留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第8話「3人の女」 その2

「やっとお昼かぁ。もう疲れちゃった」

 

 早馴はシャープペンを机に放り投げて、のけぞる様に伸びをした。

 

「今日の世界史は割とハードでしたからね」

「あの板書量のせいで手が壊れそう。次からニルのノートコピーしようかな」

「その痛み、一緒に食事をしながら癒してやろうか?」

 

 草津は一限目のダメージから回復したようで、ハイテンションで近づいてくる。

 

「未来と食べようっと」

 

 早馴は颯爽と離れていった。

 

「ふはは。照れ隠しの無視か。可愛いやつめ」

「草津は相変わらず――」

「この裏切り者め! 貴様とは金輪際口を利かん!」

「急にどうしました」

「お前など……ハゲてしまえっ!」

 

 間抜けな捨て台詞を吐いて、草津は全速力で教室から姿を消した。まぁ、奴の気まぐれに構っていては時間と体力の無駄だな。

 その一方、乱心状態の草津が去っていくのを、零洸は自分の席から見計らっているようだった。彼女は草津と入れ替わりに、私の席の前にやって来た。

 

「ご飯の約束ですね」

「覚えていてくれたのか」

「しかし、さっき早馴さんがお誘いに行きませんでした?」

「大丈夫。さっき事情を説明したよ」

「そうですか。じゃあ、学食でいいですね?」

「ああ」

 

 私たちは学食へやって来た。さほど苦労せず席を確保し、2人で向かい合ってA定食を食べている。

 

「実は話があって。と言うより、お願い事かな」

「大丈夫ですよ」

「実は――」

「ニル=レオルトン」

 

 その時、聞き覚えのある声が背後から聞こえた。

 

「あなたは、雪宮悠氷(ユキミヤユウヒ)さん」

 

 少し前に剣道部の顧問に呼ばれた時に、私の相手をした剣道部の部長だったな。あの時とは違って、彼女は長い髪を左右二つに束ねていた。

 急に私の前に現れて、何の用だろうか。もうあの殴り合いは御免だぞ。

 

「お前のクラスメイトに聞いてここに来た。……邪魔だった?」

 

 雪宮は、私の前に座る零洸に目を向けた。

 

「いえ、私は大丈夫です。気にせず話してください」

 

 席を立ち、近くの空いている席に移動しようとする零洸を、雪宮はすかさず止めた。

 

「いい。放課後に時間を取ってもらう」

 

 何故勝手に決めた。

 

「それじゃ」

 

 結局何がしたかったのかも分からず、雪宮は行ってしまった。零洸は申し訳なさそうに彼女を見送った。

 

「いいのか?」

「後で話すことになったので大丈夫でしょう。で、お願いとはどのような内容ですか?」

「その話だったな。実は……」

「はい」

「その……」

 

 何をもったいぶっているのだ? しかも、彼女は何故か赤面している。具合でも悪いのか? 分からない。

 

「よし、言おう」

「はい」

「今週の土曜日、デートをしよう」

「……はい?」

「ん? もしかして違うのか?」

「全く事情が呑み込めません」

「今週の土曜日の午前中、私の買い物に付き合って欲しいんだ」

「あぁ、なるほど。理解しました。勘違いしてしまいましたよ。はは」

「勘違い? 何をどうやって」

「デートというのは、恋愛関係を望む男女、もしくは好き合って交際することになった男女が行うものだと認識していますが」

「そ、そうなのか!? ごほっ! ごほっ!」

 

 本当に知らなかったみたいだな。飲みかけていた水でむせ返っているし、顔の紅潮が尋常ではない。

 

「レリア……全然話が違うじゃないか」

「はい?」

「いや、何でもない。驚かせて済まなかった。そういう意味ではないんだ。ははは」

「それで買い物というのは? その付添い、本当に私が適任でしょうか?」

「ああ。実は、バイト先の男性に誕生日プレゼントを贈りたいんだだから、男性の視点でプレゼント選びを手伝ってほしい」

「そういうことなら。でも、早馴さんや杏城さんでも問題ない気がしますが」

「2人とも用事があるらしい。それに、男性のプレゼントは男性に手伝ってもらった方が良いと2人にも言われていてな。ついでに言うと樫尾と早坂は部活動だ」

 

