感想を下さっている方々もいつもありがとうございます!
とても励みになります。
今後も失踪することなく、気合、入れて、行きます!
「心当たりのある場所には、結局逢夜乃は居なかった。となれば、ここから闇雲に探したところで見つかる可能性は低い。路頭で倒れている人間が放置されるような国じゃないし、周辺に山や森があるわけでもない。まさか迷子じゃあるまいし、手分けして探して見つかりましたなどとはならないだろう」
大越が不在とあって、昼休み明けの授業は自習だった。
杏城の捜索願が警察に出されたことは、私と早馴、草津、樫尾、早坂の5人だけで共有することになった。私たちはクラスメートにその事実を知られないようにするため、この時間に使用されていなかった音楽室に来ていた。
草津はいつになく冷静だった。今すぐ探しに行こうとする早馴と樫尾を引きとめつつ、自分はノートパソコンで一連の行方不明事件に関連する情報を集めていた。
「分かっているのは、逢夜乃と最後に連絡を取ったのは愛美で、それは逢夜乃の帰宅途中だったということだけだ」
草津はノートパソコンの画面上の地図に、杏城の足跡を赤でマークしていた。
「それは警察にも話している。彼らがそれを手掛かりに捜索してくれているはずだ。俺たちが動くのは、警察が捜索を打ち切った時からだ」
草津はノートパソコンを閉じた。
「俺はしばし情報収集に専念するつもりだ。先に失礼するぞ」
彼は持って来ていた荷物をまとめ、颯爽と音楽室を出て行った。
「あいつ……薄情じゃねェか?」
「違いますよ、樫尾さん。焦っている僕たちと比べて、草津君は冷静に物を考えているだけです。彼の意見が正しいですよ」
早坂も立ち上がる。
「僕はもう一度、逢夜乃さんの友人関係を当たってみます」
早坂も出て行き、樫尾は頭を冷やしてくると言って彼に続いた。
残ったのは、私と早馴だった。
「ねぇニル…こういう時って、どうすればいいのかな…」
「草津の意見に賛成です。今は動かず、情報収集に努めるべきでしょう」
「けど、その間に逢夜乃に何かあったら?」
「相手が危険な存在ならば、なおさら私たちは動くべきではありませんよ。運よく犯人と接触したところで、危険な目に遭う可能性は否定できません。そういったことを考慮して、草津はあのように言ったのです」
「……それでも…じっとしているのは、耐えられないよ…」
早馴の眼の端に、涙が浮かんでいた。
「早馴さん」
「分かってる。今私がここを飛び出したって、何もできないことぐらい…!でも…そうしているうちに無くしちゃったらって思ったら…私…私…」
失うことへの恐怖――以前私を助けた理由を聞いた時も言った――「もう、失いたくないから」という言葉。
彼女がどんな過去を送ってきたのかは分からない。
しかしその過去、恐らく何かを“失った”経験が、現在彼女が見せる、無謀さにも似た強さの由来になっていることは間違いない。
私は、それを知りたくなった。
「私が、あなたの代わりになります」
「え?」
「私が、杏城さんを見つけてみせます」
「で、でも、さっきニル言ったじゃん!それは危険なことだって…」
「そうです。だから私が行きます」
「危ないって分かってたら、行かせられないよ!」
「しかし、最初に探しに行こうとしてたのはあなたですよ?」
「それは――」
「大丈夫です」
私は、彼女の頬に触れた。
「私は何があっても、必ず早馴さんのもとに帰ってきます」
「ニル…」
「だから、安心してください」
「……信じていいの?」
「もちろんです」
「わか―――」
突然、早馴の肌の温度が急上昇した。
「早馴さ――」
「な、何してるのよっ」
何故か、頬をつねられる。
気持ちを鎮めてやろうとした行為(雑誌に書いてあった)が裏目に出たとでもいうのか。やはりソースの信憑性には気を配らなければならないな…。
「いつもいつも…何かといえばすぐに…!」
「痛いですよ」
「もうっ!」
彼女は手を離し、涙ぐんでいた目をこすった。
