留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第20話「Oh,my lovely brother !!」(後編)

 放課後となった。

 

「はぁ……」

「どうしたの? いきなりため息なんて」

 

 早馴が私を気にかけるとは、私は随分これ見よがしにため息を吐いていたようだ。

 

「この後用事がありまして。では、また明日」

「てか! 昨日の件はどうなったの?」

「昨日の件……早坂くんのことですか?」

「そう!」

「好きな人がいるそうです。では、急ぎますので」

「あ、え、嘘!?」

 

 つい話してしまった、と後悔したのは、既に校舎を出た後だった。

 私は重い足取りで学園の正門まで向かった。

 

「やっほー」

 

 少し待っていると、今度は徒歩で早坂姉はやって来た。流石に学園まであの車では来ないか。

 

「どうも」

「本当に来てくれたのね。嬉しいわ」

「約束ですから」

「ふふっ。流石ね。じゃ、行くわよ」

「あの、流石に目立ちますよ」

 

 早坂冥奈は、人間的価値観からすると相当の美人で目立つ女だ。それに、学園内に制服を来ていない人間が居るというだけでも不自然になってしまう。

 

「大丈夫。これを見なさい」

 

 彼女は手にしていた紙袋の中身を私に見せた。

 

「制服……」

 

 ……今のお前には少々無理があるだろう。

 

「今、絶対無理だって思ったわね」

 

 彼女はジト目で私を睨んだ。

 

「決して思っていません。貴女なら似合いますよ。美人はどのような服でも映えますからね」

 

 私は、出来る限りの笑顔を見せた。

 

「もちろんよ。ちょっとここで待っていなさい」

 

 彼女はここから近いコンビニの方へ歩いて行った。

 それから数分後、制服に身を包み、長い髪を隠すためにかつらを被っている彼女が戻って来た。

 

「大分女子高生でしょ?」

「はい。これなら大丈夫でしょう」

 

 メイクとかつらだけでここまで変わるとは。若返りの変装も完璧だ。やはり下地がいいのだろうか。

 ……何を素直に褒めているのだ、私は。

 

「では付いて来てください。くれぐれも目立つ行動はしないように」

「分かっているわ」

 

 私と早坂冥奈は、共に武道場へ向かった。

 

「あらぁ? レオルトンじゃない」

 

 その途中、今一番会いたくない人間に出会ってしまった。

 百夜過去が、鞄を片手にこちらにやって来る。

 

「教室で良く聞くわ。ニル・レオルトンはスケベの女ったらしだって」

 

 百夜は私の後ろに立つ早坂冥奈を一瞥する。

 

「ふふっ。今日のおもちゃは結構上等ね♪」

「根も葉もない噂です。気にしないでください。それから、その言葉は彼女に失礼です」

 

 そう言って後ろを振り返ると、笑顔の中にかなりの怒りが込められている早坂冥奈の顔があった。

 

「あら? もしかして私にヤキモチ妬いてる? まぁ、レオルトンくん格好いいものね」

 

 早坂冥奈は、百夜に対して嘲るような笑みを浮かべた。

 

「へぇ。言ってくれるわね」

「あらあら。そんな怖い顔をしないで」

「どうかしら? ムキになってるのはアンタの方に見えるわよ?」

「あ、あの。百夜さん、今日は失礼しますから、また後ほど」

 

 今にも殴り合いを始めんばかりの雰囲気を壊し、私は早坂冥奈の手を引いて百夜の前から去った。

 百夜も下手に追うことはせず、「つまんないの」と言って校門へ向かって歩き始めた。

 

「彼女につっかかってはダメです。彼女は問題児ですから」

「あれ、ムカつく娘ね」

 

 そうか。この女を見た時に、私は百夜に似ていると思ったのだな。似た者同士はそりが合わなそうだ。

 

「とにかく、剣道部の部活を見に行きましょう」

 

 それからは特に問題無く武道場へ到着した。

 少し遅くなったためか、剣道部の練習は既に始まっているようだった。掛け声が建物の中から聞こえてくる。

 

