留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第12話「脅威なるモノ」(後編)

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 三日月形の角、赤褐色の体躯、地面を激しく振動させる長い尻尾と2本の脚――古代怪獣ゴモラは、森林地帯に大穴を開けて現れた。

 ソルが最初に考えていたのは、どうやってゴモラに致命傷を与えずに気絶させるか、ということだった。

 しかし今、彼女はゴモラと対峙した時“ある直感”が頭を駆け巡った。

 

『ギャァァァァァス』

 

 ゴモラの突進が、ソルを襲う。対してソルは、高く跳び上がり、突進をかわしてゴモラの背後に降り立った。

 後ろをとったソルであったが、ゴモラの方が上手であった。ゴモラは尻尾でソルをなぎ払い、吹き飛ばした。

 

『ギャァァァァァァ』

 

 凄まじい咆哮が、空気を震え上がらせる。地球産の怪獣とはいえ、ゴモラは強力な怪獣である。CREW GUYS JAPANも、メシア3機を発進させていた。

 ゴモラの恐ろしい所は、そのパワーとスピードである。特に尻尾攻撃は凄まじい速さで標的を襲う。そしてその狙いは、非常に正確である。一機のメシアが迂闊にもゴモラに近づきゴモラの尻尾攻撃が襲いかかる。しかしメシアはギリギリのところで、可変による減速で難を逃れた。

 

(おかしい…何かがおかしい)

 

 ソルはゴモラの突進や蹴りなどを避けながら、考えていた。

 そこに、ゴモラの強烈な尻尾攻撃が襲いかかる。ソルは反射的にソール・ブレードを手の甲から現し、尻尾を切り裂いた。切れた尻尾は木々をなぎ倒し、動いている。

 

『ギャァァァァァァァァァ』

 

 ゴモラは怒り狂いながら、ソルに肉迫する。ソルは避けきれずにゴモラの2本の角を掴み、堪えた。

 ゴモラが頭を上げると、角を掴んだままのソルは空中に打ち上げられた。ゴモラの後ろに落下し倒れたソルに、先ほど切り落としたゴモラの尻尾が襲いかかってくる。

 

『ゴモラ! 何故暴れるんだ!』

 

 ソルは怪獣にしかわからない言葉を使って問いかけるも、ゴモラからは何の反応もない。ゴモラは目の前を飛ぶメシアを、何度もつかもうとする。

 攻撃を受けながら、ソルは先ほどの直感が確信に変わったことを認めていた。

 

(しかし…そんなことをすべきでは――)

 

 そう思考をめぐらせていると、ソルはゴモラの角が赤く発光しながら振動し始めたことに気がついた。

 一機のメシアが攻撃により尻尾の攻撃から逃れたソルは、自分の直感に従った。

 

『ゴモラっ!』

 

 腕をⅩ字に組みソルは“ソール・ストリューム”をとっさに頭部へ向けて放つ。本来であればゴモラを倒すに十分な威力であった。しかしゴモラの頭部に直撃した光線は、左角の破壊だけにとどまった。

 怯んだゴモラを確認し、ソルは右手を胸に当てる。右手の甲に埋め込まれている石が、赤く輝く。

 その瞬間、彼女の肉体から燃えるようなエネルギーが湧き上がり、それは巨大な炎に変わった。

 そして炎の中から赤い肉体の戦士が現れる。

 これがウルトラウーマンソルの変化形態の1つ『ボルカニックタイプ』である。

 

『ボルカニックストーム!』

 

 前に向けた右手から、数発の火球が放たれる。ゴモラは腕でそれを受けるが、その隙にソルは一気に距離を詰め、高熱のパンチをゴモラの頭蓋に浴びせる。

 ゴモラは脳震とうに似た症状で身体をふらつかせた。ソルは再度距離を取り、右手を高く上げる。その手の石が、強く輝いた。

 

『ボルカニック・ギドラ!!』

 