「お礼を言われるようなことは、まだしていません。杏城さんを連れ帰って来た時まで、その言葉は取っておいてください」
「うん、分かったよ」
私たちは音楽室を後にした。
早馴を先に教室に帰し、私は屋上に向かった。
誰も居ないことを確かめて、私はスマートフォンを取り出す。それからすぐ、沙流市の行方不明事件の捜査本部が存在する警視庁のコンピュータにアクセスしてみた。案の定、捜査資料は全てデータベースに保存されており、私は『沙流市連続行方不明事件』のデータを閲覧した。
メディアなどではさほど大きく取り扱われていない理由がすぐに分かった。発端は先週あたり――ちょうどゴモラが暴れ出した日の数日前だ――とされており、既に行方不明者は30人を超えており、大規模な報道規制が敷かれているようだった。この国はかつて、某国の工作員による拉致事件を経験しており、今回の事件も外国からの攻撃であるとの認識が強かった。外交関係に飛び火しかねないという事情もあり、この事件は今の所実情を秘匿されているのである。よって捜査の方向性としては、外交関係からの情報収集、国内外のテロ組織の動向調査に注力されている。
様々な資料に目を通すうちに、警察の目があまりにも外に向けられていること、そしてある観点に欠けていることに気付いた。
宇宙人による侵略行為という認識が、今のところ警察には無かった。というより、宇宙人関係の専門機関はGUYSである以上、警察では踏み込めない領域なのかもしれない。
チャイムが鳴ったところで、私はスマートフォンを上着のポケットに戻し、校舎内に戻った。
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その頃、セイヴァー・ミラージュのブリーフィングルームには星川聖良、佐久間ダイキの姿があった。
「寂しいっすわー」
「皆、一昨日の戦闘で撃墜されて怪我してるものね」
「事後処理めんどいっすわー」
「頑張ってちょうだい。私とあなたで4人分の仕事をすれば、問題ないわ」
「ぐう畜!」
佐久間がため息をついた瞬間、ルームの出入り口の自動ドアが開いた。
「未来隊員…今日は非番にしたはずじゃ…」
驚く星川に構いもせず、零洸未来は、割り当てられたデスクに座る。
「すみません、隊長。休んでいても落ち着かないので」
「あなた、一昨日は撃墜されているのよ?」
「運良く、というより、小山さんのおかげで怪我はありませんでしたから」
「でも…」
「お願いします。それに、今日は隊長に聞きたいこともあって、ここに来たんです」
「……分かったわ。でもまずは、その話を聞いてからにしましょう。佐久間君、ちょっとお仕事頼むわね」
「え、ちょ、ま」
星川は去り際、佐久間にコーヒーを淹れてやり、未来と共にルームを後にした。
2人は殆ど利用者のいない喫煙室にやって来た。CREW GUYSには喫煙者は1人だけいるが、その男は外の喫煙所を使いたがるため、ブリーフィングルームに一番近い喫煙所を利用する者は殆どいなかった。
「それで、話って?」
「一昨日のことです。何故、ニル=レオルトンの名前を呼んだのですか?」
「…あのことね」
「教えてください!隊長は、彼のことを疑っているんですか?」
「宇宙人として?」
「…そうです」
星川は、今にも飛びかからん様子の未来をなだめるような口調で話し始めた。
「疑い、というレベルにまで至ってはいないというのが、正直な所よ。これは言ったら…ただの憶測。いくつかの事実と、彼と対面した時の印象から導かれた、何の証拠もない憶測」
未来の頭を、様々な場面が映像となって過った。
愛美と逢夜乃を危機から救ったこと。プレゼント選びに付き合ってくれたこと。図書館で、自分のつまらない弱音に、耳を傾けてくれたこと。
そしてそれを追いかけるように、別の事実が現れてくる。
グロルーラに襲われたこと、唯と同じ日に学園を休んでいたこと、そして――