「早くゆっきーが見たいわ」

「焦ってはダメです」

 

 誰かに見つかってはことだ。今回は慎重に進めなければいけない。私たちは建物の外を回り、剣道部の様子が見える窓の前でしゃがみこんだ。

 すると、場内から響く、床を蹴る音が一斉に止んだ。休憩時間になったのだ。

 

「っ! ゆっきー」

 

 彼女が声を上げる。彼女の視線先には、胴衣姿で外に出てきた早坂と、雪宮悠氷の姿があった。2人は何かを話しながら自動販売機へ向かって歩いている。早坂は随分楽しそうである。

 しかし雪宮悠氷。部長とはいえ、宇宙人のくせに部活に一生懸命だな。

 

「……」

 

 彼女を見ている間、先程までやたらとうるさかった早坂冥奈が、急に黙りこくった。

 

「どうしました?」

「あの子、何者?」

「彼女は剣道部の部長です。名前は雪宮悠氷」

「っ!? 彼女が……雪宮、悠氷」

「雪宮さんがどうかしましたか?」

「ゆっきーと彼女、仲良いの?」

「まぁ、部長と副部長の関係ですからね」

「……帰るわ」

 

 彼女は急に立ち上がり、来た道を戻ろうと歩き始めた。

 

「練習の様子は見ないのですか?」

「もういい」

 

 彼女の表情が変わった。雪宮のことで驚いているのかもしれないが、それ以上に何故か寂しげな雰囲気をまとっていた。

 

「今から暇でしょ? ちょっと付いてきなさい」

 

 彼女は強引に私の手を取り、剣道場を離れていった。

 

 

 

 その後私たちは、近くのカフェに入った。食欲は無かったが、彼女が奢ってくれるというので、試しにハンバーガーなるものを食べた。これがアメリカの味か、と今更ながらに実感した。

 彼女は変装時の恰好のままで私の向かい側に座っている。その表情は若干の陰りを帯びている。

 

「まさかね……雪宮悠氷があんな可愛い女の子だと思わなかった」

「弟さんから聞いていたんですか?」

「ええ。弟が言ってたわ。好きな人はいないけど、同じ部活をしている人にとても尊敬できる女性がいるって」

 

 それが雪宮なわけか。

 

「はぁ……剣道で抜群に強いというから、すごいゴリラみたいな女を想像して油断していたけど……あれ程なら、惚れてもおかしくないわね。それに、これ見てちょうだい」

 

 彼女はバッグから手帳を取り出し、その間から一枚の写真を抜き取った。

 

「それは、雪宮さんですね」

「これ、ゆっきーの部屋に落ちていたのよ」

「そうでしたか」

「そうでしたか、じゃないわよ! 普通“ただの先輩”一人が映った写真持ってる?」

「つまり“ただの先輩”ではないのでは?」

「何よそれ! “ただの先輩”じゃないってどういうことなのよっ!」

「特別なんでしょう」

「と、特別……?!」

 

 早坂冥奈はぐったりとテーブルに倒れ伏した。

 

「ゆっきーの特別は、私だけだと思ってたのに……」

「年頃の男子高校生ですから、そういう相手がいてもおかしくはないでしょう」

「君にもいるの?」

「特にいませんが」

「あっそ」

 

 彼女は突っ伏したまま、小さな唸り声を上げ続けていた。たがやがて頭を上げ、私をじっと見つめた。

 

「雪宮悠氷って子、良い子かしら」

「悪い噂は聞きませんね」

 

 雪宮の正体を知っている私からしてみると、その二人が結ばれることはあり得ないわけだが、雪宮を人間と仮定してしまえば話は別だ。

 雪宮の陰の人気については草津から嫌というほど聞かされた経験がある。早坂がそれに惚れても、たしかにおかしくは無い。

 

「あの子、ゆっきーはね、とても優秀で、優しくて、綺麗な顔をしていて、本当に申し分のない子なの。でも、私が目立ち過ぎていたのね。あの子は私と自分を比較して、どこか気弱になってしまった気がするわ。だから、私や雪宮悠氷のような、強い女性に惹かれるのかもしれない」