 右手から炎が上がり、その中から龍の形をした業火が現れ出る。それは3匹となり空を駆け、ゴモラを囲む。

 

『すまないゴモラ。しかし、君を生かすことはできない!』

 

 3匹の炎龍がゴモラを襲う。ゴモラは熱さから逃れようと激しく動くが、絡みついた炎はゴモラから離れることは無かった。やがてゴモラは巨大な炎に包まれ、断末魔と共に灰となった。

 

『……すまなかった』

 

 彼女は風に消えていくゴモラの灰を前に、立ち尽くしたままであった。

 

 

 

 その頃、沙流駅前の繁華街に2人の少女の姿があった。

 

「カエル人間、悲しい最期だったね」

 

 目じりに涙を浮かべる北河夕花と長瀬唯は、人ごみの中を歩いていた。手には『カエル人間Ⅱ』のパンフレットが丸まって握られている。

 

「夕花、あれ泣けた?」

「うん。悲しいねぇ……」

「そ、そっか」

 

 唯が苦笑いで夕花を慰めながら、2人は繁華街を抜けて人通りの無い裏道に出た。街灯は立っているものの、大きなビルの裏道のため、明かりは決して多くはない。

 

「絶対にⅢも観に――」

「え、夕花――」

 

 2人は突如、その場に倒れる。

 その背後に、真っ黒な影が立っていた。

 

 

 

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『それでは次のニュースです。先日の古代怪獣ゴモラが沙流市に現れた事件について、GUYS・JAPANが記者会見を行いました』

 

 テレビの向こうで複数人の記者が、CREW GUYS JAPANの星川聖良に質問を飛ばす。

 

『地球産怪獣は保護されるべきというのが国際社会の論調ですが、先日のゴモラ抹殺は適切な行動だったのでしょうか?』

『適切だったと考えています。確かに動物保護の国際的な基準では地球産怪獣の殺戮は、その他の動物を殺戮することと同じで、忌避されるべきことです。しかしそれは、住民はじめ実戦隊員に負傷者や犠牲者が出てまでも遵守すべきことではない、というのがGUYSの方針と認識です。先日のゴモラの危険度は、10年前に現れたゴモラの数倍に上るというデータが出ています。また沙流市は人口の集中している地区でもあり、その状況で保護という選択肢を選ぶのは極めて無謀であったというのがGUYS・JAPANの見解です』

『しかし何の努力もしようとしなかったように思えますよ? そもそも昨日はウルトラウーマンソルが暴走して、ゴモラを木端微塵にしたと、世間は考えているようですが』

『ソルの行動も適切だったと認識しています。もし彼女がゴモラの脅威に気付いていなければ、現場の部隊は全滅していました。彼女がいち早くゴモラ撃破を決断してくれたおかげで、周辺住民も犠牲者も抑えられました』

『今の話を聞いていると、GUYSの実戦部隊の行動はあまりにもソルに依存しているように感じられますねえ。GUYSはウルトラマンたちを上手く利用できていないんじゃないですか? これじゃソルの援護部隊でしかないような』

『時と場合によります。ソルの援護に回ることが状況的に正しいと判断すれば、我々はソルのサポートに徹します。しかしその逆もまた然りです』

『ソルありきの戦いですな。以前から議論されていますが、GUYSは現在運用している兵器よりも遥かに強力な兵器を有しているのだから、それを使えばウルトラマンなんていらないんじゃないですか? 今回だって、ソルが勝手に判断してゴモラ殺したんでしょ? 彼女が居なければゴモラを保護して、生息地に帰してあげられたかもしれない』

 

 記者会見の映像が途切れ、ニュースキャスターの顔が映る。

 

『以上会見の様子でした。今回の事件を受け、ツイッターやインターネット掲示板ではソル不要論を叫ぶ声も多く、今後GUYSの行動に注目が集まっています。それでは次のニュースです。一昨日から行方不明となっている、沙流市在住の――』

 

