留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第10話「見えない謀略」 その2

『おはよう、ニル。学校、ちゃんと来てね』

 

 早馴(さなれ)からのメールで目を覚ます。彼女にしては早い時間から起きているのだな。

 私はこれからどう動くべきかを思案しながら支度をし、いつもよりも若干早い時間に部屋を出た。

 部屋を出てすぐ、私は違和感を覚えた。何者かに観察されているような感覚である。

 しかし今考えるべきは目の前に立つ彼女への対処である。

 

「おはよう、レオルトン」

 

 家の前に立っていたのは零洸(れいこう)だった。

 

「何か御用ですか?」

「ああ。取りあえず、学園に向かおう」

 

 状況がいまいち飲みこめないが、私たちは2人で並んで通学路を歩いている。

 

「もしかして、私の監視ですか?」

「監視ではない。キミを護衛しているつもりだ」

 

 零洸は、常に周りを警戒している様子だった。そのせいか、殆ど言葉を交わさずに学園の正門までやってきた。

 

「レオルトン」

 

 昇降口で靴を履き替えているとき、不意に彼女が口を開く。

 

「キミは本当に、宇宙人や怪獣と何の繋がりも無いんだな?」

 

 彼女は私を凝視した。嘘はつかせないぞ、という凄みを感じる。

 

「ええ、何も」

 

 私は零洸を置いて、先に廊下に進んだ。昨日は臨時休校だったとはいえ、校内はあまりにも普段通りだった。2日前にあんな騒ぎがあったことなど、誰も覚えていないかのようだった。

 

「皆、自分が洗脳されていたことは知らない。キミを狙ったこともな」

 

 追いついてきた零洸が説明してくれた。洗脳騒ぎのあった日のうちに、GUYSによって生徒たちは一度検査を受け、特に後遺症が無いことが分かっているようだ。生徒たちには、宇宙人によって集団催眠にかかり眠らされただけだと、GUYSは説明したらしい。

 

「あら、おはようございますわ、お2人とも」

 

 教室に入ってすぐ、杏城(あんじょう)の元気な挨拶で迎えられる。

 

「ああ、おはよう逢夜乃(あやの)

 

 零洸自身も、まるで何事も無かったかのように振舞っていた。

 

「ニル!」

 

 しかしいつもと比べて珍しいこともあった。普段、朝は机に突っ伏して動かない早馴が、私が来るなり教室の出入り口までやって来る。

 

「昨日は、何も無かった?」

「もちろんです」

「そういえば、レオルトンさんは検査の際にいらっしゃいませんでしたけれど……」

 

 杏城の問いに、私は昨日GUYSの連中と示し合わせたように答えた。

 

「はい。私以外にも何人か怪我をした人もいたようで、一緒に久瀬病院に運ばれたんです。早馴さんには、ちょうどメールしていた時に話したんです。そうですよね、早馴さん?」

「あぁ、うん」

 

 早馴は自分の席に戻っていった。グロルーラとの接触については他言を禁止されていたので、GUYSの検査時に私がいなかったことに関してはこのように説明することになっている。

 それからは何事も無く時間が過ぎていき、帰りの時間となった。しかしこの時間までずっと、朝からの違和感が消えることが無かった。

 

「レオルトン、一緒に帰ろう」

 

 零洸、やはりそう来るか。

 

「いいですよ」

「私も、一緒に帰っていい?」

 

 意外だったのは、早馴も一緒になったことだった。

 

「あら、皆さんご一緒ですか?わたくしもよろしいかしら?」

 

 杏城も加わる。

 

「俺も行くぜ」

 

 樫尾も追加。

 

「じゃあ僕も」

 

 早坂も。

 

「そんな楽しそうな所に、俺が行かないわけが無いだろう!」

 

 そして草津。

 

「ニルせんぱーい!!今日の夜ごは――何ですかその集まり!?私も混ぜてくださいよ~!」

 

 最後に長瀬も一緒になり、私たちは8人で学園を出た。

 

「ただ帰るのはもったいないではないか。どこかで遊んで帰るぞぉ!」

「賛成ですっ!!」

 

