留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

27 / 167
火曜日は更新できずすみません・・・



第10話「見えない謀略」 その4

 私は椅子に腰かけながら、スマートフォンから伸ばしたイヤホンを耳に差し込む。

 

『うぃ! GIG! 数名を残して、俺は学園に向かうぜ!!』

 

 私はGUYSのメンバーたちの通信を傍受しながら、自宅周辺の熱反応をパソコンで調べた。通信通り、監視に付いていた5人のうち3人が学園方面に向かって行った。私の仕掛けた爆弾による陽動は功を奏したようだ。

 さて、あとは敵の出方を待つだけ。警戒が緩くなった私の元に来てみろ。

 そう考えながらパソコンの画面に目を向けるも、まだ目立った変化は無い。しかしあのグロルーラが襲ってくるとしても、奴の姿は私のレーダー装置には引っかからないため、動きは予測できないのだ。

 その矢先、事態は急変した。

 監視の反応が、突如消える。この高性能レーダーにははっきりと分かる。彼らは何者かに殺されたか、意識を奪われた。

 そして、私の部屋のインターフォンが鳴り響いた。

 

「……」

 

 私は黙ったまま、玄関の扉の前に立つ。

 そして、ドアを開けた。

 

「お前は――」

 

 その瞬間、“奴”はグローザ星系人グロルーラの姿に変身した。   

 銀色にきらめく白刃が襲いかかる。私はすんでのところでそれを避け、刃は空を切った。

 上体を反らせた勢いに乗せ、身体を後転させる。バック転をするような形で一気に距離をとり、私はリビングまで戻ってきた。

 グロルーラは右手に構えた氷の剣をこちらに向けながら、音を立てずにゆっくりと近づいて来た。

 

「やはり来ましたね、グロルーラ」

 

 私は後ろ手に隠していたリモコンのスイッチを押す。

 その瞬間、リビングの様々な場所からオレンジ色のエネルギー光線が放たれる。それらは鞭のようにしなりながら、グロルーラの両手両足にからみついた。

 グロルーラは、それが自分を拘束しようとしていることを瞬時に見抜いたようだった。得意の再生能力を利用して、光の縄に捕まった左腕を自分の刃で切り落とそうとしたが、その右腕もすぐに縛られる。

 奴は大の字のように両手両足を広げた状態のまま、光の縄によって中に浮かされた。若干抵抗はしたものの、奴はすぐに無駄だと悟ったように、動かなくなった。

 

「ガッツ星人の宇宙船に残されていた設計図を基にして作りました。あのソルを拘束するために作られたぐらいですから、抜け出すのは至難でしょう」

 

 グロルーラは右手の刃を砕き、戦闘態勢を崩した。まともに戦っては勝てない相手だったが、こうすればこっちのものだ。

 

「そのままでは話しにくいでしょう。いい加減素顔を見せたらどうですか――」

 

 奴の顔面にひびが入る。同時に身体の各所から、氷が砕けるような音がパキパキ鳴り始め、銀色の鎧が削げ落ちる。そして見え始めたのは、肌色の肢体、桃色の唇、銀色の髪。

 

「――雪宮悠氷」

 

 彼女は一糸まとわぬ姿で、私を冷たく睨みつけていた。

 

「おかしな話ですね。我々宇宙人にとってこの姿は擬態であるのに、正体を見せろと言えばその姿を……雪宮悠氷としての姿を露わにする」

「この惑星ではこっちの方が楽」

「そうですね」

 

 光の戦士や私も同様だが、自分の惑星以外で戦闘時の姿(本来の姿)を維持するのは、エネルギーの無駄なのである。その辺りはウルトラ戦士たちと同様か。

 

「学園の騒ぎは、お前?」

「そうです。そして貴女はGUYSの目が私から逸れたのをチャンスと思い込み、ここに来た。邪魔が入らなければ、今度こそ私を殺せると」

「……」

「さて、あなたには色々聞かなければならないことがある。学園生徒の洗脳、あれはあなたの仕業ですか?」

「……」

 

