深夜の学園校舎、屋上。
思えば零洸に私の正体を知られ、その後初めて対面した場所もここだった。
そこに私は、零洸と肩を並べて立っている。
「ふふ……ちゃんと来てくれたのね、2人とも」
突如、我々の前方で空間が歪んだ。その空間を割って破るように、百夜過去が姿を現した。
「百夜。愛美はどこだ」
「未来ちゃんったら、せっかちね。すぐに見せてあげるわ」
百夜が指を鳴らすと、先程と同じように空間が割れる。そして十字架に縛られた早馴が現れた。
「愛美っ!!」
零洸の叫び空しく、早馴は瞼を閉じたまま何の反応もしない。しかし死んでいるようには見えない。
「百夜過去、最初に聞かせてほしいことがあります」
「なぁに?」
「貴女の目的について」
「目的? それを聞いてどうするの? 数分後には死んでるのよ、あんた」
くすくす笑う百夜を無視して、私は続けた。
「今後の参考にさせてもらいます」
「だから、あんたに“今後”は無いのよ」
「それはやってみないと分かりませんよ」
「へぇ、悪質宇宙人もジョークを言う時があるのね。いいわ、教えてあげる。私が欲しいのは――」
百夜は長い腕を真っ直ぐ伸ばし、私の隣に立つ零洸を指差した。
「そのカラダが欲しいの」
「何を言って――」
私は零洸を制し、百夜に先を話すように促した。
「ボロ雑巾みたいになった未来ちゃんを連れて行って“ある奴”にあげるの」
「では何故、私まで呼んだのですか」
「ついでよ。あんたも、GUYSも、ウルトラ兄弟も、みーんな邪魔者は消して帰るのよ」
「そうですか」
やはり彼女は、どこかの侵略者の手先だ。地球侵略の障害を全て排除するために来ている尖兵なのだ。
しかし気になるのは、零洸の“身体”というワード。一体どんな意図で彼女を……。
「さーてと、おしゃべりはここまで。思う存分戦いを楽しみましょうよ」
「レオルトン、キミは下がっていてくれ。私が前に出る」
「援護します」
「……済まない」
彼女は一歩、私より前に出た。
そしてパーカーのポケットから、ペンのような形の道具を取り出した。
「クリムティア。もう一度、力を貸してくれ。――ハッ!」
彼女はそれを高く突き上げ、白い光に包まれた。
「それじゃ、私も」
百夜も、零洸の道具に形の似た物を掴む。
「へーんしん♪」
彼女の身体が紫色の光の中に消える。
そして、2人の超人が相対した。
光の戦士ウルトラウーマンソルと、ソールクラッシャーが、戦いの火蓋を切った。
「ハァッ!!」
「うふふふ!!」
ソルは手の甲からブレードを出し、ソールクラッシャーはブレスレットから現れた黒い薙刀を手に、両者は激突した。
「未来ちゃん、最初よりもキレが無いわよぉ?」
「く……」
明らかにソルが劣勢であった。
しかし彼女は一対一で戦っているのではない。
私は予め装着していたブレスレットのスイッチを押し、その作動を確認した。そしてソルを援護するための光線を連射し、百夜の刃を止める。
「邪魔よ!!」
ソールクラッシャーは一度ソルから距離を取り、薙刀を横に振るい、私の光線を打ち消した。
その隙を、ソルが素早く突く。ソルのブレードが百夜の胸を斬り裂いた。
「浅いかっ!」
「良いコンビネーションじゃない!!」
ソールクラッシャーは胸を押さえながらさらに距離を取り、薙刀を放り捨てた。
「もっと小回りが利いた方がいいわね」
彼女は再びブレスレットに触れ、今度は取っ手が黒い二本の短剣が現れる。
「いくわよぉ!」
「ヘァ!」
両者の刃が再びぶつかり合う。しかしせめぎ合いは短く、ソールクラッシャーはソルの斬撃を飛び避け、上空から2本の剣を投擲した。
「ウルトラギロチン!」
円盤状の光の刃が2枚、ソルの左手から放たれた。それぞれソールクラッシャーの短剣と弾き合う。
「レオキック!!」
上空からの強烈な蹴り技が、彗星のごとくソルを襲う。
「くっ!」
ソルはぎりぎりのところで後退してそれを避ける。レオキックが炸裂した地面には大穴が開き、噴煙が舞った。
その砂埃の中から突如、鋭い光線が飛んできた。
ソルは不意を突かれ、光線は彼女の腹部に突き刺さった。
彼女の身体は後ろに大きく飛ばされ、地面を弾むように転がっていった。
「戦士レオの……それに戦士80のウルトラレイランスまで……」
「当たり♪ レオキックは加減が難しいから嫌いだけどね」