 草津と長瀬の提案で、私たちは帰るどころか、駅前のボウリング場に行くこととなった。

 ボウリングとは、球を投げてピンを倒すだけの、簡単な作業である。いや、作業ではなかったな。これは人間にとっては立派な遊戯である。

 それから4人ずつのチームに別れ、スコア対決の始まりとなった。

 

「チーム草津!」

「嫌ですわ!チーム逢夜乃と愉快な仲間たち、というのがよろしいのでは?」

「どうだっていいわよ、もう」

「ははは……個性派揃いだね」

 

 草津、杏城、早馴、早坂のチームと、

 

「へへっ。こいつは面白くなってきやがったなァ、レオルトン!」

「そうですね」

「魂が燃えたぎってきますよぉぉ!」

「みんな、騒ぐのは程ほどにな」

 

 樫尾、私、長瀬、零洸のチームである。4人チームを半分に割り、両チーム2人ずつが1つのレーンで投げあう。私のレーンには、早馴、早坂、長瀬がいる。

 

「よし、設定し終わったよ。最初に投げるのはニルくんだね」

「早坂さん、了解です」

 

 私は早坂と同じ球を選び、それをもってレーンに立った。こんな軽い球を転がしてピンを倒せるのかは疑問だが、力を調整しつつ投げてみよう。

 

「行きます」

 

 中心に向けて、放つ。

 

「これは!」

 

 長瀬が叫ぶ。

 球は転がらず、一直線に飛んでいってピンをなぎ倒した。

 

「あ」

 

 思わず間抜けな声が出てしまった。

 

「ニルくん、これじゃゲームが違うよ。というかすごい力だね!」

「鍛えてるんですよ。ははは」

「細かいことは気にせず、もう一球ですよ!ニルセンパイ、両端のピンが残ってます…難しいですけど、ファイトです!」

 

 長瀬が私の背中をばしばし叩きながら、レーンに送り出す。

 

「これは、スペアは無理だろうね」

 

 早坂は一応対戦相手だけあって、この難局を面白そうに眺めていた。

 舐められたものだ。必ず2本とも倒してやる。要は、球に弾かれた一本のピンが、もう一本のピンにぶつかれば、両方とも倒れる訳だ。

 ピンまでの距離、球の大きさと重さは把握した。ピンの重さは分からないが、大きさと先ほどの感じから、おおむね予想できる。

 後は、これくらいの回転を球に乗せて――

 

「投げた!」

 

 長瀬が叫ぶ。

 

「まじか」

 

 雑誌に夢中だった早馴も声を上げた。

 

『スペア!すごいね!カッコいい!惚れちゃいそぅ』

 

 天井に設置された画面から、女の声で私を褒めちぎる言葉が流れてきた。

 

「まさかあれを倒すなんてね。あ、次は愛美さんだ。ニルくんに負けてられないよ! ファイト!」

 

 早坂に促され、早馴が立ち上がった。

 

「はいはい。それなりに倒すって」

 

 早馴は球の重さに身体を取られながらも、投げた。

 

『ガァァタァァァァ! これはお間抜けさんだね!いきなりガーターなんて笑っちゃう! アハハハハハ!』

 

 先ほどの女の声が、凄い勢いで早馴をけなす。なんと感情的な機械だろうか。

 

「む、むっかぁ」

「まぁまぁ愛美センパイ、2球目がありますよ! 気にしない気にしない!」

「唯ちゃん……ありがと!」

 

 早馴は、先程とはうって変わって、気を引き締めながら球を投げた。

 

『ガァァタァァァァ! 2連続でガーターなんて、病気? 病気かなぁ? アハハハハハ』

「……ふんっ!」

 

 早馴は、声を発する液晶画面に向かって「ばーか」と言い、先ほどの椅子に戻った。

 それから数ターンが続き、残すところ6球となった。

 早馴のスコアは、19であった。

 

「ボウリングなんて、大っ嫌い!」

 

 早馴は完全にいじけて、雑誌にも目をくれず突っ伏していた。

 

