留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第14話「人々の消える街」(前編)

 とある外宇宙上を航行する宇宙船の内部に、黒い影が5つ浮かんでいた。

 

「取引しようじゃないか。バルタン星人よ」

 

 4つの黒い影が、バルタン星人の前に立つ。その中の1人が、前に一歩進み出て言った。

 

「取引ダト……?」

 

 バルタン星人は、その意味が分からないといった調子で、応える。

 

「君を悪いようにはしない。だから、ゴーデス細胞を我々に渡したまえ」

「おい。わざわざそいつからもらう必要があるのか? 俺たちも光の国から盗ってくればいい」

 

 後ろに立っていた影の1人が、声を荒げた。

 

「光の戦士など敵ではない!」

「そう興奮するな。今の我々は――」

「面倒ナ事情ガアルヨウダナ」

「その通り。我々も忙しい身でね。もし君がそれを我々に譲渡してくれると言うなら、それなりの待遇で君を迎えよう。我々の仲間として」

「興味ガ無イ」

 

 バルタン星人は4人に背を向けた。

 

「では取引は決裂、か」

「私ハ一人デ地球ト光ノ国ヲ滅ボス。オ前タチノ手ハ借リナイ」

「面倒だ! 今すぐこいつを殺してブツを奪う!」

 

 先ほどの影が、その手をバルタンの背中に向ける。

 

「まぁ待て」

 

 先頭の影が、その手を伸ばして制止した。

 

「止めるな!」

「いいではないか。彼がそう言うのならば」

「ちぃ……」

「デハ失礼スル」

 

 バルタン星人の影はすっと消えて無くなった。

 

「……」

「何か、お前には思うところがあるか?」

 

 先頭の影が、後ろに立って黙っていた二人のうち、片方に声をかける。

 

「……いえ、別に」

「そうか」

 

 その影からは何の表情も見えないが、その声には僅かに“笑み”が含まれていた。

 

「引き続き対象の観察を頼むぞ。地球での生活も、充分楽しみたまえ」

「ええ」

 

 その影たちは、霧散するように消えた。

 

 

 

   第13話「人々の消える街」

 

                  宇宙忍者 バルタン星人

                  邪悪生命体 ゴーデス 第2形態

                               登場

 

「ゴーデスが復活!?」

 

 セイヴァー・ミラージュ内、北河夕花が収容されているメディケーションエリアの病室にも、その非常事態宣言は届いていた。施設内の全ての区画に、第一級戦闘配置を命じるアナウンスが流れていた。

 

「やはり避けられなかったか……」

 

 ジャック=シンドーは一度北河の様子を確認した。その間に、零洸未来は出撃の準備を整え、病室の扉に手をかけていた。

 

「ここには初対班の応援を呼んでおく。ゴーデスについては少し思うところがあってね、僕もここを離れる」

「分かりました!」

 

 未来は病室を飛び出し、通信端末でメシアを格納しているドッグのハセガワ整備班長に繋いだ。

 

『未来! オマエも出るのカ?』

「はい! すぐ出れますか?」

『たりめーダロ! すぐ来い!』

 

 未来は通信を切り、走る速度をさらに上げた。

 

 

 

 

『CREW GUYSメシア部隊各員へ。至急戦闘空域に出撃、対象はゴーデス第二形態。すでにアンナ隊員が応戦しているけど、効果は薄いわ。先鋒は小山隊員とカオル隊員。佐久間隊員はリョータ隊員の救出および、全体のバックアップ。先鋒のフォローには――』

『隊長! 私も出ます!』

 

 メシア間をつなぐ通信に、未来の声が割って入る。

 

『未来隊員、病室の護衛を任せたはずよ』

『ジャック=シンドーさんが現れ、初対班の数名と代わってもらいました』

『え、ジャックが来てるのか!? 俺も会い――』

 

 星川は佐久間の声を通信から除外し、ため息をついた。

 

『正直な所、助かるわ。今はとにかく戦力が欲しい』

『ありがとうございます!』

『では、先鋒二人のフォローに未来隊員と日向副隊長、ライカ隊員が入ってちょうだい』

『GIG!』

 

 メシアの編成部隊が空を駆ける。そこに若干遅れて零洸機が合流し、6機編成となった。小山機とカオル機を先頭にし、その後ろは指揮官である日向機、それを真ん中に右翼に零洸機、左翼にライカ機、日向機からメシア一機分の間を開けて、佐久間機が続く。

 やがて6人の眼に、もくもくと空に上がる黒煙が見えてくる。その根元で、その怪獣は自らの存在を誇示するかのように、10本の触手を広げていた。肥大した脳のような物体に、醜悪な顔が付いている。身体は太々とした芋虫のようで、尾がうねうねと動いて地面を鳴らす。

