地球の遥か遠方の銀河――M78星雲。
光の戦士と呼ばれる者たちが住まう場所。それは全宇宙の平和を司る場所といっても過言ではない。
超科学と人口太陽エネルギーによって栄えたこの地に、ある“侵入者”が現れた。
「ぐあぁぁっ!」
「止まれ侵入者っ!!」
その光の国を守護する戦士たちを次々に抹殺する何者かは、着実に光の国の深部へと侵入していった。もはや彼を止められるものは、居なかった。
「脆弱ナ戦士ドモメ」
侵入者は厳重に警備された施設の『ある物体』の前に立った。
「そこを動くな」
その侵入者の背後に、一人の戦士が姿を現す。
「それに手出しはさせんぞ、バルタン星人!」
そこに立っていたのは、かつて地球を怪獣たちから守った英雄――ウルトラマンだった。
侵入者=バルタン星人も、歴戦の勇士の前では足を止めた。青白い肉体を上下に動かしながら、真っ赤な双眸はウルトラマンを見据えている。
「それを使って何をする気だ」
「教エル義理ハナイ」
「ならば、捕まえた後に話してもらう!」
目にも止まらぬモーションから放たれた光線は、バルタン星人の顔面を貫いていた。そしてその身体ごと、バルタンは爆散した。
「ヘァ!」
ウルトラマンは突如、何もない頭上に拳を突き上げた。
そこに、爆散したと思われたバルタンが現れた。バルタンはウルトラマンの拳を、両手の巨大なハサミで受け止めた。
「お前たちの常とう手段は見抜いているぞ」
「強イナ。シカシ無意味ダ」
バルタンは一度透明になって消えたかと思うと、ウルトラマンの周囲を囲むように分身をした。
「それも見飽きた!」
その中のたった一体だけに狙いを定め、ウルトラマンは両手を十字型に構えた。
そこから放たれる強力な光線――スペシウム光線は、バルタン星人の胸を貫いた。巨大な爆発が巻き起こる。
「まさか!」
ウルトラマンは、確実に1体のバルタン星人を倒していた。
しかしバルタン星人は、最初から2体居たのだった。
スペシウム光線を逃れたもう一体のバルタン星人は、爆炎の中、厳重に保管されていた『ある物体』を手に、施設の出口に向かって消えていった。
「兄さん! 遅くなりました!」
別の出入り口から、ウルトラマンエースが姿を表す。彼も彼で、侵入してきたバルタン星人を撃破していた。
「奴ら仲間を犠牲にして、あれを持ち去ってしまった。すまない、私の落ち度だ」
「いいや、兄さん。今回の襲撃はかなり計算されています。すぐにでも奴らを追いましょう!」
「その前にエース、このことを“彼”に伝えてくれ。私は他の兄弟たちに知らせに行く。奴が持ち去った物を、何としても取り戻さねば!」
「あの“邪悪なもの”を奴らに使わせるわけにはいきません!」
「ああ。これは……宇宙の危機だ」
第12話「脅威なるモノ」
宇宙忍者 バルタン星人
古代怪獣 ゴモラ
登場
いつもと変わらぬ時間に起床し、熱いブラックコーヒーを口に入れる。
人間の真似事をして飲み始めたコーヒーだが、続けるうちにその旨みに気付き、今では豆を自分で挽くほどになった。やはり人間の娯楽追求能力は馬鹿にはできん。
コーヒーを飲む間、私はテレビを付けながらパソコンを起動する。クラスメートやその他の人間と共有できる情報をテレビから得ながら、パソコンではGUYSやその他の宇宙人に動きが無いかを調べる。
そして身支度を整え、部屋を後にした。
「あ、おはようございます。レオルトン先輩」
隣の部屋――長瀬唯の部屋の前に、1人の女子生徒が立っていた。
彼女の名前は、北河夕花だ。
「おはようございます。長瀬さんを待っているのですか?」
「そうなんですけど、ピンポンしても、電話しても反応が無くって。多分、唯ちゃん寝坊してるんです」
彼女は呆れたようにため息をついて、目の前の扉を見つめていた。
「私からも呼んでみましょう」
私は携帯で長瀬に電話をかけるが、反応は無い。
「ダメ、でしたか?」
「ええ」
インターフォンで呼び出してみるも、やはり結果は同じだった。
「唯ちゃん、このままじゃ遅刻だよぉ……」
「……北河さん。この部屋、鍵がかかっていませんね」
私はドアノブを動かし、わずかに扉を開いてみた。
「えぇー! 不用心だなぁ」
「待ってください」
私は、ドアノブに手をかけた北河の手を握った。
「何者かが不法侵入し、まだ中に居る可能性もあります」
「そ、そんな! 唯ちゃん!」
北河は顔を真っ青にして、ドアの隙間から中を覗き込み、長瀬の名を呼んだ。しかし返事は返ってこなかった。
「私が先に入って、様子を見てきましょう」
「お、お願いします」
私は北河を後ろに立たせ、そっと扉を開いた。その隙間にするりと入り込む。
特別変わった様子はない。
「長瀬さん」
私は、リビングに通じる扉を開ける。私は室内を軽く見まわした。窓際のベッドで寝息を立てている長瀬以外に気配は無かった。
長瀬の部屋に入るのは初めてだったが、意外に片付いていて、思わず感心した。清潔な人間は好感が持てる。
「うぅん……美味しそうなアイスぅ」