 私はテレビを消し、自宅を出た。

 昨夜のソルとゴモラの戦い、確かに不自然ではあった。ソルにしては少し焦っていたような、勝ち急いだような戦い方だった。しかし炎を操る形態を直に見ることができたのは、一応の成果である。

 

「あれ……ニル、センパイですか」

「長瀬さん、おはようございます」

 

 玄関の扉を開けると、ほぼ同時に部屋から出てきた長瀬に遭遇した。珍しいこともあるもので、長瀬は今朝に限っては静か――

 

「長瀬さん、体調大丈夫ですか?」

 

 彼女の顔色は真っ青だった。足取りも不安定だし、今にも倒れそうな勢いだった。

 

「なんだか……調子悪くって」

「熱があるのでは?」

「ううん……無い」

「今日は休まれてはどうですか?」

 

 しかし長瀬は黙って首を横に振り、階段を下りて行った。

 

「ちょっと、行くところあるんですよ」

 

 長瀬は通学路から外れ、別の道に消えていった。方向としては学園と同じだったので、行く途中に何か用事があるのだろう。少女と言っても高校生だし、自分の体調くらいわかっているはずだ。心配する必要はない。

 

 

 

 むしろ、心配すべきは長瀬ではなく、同じ学園生どもの能天気さであった。

 私が教室に入るとすぐ聞こえてきたのは、昨日の怪獣事件のことだった。しかしその内容は酷いものである。

 

「たしかに、なんかソルがやっちゃえって感じで殺したよな」

「そうそう。なんか残酷よね」

「GUYSがちゃんとしてくれればゴモラも死ななかったのになぁ」

 

 勝手な連中だ。お前たちは命の危機に無かったから、そんな保護だのという戯言を口にできるのだ。今朝のニュースのマスコミといい、平和ボケした愚か者としか言い様がない。

 

「あ、ニル。おはよう」

 

 早馴は先に登校していた。

 

「おはようございます。昨日は真っ直ぐ帰りましたか?」

「そうだけど。昨日の怪獣の件?」

「ええ。どこかにお出かけだったとしたら、少し危なかったかと」

「そんな近くじゃないし、関係無いよ」

 

 こと怪獣や宇宙人の話となると、この女は人が変わるようだ。

 

「GUYSだソルだって、みんなしてバカみたい」

 

 その時教室の扉が開き、零洸が入ってくる。どこか疲れている様子だった。自分自身GUYSの一員である彼女は、昨夜から仕事が立て込んでいるのだろうか。

 

「未来。おはようさん」

「ああ」

 

 樫尾が出迎えるように、彼女のもとへ向かった。2人で何か話しているが、ここからは聞こえないし、特に関心は無い。

 それから昼休みになっても、相変わらず昨日の一件がクラスメートたちの話題に上がっていた。ただ、ガッツ星人の襲撃騒ぎの際に学園に泊まることになったり、この間の洗脳事件のせいで休校になったりと、彼らにとってはある意味都合の良い非常事態、という程度の認識ではあるが。

 

「未来、ご飯一緒に食べよう」

「いや、今日は少しやることがあるから、また明日にしてくれ」

「そっか。なんか元気ないけど、大丈夫?」

「ああ。ありがとう」

 

 零洸は愛美の肩に手を置き、ノートパソコンらしき物をもって教室を出て行った。

 

「なぁレオルトン。お願いがあるんだけど、いいか?」

 

 私は急に担任の命で、図書館の掲示板にポスターを張りに行かされることになった。早坂や草津に昼の誘いを受けたが、丁重に断って来た。

 それになりによく来る図書館だが、今日は珍しい利用者を見かけた。

 

「レオルトン、キミか」

 

 掲示板のすぐ近くの席に彼女は陣取っていたため、自ずと顔を合わせることになった。零洸はノートパソコンのキーボードを叩きながら、時折目頭を押さえていた。

 

「お疲れのようですね」

「ああ」

「事情はそれなりに分かっているつもりですが、あまり無理をなさらずに。息抜きも大事ですよ」

「ありがとう」

 

