留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第10話「見えない謀略」 その3

 結局、ボウリングは相手チームの勝利に終わった。早馴は最後数球はまともになったもののそれまでのスコアが響き、これが勝利を分かつ結果となった。

 ボウリング場からの帰り道、私たちはそれぞれの家の方向にだんだんと散り散りになり、最後は私と零洸が残った。

 零洸の家の方向は分からないが、彼女は護衛として私に付いて来た。

 その間も、私はある気配を常に感じ取っていた。もうここまでくれば、確信をもって言える。

 GUYSは、私のことを密かにマークしているのだ。

 

「レオルトン?」

「いえ。零洸さん。わざわざ送って頂いて、感謝しています。ありがとうございました」

「いや、いいんだ。これもGUYSの一員としての使命だ」

 

 零洸は少しだけ笑った。

 

「それに1人の友人として、キミを放ってはおけない」

 

 彼女は別れの言葉を残して、薄暗い街路に消えていった。

 私は部屋の鍵を閉め、真っ直ぐに洗面台に向かった。手を洗いながら考えたのは、GUYSの目的だった。私をマークしていれば、いずれグロルーラ、もしくは学園で洗脳騒ぎを起こした何者かが接触してくるに違いない、と踏んでいるのだろう。

 グロルーラと同系列の宇宙人――例えばウルトラマンメビウスに倒された“不死身のグローザム”は、純粋に戦闘に長けた宇宙人で、洗脳などという小細工に頼ることは無かった。グロルーラと名乗る奴も大体同じと考えれば、洗脳を行ったのは別の宇宙人で、奴らは手を組んでいると推測できる。

 必要なのは、グロルーラを捕まえること、そして洗脳騒ぎの黒幕――私の正体を知る何者かの正体を暴くこと。しかもGUYSには知られずに。

 なかなか面倒ではあるが、やれないことはない。

 私は蛇口を閉め、ポケットからスマートフォンを取り出す。この自宅内に何者かが侵入した形跡や、私の知らない機械が設置された痕跡も無かったことを確認した。

 それからすぐリビングに入り、パソコンの前に座る。電源を入れ、この自宅周辺を監視しているレーダーを確認する。私の思ったとおり、5人の人間の熱反応がこの場所を中心に点在していた。しかし、カメラなどの監視装置が周辺に設置されている様子は無い。

 その後、GUYSのメインコンピュータへの侵入を試みた。

 

 

 

《作戦指令》

 

 沙流学園での洗脳事件を受け、本隊では被害者のニル=レオルトン(当該学園在籍)の保護観察を開始する。目標はニル=レオルトンの保護ならびに洗脳事件の首謀者、もしくはグローザ星系人グロルーラの確保である。洗脳事件の首謀者と冷凍星人が同一か別かどうかは佐久間ダイキ隊員の詳細な分析結果待ちだが、暫定では別個の実行者であると、彼は判断している。  

 作戦の期限に関しては、現時点では設定していない。何らかの動きがあった場合に再設定する。

 なお、当該学園に所属している零洸未来隊員はニル・レオルトンを直接護衛しており、観察班は密に連絡を取りながら行動すること。

 

           CREW GUYS・JAPAN隊長 星川聖良

           GUYS・JAPAN 総監補佐

 

 

 

 GUYSのコンピュータに記録されていた指令書は、私の考えていたことと殆ど相違なく、あまり意味のある情報とはならなかった。しかしこのまま放っておいても監視が外れないことを知れたのは有意義であった。

 私は連中の動きを察知し、その穴を突かなければならない。すぐに椅子から立ち上がり、様々な作業に取り掛かった。

 

 

 

 

 結局、ここ数日グロルーラは現れなかった。そしてGUYSの監視はまだ続き、零洸も常に私をマークしている。

 どうやら敵はこんな厳戒態勢の中、私に接触してくるような愚か者ではなかったようだ。

 変わらない状況。焦ることは無いとしても、気持ちの悪さは続く。いくら私が巧妙に人間に扮しているとはいえ、いつまでも宇宙人退治のプロに目をつけられているのは気分が悪い。

 それに、早い所洗脳騒ぎの黒幕の正体を掴む必要がある。私の正体を知っている時点で、抹殺する必要があるのだ。

 仕方ない。多少のリスクはあるが、こちらから餌を撒いてやるぞ、グロルーラ。

 

「レオルトン、何か考え事か?」

「いえ、別に」

 

 校庭での体育の時間、隣で柔軟運動をしている樫尾が聞いてきた。

 

「お前は、なんだかいっつも考え事してるみてぇだな」

「そうですか?」

「おうよ。その辺は未来にそっくりだな」

 

 私は自然にその名前に反応し、女子が列に並んでいる場所に目をやった。零洸は、いつもと変わらない無愛想な表情で女子陣をまとめる号令を出していた。

 

「あいつも、しかめっ面が多いからなぁ」

 

 樫尾はそれだけ言って、柔軟に集中を戻したようだった。

 

「……樫尾さん、お水を飲みに行ってきます」

「おうよ」

 

