=========================================
北京。
中国の首都であり、現在あらゆる意味で世界の中心の1つであるこの都市が、今や超獣バラバの手によって蹂躙されていた。
右手には棘の付いた鉄球、左手には鎌状の刃、頭部からは剣が突き出ているその姿は、まさに“全身武器”であった。
『ハァッ!』
そこにソルが現れる。彼女は基本フォームの「プリズムタイプ」から、氷の操り手「ブルーアイスタイプ」に姿を変え、バラバと対峙した。
『ギャース!!』
バラバの右手が振り下ろされる。ソルは両手の間に氷の盾を形成して受け止めようとしたが、バラバの鎌の切れ味は凄まじく、その盾を一刀両断してしまった。
ソルは後退して距離を取り、両手を合わせた。そこから超高圧の水流が放たれた。『アクアバニッシュ』と呼ばれる技である。ソルの技と同時に、バラバの頭部に装着された剣が射出される。光線のように放たれた水流と、高速で飛来する刃がぶつかり合う。高速の刃が水の勢いを断ち切り、ソルの元に突き進んだ。
しかしソルは、それを完全に読んでいた。ソルは迫る剣を掴み、そのままバラバに向かって投げ返す。剣はバラバの胸に深々と突き刺さり、辺りに耳障りな悲鳴が響き渡った。
それに追い打ちをかけるように、ソルは『アイスバインド』を放つ。4つの氷の輪はバラバの両手両足を縛り、そこを起点にバラバの四肢は氷づけとなった。
ソルはブルーアイスタイプからプリズムタイプに変身し、ラス・オブ・スペシュウムの構えを取った――が、エネルギーチャージの直前、動きの奪われたバラバの足元に気付いた。救助用のマイクロバスが3台、瓦礫のために停車していたのだ。100人を超える避難民が、そこに乗っていた。
(く……このままでは止めがさせない)
ソルは構えを解いた。
その瞬間、バラバの頭部が木端微塵に爆散した。そして続きざまに胴体までもが砕け散り、肉体の残骸が地面に飛散した。
最後に巨大な爆発が起こる。
真っ黒い噴煙が徐々に消え去ったその場にソルが目の当たりにしたものは、爆発によって更地となったクレーターだけだった。
もちろん、マイクロバスは跡形もなく消滅していた。
『誰だ……!』
ソルは上空に目を向ける。
彼女は見たのだ。
バラバの頭上遥か先から、一本の光が降り注いでいたことを。
そして彼女は、その光を知っていた。
『メタリウム光線。そりゃ見覚えあるわよねぇ』
ソルの視線の先、暗雲が一瞬で晴れる。煌々と輝く太陽を背に、一体の巨人が舞い降りる。
『そ、その姿は……!』
『ふふっ。びっくりしたかしら?』
巨人はゆっくりと地面を踏みしめた。
銀色の巨躯、女性的なライン、紫色に輝く双眸。
一見するとソルを真似た外見である。しかしその巨人の身体の所々には、鈍い光を反射する防具が装備されていた。両肩には鎧があり、そこから肘にかけて布のような装飾がなされている。そして下半身には、足の外側だけを沿うようにかたびら状の鎧が備わっていた。
そして彼女の胸には、黒い“カラータイマー”が静かに輝いていた。
『この姿では初めまして、未来ちゃん』
『その声、やはり百夜か』
『声だけで分かってくれたんだ! 嬉しい♪』
『お前……何者だ』
『私は私。さ、お話しは後にして、楽しみましょうよっ!』
銀色の巨人が左腕を前にかざす。その腕に巻かれたブレスレットが紫色の光を発し、その中から黒と銀色の薙刀が姿を表した。巨人は薙刀を頭上でくるくると回し、構え、走り出した。
『百夜っ!』
ソルは手の甲からソールブレードを展開し、百夜の一撃を受け止めた。
『これこれぇっ!! その時をずっと待ってたのよ!!』
数回刃が交わり、両者は距離を取った。
『やっぱり楽しいわぁ……でも、あんまり長居は出来ないのよね』
巨人は薙刀を捨て、その右手を前に突き出した。
彼女が手を開く。
『っ!!』
『ご対面♪』
ふわふわと浮遊するエネルギー球体が、巨人の手の中から現れた。その中に閉じ込められているのは、十字架にはり付けられた早馴愛美だった。
『愛美に……何をした』
『何もしてないわ。眠ってるだけよ?』
『愛美を返せ!』
『イヤよ。返してほしかったら、力づくで――』
巨人の言葉が終わる前に、彼女の手首に光の鞭が絡みついていた。
『もうっ。未来ちゃんったら手が早――』
その瞬間、巨人の右手首が切断される。切り離された手は地面にぼとりと落ちて、球体だけが空中に取り残された。
ソルは鞭を再びブレードに戻し、呆気に取られている巨人に向けて突進した。
ブレードの切っ先は真っ直ぐ、巨人の胸を貫いた。
『う、そ……』
『愛美は返してもらう』
ソルはブレードを消滅させ、両手でそっと球体を掴もうとした。
しかしその手は、愛美のもとには届かなかった。
『ぐぁっ!!』
ソルの腹部に強烈な蹴りがねじ込まれ、その巨体は遥か後方の紫禁城まで飛んだ。赤く優雅な建造物は彼女の下敷きとなり、ただの瓦礫となった。
『ざーんねん♪ まったく効いてませんでしたぁ!!』
巨人は高笑いを上げながら、再び球体を鷲掴みにした。そして自分の後ろに放り投げ、自身は両手をカラータイマーの前で合わせる。そこで強大なエネルギーをチャージした後、右腕を後ろに引いて投擲するような構えを取った。
『その構えは――』
『ほら未来ちゃん、立たないと』
『貴様は……倒さなければならない!』
ソルは立ち上がり、両腕をL字型に構える。
『ラス・オブ・スペシュウム!!!』
ソルは金色の光線を放つ。
『M87光線』
巨人はそれを迎え撃つように、引いた右手を突き出して白色の光線を放った。
両者の光線技がぶつかり合い、凄まじい衝撃波を起こした。その衝突点の周辺はありとあらゆる物体が塵のように砕け散っていた。
『どうして……戦士ゾフィーの技を! それに――』
『エースお兄さんの技も?』
巨人の嗤い声と共に、白色の光線は徐々に出力を上げていた。
『最後だから教えてあげる。私の名前は、ソールクラッシャー』
光線同士の衝突点はじりじりとソルの側によっていき、遂にはソルの光線が消滅し、白い光の一閃が彼女の肉体を貫いた。
『未来ちゃんを、壊しに来たの』
ソルは声1つ上げることなく、静かにその場に、倒れた。
彼女のカラータイマーの光は悲鳴を上げるように点滅し、やがて消えかかる。
『終わっちゃった。さてと』
巨人は、一歩一歩ソルに近づいた。
そして、倒れる彼女に巨人が触れようとした時、ソルの巨体は光の粒子となって、消え去った。
『あら、やっちゃった』
巨人はため息をつきながら、愛美を閉じ込めていた球体を自らの手に引き寄せ、それを掴んで空に消えた。
第27話「光と闇の輪舞」
異次元超人 ソールクラッシャー
登場