「あの時の侵入者、私の呼び声に反応していた気がするの」
星川の言葉が、棘のように未来の脳裏に刺さった。
思えば最初から、どこか彼には不思議な印象を覚えていた。
「証拠なんて…ありません」
未来は、言い聞かせるようにして言った。
「あなたの言う通りよ。だから私は、このことは公にはしていない。知っているのはあなたと、初対班のワタベくん」
「初期対応班が動いているのですか?!」
「いいえ。彼自身、私の言葉は殆ど信じていないと思う。というか、私だって自分の考えていることが突飛過ぎて信じられないわ。けど、そう仮定するとすっきりするような、真に迫るような感じがするのよ。それに、今初対班はゴーデスとバルタン星人事件の事後処理と、ある事件の捜査で追われていて、私の妄想に付き合っている暇はないわ」
「ある事件?」
「ええ。まだGUYS内では公式発表していないのだけど、最近沙流市周辺で行方不明事件が多発しているのは知っている?」
「佐久間さんが昨日話しているのを聞きました」
「そう。警察では某国の工作員による拉致事件という線で捜査しているけれど、私たちGUYSでは宇宙人による攻撃として捜査しているわ。と言っても、目的も手段も不明で、殆ど捜査は進んでいないわ」
「しかし一体誰が…バルタン星人は、もうリョータさんが宇宙船ごと倒したはずです」
「リョータくんが倒した相手以外にも、まだ地球に残っているとすれば、話は別よ」
星川の通信端末が着信を告げた。彼女は未来に一言詫び、通信に出た。
「何ですって…これで34人目ね。分かったわ。ワタベくんは警察と学園に行ってみて」
「学園…?」
未来は、星川が通信を切る前にそう漏らした。
「未来さん。今日はもう帰っていいわ。あなたのクラスメートの杏城逢夜乃さんの行方が昨日から分からないとして、学園から捜索願が出されたわ。警察は連続行方不明事件の被害者と認定して、捜索を開始したそうよ」
「学園に行きます!!」
未来は星川に背を向け、喫煙所を出て行った。それからセイヴァー・ミラージュの地上出口を飛び出し、彼女は基地の敷地と公道を分ける門を抜けようとした。
「待って」
門を通り抜けようとした未来の右腕を、ジャック=シンドーの手が掴んだ。彼は小さいスーツケースを持って、門の外に止めてある車に乗ろうとしていた。
「ミク、どこへ行くんだ」
「友達の所です」
「そんな目をして?」
未来は、思わず自分の瞼に触れていた。
「君はどうして、そんな目つきをするんだ?」
「私の眼が、どこかおかしいですか」
「悲しい目をしているよ」
「…失礼します」
「ミク!君には守るべき存在、待ってくれる存在が居るんだ!それを忘れちゃいけない!」
未来は振り返らなかった。タクシーを拾い、それに乗り込んで走り去っていった。
「ミク…その感情は、いつか命取りになる。憎しみに呑まれるなよ…」
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午後8時。私はリュックサックを背負いながら、ある場所に向かっていた。
私とGUYSが持つ情報量で決定的に違うのは、私は〝生きている”バルタン星人に遭遇したことだ。GUYSは彼らの宇宙船を撃墜したことで脅威は過ぎたと考えているだろうが、私はバルタンがまだ地球に潜伏しているのを知っている。
とすれば、様々な事実が一本に繋がる。ゴモラの謎の凶暴化に始まるゴーデスの復活は、誘拐を隠すための陽動、そして宇宙船の撃墜も恐らくフェイクだ。彼らは、自分たちの目的がゴーデスの復活であり、その野望は失敗に終わったと〝思わせた”のだ。
ゴーデスが倒されることを予想し、自分たちはこっそりと別の作戦を水面下で進行させる…中々賢いものだ。
それが分かれば簡単だ。バルタン星人は40年以上前から、地球への“移住”という名の侵略と、その失敗に端を発する“復讐”を狙っていた。
それを秘密裏にやろうとすれば――