 彼女はひたすら画面と向き合っていた。

 

「レオルトン」

 

 私が帰ろうとした時に、急に呼び止められた。

 

「息抜きに、付き合ってくれないか」

 

 そして私たちは、図書館を出てすぐの自動販売機とベンチの所にやって来た。零洸は冷たいスポーツドリンクを選び、私は緑茶を買った。

 

「こうして座っていると、あの日を思い出すな」

「一緒にプレゼントを買いに行った日ですか?」

「ああ。あの時はありがとう」

「いえいえ」

 

 2人でベンチに座り、ゆっくりと飲み物を口にする。

 

「昨日の件、やはりGUYS内部でも色々あったのですか?」

「……詳しくは話せないが、まぁな」

 

 マスコミをはじめとした世間のバッシングへの対処がかさんでいるのだろう。そんなくだらないことは後回しにする方が合理的なのに、人間はまだまだ知能が遅れている。

 

「最善策を取ったはずなんだが……人々には受け入れてもらっていない。そんなところだろうな」

 

 零洸は自嘲気味に笑みをこぼした。

 

「少し、辛いな」

 

 彼女はペットボトルを空にして、立ち上がった。

 

「ありがとう、レオルトン。話ができて、少し気が紛れた。また後で」

 

 零洸はペットボトルをゴミ箱に入れ、また図書館に戻って行った。

 

 

 

 騒々しい一日が終わり、私は一目散に帰路についた。ゴモラの出現原因や、従来に比べ危険だった要因などを調べる必要があるからだ。

 私は早足に自宅アパートの階段を上った。しかし、そこには予想外の光景が広がっていた。

 

「長瀬さん?」

 

 彼女は私の部屋の扉の前に倒れていた。息はしているようだが、非常に不安定で荒い呼吸だった。

 

「長瀬さん、どうしました?」

 

 反応は無かった。朝の体調不良の結果だろうか? 私は彼女の額に触れたが、熱がある感じはしない。

 もう夜は冷える時期だ。このまま外に放置すれば命に関わりかねん。ともかく、彼女を部屋に入れよう。

 私は彼女のバッグの中を物色した。小さなイチゴの小物入れの中に、部屋の鍵は入っていた。それを使い、扉を開けた。

 彼女の身体は、そのままベッドに寝かせた。

 しかし人間の女性の部屋というのは、男のそれとは大違いだ。私の部屋とは明らかに違う匂いがする。しかもその住人の個性が出るのだろうか、彼女の部屋には写真が色々な所に飾られている。

 どれも、友人と映った楽しげな写真ばかりだ。

 

「うぅ……」

 

 長瀬の口から、苦しげな声が漏れた。

 

「長瀬さ――」

 

 その瞬間、彼女の目が見開かれる。しかしその瞳は、濁った緑色をしていた。明らかに長瀬本人の目ではない。

 そして、その眼から緑色の熱線が放たれた。

 

「なっ!」

 

 私は間一髪、それを避ける。熱線は私の背後の壁に小さな穴をあけた。私の部屋が丸見えじゃないか。

 

「一体何が――」

 

 間髪入れず、長瀬の眼からはビームが放たれる。大した威力ではないものの、当たれば怪我はする。私はエネルギーを右手に込め、ビームを手で受けながら彼女に近づいた。しかしビームは急に途切れ、長瀬は再び気絶したようだった。

 この症状は……まさか!

 すぐさま、長瀬の服を脱がせる。ブラウスを脱がせると、やはりそれはあった。

 乳房の間にある血管が膨れ上がり、ミミズが皮膚に張り付いているようだった。しかし肌から透けて見えるのは緑色の血液で、それは気味の悪い脈動を続けている。

 直接見たのは初めてだが、私、いや多くの宇宙人がこの正体を知っている。

 他の生物の体内に寄生し、その命を食い荒らしながら成長をする醜悪な生命体。

 これは――ゴーデス細胞だ。

 

 

―――第13話に続く


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