「彼女のことが気に入りませんか?」

「いいえ。何も知らないから何とも言えないわ。それだけに心配よ」

 

 彼女の顔は、ただの女から姉の顔へと変わっていた。人間が誰かを想う時の表情は、今ならある程度分かる。

 

「彼女と面識あるの?」

「一応」

「どう思った?」

「悪い人間ではないように思えます」

「……そう。じゃあ私帰るわ」

「送りますよ」

「いいの。ちょっと一人にさせて」

 

 彼女は気落ちしたというよりは、早坂を心配する気持ちを抑えられない様子のまま、私の前から姿を消した。

 

 

 

 

―――次の日。

 

「……」

「あら。おはよう」

 

 ここは私の家の前である。

 学園へ向かう為に家を出たところで、昨日と同じ変装姿の早坂冥奈が曲がり角から現れたのだ。

 

「……どういったご用件ですか?」

「そんなこと決まってるじゃない。もう一度学園に忍び込むのよ。そういうわけで手伝って。断らないわよね?」

 

 この女がどうやって私の自宅を突き止めたのか、そしてこの女の神経はまともなのか……頭に浮かぶ疑問は様々だが、取りあえず私は彼女と一緒に学園へ向かうことにした。

 

「早馴さんに?」

「ええ。ちょっとした知り合いなの」

 

 まず私の家の場所を知った経緯を問いただすと、彼女は涼しい顔で「愛美ちゃんから聞いたわ」と言った。

 

「まぁ、別に構いませんが。しかし潜入すると言っても、まさか朝から一日中のつもりではないでしょう?」

「何言ってるの? そのつもりに決まってるじゃない」

「……百歩譲って休み時間はお手伝い出来ますが、授業中はどうするつもりですか?」

「百歩譲ってだなんて生意気ね。ま、その時はトイレにでも隠れているわ」

 

 彼女は楽しげに話しているが、私としてはこの厄日をどう過ごすかについて、先の見えない煩わしさを抱えるばかりであった。

 

 

 

 1時限目の授業後、私は早馴を連れだして人通りの少ない階段の踊り場に来た。

 

「あ、あのさ……どういうつもり?」

 

 早馴は突然の出来事に戸惑っているのか、言葉の歯切れが悪かった。

 それ以上に彼女の頬の紅潮が目立つが、理由は分からない。

 

「実はですね」

「久しぶり、愛美ちゃん」

 

 堂々と下の階からやって来たのは、早坂冥奈だった。

 

「その声、冥奈さん!?」

 

 変装をした早坂姉の姿に、早馴は驚きを隠せずにいた。しかし、すぐに私に視線を移し、目で伝えてくる。「どういうわけ!?」と。

 私は事の次第を軽く説明した。

 

「それが、之道がおかしかった理由?」

「そうだと思います」

「ふーん。じゃあ私は戻ろうか――」

 

 私は思わず、早馴の腕を掴んだ。

 

「こ、この手は何かな……? ニル?」

「そういうわけで、手伝って欲しいのです」

「なんで私が!?」

「元はと言えば、早馴さんが気になっていたことですからね」

 

 私はありったけの笑みを作った。面倒事は分け合うのが、人間の美徳というものだろう。

 

「えええぇ……」

「あら、女の子に助けを求めるなんて情けないのね」

 

 早坂冥奈は、早馴に後ろからくっつきながら、ほくそ笑んでいる。

 

「自分で言うのもなんですが、私と2人きりで居ては下手に目立ってしまいます。しかし女子の早馴さんを含めて3人なら、いくらかましです」

「はぁ……分かったよ。冥奈さんの手伝いだってなら仕方ないけどさ、之道にばれないんですか?」

 

 それは私も考えていたことだ。弟なら姉の変装ごとき見抜いてしまうだろう。

 

「安心して。今日は弟を監視するために来たのではないの。今日のターゲットは……これよ」

 

 彼女はブレザーのポケットから一枚の写真を出して私たちに見せつけた。

 

「雪宮さん、ですか」

 

