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北京でのソルの戦いの映像を、私は“円盤”の中で目にしていた。
百夜に負わされた傷を癒しながら、私はモニターに釘付けとなっていた。
人間には分からない宇宙語での会話が、ソルと謎の巨人の間で交わされていた。あの巨人は紛れもなく百夜過去だ。
奴は私の前から早馴を連れ去り、ソルを倒し、再び姿を消した。
私は船内の操縦席に向かった。操縦桿の下に設けられた収納スペースを開き、久々に“これ”を手首に着ける。
このブレスレットを再び装着することになるとは、私も相当追いつめられているということだな。
私が自分の手首を凝視している時、簡易ベッドに置きっ放しになっていたスマートフォンが着信を知らせた。
その相手は、百夜である。
『もしもし? 傷は治ったかしら? メフィラス星人』
『何の用です』
『愛美ちゃん、返してほしい?』
「ええ。今すぐに」
『意外な答えね』
「貴重なサンプルですから」
早馴には、私の4か月の人間生活が導き出した答え――人間の“心の強さ”を打ち砕く手段が全く通用しなかった。
彼女が特別だったのか、そうでないのか検証の必要があるのだ。
『じゃあ、チャンスをあげるわ。今日の真夜中に学園の屋上に来なさい。未来ちゃんも一緒にね』
「零洸さんは生きているのですか」
『殺すつもりは無かったの。じゃあ、待ってるわね♪』
通話が切れる。
私はスマートフォンを置き、目を閉じる。
百夜過去、いやソールクラッシャー。今彼女について分かっていることは少ない。ウルトラ兄弟の技が使えること、ソル以上の戦闘力を持つこと、そして残虐性。
真正面から戦えば、私には勝ち目は――
そんな思考を遮るように、再びスマートフォンのバイブレーションが鳴る。
「はい」
『……ニルセンパイ、その、大丈夫ですか?』
「長瀬さん。私は特に問題ありませんが」
『そっか。なんか、声がいつもより元気ないから』
「大丈夫ですよ。それより、どうしました?」
『ううん。ちょっと電話したくなっただけです。元気かなって』
「……長瀬さん、1つおね――」
私は口をつぐんだ。
一体何を考えているのか。
百夜との戦いに彼女を利用しようとした。地球人の力など借りて――
『言って下さい、ニルセンパイ。私、何でもしますよ?』
「……何でもありません」
『嘘です。今何か頼もうとしましたよね?』
彼女は優しげに言った。電話越しにもかかわらず、何故だか今、彼女がどんな表情をしているのかが分かる。
長瀬はいつも笑っているのだ。
その笑顔が、私に遠慮するなと言っている気がした。
「じゃあ、1つだけお願いしたいことがあります。うちの近くの電話ボックスに来てもらえませんか。1人で」
『オッケー了解、承知のすけ! すぐ行きまーす!』
彼女は電話を切った。
私は数秒間、自分のスマートフォンを見つめた後、すぐに行動に移った。
やるべきことを終えて自宅に戻ると、扉の前には予想外の人物が居た。
「あぁ、外に居たのか」
「零洸さん……大丈夫ですか?」
「何とか……な」
零洸未来は今にも倒れそうな様子で、扉に寄りかかって立っていた。
「入ってください」
私は彼女に肩を貸してやり、部屋の中に入った。取りあえず零洸のことはベッドに座らせたが、横たわろうとはしなかった。
「戦闘はこちらで見ていました」
「百夜は……気配が追えない」
「それよりも、何故貴女がここにやって来たのかを聞かせて下さい」
もしや、私と早馴の接触に勘付いているのか?
「これを、見てくれ」
私は、彼女が差し出してきた携帯電話を開いた。
「私と共に深夜0時の学園……私にも報せが来ていましたよ」
「そうだったのか」
「早馴さんを返してほしければ、と」
「ヤツは、私たちをおびき寄せて、何かする気だ」
「見当はついていますか?」
「いいや。ただ、百夜は私をわざと殺さなかった。急所を狙わなかったんだ」
「奴の狙いは分かりませんが、ともかく行くしかありません」
「もちろんだ……だが、キミは行くな」
「何を言って――なるほど、私はまだ信用できませんか」
零洸はゆっくりと顔を上げた。
「違う。キミを巻き込みたくない」
「……」
「何かおかしいことを、言ったか?」
「いいえ。しかし今回は貴女の言うことに従えません」
「ふっ……いつもの、ことだな」
彼女は力なく笑って、立ち上がった。
そして突然鋭い目つきになったかと思うと、素早い右アッパーが私の腹を狙おうとする。
しかし彼女の拳は、私の左手で遮られた。
「私を動けなくするために、ここに来たのですね」
「今の私では……無理のようだ」
「それに、私が行かなかったばかりに早馴さんに危害が加えられてはいけません」
「……しかし、キミには協力する道理がないはずだ」
「大切な友人のためですよ」
私は彼女の両肩に手を置き、静かに座らせた。
「これをどうぞ」
「……栄養ドリンクか?」
「私が独自に作った栄養剤です。飲まないよりはましです」
「ありがたく、もらっておく」
彼女は瓶のふたを開け、黄色い液体を一気に飲み干した。
「……これは、不味いな」
「良薬は口に苦し、ですよ」
「何だか、キミと話していると危機感が薄れる気がする」
零洸は相当弱っていたようで、間もなくベッドに倒れた。睡眠剤入りの急性回復薬は、光の戦士にも効くらしい。
深夜0時まで、残り6時間。
決戦は、近い。
―――その3に続く
殺し屋超獣 バラバ
登場作品:ウルトラマンA
アゲハチョウでなく、その幼虫と合成させるという素晴らしいセンス。多彩な能力とエースキラーとセットで出てきたので覚えている人も多いはず。