留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

35 / 167
第14話「人々の消える街」(中編)

『第1級非常事態宣言。邪悪生命体ゴーデスが復活。GUYS全職員は事前マニュアルに従い、持ち場に付け』

 

 そんな放送が流れているGUYSメインベース『セイバーミラージュ』内に、私はやって来ていた。

 時刻は午前2時10分。ゴーデスが復活してしまった今、北河の肉体も予断を許さない。私は事前にGUYSのコンピュータから盗んだ情報を元に、北河が隔離されているメディケーションエリアに向かった。途中何人かの局員や隊員を気絶させながら、私は病室にたどり着いた。

 扉に耳を当てる。計器の駆動音と北河の苦しげな呼吸音に混じり――人間が居る。

 私は扉を開けた。

 

「何者ですか」

 

 一目で分かった。

 目の前に立っているのは人間に間違いないが、その意識は何者かに操られていた。他にも人間が居たようだが、奴の足元に数人倒れていた。

 

「貴様、モウ一ツノサンプルヲ奪ッタヤツダナ」

「やはり分かっていましたか」

「一ツアゲタノダカラ、コレハワタシガ貰ッテイク」

「そうはさせません」

 

 私は光線を放つ。奴は素早くそれを避ける。

 

「向こうではゴーデスが大暴れしていますよ。観に行かないのですか」

「ソンナコトハドウデモ良イ」

「目的は細胞……そういうことですね」

 

 奴の身体――いや乗っ取られた身体が床に倒れる。代わりに、その後ろに奴の本体が姿を表した。青白い肉体に、虫を思わせる黄色い眼。奴は両手のハサミの切っ先を上に向けて、笑い声にも似た奇妙な声を出していた。

 

「バルタン星人……再び地球を狙いますか」

 

 バルタンの巨大なハサミが、私に向けられる。最初の一撃目は避け、二撃目はエネルギーでコーティングした左手で受けた。

 

「オ前ハ光ノ戦士カ」

「いいえ、違います」

 

 私は空いた右手で至近距離射撃を試みたが、光線は奴の身体をすり抜けた。天井に張り巡らされたカーテンレールの一部を破壊しただけだった。

 

「分身、か」

 

 バルタン星人は、北河のベッドのすぐ近くに立っていた。奴はハサミでガラスケースを破壊した。

 私は時間を与えず、奴と距離を詰めた。バルタンは北河に触れるのを止めて、一度病室の窓際に後退する。

 その隙に、私は北河を抱きかかえ、ゴーデス細胞を死滅させる薬を北河の首筋に打ちこんだ。

 

「何ダソレハ」

「ゴーデス細胞は、これで消えました。特効薬ですよ」

「人間ヲ救ウナンテ、理解デキナイ」

 

 バルタンは光線で私を襲う。光線が病室の計器を破壊し、大音量の防犯ブザーが鳴り始めた。

 連射される光線の間を縫って動き、私は病室の窓際にたどり着いた。

 私は窓を割る。このまま窓から逃げて――

 

「動くな!」

 

 病室の扉が勢いよく開かれる。その瞬間、バルタンの姿は靄のようになって、消えてしまった。

 そして5人のGUYS隊員が流れ込む。その先頭には――零洸が立っている。そして後ろには星川聖良が続いているようだ。

 レールから外れたカーテンが強い風になびく。そのおかげで、月明かりで浮かび上がったシルエットだけが5人には見えているようだった。零洸がそれをかき分けながら、こちらへやって来る。

 私は北河を放し、1人窓から飛び降ようとした。

 

「ニル=レオルトン!!」

 

 星川聖良の叫び声に、一瞬だけ、私の身体の動きが止まった。しかしすぐに窓から飛び出した。

 彼女は確かに、間違いなく、私の名を叫んだのだ。

 

 

 

 

『やはりソルはやってくれました! 昨日邪悪生命体ゴーデスが復活するという大災害が起きましたが、見事光の戦士ソルが撃破、悲劇は回避されたのです!』

 

 間抜けな面構えの女子アナウンサーが、テレビの向こうで感情的にまくし立てていた。

 私は『セイヴァー・ミラージュ』を脱出し、既に自宅で次の日の朝を迎えていた。基地を後にしてすぐ"円盤"に帰還し、自宅周辺が監視されていないことを確認した後、長瀬をつれて自宅アパートへ戻った。

 さてやるべきことは多いが、まずは学園に行かねばならない。昨日の欠席理由を考えながら、家を出た。

 

「あ」

 

 ちょうど、隣人の長瀬も部屋を出たところだった。私たちは数秒目を合わせるが、長瀬が目を背けた。

 

「さ、先行きますねっ!」

 

 何だ、あの態度は。いつもならおはようの一言でもあったろうに。

 

「長瀬さん、待ってください」

「い、イヤです」

 

 何故私を避けるのか……まさか“能力”がうまく作用していないのだろうか。

 

「長瀬さん」

 