 

『きめぇぇえぇ!』

『小山うるさい! でもキモいね』

『こらこら、先鋒二人。あんまり気を抜くなよ』

 

 小山とカオルに、日向副隊長が発破をかける。

 

『各員、フォーメーション・バーニングを取れ。行くぞ!』

 

 日向の指揮のもと、佐久間機以外の5機がゴーデスに接近する。ゴーデスは触手を鞭のようにしならせ、5機を狙う。

 

『うぃうい! 面倒な軌道だぜ!』

 

 小山は舌打ちをしながら、小刻みに操縦桿とブーストペダルを操作する。

 俊敏かつトリッキーな動きで触手攻撃をかわす小山機だが、なかなか攻勢をかけられないでいた。

 しかし小山機を追う触手を、2条の光線が貫いていた。

 

『ライカ! さんきゅーうい!』

『私が援護する』

 

 メシアよりもはるかに小さい飛行物体が2機、小山機の両翼に並ぶ。

 

『テインレイン、お願い』

 

 ライカはメシアのコックピット内にあっても、目を閉じていた。サイキック能力を潜在的に秘め、それを長い訓練によって戦闘手段としても昇華させた彼女のメシアは、あらゆる装備が脳波によって操作可能だ。小山機を援護する小型自空銃砲『テインレイン』も、彼女が脳波で操る武装である。

 

『いいぜライカぁ! これで突っ込める!!』

『いや、突っ込めって言ったわけじゃ――』

『うぃぃぃぃぃっ!!!』

 

 小山機がバトルモードに変形、巨大なライフルを構えながらゴーデスに接近する。

 小山機の特徴は、装甲を極限まで薄くした超軽量仕様である点だった。それに加え、ブースターは他機よりも高出力に改造されている。その結果パイロットの安全性を犠牲にする代わり、爆発的な加速を可能としているのだ。

 ライカの援護はあるにせよ、小山機のスピードは触手をものともしない。ゴーデスの首元に、彼の銃口が突き付けられていた。

 その距離、ほぼゼロである

 

『くたばれぅいぃぃぃ!!』

 

 超高出力のアサルトレーザーカノンが火を噴く。小山の攻撃は、銃撃というよりは爆破攻撃に似ている。敵に急接近し、ゼロ距離でカノンを放つ――その無鉄砲さはまるで特攻である。しかしメシア部隊による怪獣撃破の約半分が、この攻撃によってなされている。まさに部隊の「必殺技」である。

 

『あぁん!?』

 

 小山機はカノンの反動で右腕が馬鹿になっていた。

 しかし、ゴーデスには全くダメージは無い。まるでゴーデスの顔は、鼻先のメシアを見て嗤っているようにも見えた。

 

『小山下がれっ!』

 

 日向の叫び空しく、小山機の背中に触手が突き刺さり、小山機は触手の先で糸の切れた人形のようになった。触手が大きく横に払った勢いで小山機は触手から離れて飛ばされた。小山機は、救出に入ろうとして無防備になっていたライカ機目がけて飛んでくる。

 

『ライカさん!』

 

 咄嗟に、未来のメシアがライカ機に体当たりをした。ライカ機は衝突を免れたが、代わりに零洸機が小山機の直撃を受けた。2機は一緒になって、森林地帯に墜落していった。

 2機落ちたことで、非戦闘任務のある佐久間機を除いた3機と、既に戦闘空域にいたアンナ機に対して10本の触手の攻撃が襲いかかる。

 数々の戦地を潜り抜けた彼らとはいえ、複数の触手攻撃を避けることは困難を極めた。

 最初にカオル機、次にライカ機、アンナ機が撃墜される。そして日向機だけが残った。彼は奮戦し、触手の一本に損傷を与えることに成功した。

 しかし、日向機もとうとう触手攻撃に対応できなくなる。決定的な一撃が、日向機に襲いかかる。

 その時、ゴーデスの真上、黒煙の広がる空に一筋の光が現れる。

 光はゴーデスの額に向かって降りている。そして、その光の中に“彼女”が現れた。

 彼女は光の中を、上空から急落下しつつ、鋭いかかと落としをゴーデスの顔面に叩きつけた。

 日向機を捕えることはできないまま、ゴーデスは痛みに苦しむように叫び声を上げた。

 

『光の戦士か』

 

 ゴーデスが憎らしげに呟く。

 光の戦士ソルは、手の甲からソール・ブレードを展開し、その切っ先をゴーデスに向けていた。

 

『わが復活の邪魔はさせん!』

 

 ゴーデスの9本の触手が、一斉にソルに襲いかかる。ソルは高くジャンプしてそれを避け、一度距離を取った。

 

『かつて貴様らの仲間によって滅んだが、今度こそは、この宇宙を滅ぼしてやろう』

『なら、今回も止めるだけだ』

 

