留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第8話「3人の女」 その3

 そして約束の土曜日となった。

 日本人は5分前行動が基本理念らしいので、私もしっかり5分前には待ち合わせ場所にやって来ている。

 

「待たせたな」

「……私、服装間違えました?」

 

 私は、制服姿の彼女を見てそう言った。自分は私服姿だったのだ。

 

「そんなことは無いと思う」

「零洸さん、制服でいらっしゃると思わなかったので」

「ああ、これか。気づいたら制服で家を出てしまってな。戻るのも面倒だからこのまま来た」

 

 もし私が零洸とのデートもどきを心待ちにしていた一般男子だとしたら、その発言はあまりに酷であろう。

 

「そうでしたか。さて、どこへ行きます?」

「お店は調べておいた。付いて来てくれるか?」

「分かりました」

 

 そこから10分ほど歩いて、例の店に着いたわけだが。

 

「なんですか……ここは」

「プレゼントを渡す相手の趣味を考えて選んだつもりだが、おかしかったか?」

「いえ。個性的な趣味ですね。ははは」

 

 ここはDVDショップという所だ。しかし、一般に有名な映画やドラマのDVDが見当たらない。

 

「これがB級映画か。どれもよく分からないな。頼んだぞ、レオルトン」

 

 そんなもの、私だって知るものか。

 店内には、私が人間生活の参考として目を通したメディア作品はほとんど置いていなかった。聞いたこともないタイトルばかりが並んでいる。

 

「あの、本当にここでいいんですか?」

「B級映画が好きなんだ、その相手は。だからインターネットで検索して一番近いここを選んだ。口コミとやらの評価も高かったが」

「じゃあ大丈夫なんでしょうけど……選ぶのが難しそうですね」

 

 人間的感性は一般人が持つ程度には学習したが、B級映画のようなマニアックな領域は全く想定していない。

 しかしここはうまく立ち回らねば。今後クラスで付き合いが長く、かつわずかでもソルの疑いがある者の前でうかつな行動はとれん。

 

「これはどうです?『トランスモーター』。ロボットが格好いいですよ」

「……レオルトン、君はいまいちセンスが無いな。明らかにつまらなさそうな映画だろう」

 

 ……なんだ、この悔しさは。こうなったら本気で人間が面白いと感じる映画を選んでやろう。

 

「ではこれを。『仮面ファイタートリプル』」

「それはちょっと子供っぽい気がする」

 

 それもそうだ。よく考えれば、早馴や零洸と近い世代かそれ以上の相手に特撮ヒーローはまずかったか。

 

「これはどうだろう?」

「……ウルトラマン、みたいなヒーローですね」

 

 零洸が自信満々に見せてきたのは『ハイパーマン』という全身タイツのヒーローだった。とても弱そうだ。

 

「格好いいじゃないか」

「……良いと思いますよ。はい、とても」

「じゃあこれに決めよう。喜んでくれるかな」

 

 零洸は、普段あまり見せることの無い、年相応に無邪気な笑顔を見せた。こんな顔をされたら、こちらも言葉が出ない。

 

「じゃあお金を渡すから……その、買ってきてくれないか?」

「え、どうして」

「こういう物は、女学生が買う物では、ないと思って」

「そうですよね。分かりました」

 

 何だこの状況は。どうして侵略宇宙人である私が、宿敵ウルトラマン(に似ているB級ヒーロー)のDVDを持ってレジに並んでいるのだ。

 

 

「今日は本当にありがとう。おかげで目的を果たせた」

「私も色々と勉強になりましたから。お互い様です」

 

 少々長い距離を歩いたので、私たちは途中の公園で休憩することにした。零洸がおごると言って聞かないので、私は缶紅茶を頼み、私たちは並んでベンチに座った。

 それから少し、私たちは他愛もない話をした。こうして彼女と2人でじっくり話すのは初めてだった。いつもここに早馴や杏城、草津や樫尾、早坂が混ざっていたからだ。しかしこうして実際に言葉を交わすと、少し大人びた女子高生といった印象を受けるばかりで、当初抱いていた警戒心に似た感覚は薄らいだ。

 しかし零洸がどんな人間であろうと、ソルに関係する、もしくはそれ自身である可能性はゼロではない。私は、少し踏み込んだことを聞いてみた。

 

「零洸さん、あまり授業にいらっしゃらない気がするのですが、進級単位などは大丈夫なのですか?」

「そのことか。実は、私の実家が少し特殊なんだ。本来ならば学生なんてできない立場なんだが、無理を言って許してもらっている。出席が足りない分、レポートとテストの点数でカバーしていると言ったところなんだ」

「すごいですね」

「そんなことはない。逢夜乃や早坂に勉強を教えてもらうことが多くて、いつも世話になっているし、愛美や樫尾もノートを見せてくれる。そうだ、草津もたまに助けてくれるな。結局みんなのおかげで、ぎりぎりやっていけてるだけだよ」

「皆さん仲良しですものね」

「そうだな。皆のことは、好きだ」

 

 その言葉から、偽りの意思は感じなかった。

 これが人間の持つ“友情”という感情なのだろうか。私には理解できなかった。

 

「ずっと、友達でいられれば良いのだが、な」

「え?」

「い、いや。何でもない。そういえば、キミにちゃんと礼を言っていなかったな。今日は本当にありがとう。私一人ではきちんと買えたかどうか分からなかったからな」

 

 零洸は満足げな笑顔を浮かべた。

 今日は何度も彼女の笑顔を目にする。普段の学校生活で見ることが少なかったから、新鮮な気分だった。

 

「どうかしたか?」

「いえ。零洸さんが満足した様子なので」

「あ、あまり人の顔をじっと見るものじゃない」

「失礼しました」

「なんだか、レオルトンは不思議な感じがする」

「不思議?」

「ふっ、気のせいかな。いけない、私はそろそろ帰らないと」

 

 零洸は携帯で時刻を確認し、缶のお茶を飲み干して立ち上がった。私もそれに続く。

 

「もう1時近いですね…」

 

 DVD選びやら移動やらで結構な時間がかかってしまったようだ。

 

「私はあっちの方向だ」

「私は逆方向です。では、また学校で」

「うん。あ、待ってくれ」

 

 お互い背を向けようとした時、零洸が呼び止めた。

 

「キミのことも、友達だと思っているんだ。だから、困ったことがあったら言ってほしい」

「はい。ありがとうございます」

「ああ。それじゃ」

「さようなら」

 

 別れ際はあっさりだった。私も、そしておそらく零洸も振り返ることは無かっただろう。

 さて、次は雪宮との約束を果たしに行かねば。

 

 

―――第9話に続く


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