 彼女の手を掴む。

 

「あ、あう……」

「もしかして、まだ体調が悪いのですか?」

「えと、そうじゃなくって……」

 

 彼女の顔は真っ赤だ。ゴーデス細胞にとり付かれていたときのような病的な感じは無いが。

 

「何故避けるのですか?」

「それは、あのですね……」

 

 長瀬は目を伏せ、もじもじとしている。

 

「へ、変な夢を見ちゃったんですよ」

「どんな?」

「言っても笑わない……?」

「ええ。誓いましょう」

「あのね、私がタコのお化けに追いかけられてて、それを王子様が助けてくれたんです。その王子様はすっごく素敵で、それで……その人が。ニルセンパイにそっくりだったんです!」

「長瀬さん、きっとまだ熱が――」

「……ニル?」

 

 私が長瀬の額に手を触れたその時、ちょうどアパートの階段を登ってきた早馴の顔が目に入った。

 

「早馴さん、おはようございます」

「人が心配して来てみれば……後輩の女の子といちゃいちゃして」

 

 早馴は薄い笑みを浮かべてはいるが、目のあたりが引きつっていた。

 

「王子様といちゃいちゃだなんて、そんな……」

 

 長瀬が顔に手を当てて、きゃーと騒ぎながら、走って階段を下りていった。

 

「お、王子様……?」

「ただの夢の話ですよ。さて、私たちも学園に向かいましょう」

「ふんっ。一人で行けば?!このバカ王子」

 

 早馴は何が気に障ったのか分からないが、先に階段を下りてしまった。

 

「待ってくださいよ」

 

 結局、私たちは2人で登校することになった。早馴は何だか虫の居所が良くはなさそうだが。

 

「で、昨日は何で休んだの? 寝坊?」

「まさか。熱があったんですよ」

「そっか。もう平気なの?」

「はい。ご心配おかけしました」

「心配なんてしてませんから」

「そうでしたか」

「いや、その、心配はしてたけど……」

「ありがとうございます」

「んもう……やりにくいヤツだなぁ」

 

 早馴は機嫌を直したようで、どこか嬉しそうな顔をしていた。

 

「元気そうで良かったよ」

「もう全快です」

「ところで、さ。昨日、もしかして唯ちゃんと一緒だったの?」

「長瀬さんとですか? いいえ。どうしてですか?」

「2人とも休みだったし、お隣同士だからさ」

「彼女もお休みだったんですか。それは知りませんでした」

「あーそっか。そっか」

 

 彼女はどこか安心したように小さくため息をついて、少しだけ笑った。

 そうやって他愛の無い話をしながら、私たちは教室に着いた。ゆっくり歩いていたようで、着いたのはぎりぎりの時間だった。鞄を置いて椅子に座った瞬間、ホームルーム開始のチャイムが鳴った。

 

「あれ、逢夜乃来てない?」

「うん。私、朝早くから教室居たけど、見てないなぁ」

 

 早馴と前の席の女子生徒の会話を耳に挟み、私も杏城の席に目を向けた。あの真面目な杏城が遅刻か。珍しいものだな。

 それから私は、零洸の席も目の端で確認する。彼女は欠席、しかし皆それには慣れている様子だった。

 

「おはよう――って、零洸はともかくとして、杏城も来てないのかぁ?」

 

 教室に入ってきた大越担任も、杏城の不在に驚きを隠せない様子だった。

 

「どうしたんだろう……」

 

 早馴が心配そうに呟く。

 そしてその不安は、現実となった。

 昼休み直前、4限目の授業が終わった途端、世界史の担当教員が教室に居るにもかかわらず、大越担任が入ってくる。

 

「誰か、杏城から連絡のあった人、いるか?」

 

 誰も返事をしない。ただ、クラスメート同士目を合わせて首を傾げるばかりだ。

 

「そうか……」

「先生! 逢夜乃に、何かあったんですか?」

 

 隣の早馴が立ち上がる。

 

「いや、大丈夫だ……」

 

 大越担任は早馴の追及をかわすように、教室を出ていく。

 早馴は彼を追おうとはしなかった。代わりに携帯電話を鞄から出し、耳に当てる。

 

「出ない。逢夜乃、出ないよ」

「落ち着け、愛美。具合が悪くて、電話に出られないだけかもしれない」

 

 いつの間にか草津が机の前に立っていた。そして樫尾と早坂までもが集まってきていた。口々に愛美を慰めるような言葉を、彼らは口にしていた。

 しかしそんな悠長な態度が許されたのは、その時だけだったのだ。

 

 

 

 更に一日が立っても、誰のもとにも杏城から連絡は無かった。

 杏城が無断欠席をして2日目、私たちは真剣な面持ちで、昼休みの校門に集まっていた。

 

「樫尾と俺は逢夜乃の家に行こう。早坂は彼女のかかりつけの病院――たしか久瀬病院だったか、そこへ行ってくれ。レオルトンと早馴は学園内で情報収集だ」

「草津、俺たちはお互い単独行動でもいいんじゃねぇか?」

「いや念のためだ。それに、情報が少ない中で捜索の手を広げても意味が無いからな」

「分かった」

 