 私は男子の群れを抜け、1人校舎へ向かった。しかし校舎には入らず体育館裏に向かった。

 ここでいいだろう。

 私は周囲に誰も居ないことを確認しながら、ポケットから銀色の物体を取り出す。人間体の私の、指の先ほどの大きさしかない物である。私はこの物体を、体育館裏に放置された物置の中に放り投げた。

 それからすぐ、私はクラスの男子の輪の中に戻った。

 零洸は相変わらず、女子陣の中で運動をしていた。

 それからの時間、私は先ほどと同じ物体を校内の各所に設置した。体育館裏に続き、校舎のトイレや教室、駐車場にも仕掛けた。極力不自然に映らないよう、慎重に慎重を重ねた。

 下校時間になってからは、零洸と一緒に買い物をしながら学園周辺や駅前を歩き回った。そして相変わらずGUYSの尾行がついていることを確認し、帰宅した。

 それから数時間経ち、時刻は午前0時。まだアパートの周囲には、GUYSと思われる監視が張り付いている。

 私はスマートフォンに手を伸ばした。

 

 

=======================================

 

「星川隊長、相変わらずターゲット周辺に目立った動きはありません」

 

 観察班からの連絡を受けた零洸は、ブリーフィングルームのモニター前に立つ星川聖良の背に向けて報告した。

 

「そうね」

 

 星川はゆったりとした微笑を浮かべながら、ミーティング用の広い机の前に座った。

 

「ニル=レオルトン君はどうして襲われたのかしら」

「分かりません。彼が知らないうちに、どこかで宇宙人と接触したと考えるしかないのでは?」

「未来ちゃん、彼はやっぱりただの人間かしら?」

「そう、思います」

「そっか」

 

 星川は席を立ち、部屋の端に置いてあるコーヒーサーバーに触れた。

 

「私たちのような存在が、必要の無い世界ならばいいのにね」

「隊長、それは――」

「うん、もちろん分かっているわよ? そんなに簡単じゃないものね」

 

 星川は2杯のコーヒーを作り、再び席に戻った。目で未来に一杯のコーヒーを勧めて、彼女はモニターに目を戻した。

 その時、ルーム内に激しい警報が鳴り響いた。

 

『隊長! 沙流学園観察班の三河です! たった今学園体育館で爆発が発生、数名の隊員が現地に向かっています!』

 

 CREW GUYS隊員の三河リョータの顔が、モニターに移る。

 

『続いて学園敷地内の各所で爆発! これは……動いているのか!?』

『うぃ! ニル・レオルトン観察班の小山だ! こっちに異常はねぇ。現場に動いてもいいか? あぁん?』

 

 三河隊員の報告をかき消すように、ニルを護衛・監視している班の指揮を執っている小山ユータ隊員が画面に映りこむ。

 

「落ち着きなさい。学園はそのまま担当班に任せ――」

『星川君! 何を悠長なことを言っておるかね!』

「総監補佐」

 

 モニターの端に移る初老の男性は、いかにも寝起きという出で立ちではあるが、かなり興奮していた。

 

『急ぎ増援を送って、学園の騒ぎを鎮めるんだ! あれはどう見ても戦闘だろう!?』

「……三河君、君の見解は」

『まだ現地報告が来ていませんが、宇宙人の戦闘に見えなくは無いです。爆発は移動するように次々と起こっています。ですが――』

『君の見解は必要ない!とにかく学園を何とかしてくれたまえ!教育機関で怪我人が出たとなれば、GUYSの面目が立たんのだよ!』

 

 総監補佐のヒステリックな言葉を、星川はため息交じりに了承した。

 

「……GIG」

 

 そして彼女は、小山に向かい指示を飛ばした。

 

『うぃ! GIG! 数名を残して、俺は学園に向かうぜ!!』

「……総監補佐、これでよろしいですか?」

『もちろんだ!迅速に処理してくれたまえよ。それでは失礼する』

 

 総監補佐は通信を切断した。

 

「隊長。何故学園への援軍を渋ったのですか?」

 

 零洸は外しかけた手袋を装着しながら、星川に問う。

 

「今フリーで動かせる隊員は限られているわ。レオルトン君周辺を疎かにしたくなかったの。それに学園での異常は、どこか違和感がある」

 

 しかし星川自身、この違和感を説明できずにいた。状況としては、間違いなく学園で何かが起きているのだが。

 

「隊長、私も学園へ行って、状況を確かめます。学園生である私が、一番動きやすいはずです」

「そうね。レオルトン君には私から連絡を取るわ。あなたは学園にお願い」

「GIG!」

 

 零洸は、スプレンディッド・ガンを腰のホルスターに装着し、ブリーフィングルームを後にした。

 

 残された星川は、携帯電話を手に取った。

 

「もしもし、私です。至急技術班に、内密に頼みたいことがあるの」

 

 彼女は一度深く息を吸い、吐いてから言った。

 

「沙流学園に、監視カメラを仕掛けてちょうだい」

 

 

―――その4に続く


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