「戦士たちの技を……これ以上愚弄するなっ!!!」
ソルは大声と共に立ち上がり、両腕をL字型に構えた。
その手の甲に埋め込まれている鉱石が“青い”光を放った。
「スペシュウム光線、いっちゃおうかしら」
ソールクラッシャーは同様に、両腕を構えた。
「未来ちゃん、バイバイ」
凄まじい威力の光線が、奴の腕から放たれた。
その光線に全く反応出来なかったのか、ソルは何もできず、光線を食らった。
何かが弾けるような音と共に、スペシュウム光線の光でソルの姿が、消え去った。
「こうしてみると、あっけな――」
光が消えたその時、私とソールクラッシャーの目に映ったのは――“氷のように砕けかけた”ソルの分身だった。
「まさか――」
「百夜ぁぁっ!!!」
突如ソールクラッシャーの背後に現れたソル。
彼女は先ほどと同様に両腕をL字型に組んでいた。
「ラス・オブ・スペシュウム!!!」
振り向きざま、ソールクラッシャーは至近距離でソルの必殺技の餌食となった。
胸を撃たれたソールクラッシャーの身体は、屋上のフェンスを突き破って外に投げ出された。
そのまま彼女は、暗い校舎の下へ消えていった。
「はぁ……はぁ……」
「今のは、ちょっと効いちゃった……!」
「っ!?」
馬鹿な……奴は、ソールクラッシャーは生きていた。
ソルの必殺技の直撃にもかかわらず、彼女は校舎の下からゆっくりと浮いてきた。
その姿を見るのと同時に、ソルはその場に膝をつき、倒れた。
「お疲れ様♪ さて、次はお前よ、メフィラス。って、何をこそこそやってるのかしらぁ!?」
「ちっ」
ソールクラッシャーは猛スピードで、こちらに突進してくる。
タイミングとしてはベストではないが、仕方ない。私は懐から小さなスイッチを取り出し、推す。
その瞬間、私の真ん前で彼女の動きが止まった。その身体には、淡く光る紐状のエネルギー体が絡みついている。
「何これ」
数日前、地球に侵入したガルナ星人の死体から回収した拘束道具に改良を加えた物だ。零洸の動きすら封じたそれの効力は、なかなかのものである。
とはいえ、先ほどソルが与えた一発のダメージのおかげであることは間違いないのだが。
「いつの間に……!」
「友人に頼んで、仕掛けてもらいました。貴女が屋上を見張っていることは予想できたので」
ここに来る前――長瀬に電話で頼んで、仕掛けてもらった罠である。もちろん本人は私の意図など知る由も無いだろうが。
「百夜過去、いやソールクラッシャー。ここで仕留めます」
私は左腕を前に付きだし、その手首に装着しているブレスレットに触れる。バチバチと音が鳴るほどに圧縮されたエネルギーが、一気に射出された。
「超魔光閃」
黒色の光線が、至近距離でソールクラッシャーの胸に突き刺さった。
「ぐふっ!!!」
彼女の身体は吹き飛び、後方の水槽タンクに激突した。その瞬間、巨大な爆発とともに、タンクは木端微塵に砕けた。タンクに貯蔵されていた水が蒸発し、湯気が周囲を包む。辺りに散った炎が夜闇の屋上をぼんやりと照らしていた。
「ふぅ……」
私はブレスレットを外し、膝に手をついた。
久々に放った、私の必殺技と言える光線『超魔光閃』。ブレスレットのおかげで身体への負担は最少に抑えたが、それでもこの技は難儀である。
「レオルトン、キミはこんな力を……」
「そんなことより零洸さん、早馴さんの救出を」
「あ、ああ」
彼女は人間態に戻り、十字架に縛られた早馴に近づいた。
しかし彼女が一歩踏み出したその時、水蒸気の靄の中を黒い影が駆け抜けた。零洸の身体は突き飛ばされ、フェンスにぶつかった。
「なめるんじゃ……ないわよ」
ソールクラッシャーは、まだ生きていた。胸を押さえながらも、しっかりと2本の足で立っていた。彼女は、倒れた零洸の顔面を思い切り蹴とばした後、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「やってくれるじゃない……メフィラス星人ごときが」
「く……」
「こんな攻撃、効かないわよ」
彼女は高笑いをあげながら、私に向かって走り出した。
「くそっ」
私は咄嗟に、近くの扉から校舎内に入った。その扉を破壊し、やはりソールクラッシャーが追ってくる。
「逃がさないわ。殺してやる」
彼女は怒りで声を震わせながら、夜の校舎に足音を響かせていた。
―――その4に続く