 ソルの左手の鉱石が、青く光る。彼女はその手で、胸のカラータイマーを包んだ。

 その鉱石の輝きのように、彼女の身体も青く変色した。

 “ブルーアイスタイプ”――それが彼女のスタイルチェンジ2つ目の名だ。爆炎を操るボルカニックタイプとは対照的に、その姿は凍てつく冷気を操る。

 

『アクアバニッシュ!』

 

 彼女は腕を伸ばして両手を合わせる。そこから超高圧の水が放たれる。まるで光線のような水の槍が、ゴーデスの腹部に突き刺さる。

 負けじとゴーデスも、触手を再び伸ばす。ソルはその攻撃を軽々と避けながら、触手の1つ1つに『アイスバインド』をかけていく。バインドが急速に熱を奪って触手を凍らせ、動きを封じる。

 その隙に、彼女は一気にゴーデスに距離を詰める。動きながら基本スタイルに戻り、ブレードをゴーデスの胸に突き刺した。

 しかし、ソルのブレードはそこから全く動かない。ソルが一度ブレードを消そうとした瞬間、凍っていたはずの触手がソルを抱きしめるようにして絡みつく。

 

『くっ!』

『馬鹿め。勝ち急いだようだな』

 

 この時になって初めて彼女は、自分が誘い込まれていたことに気付く。

 

『我が一部となれ!』

 

 ソルの身体を、紫色の膜が包む。ソルは抵抗するも動けず、吸い込まれるようにしてゴーデスの体内に引きずり込まれた。

 

―――――――

――――

――

 

『……ここは』

 

 ソルは、生物の内臓のような肉壁に囲まれていた。足元からは緑色の液体が絶えず湧き出ている。

 彼女が周囲を見回すと、すぐに〝それ〟は現れた。

 

『ふはははは。ソル……』

『ガッツ星人、だと』

 

 彼女はすぐにガッツ星人と思しき影にパンチを繰り出すも、影はふっと消えてしまう。

 

『ソル』

 

 今度はキングジョーブラックとペダン星人。彼らの影も、ソルが攻撃を仕掛けるとすぐに消えてしまう。

 それからも次々に影は現れた。それはソルが今まで葬ってきた宇宙人や怪獣だった。彼女は、頭ではそれが幻であることに気付いていた。しかしそれらに対して持っていた“憎しみ”“怒り”が彼女を駆り立てる。

 その姿は、ゴーデス細胞によって凶暴化していたゴモラと同じだった。

 あの時彼女は、ゴモラから感じた禍々しいエネルギーを本能的に危険だと感じ、倒した。しかし自分までもが禍々しさを放つ存在になりかけていることに、彼女は気づいていなかった。

 

『私は戦わなければ、ならないんだ!』

 

 地球を襲う、全ての悪を討つため。

 それがどんなに辛い茨の道だとしても。

 

『それでは君が傷つくだけだ、ソル』

 

 ソルが幻影に拳を振り下ろそうとした時、彼女の頭に何者かが語りかける。

 

『そんなものは幻だ。君には憎むべき相手など、居ないはずだ』

『その声は――』

 

 ソルは振り返った。

 

『ウルトラマングレート!』

 

 グレートは静かにソルに近づいた。その姿は現実ではなく、グレートが別の場所から飛ばしている思念体だったが、ソルは歴戦の光の戦士特有の、優しさに似た温かさをグレートから感じ取っていた。

 

『いいかいソル。君は憎しみに捕らわれかけている。憎しみはゴーデス細胞の大好物だ。ますます細胞汚染を進めてしまう』

『私は、一体どうすれば……』

『気づくんだ。君の戦う意味と理由に。憎しみなんてものに君の魂を汚させては、いけない』

『私は――』

 

 彼女はその時、思い出した。

 守るべき存在を――その姿を。

 

『私の魂は、汚させない!!!』

 

 彼女は腕をL字に組む。

 

『ラス・オブ・スペシュウム!!』

 

 強力な光波熱線が、脈打つ肉壁に突き刺さる。そして光線が肉壁を貫くと共に、周囲の壁がすべて砕け散った。

 そこに、月の光が差し込んだ。

 

―――

―――――

―――――――

 

 ゴーデスの頭部を突き破り、一条の光線が闇夜を駆け抜ける。

 ソルはゴーデスの頭部を木端微塵にしながら、その体内から再び帰ってきた。爆発が続き、ゴーデスの肉体そのものも形を失った。ゴーデスの野望は、再び打ち砕かれたのだ。

 ソルは大地に立ち、空に輝く月を見上げた。

 ――守るべき存在。

 それを想いながら、彼女は急ぎ空に飛び去った。

 

 

―――中編に続く


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