留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第27話「光と闇の輪舞」その4

 私は気配を消しながら、真っ暗の廊下を速足で歩いていた。

 ソールクラッシャーの気配を追うと、やはり彼女は私を探しに校舎の中をうろついているようだった。何とか早馴と零洸からソールクラッシャーを引き離すことは出来たものの、今の零洸では早馴を救出してこの場を去る気力は無いだろう。

 もはや、私の時間稼ぎは殆ど無駄なのかもしれない。

 

「……」

 

 気づくと、私が学生として使っている教室にたどり着いていた。

 私は後ろ手に引き戸を閉め、夜の教室を眺めた。

 

「……」

 

 その時、突如頭上から何かが割れるような音が聞こえた。私は咄嗟にその位置から離れた。

 同時に天井が破壊され、空いた穴から百夜過去が飛び降りてきた。今は変身を解き、人間態の姿で私の前に立っている。

 

「鬼ごっこは終わりよ」

「よく私の居場所が分かりましたね」

「もちろん。殺したくて殺したくて、うずうずしてたもの」

「しかし貴女の傷も――」

 

 視界から百夜が消えたと気づいたその瞬間、私の身体は大きく吹き飛び、壁を貫いて隣の教室に投げ出された。

 そして再び百夜が目の前に現れ、私の首を掴む。私はそのまま彼女に持ち上げられ、今度は腹部に強烈なパンチがねじ込まれた。

 私は再び吹き飛び、元居た教室に投げ返された。

 

「弱い……本当に」

「ぐはっ……」

 

 口から大量の血液が流れ落ちる。内臓が破壊されているのかもしれない。もはや痛みを越えて、全身が痺れはじめていた。

 私は立ち上がろうとするが、身体のどこにも力が入らなかった。

 そんな私の顔面に、百夜の蹴りが襲いかかる。

 私は何個もの机にぶつかりながら、教室後方の空きスペースに転がった。

 その衝撃で、懐にしまっていたスマートフォンも飛び出し、床に放り出された。

 

「なに? 今度はこれを使って、何か小細工でもする気なのかしら?」

 

 百夜は、私を蹴り飛ばした足でスマートフォンを踏みつけた。

 

『留守録音声を再生します』

 

 誤作動でも起こしたのだろうか。場違いな音声が響き渡る。

 

『メッ――ジは――です――』

 

 しかし意識が遠のくにつれ、音声が聞き取れなくなってゆく。

 そして、何も――

 

『―――――ニル?』

 

 その時、私の耳に、彼女の声が聞こえてきた。

 早馴愛美の声が、暗い教室に響き渡ったのだ。

 

『えっと……ニルも草津も様子がおかしいから、気になって電話しました。最近ちゃんと話せてなかったから、少し心配。私にできることがあったら言ってね。私、いつもニルに助けられてばっかりだから、たまには私もニルのために――って、な、何言ってるんだろ!? 今の無し! 全部無しだから!』

 

 意識が少しずつ、戻ってゆく。

 

『と、とにかく! 1人で考えて決めつけるくらいなら、相談の一つくらいしなさいよっ! じゃあね!』

 

 音声が途切れる。

 しかし彼女の声は、まだ私の頭の中ではっきりとこだましている。

 

「なんか、笑っちゃうわね。宇宙人のくせに人間の真似事なんてしちゃって」

「……」

「あら、もうお寝んね?」

「……本当に。貴女の言う通りです」

「……急に何よ」

「いえ、私も可笑しくなっただけですよ」

「っ!?」

「何を驚いているのです?」

「あれだけ痛めつけたのに……立てるのね」

「そのようです」

 

 何故か、身体が軽い。

 先ほどまで全身の感覚が無かったのにもかかわらず、今では指の先まで自分の身体の感覚を認識している。

 まだ、私は戦える。

 私はこんな所で死ぬわけにはいかない。

 人間の――早馴愛美の心を砕き、この惑星を侵略するまでは。

 

「さぁ百夜さん。まだ私は生きていますよ」

「この――うっ」

 

 百夜が胸を押さえ、俯く。恐らくソルの捨て身の一撃と、私の光線のダメージだろう。

 この機会を逃すわけには、いかない。

 

「百夜過去……!」

 

 私は最後の力を振り絞り、百夜の懐に入る。

 

「メフィラス、お前――」

 

 私は百夜の額を掴む。

 

「最後の一撃だ」

 

 そして持てる全てのエネルギーを、百夜の頭蓋内――脳に送る。

 

「な――うあぁぁぁぁ!!!」

 

 百夜は絶叫と共に、両手で私を突き放した。

 私は力なく倒れる。

 床に這いつくばりながら百夜を見上げると、彼女は頭を押さえて叫び続けていた。

 そして急に声を発しなくなり、後ろ向きに倒れた。

 

「……終わった、のか」

 

 薄れる意識の中で最後に聞こえたのは、零洸未来が私の名前を呼ぶ声だけだった。

 

「レオルトン!!」

 

 こんな状況で考えることではないが、正体を知ったのにもかかわらず、何故彼女は私を、いつまでも人間の名前で呼ぶのだろうか。

 

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――― 

―――――

―――――――

 

「ラスおねーさまぁ」

 

 甘ったるい声。

 

「あと5日寝る」

「じゃあ私も一緒に寝ますね!」

 

 少女は、私のベッドの中に潜り込んできた。

 

「こらっ! お姉様、急いでご支度を。評議会に遅れますわよ!」

 

 別の少女が、はきはきとした声で2人を怒鳴りつけた。私は重たい瞼を擦りながら、柔らかいベッドから身体を起こした。

 

「めんどくさいなぁ」

「ダメですわよ、お姉様。私たち姉妹を率いる身として、しっかりしてもらわなくては」

「はいはい……」

 

 ――私は夢を見ている。

 

 遠い日に失った暖かな日々。

 

 光の戦士“ラス”として生きていたあの時の。

 

 ――そして思い出す。

 

 “ラス”の名を捨て、“百夜過去――ソールクラッシャー”となったあの日のことを。

 

 

―――第28話に続く


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