「愛美さん、まだまだ大丈夫だよ」

「そうです! これからストライク3連続なら私のスコア抜きますよ!」

 

 早坂と長瀬が、苦笑いのまま早馴を慰めていた。

 

「ニルセンパイからも、何か言ってあげてください!」

「そうだ、ニルくんがコツでも教えてあげればいいよ、うん!」

 

 早坂はナイスアイデアと言わんばかりの顔で、早馴を起こしにかかった。

 

「今の所1番上手なニルくんが教えてくれたら、きっと愛美さんも上達するって!」

「……分かったよぉ」

 

 早馴は悔しげな顔をして、私の前に立った。

 

「どうすればいいの」

「そうですね。言葉では説明できないので、実際にやって見せます」

 

 私の投球を見せてやった。もちろんストライクだ。

 

「見ても分かんない!」

 

 早馴は余計にむくれてしまった。

 

「じゃあ、こっちで練習しましょう。早坂君と長瀬さんが先に投げてください」

 

 私は早馴を連れて、レーンから少し離れた。

 

「一度、球を持っていることを想像しながらフォーム見せてください」

「う、うん」

 

 何も持っていないというのに、何ともぎこちない動きである。

 

「まず球を持った腕を後ろに引く時。この時の足はーー」

 

 私は早馴のフォームを各ポイントで静止させ、その際の身体の動きや形を修正した。

 

「で、投げる瞬間は足をこうして」

「あ、あのさ、ニル」

「はい」

「ち、近い」

 

 そう言われて早馴の顔を見上げた瞬間、鼻のあたりに柔らかい感触があった。

 

「あ、ちょっと…!」

 

 どうやら早馴の乳房に私の顔がぶつかったらしい。

 

「そして最後、投げ終わった後は――」

「このヘンタイ!」

「え――」

 

 私の鼻が、思いきり彼女の指につままれた。

 

「いひゃいでふ」

「一昨日の病院の時もそうだったけど、アメリカでは女の子にえっちな悪戯をするのが普通なんですかねぇ……」

「ちひゃいまふよ」

「このばかニル!」

 

 早馴は私の鼻を離して、レーンに戻っていった。

 

「じゃあ!愛美センパイの特訓の成果を見せてもらいましょー!」

「う、うん」

 

 もはや長瀬は敵チームながら、早馴を応援しまくっている。

 

「じゃあ、投げます」

 

 早馴が投球フォームに入る。

 物覚えが良いのか、今までと見違えるような美しいフォームで球を投げた。

 

『あら、7本も倒しちゃって。意外とやるじゃん』

「愛美センパイすごいです!画面さんも褒めてますよ!」

「そ、そうかな……?」

「この調子でスペア狙っていこう!」

 

 早坂も早馴の投球を見守っている。

 

「投げるね」

 

 早馴がフォームに入ろうとする。

 

「早馴さん、待ってください。1つ言い忘れていました」

「急にびっくりするなぁ。何?」

「早馴さんは、目標よりも気持ち右側を狙って投げてみてください。そうすると上手くいきます」

「分かった。そうしてみる」

 

 早馴が投げた。

 球は真っ直ぐにピンに向かって伸び、残る3本を全て倒した。

 

『スペア、か。すごいよ、うん。何て言うか、今まで馬鹿にしてゴメン。見直した。べ、別に褒めてるわけじゃないんだからねっ!』

「やったぁ!!愛美センパイすごいですっ!」

「愛美さん流石だよ!画面さんもすごいって言ってる!」

 

 長瀬と早坂は、2人でハイタッチをして喜んでいた。もちろん戻ってきた早馴とも、何回も手を合わせていた。

 

「早馴さん、完璧でしたよ」

「そう、かな?」

「ええ。おめでとうございます」

 

 私は入れ違いに、球を取りに椅子から立ち上がった。

 

「待って」

 

 早馴は急に、私の手を取って。自分の掌を合わせてくる。

 

「その、ありがと」

 

 早馴は顔を見せずに振り返って、また椅子に戻って行った。

 彼女の温かい体温が、まだ私の掌にも残っているように感じた。

 

 

―――その3に続く


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