きだったわよ。だから、必殺技で殺してあげる♪――レクシュウム超光波」

 

 広範囲に広がる光線は、何の滞りも無くカリアの身体を消し去った。それでも胸から上だけは残っており、改めてカリアの丈夫さに感心してしまう。

 そしてカリアの腕を掴んで良く見ると、まだ彼女の目には光があった。

 

「お……ねえ……さま」

「まだ生きてるの? すごいわ。でもーー」

 

 私は人差し指を立てて、そこに口づけをした。

 

「もうデコピンで十分ね」

 

 カリアの額を、その指で弾く。粉々になったカリアの肉体から吹き出した血が、私の顔を汚していた。

 

「果物が潰れたみたいに吹き飛んじゃってさぁ。さてと、これからどーしようかし――ぐあぁ!!!」

 

 凄まじい痛みが、体中を駆け巡る。

 

「な、何なのよ……収まれっ……!」

 

 何かが身体を破って出てこようとする。

 

「ふざけんじゃ、ないわ――」

 

 私の身体が、突然はじけ飛んだ。

 ばらばらになった身体の破片が見える。私が体内に取り込んでいた宝玉も、砕け散っていた。

 そうか……だからイザは「逃げろ」と言ったんだ。

 宝玉の力は誰にもーー私にさえコントロールできない。

 私は……死ぬのだろうか?

 

『まだ、死ねないだろう』

 

 誰……?

 

『その力を、我がために使え』

 

 目の前の空間が割れ、その奥の闇の中から何者かの気配を感じる。

 

『私は、お前の故郷を滅ぼした者』

 

 なら壊してやる。

 

『全てを失ったお前に与えられた選択肢は、2つ』

 

 壊してやる。

 

『このまま無様に朽ち果てるか、もしくは――』

 

 壊してやる。

 

『私と契約し、生き延び、思うがまま力を使う』

 

 壊してやる!!

 私は最後の力を振り絞り、砕けた身体の破片を念力でかき集めた。黒い宝玉も、不完全ながら形を取り戻し、小さな石のようになって私の身体に再び入り込んでいた。

 しかし同時に、私の意識はどんどん薄れていった。

 私は――

 

「壊してやる……」

『ふははははは!!!、良いぞ、凄まじい“憎しみ”だ!!』

「壊して……やる……」

『ならば問おう。お前は何を壊したいのだ?』

「……壊、し――」

『精神が崩壊したお前には、もう答えられまい。よろしい。お前に新しい名と、憎むべき相手を用意してやろう』

「――みんな、ごめ――」

『ソールクラッシャー。これがお前の名前だ』

 

 

 

 これが、私の過去。

 奪われた、私の過去。

 大切だった人たちの、記憶。

 

 

―――29話に続く


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