「以上が
「隊員が二人も殺されたのか」
そのうちの一人、
「ほぅ。まさかGUYSの基地に潜入できた奴がいるとはねぇ」
もう一人の男の名は佐久間ダイキ。彼も同じくメンバーの一人だ。
「この本部が襲われる危険性も十分ある。非常時は発砲も許可する」
「
三河と佐久間が部屋を出て行こうとした時、日向が佐久間だけを呼びとめた。
「彼女にも連絡しておいてくれ。気を付けるようにと」
「自分がですか? 女子と話すのは苦手ですが」
「もう長い付き合いじゃないか」
「いつまでも女子は女子です」
そう言いながら渋々了承し、佐久間は出て行った。
「今日は非番か。徹夜でTRPGでも――」
カツンッ
「……?」
サクマは暗い通路の先を振り返るが、目の悪い彼には何も確認できなかった。
「ふぅ、気のせい――」
「ソルを知っているか?」
「っ!」
佐久間は背中に堅い感触――恐らく銃口――を認めた。しかし彼は決して動揺しない。
既に自分の拳銃――CREW GUYS隊員が携帯するスプレンディッドカンを、懐で握りしめていた。
「答えろ。知っているのか?」
「やめとけやめとけ。俺を殺せば足が付くんやで」
佐久間はにやりとしてそう言った。
「それにソルの正体なんて知らん!」
「役立たずめ」
「じゃあお暇を――」
「知らないのならば、死ね」
佐久間はスプレンデッドガンを抜いた。
廊下に2発の銃声が響いた。
第2話「侵入者現る」
策略星人 ぺダン星人
登場
ニル=レオルトンという人間としてこの学園に潜入してから、2週間が経過した。
「おはようございますわ、レオルトンさん」
私が席に着くと、杏城がこちらに近付いてきた。彼女は女子生徒の中では比較的よく話す方だ。私から接触したことは無いが、彼女が転校生である私を何かと助けようとしてくれるのだ。生真面目なものである。
「おはようございます。今日は少し騒がしいですね」
基本的には騒がしいこの教室だが、今朝は普段以上に思われる。どの生徒もスマートフォンを片手に何やら話しこんでいる。
「朝のニュース速報、見ていらっしゃらないの?」
「いえ、そう言うわけではないのですが」
「これですわ」
杏城がスマートフォンを操作した後、画面を私の方へと向けた。
「GUYS JAPAN本部に侵入者。犯人は隊員一名を襲撃後、沙流市に潜伏している模様」
沙流市とは、この街のことだ。もちろん私がこの情報を知らないはずも無い。
GUYS――この地球を惑星外の存在から防衛する人間組織については、充分警戒している。既に私の円盤に搭載してある高性能コンピュータによって、彼らの情報網への不正アクセスに成功している。
「数日前から国内のGUYSの基地で、犠牲者が何人か出ていたみたいですわね」
「ミステリーを感じる。そうは思わないか?」
新聞記事を片手に現れた草津は、好奇心を目にたぎらせていた。
「内部犯である場合を除けば、どう考えたって人間の仕業じゃない。これは宇宙人の襲撃に違いない」
「じゃあその宇宙人がこの町にいるってことですの……?」
「そうだろうな。これは大変だぞ」
草津が遠い眼で外の風景を眺めていると、
「おはようございます」
「ああ、おはよう。この騒ぎ…例の報道か」
彼女は特に興味を示さなかった。
「皆不安がっているのさ。他人事ではないからな」
「安心するといい。GUYSがすぐに解決するよ」
いつになく真剣な様子の草津に対し、零洸も同じように真面目に答えていた。
「それを祈るばかりですわ。危険な宇宙人が近くにいるなんて怖いですもの」
宇宙人が近くに居るのが怖い、か。それが普通の人間の認識であろう。
しかしそんな恐怖を踏みにじるように、侵入者はこの惑星を手に入れんとしてやって来る。彼らは残酷かつ強力な者ばかりだ。人間を利用したり傷つけたりするのは彼らの常套手段といえる。
私もひょっとすると、そういった連中に接触する機会があるかもしれないな。
「あ、早馴さん、おはようございます」
「おはよ」
「みんな集まってどうしたの?」
ふいに顔を上げた早馴は、草津の持っていた新聞記事を目にすると表情を強張らせた。
「朝のニュースについて話していたのだ」
草津が新聞を広げようとするが、早馴はそこからあえて目を背けるようにして最初の授業の準備を始めた。
「なんだ、機嫌でも悪いのか?」
「別に。宇宙人なんて興味無いだけ」
何やら“宇宙人”という単語に怒気が込められていた気がした。
それからすぐ、
その後1時限目の担当教師が入れ違いに入って来る。その教師は背の高い女性で、凛として堂々と教壇に立っている。赤茶色の長い髪が、凛々しさに妖艶さを加えている。
「おはようございます」
ほほう! これはお美しい先生がいらっしゃったな!
と、草津が口パクで私に伝えてきた。
「先週から入院している菊地先生の代わりに、今月から皆さんの現代文の担当になりました。初めまして、
ウホッ! 退屈な現代文が楽しみになりそうだ。ふはははははっ!
と、またも草津のメッセージ。
「紫苑先生! 率直にお聞きします! 只今彼氏はいらっしゃいますかっ!」
「よく聞いた!草津」
「さすが漢だぜ!」
口火を切った草津に対し、男子から賞賛の声が上がった。女子の反応は冷ややかだが。
「あなたは、草津君ね? いいわ、教えてあげる。私はね……」
「はいっ!」
「ひ、み、つ」
「おうぉっ! これは一本取られました!」
「私のプライベートは内緒よ? それじゃ、授業を始めましょうか」
人間は容姿というものを、あらゆる場において重視している。人間は容姿のいい人間の前では気分を良くするものらしい。
だから私の人間体の容姿がいわゆる“美少年”あることは、人間の中に紛れる上では図らずも有利に働いていた。そのおかげで私と対面する人間(主に女子)は大体気を良くする。
そして今、この教室でも同じ現象が起きていた。
「3行目の『それ』が指している内容。C君は分かるかしら?」
「えへへへ、分かりません」
「予習が足りないわね。次から気をつけないとだめよ?」
「は、は~い」
間違った方向に意識が覚醒しているようだが、大体の生徒(男子に限る)は意欲的に前方、むしろ教師本人に目を向けている。
「じゃあこの段落の要約。レオルトン君、どうかしら?」
紫苑レムが私の名を呼んだ。
「表面や外見ばかりに囚われていると、大事な本質を見誤る可能性がある」
「いいわね。上出来よ」
「ありがとうございます」
私が再び座ると、同時にチャイムが鳴った。
「今日はここまでね。次の時間の予習もしっかりね」
週番の挨拶が済むと、紫苑は妖しくも美しい笑顔を残して去っていく。その背に男子たちの視線を一手に受けながら。
「あ~行っちゃったよ」
「現文が楽しみになるなんてな。菊地の授業じゃありえなかったぜ」
「どうしたらあんな大人になれるんだろう……」
紫苑の美貌に酔いしれる男子、少なからず興味を抱いているであろう女子。
「ふわぁ~」
そんな彼らとは対照的に、早馴は何事も無かったかのような様子で欠伸をしていた。
「早馴さんは楽しみじゃありませんか? 相手は美人教師ですよ」
「いや、アホ男子と一緒にしないでよ。それにさ、先生変わったって現代文は嫌いだもん」
「そうですか」
何事にも無関心な女だな。
しかし周りの元気の有り余った人間たちとは異なる性格は、観察のし甲斐があると言えよう。
―――中編に続く
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