 樫尾は気合でも入れるように首の骨を鳴らすと、草津とともに去って行った。

 

「ニルくん、愛美さん。こっちはお願いします」

 

 早坂も彼らを追いかける形で、走っていった。

 

「早馴さん、大丈夫ですか?」

 

 彼女の顔色が悪い。

 

「大丈夫。それより情報収集って……」

「この学園の誰かが、杏城さんの行方について知っているかもしれません。彼女の友人関係はどの程度把握していますか?」

「逢夜乃と仲良い友達ってことだよね。私たち以外なら、このクラスの女子の何人かと、委員会の人たちかな?」

 

 まず、私たちは教室に戻ってクラスメートから当たった。予想通り、有益な情報は何も得られなかった。皆杏城の無断欠席に驚いているばかりだ。

 それから他クラスの生徒にも声をかける。

 

「嘘。逢夜乃ちゃん、学園来てないの?」

 

 隣のクラスに所属する、杏城と同じ生徒執行委員会の仲村という女子生徒は、私たちの話を信じられないという様子で聞いていた。

 

「今日は委員会があるし、真面目な逢夜乃ちゃんが無断で休むだなんて……ちょっと待ってね、他の子に連絡が来てないか聞いてみるね」

 

 そう言うと彼女は、自身のスマートフォンをいじりだした。しかしすぐに反応があったのか、彼女は残念そうに首を横に振った。

 その後は彼女に紹介された委員会の生徒数名に接触してみたが、誰も有益な情報は持っていなかった。

一旦教室に戻り、早馴と顔を突き合わせた。

 

「どうしよう……誰も知らないって……」

「生徒に当たるのは終わりにしましょう」

「生徒にって、他に聞く人いる?」

「ええ。行ってみましょう」

 

 そうして私が早馴を連れて行った場所が――

 

「で、授業中にもかかわらず、私の所に来たわけね」

 

 私と早馴は、生徒指導室の中に居た。

 机を挟んで私たちが対面しているのは、紫苑レムだった。

 

「先生、何か聞いてませんか?大越先生は出て行っちゃてるみたいで……」

 

 早馴の乞うような目線を受けて、紫苑は気まずそうな表情を浮かべる。

 

「私からは何も言えないわ」

「何か知ってるってことですよね?」

「それは……」

「お願いします!先生の知ってること、教えてください」

「少し落ち着いて。今は大越先生からのお話を待って――」

「嫌です!」

 

 早馴が立ち上がった。

 

「何もしないで……大人しくしているのは嫌なんです!」

 

 血気迫る早馴に、紫苑は一瞬ぽかんとしたが、すぐに真剣な口調で返した。

 

「……分かったわ。取りあえず座って?」

 

 早馴が席についたところで、紫苑は話し始めた。

 

「大越先生、やはり杏城さんの無断欠席が心配だった様で、おうちに電話したり、ご両親の所に連絡したりしていたみたい。結局繋がらなかったようなんだけど」

「じゃあ、今はどちらに?」

「おそらく、警察署よ」

「け、警察?」

 

 早馴が絶望的な声を漏らす。

 

「まだ、何かに巻き込まれたと決まったわけじゃないわ。もしかすると、学園をサボりたいだけかもしれな――」

「逢夜乃はそんなことしませんっ!」

「早馴さん、少し落ち着いてください」

 

 私は早馴の肩に手を置いた。

 

「ごめんなさい、軽率だったわ」

「いえ……こちらこそ、すみませんでした」

 

 早馴は小さく頭を下げた。

 

「もう職員室でも話題になっていてね。もしかすると、(くだん)の行方不明事件に関係があるんじゃないかって」

 

 今巷を騒がせている事件だった。この1週間沙流市周辺で連続行方不明事件が起きていて、組織的な誘拐事件ではないかと騒がれていた。某国の工作員による拉致だとか、宇宙人による犯罪だとかささやかれており、詳しいことは何も分かっていないようだが。

 

「ともかく、今は情報が不足していて何も言えないし、警察も簡単に結論を出せるとも思えないわ。少しだけ……少しだけでいいから、待ってはもらえないかしら? 私は職員室で聞いたことは貴方たちにも伝えるから」

 

 私と早馴は礼を言い、立ち上がった。3人で生徒指導室を出た時、後ろに居た紫苑が私の肩を叩いた。

 

「愛美ちゃんのこと、見ててあげてね?」

「もちろんです。危険な目には遭わせません」

 

 彼女はへぇ、と意味ありげに微笑み、私たちのもとから離れていった。

 それから間も無く、紫苑からメールが来ることとなる。

 

『杏城さんの捜索願が出されたわ。警察が連続誘拐事件の被害者として捜索に乗り出すそうよ』

 

 

 

―――後編に続く


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。