 草津は、と言おうとしたが、無駄だと思ってやめた。

 

「分かりました。お力添えしましょう」

「ありがとう。助かったよ」

 

 これは良い機会だ。あまり観察のできなかった零洸と十分な時間を、しかもおそらく二人きりで取れる。零洸はソルであるという疑いのある女だ。慎重に事を進めよう。

 

「ところで今日の朝、どうして私の家の場所を知っていたのですか?」

「あぁ、言い忘れていた。愛美から聞いたんだ。愛美は、レオルトンの家に行ったことがあるのか?」

「行ったというか、家選びに同行してもらっただけですね。不動産屋の場所が分からなかったので」

「そういうことか」

「どうかしました?」

「ん? 別に何も」

 

 心なしか、零洸が微笑んだ気がしたが……気のせいだろう。

 

 

 

 

 放課後となった。今度は雪宮が私に用事があると言っていたが、どのような内容だろうか。

 

「ニル~掃除当番代ってよ~」

 

 早馴が箒を引きずりながら近づいてきた。

 

「早馴さんっ、いけませんよ」

「小言魔人逢夜乃」

「し、失礼ですわっ! レオルトンさんからも何とか言ってやってください」

「すみません。放課後は用事がありまして」

「そう、私も用事があるの。今日は帰りに駅前のケーキ屋さんに行くんだから」

 

 早馴は箒を私に押し付けながらそう言った。私は絶対にやらないぞ。

 

「でしたら、掃除が終わってから一緒に行きましょう? わたくしも気になっていて」

「ホントに?おっけー」

 

 早馴は私から箒をぶん取り、杏城と共に掃除を張り切り出した。

 

「それでは失礼します」

「じゃあね、ニル」

「さようならレオルトンさん」

「待てぇ! この女たらしめっ!」

 

 突如草津が、私の腕を掴んだ。

 

「人聞きが悪いです」

「紫苑先生と謎の密会があった矢先に、零洸と二人で食事とは……羨ましすぎる!貴様は女の敵だ!!」

「あんたも大概だけどねー」

 

 机を動かしながら、早馴が口を挟んだ。

 

「くぅ……言ってくれるな。それはそうと……非常に憎らしいが、レオルトン。剣道部の雪宮部長がお呼びだぞ」

 

 教室の出入り口に彼女は立っていた。わざわざ迎えに来てくれたらしい。

 

「ありがとう、草津。では失礼します」

「レオルトン、貴様など太ってしまえ! そして女の子に嫌われろっ!」

 

 私は教室を出て、雪宮について行った。彼女は黙ったまま、学食に向かっていた。

 

「わざわざ迎えに来てもらって、すみません」

「いい」

 

 放課後の食堂は昼休みとはうって変わって閑散としている。私たちを混ぜても10人も居ない。我々は人の少ない席に陣取った。

 

「時間を取らせた」

「いいんですよ。それで、お話とは」

「今週の土曜日、デートをする」

「……はい?」

「デート」

「あの、それ勘違いしていませんか? デートというのは、恋愛関係を望む男女、もしくは好き合って交際している男女がするものですよ」

 

 零洸のおかげでこの手の勘違いには慣れている。しかし雪宮は、零洸ほどの動揺は見せなかった。

 

「私はお前のことが嫌いじゃない」

「ええと、そういうことではなく……」

「……お前、私が嫌い?」

「いや、そんなことはありません」

「なら問題ない」

 

 恐ろしい女だ。まるで常識が通じない。

 

「とにかく、あなたは土曜日に私に会う必要があるということですね。ただ午前中は少し用事があるので、午後なら問題ありません」

「そう。じゃあ1時に学園前で」

 

 雪宮は話すことが無くなったらしく、早々に去っていってしまった。

 前に会ったときから得体が知れないとは思っていたが、本当におかしな女だったな。

 

 

―――その3に続く


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