私は、ある廃ビルの前に立っていた。人通りの多い道路から、狭い路地に曲がった先に突然現れ、周りに立つ高いビルによって、表の大通りからは完全に見えなくなっている。都会に突然現れる廃墟といった感じで、目撃証言が取りにくい位置のようだ。この地点は、行方不明者たちの足取りを統計的に分析し、導いた。人間の技術や知能では難しいものだったろう。
気配を消しながら敷地内に侵入する。足元をよく観ると、複数の足跡がある場所に続いている。そこは廃材やゴミが積もった山だが、何度も崩された形跡があった。
そのゴミ山を崩すと、人一人がやっと通れるくらいの穴が開いていた。懐中電灯で照らすと、縄梯子が掛けられている。
私はもう一度周囲を確認してから、その梯子を降りた。下からは空気の流れを感じる。しかもかなりの風量で、下に大きな空間が開けていることを思わせる。
地面に足が付き、再び懐中電灯で照らす。穴と梯子は粗雑な作りだったが、ここから水平方向に続くのは〝トンネル”と言える程人工的な通路で、その先にはうっすらと明かりも見える。
トンネルを抜けると、肌にまとわり付くような生暖かい空気に触れた。私はリュックサックを背中から降ろしながら、〝そこ”を目にした。
「まさか…そういうことでしたか」
私の仮説はこうだった。
バルタン星人の能力の1つに『乗り移り』がある。別の種族の脳髄を支配し、肉体を自在に操ることができる。バルタンはそうして少しずつ人間に紛れ、自分たちの居場所を創り出そうとしているのではないか。こうして人間に乗り移って1つの場所に集まり、人間社会に紛れる計画を話し合っていたのではないかと考えていた。
それは間違いだった。
私は思わず、息を呑んだ。
目の前に広がる、巨大な空間、そしてそこにひしめく無数の黄色い“卵”。
ここは、バルタン星人の“産卵場”だったのだ。
人一人が入れそうな大きさの卵は、ドーム状に広がる土の壁に所狭しと並んでおり、どこに目を向けても卵が目に入る。
「コノ能力ハ、一時的ニシカ使エナイノダヨ」
「でしょうね。そうでなければ、こんな物を作る必要はない」
私の背後に立っていたのは、杏城、いや彼女の身体に乗り移ったバルタン星人だった。
「しかし、お前たちの思い通りにはさせません」
私は走った。産卵場の奥に向かって。
「無駄ダ」
背後のバルタン星人が、光線を撃ってきた。私は足を取られ、転ぶ。その拍子に、リュックサックが手から離れ、闇の中に消えていった。
突如、私の前に別のバルタン星人が現れる。奴は人間に乗り移らず、そのままの姿だった。
「愚カナ侵入者」
「邪魔だ」
私はあらかじめ手にしていた銀色のカプセルを投げつけた。バルタンの身体に触れた瞬間、カプセルの表面から細かい棘が飛び出し、その身体に刺さり、吸着する。
「ナンダコレハ」
カプセルが破裂する。爆炎こそ発しないが、それは強力な空気圧によって無数の散弾を放つ。バルタンの身体には、カプセルを中心にして大きな穴が開く。ショットガンで撃たれたような銃傷のできあがりだ。
バルタンは声も発さずに倒れた。そして溶けるように消えた。
「物騒ダ」
背後からの声に反応し、私は2つ目のカプセルを取り出す。
しかし投げることは出来なかった。背後にあったのは、杏城の身体だった。
「何故ソレヲ投ゲナイ」
「くっ……」
その一瞬の隙が命取りだった。
自分の真下から気配を感じた。むき出しの土の中から何かが飛び出し、瞬時のうちに私の頭を巨大なハサミが捕える。予想以上の力で頭を絞められ、強烈な痛みを感じる。
地中から現れたバルタンは、不敵な笑い声を上げながら、私を締め上げた。
そのうちに2体、3体のバルタンがどこからともなく現れ、私の両腕と胴までもをハサミで掴む。
「オ前モ、糧トナレ」
バルタンが光線を発する。
鈍い痛みと共に。私の意識は遠のいていった。
―――第15話に続く
12月4日:追記
諸事情で今週は投稿出来ません・・・。
待っていてくれた方には申し訳ありませんが、来週は投稿しますので一週間お待ちください。