謎の宇宙人から走って逃げてきた私たちは、とりあえず私の家にやって来た。
早馴も杏城も、息も絶え絶えという状態で――
「って、どうしてレオルトンさんのお家にやって来ましたの! ごほっ、ごほっ」
呼吸でさえ辛い状態で突然大声を出した杏城は、その苦しさにせき込み始めた。
「はぁ、はぁ……逢夜乃、ちょっとうるさい」
「そんな、はぁ……場合じゃありませんわ」
私のベッドに倒れ込んでいる早馴に対し、杏城は半ばあきれた表情を浮かべていた。
「それより愛美さん。そんな風にレオルトンさんのベッドに寝転んだら失礼ですわよ」
「そんなのどーでも――」
早馴は突如、むくりと起き上がった。そして、まじまじと自分が先程まで寝ていた場所を見つめ、その端に置いてある私の枕を手に取った。
「……へ、ヘンタイ!!」
枕は私の顔面に投げつけられた。
「ど、どどどうしてアンタのベッドに寝させられてるの!? って、ここアンタの家じゃない!!」
「近くでしたから。それに早馴さんは自ら横になりましたよ」
「そういう問題じゃないもんっ!逢夜乃、帰ろっ」
「あ、え、ええ。レオルトンさん、この度は助けていただいてありがとうございました」
玄関で靴を履いている早馴を尻目に、逢夜乃は丁寧に一礼をした。
「お二人がご無事なら良いのです。しかしこのままお二人で帰るのは危険に思われますが」
「確かにそうですわね」
「私が送りましょう」
「それはありがたいですけど、レオルトンさんはよろしいの?」
「もちろん」
「じゃあお願いしますわ」
杏城はにこりと笑ってそう言ったが、早馴は未だにご機嫌斜めだった。
その後、私たち3人は早馴の家へと向かった。私の家とあまり変わらない大きさのアパートメントだった。早馴の計らいで、今夜杏城は早馴の家に泊まることになった。どうやら2人とも今夜は家に1人らしく、それならばいっそ一緒に一夜を越そうと決めたらしい。
「わざわざありがとうございました、レオルトンさん」
「いいえ。では、今夜は戸締りに気を付けて、また明日お会いしましょう」
「ええ。ほら、愛美さんもお礼言いましょう?」
「……ありがと」
早馴はしぶしぶながら、しかし何故か照れくさそうにそう言った。
私はそっと、早馴の部屋の扉を閉めた。
周りに敵の気配はなかった。
第3話「その名はソル」
策略星人 ぺダン星人
宇宙ロボット キングジョーブラック試作型
登場
問題は2つ。
まずGUYS本部での襲撃、その後市街地で早馴と杏城を襲った犯人の正体。
そしてもう一つは、その襲撃者から私たち3人を守った「女子制服姿」の何者かの正体。
確実に分かることは、襲撃者は宇宙人であることだ。あんな宇宙服のような格好の人間犯罪者がいるとは、常識的に考えにくい。
だがもう1人。おそらくこの学園に通うある女子生徒も、その宇宙人に対抗できる強さを持つ特別な存在だ。
宇宙人から人間を守る――そんなことができるのは“奴”だけだ。
「おはよ」
思考中の私に声をかけたのは、早馴だった。彼女はいつもより少し早い時間に登校してきた。おそらく杏城と一緒に登校したからであろう。
「昨日は大丈夫でしたか?」
「あー、うん」
「それは良かった。杏城さんは?」
「一緒に来たけど、職員室寄ってから来るって」
彼女の返事はどこかそっけなかった。やはり昨日の私の部屋での一件を引きずっているのだろうか。
「あの、昨日は申し訳ありませんでした」
「え?」
「部屋に連れ込んでしまったことです」
「部屋に連れ込んだだとォ!?」
背後から野太い驚嘆の声が聞こえた。
「樫尾さん、おはようございます」
「樫尾さん、おはよ」
「お、おう」
樫尾は訝しげに私と早馴の顔を見比べた。
「レオルトン……お前、愛美を家に連れ込んだって本当か?」
「連れ込んだというのはいささか語弊があります。昨日不審者に襲われて、一旦私の部屋に避難しただけです。杏城さんもご一緒でした。ですよね、早馴さん」
何故か言い訳がましい口調になってしまったが、事実は事実だ。
「うん。誤解させてごめんね、樫尾さん」
「いや、俺の方こそ悪かったな。ところでレオルトン、お前に伝言があるんだ」
「何でしょうか」
「昨日だったか。草津に連れられて部活乱入をしただろう?」
「まずかったですか」
「いや、そいつをどうこう言うつもりはねェ。ただな、昨日回ってない部活があっただろ?」
「そういえば、剣道部には行きませんでしたね。さすがに入りにくかったので」
「その剣道部の顧問の先生がな、ぜひお前に来てほしいと言ってるそうだぜ」
「自分に剣道部に入れと?」
「そこまでかどうかは知らん。まぁ、行くだけ行ってみろや。さすがに強制はしないだろうよ」
……これは面倒なことになってきたぞ。
―――その2に続く