 表情は読めなかった。

 

「仕方ない。こんなやり方は好きではないのですが」

 

 私は、先ほどのリモコンのスイッチを再び押した。

 

「……!?」

 

 その瞬間、光の縄から強力な電気ショックが雪宮の身体を駆け巡る。想像でしかないが、強烈な痛みが彼女を苦しめていることだろう。

 

「はぁ……はぁ……」

「暴力に任せたやり方は好きではありません。話してくれませんか?」

「話すことは無い」

「愚かですね」

 

 私はさらにスイッチを押す。先ほどよりも、さらに強いエネルギーが雪宮を襲う。

 

「貴女を見ていれば分かります。貴女は人間を洗脳して操るような、回りくどい真似はしない。貴女には仲間がいるはずだ。私を殺すためのお膳立てをしようとした――」

 

 上着のポケットに入れた携帯が震え始めた。着信だ。相手は分からないが、心当たりはあった。

 

「はい、もしもし」

『レオルトン君?』

 

 この声は、CREW GUYSの星川聖良だった。

 

『今、どこで何をしているのかしら?』

「自宅で読書をしています」

『そう。実はね、学園でちょっとした騒ぎがあったから、宇宙人に襲われたレオルトン君は大丈夫かしらと思ったのよ』

 

 “宇宙人に襲われたレオルトン君”か。含みのある言い方だが、気にする必要は無い。

 

「そうでしたか。わざわざお電話ありがとうございます。今日はもう寝ます」

『そう』

「騒ぎが収まることを祈っています」

『ありがとう。それじゃ、おやすみ』

 

 彼女は電話を切った。

 

「私を監視しているGUYSの連中を倒したのも悪手でしたね。すぐに援軍がこの辺を囲みますよ。そうなれば、あなたの仲間はここに助けには来られません」

「仲間など、居ない」

「じゃあ、あの洗脳は自分がやったと?」

「それは知らない」

「あなたは強いようですが、頭が足りない。もし仲間が居ないと証明したいならば、あの洗脳は自分がやったと言えばよかった。私の拷問に耐え兼ね、自分がやりましたと白状すればよかったんです。無理に黙ろうとする姿勢が、余計に仲間の存在を知らせた結果になりましたね」

 

 先ほどまで無表情だった雪宮が、強い殺意を込めた目で私を見た。

 

「ちなみにこのやりとりの一部始終は、全て記録しています。もしあなたが私を殺せば、自動的にGUYSのコンピュータに送信されるようになっているのです。そうなれば、あなたの正体も、そして仲間が地球に潜んでいることも、全てが明らかになります。GUYSは優秀ですから、あっという間にあなたの身辺を探り、仲間を見つけ出すでしょう」

「私を殺せ」

「……そんなに、仲間が大事ですか」

 

 彼女は殺意の代わりに、別の感情を思わせるような表情をしていた。彼女が何を思っているのか、私には分からなかった。

 命に代えても守りたい存在など、私には居ないのだから。

 

 

===========================================

 

 

 その宇宙人は“強さ”を第一に貴ぶ種族だった。自分の命も他者の命も、全ての存在が自分の強さを高めるための道具にすぎなかった。

 彼女は女の個体だったが、同胞たちの中では無類の強さを誇っていた。

 そんな彼女と双璧をなしていた男の個体がいた。同胞たちは彼を尊敬していたが、彼が暗黒宇宙大皇帝という強大な存在につき従うようになったと知ると、途端に手のひらを返した。   

 男は“弱者”として惑星を追われ、消えた。

 彼女は男を追った。強さを求める彼女にとって、彼は超えるべき、殺すべき存在だったのだ。同胞は、彼女も皇帝の部下になるために星を出て行くのかと糾弾し、彼女をも追放した。

 それから彼女が再び見た男の姿は、以前とは大きく違っていた。

 