 それは、昨日彼女が私に見せた、剣道着姿の雪宮悠氷の写真であった。その無表情で端正な顔立ちは、ピントがぶれること無くばっちりと撮影されている。

 

「これ、雪宮先輩でしょ? いつぞやニルとデートしてた」

「早馴さん、今はそのことは――」

「あぁら、レオルトン君。あなた、ゆっきーの想い人に何をしているのかしら?」

 

 早坂冥奈は笑顔だが、目は全く笑っていない。

 

「一度だけ、一緒に出かけただけです。特別仲良くさせてもらっているわけではありません」

 

 何なら殺されかけた、とは言えんな。

 

「それより冥奈さん。この写真、どうしたんですか?」

「ゆっきーの部屋に落ちていたの」

「うそー! 之道、まさかねぇ……」

 

 早馴はにやにやしながら、雪宮の写真に見入っていた。

 

「それにしても、彼女ってなかなか面白いのね。これ見てちょうだい」

 

 彼女は別の紙をポケットから取り出した。新聞記事の切り抜きである。

 インターハイ剣道3位。表情式の写真が載っている。サムライの魂を持った美少女ここに現る、というタイトルだった。

 ……雪宮、人間に化けて地球に潜伏しているというのに、目立ってどうする。

 

「弟の想い人は彼女よ」

「でもなぁ、前に見た時は、ただの先輩後輩って感じが――」

「彼女がゆっきーの想い人で決まりよ! さ、次の昼休みは彼女を監視するわ」

 

 早馴の疑問は完全無視で、早坂冥奈は一人勢い付いていた。

 

「ねぇニル、ホントにやるの?」

 

 こっそりと早馴が、私に耳打ちした。

 

「それしかないでしょう…」

「何だかめんどくさい予感……」

 

 同感だ。

 昼休みが来るのをこれほど嫌だと思ったのは、地球に来て初めてだった。

 

 

 

 ――昼休みとなった。

 再び階段の踊り場に集合した私たち。私を見るなり早坂冥奈は言い放った。

 

「さぁ、雪宮悠氷の教室に案内して」

 

 侵略者メフィラス星人として、これほどの屈辱があるだろうか?

 私は今、早馴と共に人間の女に使役されている。元々は私が安請け合いしてしまったのが原因ではあるが、それにしても理不尽ではないか。

 

「……ここです」

 

 3年生の教室が並ぶ階に2年生の私たちが居るというだけで目立つというのに、早坂冥奈はむしろ堂々と歩いている。“潜入”しているつもりは毛頭ないようだ。

 私は雪宮の在籍する教室の札を、廊下の曲がり角の陰から指差した。近くを通りかかる生徒たち訝しげな視線を背中で感じる。

 

「っ! 出てきたわ!」

 

 幸か不幸か、雪宮は偶然にも教室を出て行くところだったようだ。

 

「行くわよ」

「冥奈さん、少しは隠れながら行かないと……」

「別に悪いことをしているわけではないもの。こそこそする必要なんて無いわ」

 

 早馴の制止を振り切り、早坂冥奈は廊下の真ん中を大股で歩いて行った。

 

「な、何やってるの?」

 

 背後から声がした。

 しかも、馴染みの声だ。

 

「早坂くん」

「ニルくん、それに愛美さんも。一体何してるの?」

 

 早坂は訝しげな表情で、私と早馴の顔を見比べるようにした。その間、姉の方は黙って歩を進めている。

 

「あ、えっとね、ちょっとこの教室に用事があってね。あはは」

 

 ぎこちない笑みを浮かべて弁解に走る早馴。彼女も苦労しているな。

 

「機遇だね。僕もここに用事が――」

 

 早馴の怪しげな様子を気に停める様子も見せず、早坂は話し始めた。しかし私、早馴と早坂の間に割り込むように、先程歩いて行ってしまった制 服姿の早坂冥奈が飛び込んできた。

 

「まさかゆっきー、雪宮悠氷に用があるの!?」

「ね、姉さん!?」

 

 変装空しく、早坂は一発で気付いたようだった。流石は姉弟だ。

 