布団に包まる彼女は、間抜けな寝言を口にしている。もう何も心配する必要はない。外で待っている北河を呼びだそ――
「アイス星人!」
突如、眠っていたはずの長瀬が上半身を起こした。そして眠そうな目を擦りながら、私の方に目を向ける。何故か彼女の上半身は何もまとわれておらず、裸だった。
「……アイス星人?」
「違います。隣人のレオルトンです」
「……ナゼここに?」
「それより、早く服を着ないと風邪をひきますよ。外で北河さんが待っていますので、お早く準備を」
私はきょとんとする長瀬を置いて、部屋を出て行った。
「ど、どうでした?」
冷や汗を垂らしながら外で待っていた北河に、長瀬はただ眠っていたという旨を話した。すると彼女は安心したように一息ついた。
それから2人で世間話をしているうちに、大急ぎといった感じで長瀬が部屋から飛び出してきた。とはいえ時間にはまだ余裕があるため、私たちは3人で通学路についた。
「いやぁ~お騒がせしました!」
長瀬は小さな舌を出して、えへへと笑っていた。
「もう……電話もピンポンもしても起きないし、鍵も開いてたし、心配しちゃったよ」
「ごめんね夕花。ニルセンパイも、ご心配おかけしましたっ」
「いいえ、大丈夫です」
「しっかし、まさかニルセンパイに寝起き姿を見られてしまうとは……乙女としてのプライドがずたずたですよー」
「寝癖だらけで、何言ってるんだか」
北河がカバンから櫛を取り出し、長瀬の髪を梳いている。
「まぁでも、男の人にパジャマ姿とか、見られたら恥ずかしいもんね」
「あり~、夕花。もしかして、そんな経験があるのかなぁ?」
「べ、別にそういうことじゃないもん。唯ちゃんだって、今日レオルトン先輩にパジャマ見られたくせに」
「ノン! パジャマは見られてません!私、寝る時は服着ないからっ!」
「え?」
北河の手から、櫛が滑り落ちる。
「ゆ、唯ちゃん……それ、裸見られちゃったってこと?」
「え、誰に?」
「だって、今朝レオルトン先輩が部屋に入ったよね……?」
「……そだっけ?」
長瀬の問いに、私は黙って頷いた。
「……きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
長瀬は凄まじい奇声と共に、全速力で駆けて行った。
「彼女、一体どうしたのですか?」
「レオルトン先輩のばかぁっ!!」
北河も、私を置いて駈け出してしまった。
やはり人間の女性の裸は、見るものではないな。
「そういうわけで、私は謝りに参りました」
放課後となり、私は1年生の教室に来ていた。朝の件を早坂に相談したところ、一刻も早く謝りに行くように言われてしまったからである。
「えっと、こっちこそごめんなさい。ちょっと気が動転していたというか――」
「ううん! 私怒ってます!」
言ってしまえば無関係の北河はともかく、長瀬は相当怒っているということか。
「長瀬さん、私はあなたとの友情を取り戻したいと思っています。どうか許して貰えませんか?」
「ううん! 私怒ってます!」
長瀬は相変わらず、鼻息を荒くしていた。
「分かりました。ならば私も覚悟を決めます。どうでしょう、長瀬さんの言う事を1つ、私がきくというのは」
「おっけーです! 許します!!」
お前、全然怒ってなかっただろう。
「もう唯……レオルトン先輩困らせちゃダメだよ」
「いいの! 乙女の裸はそれぐらいの価値があるんだもん!」
「な、長瀬さん、声が大きいです」
「あう……そうだった。おほん。では、ニルセンパイには……掃除当番の代わりをお願いします!」
「そんなものでよろしいのですか?」
「はい! ってか、とっても助かります。今日実は、夕花と映画デートに行くつもりだったんです!でも、私が掃除当番になっちゃって、それじゃ間に合わなくって」
「今話題の『カエル人間Ⅱ』観に行ってくるんですよ」
北河の口から出た映画のタイトルは、どこも面白そうに感じないが、人間はそういう話が好きなのだろうか。
「分かりました。お2人が映画に間に合うよう、私が全力で掃除当番を代わらせて頂きます」
「ありがとうございます…!ニルセンパイの勇姿は忘れません!」
「お安いご用です。さぁ、早く行って下さい」
「おう! 夕花、行こう!振り返っちゃ……ダメだからね!」
「あ、うん。じゃあ、お願いします」
北河は律儀に小さく頭を下げて、2人で廊下の先へ消えていった。
1時間後、私は帰宅した。
『怪獣出現、怪獣出現。北西5キロ、古代怪獣ゴモラ』
私のパソコンから、非常時を伝える音声が流れる。GUYSや警察などの監視カメラの映像をハッキングして自宅で見られるようにしているので、その映像をパソコンの画面に映す。
取りたてて注目すべきものでもないし、すぐにGUYSとソルが対処するだろう。今や地球産の怪獣が現れるのは地震などの自然災害と同じで、さほど重要事態とはなり得ない。おそらくソルとGUYSが協力してゴモラを鎮めて終わりだ。
―――後編に続く