「久しいな、グロルーラよ」

「グローザム。本当にお前?」

「無論だ」

「……まるで別人」

「馬鹿な。俺は何も変わってはいない。それとも、お前もあの弱者たちのように、俺を蔑んでいるのか? 皇帝に降った俺を」

「違う。お前は弱くない。……むしろ、今の私では勝てない」

「随分とあきらめの早い女だったんだな、貴様は」

 

 グローザムと呼ばれた男は、廃墟と化した都市の中を歩いて行った。グロルーラも、それについて行った。

 

「何故付いて来る」

「お前は何故強くなった」

「知らん。元々貴様が俺より弱かった。それだけだ」

 

 グロルーラは、右手から氷の刃を露わにした。そして間髪入れず、グローザムの背中に切りかかった。

 しかし刃は届かなかった。すぐに彼女は地面に押し倒され、その喉元にはグローザムの刃があった。

 

「俺は貴様などには殺されん。俺には使命があるのだ」

「皇帝の命令?」

「そうだ。皇帝について行けば、常に強者との戦いに身を投じることができる。だから貴様ごとき相手にしている暇はない」

 

 グローザムは刃をしまい、グロルーラを解放した。

 

「近々、地球に行く。ウルトラ兄弟以来の逸材が地球を守っているらしい。名はメビウス」

「戦うの?」

「そうだ。奴を抹殺し、俺は更に強くなるのだ!」

 

 それ以来、2人が会うことは無かった。グローザムはウルトラマンメビウスに敗北し、死んだ。

 その報せがグロルーラの耳に入った時、彼女は戦地にいた。カイラン星人という宇宙人の傭兵として、ある惑星の将軍を討ち取った彼女は、将軍の城を後にしようとしていた。

 

「アナタがグロルーラね?」

 

 グロルーラの目の前に現れたのは、見たことの無い宇宙人だった。白い骨のような鎧で外皮を覆われ、その内側から灼熱のエネルギーを感じた。

 

「アナタのことは知っているわ。あの暗黒宇宙大皇帝の四天王、猛将グローザムの仲間だったようね」

「仲間ではない。一度話しただけ。奴が死ぬ前に」

「その彼と同程度の実力を持つのがアナタだと聞いているわ」

「奴には勝てなかった」

「確かに、今のアナタは強そうには見えないわ」

 

 グロルーラは、目の前で自分を嘲笑う宇宙人に、何の感情も湧かなかった。

 

「私は行く」

「待って。アナタ、強くなりたくてここに来たんでしょう? カイラン星人なんてゴミどもに雇われて」

「……」

「私が教えてあげるわ。強くなる方法を」

 

 グロルーラの歩みが止まった。グロルーラ自身、自分より遥かに戦闘能力で劣るであろう、この宇宙人から得られることなど何もないと感じていたはずだった。

 しかし、彼女の言葉には惹きつけられるものがあった。

 

「本当に強くなりたければ、何かのために戦うことよ。自分自身のためにしか戦えないアナタは、生きようとする意志にかけているの。だってアナタ、いつ死んでもいいわって顔してるもの」

 

 グロルーラは、言うべき言葉を見つけられなかった。

 

「どう? 私と組まない?」

「お前と組む?」

「そうよ。私はね、ある惑星を手に入れたいの。それが私の戦う目的よ」

「私は惑星なんて――」

「違うわ、グロルーラ。アナタに必要なのは惑星なんかじゃない。アナタが戦う理由、勝つ理由になるべき存在。アナタは私のために戦いなさい。それが生きようとする、勝とうとする意志をを強くする」

 

 グロルーラの脳裏に、最後に会ったグローザムの姿がちらついた。

 彼にも、戦う理由が――

 

「さぁ、来なさい」

 

 その宇宙人は、グロルーラに手を差し伸べる。

 

「私が、アナタの生きる理由になってあげる」

 

 彼女は、優しく嗤った。

 

 

―――第11話に続く


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。