「……何をしているのかな?姉さん」

「散歩よ!」

「何それ! 生徒でもないのにこんな所に……しかも昔の制服を引っ張り出して!」

「大事なことよ。あなたの想い人をこの目で確かめるわ」

「な、なんだよそれ!」

 

 早坂は顔を真っ赤にした。

 

「この子。雪宮さんでしょう? 部屋に落ちていたわよ」

「この写真……やっぱり姉さんが持ってたのか!」

「好きなのね? そうなのね!?」

「ち、違うよ! 雪宮先輩はそういうんじゃなくて――」

「あのさ……彼女、もう見えなくなったけど」

 

 早馴がおずおずと口を挟む。

 

「いけないわ。追うわよ。来なさい2人とも」

 

 早坂冥奈は、私と早馴を強引に引っ張って、雪宮の消えた方へと早足で歩いた。それに早坂自身も追随していく形となった。

 急いで歩いたおかげで、早々に雪宮の姿を確認することが出来た。彼女は登り階段に差し掛かった。向かう先は屋上らしい。

 

「一人で屋上だなんて、寂しい子ね」

「先輩を悪く言わないでよ、姉さん」

「だって、一人で何しに行くのよ」

「……告白される、とか?」

 

 早馴が姉弟に混ざる。その意見に、早坂冥奈は「なるほど」と呟きながら雪宮の後を追おうとした。

 

「そ、そんな……もう止めようよ」

 

 早坂は、口ではそう言っているものの、雪宮の向かった方向を気にするそぶりを見せている。

 結局、早馴の言葉がきっかけとなり、早坂姉弟のやる気はまるまる上がった気がする。

 雪宮が屋上に通じるドアを抜けていったのを確認し、私たちは一気にドアの所まで走った。

 聞き耳を立てても意味が無いと判断した早坂冥奈は、静かにドアを開いた。

 私たちは屋上に出て、近くの貯水タンクの陰に隠れて屋上の様子を見張った。

 

「うわっ、やっぱり」

 

 早馴が微妙に弾んだ声を出した。どうやら彼女の予想通りだったようで、屋上の真ん中に雪宮と、見知らぬ男子生徒が向かい合って立っていた。

 私は聞き耳を立てた。参考までに、2人の会話を聞かせてもらう。

 

 

「来てくれてありがとう、雪宮さん」

 

 雪宮を呼んだ男だ。高身長の好青年といった印象である。

 

「実は大事な話があるんだ。聞いて欲しい」

「うん」

「僕、ずっと前から君のことが好きだった。付き合って欲しい」

 

 

「陳腐な告白ね。もう少し凝りなさいよ」

「あれくらいストレートな方がいいかな、私は」

「静かにっ」

 

 姉、早馴、早坂は、2人の様子に目をくぎ付けにしながら呟いた。

 

 

「それはできない」

 

 即答だ。流石は宇宙人、と言ったところか。

 

「……そっか」

「それじゃ」

「あ……うん」

 

 

「帰るわよ。急ぎなさい」

 

 返事を終えた雪宮がこちらに戻って来るのを確認し、私たちは急いで屋上を後にした。

 教室への帰り道、私たちは終始無言だった。

 

 

=========================================

 

 その日の夜半、青白く輝く銀髪をなびかせながら、1人の少女が森の中に佇んでいた。

 彼女の双眸は、夜道を駆ける白いオープンカーに向けられている。

 

「標的を確認した」

『そう。できそう?』

「問題ない」

『なら良かった。じゃあ、電話を――』

「待って。教えてほしいことがある」

『なぁに?』

「彼女の名前を、教えてほしい」

『名前? そんなもの聞いてどうするの?』

「……」

『まぁいいわ。名前は早坂冥奈。ある研究所のチーフ研究員よ』

「……早坂、冥奈」

『で、いつやれそう?』

「それは――」

『そうね、明日にしましょう。早い方がいいわ』

「彼女は、一体どうして――」

『アナタが知る必要は無いわ』

「……分かった」

 

 彼女――雪宮悠氷はすぐと携帯電話を閉じた。

 

 

―――第21話へ続く


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