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『くぅ……!人間風情が!』
その頃、ガッツ星人はGUYSの戦闘機による波状攻撃に苦戦していた。
『やはり先ほどの傷がひびく……!一体ヤツは――』
ガッツ星人は、数時間前の出来事を思い出していた。
―――――――
――――
――
『はははは。この惑星は私のものだ』
ガッツ星人は、自ら作り出した別空間でソルの姿を見ながら嗤っていた。ソルは意識を失い、十字架にはり付けられている。
『私の勝ちだな、メフィラス』
『なになにぃー? これしきのことで調子に乗ってるわけ? ばっかみたーい』
突如ガッツ星人の耳に、謎の声が入ってくる。
『誰だ!?』
その瞬間、ガッツ星人の背中が鋭利な何かで切り付けられた。
『ぐあぁぁあぁ!!』
『ふふふっ。私ができるのは、これくらいかしら。後は人間に助けてもらうのね、ソル』
その時、ガッツ星人は見た。
居るはずのない侵入者。
ガッツ星人とソルだけが許された空間に、煙のような闇に包まれた人影が立っていたのだ。
『いーのぉ?諦めちゃうのぉ?』
人影の問いかけに、ソルは何も反応しない。そんな彼女の胸元に、人影は手を伸ばした。
『アナタって、ガッツ星人ごときにやられるようなコじゃないでしょ? 私ぃ、知ってるんだから。ふふふっ』
人影だんだん薄くなる。
『いつか会いましょうね。アナタが死ぬ前に 』
――
――――
―――――――
ガッツ星人は戦いに集中し直した。彼に相対するのは、GUYS最新鋭戦闘機『メシア』。分身したガッツ星人の猛攻をかいくぐり、彼を翻弄している。
その陰で、CREW・GUYS・JAPANの女性隊員――帆夕依香織が、ガッツ星人の足元を駆け抜けていた。
「佐久間!この辺で合ってる?」
『おう、多分』
「ガッツ以外何も見当たらないよ? ホントに合ってんの?」
『せやかて、数時間前のエネルギー反応は微弱やったから……ハズレかもしれんな!』
「無責任! うわぁっ!」
メシアとガッツ星人の光線同士がぶつかり、強烈な衝撃波が彼女を襲う。
『まぁ多分、ガッツは処刑を見せびらかしたいだろうから、ソルの身体は見えないだけでこの空間にあるやろ』
「はいよ! じゃあ必ず見つけるから、しっかり守ってよね!」
『へい』
香織はエネルギー探知機を片手に、校庭を走り回った。
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早馴を置いてきた後、私はガッツ星人とGUYSの戦闘が行われている中心――沙流学園の校庭に立っている。
あれがGUYSの新兵器『メシア』
大層な名前に恥じない優秀な兵器だ。GUYSの旧主力兵器『ガンフェニックス』を超える機動性と攻撃力と聞く。
数年前に我が同族が地球に挑戦した際にも、GUYSの兵器には用心していたとらしいが……その時より遥かに進化しているに違いない。
そのさなかで、私は校庭を走り回る人影を見つけた。私はそれと鉢合わせないように、屋外倉庫の陰に隠れた。
「こちら帆夕依! 反応が少しずつ強くなってきた!」
帆夕依と名乗った女性隊員は、必死に校庭で何かを探していた。しかし、ある場所で立ち止まって上空を見上げた。
「……ここだ!」
彼女は腰のホルスターから取り出した銃を構え、上空に向けて撃った。
すると空中に見えない何かがあるかのように、銃弾は弾かれた。
「当たりっ! じゃあ、狙っちゃうよ。マグネリウムチャージャーL、発射!」
白い光のようなもの放たれ、空中のある一点にぶつかった。そこで光がさらに輝き、目のくらむような程度まで光が強くなった。
輝きを放ったのはソルのカラータイマーだった。女隊員の放った光線は、ソルにエネルギーを充填しているのだった。
ガッツ星人は拘束したソルを別空間に隠していただろうが、公開処刑を前に戻していたようだ。勝ち急いだことが仇となったな。
「ビンゴ!」
そして、先ほどまで何もなかった場所に巨大な影が現れた。
その形はまるで……十字架のような形をしていた。
「ソル!助けに来たよ!」
光がひと際輝いて、思わず目を背けてしまった。
もう一度目を向けると――
『ハッ!!』
捕らわれていたはずのソルは十字架を砕き、ガッツ星人のところへ向かった。
「ガッツ星人……しくじりましたね」
私は静かに、その場を離れることにした。
向かう先は、もう決まっている。
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『なっ!! 何故お前が!』
ガッツ星人の前に、再びソルが登場した。
ガッツ星人はメシアからの攻撃が止むと共に分身を解除し、単独でソルに挑んだ。
『はぁっ!!』
ソルはソールブレードをもってしてそれに応じる。
ガッツ星人は上手くソルのブレードを避けながら攻撃の機会をうかがう。しかし、高速で鋭い太刀に反撃の隙は無い。
焦れたガッツ星人の一瞬の隙を、ソルは見逃さなかった。
ブレードは残像を描くほどの超速でガッツ星人の右肩を切り裂き、右腕は消滅した。
『お、おのれぇ……手傷さえ負っていなければお前など!!』
ガッツ星人は再び分身し、3体による同時攻撃を仕掛けた。鋭いかぎ爪が、完全に同一のタイミングでソルに襲いかかる。
『……見切った!』
ソルはブレードを高く構え、3体のガッツ星人に立ち向かった。
彼女の姿はその速さゆえガッツ星人の目にも映っていない。
しかしガッツ星人の3体同時攻撃に死角はない。いくら速くとも全ての攻撃に対応することは不可能である。ガッツ星人はそう考えていた。
ただし――
『ぐあぁぁぁ!!!』
――本物を見切り、それのみを両断すれば、分身もろとも葬ることは可能なのだ。ソルは分身3体を一瞬で見極めた。感知能力に優れたソルだからこそ、本物と分身のわずかな動きやエネルギー量の差に気づけたのだった。
『あいつさえ……あの侵入者さえ、いなければぁぁ!
ガッツ星人の巨体は爆発を起こして消し飛んだ。
「ぐふっ……馬鹿な。私は、いかなる戦いに負けた事の無い無敵のガッツ星人だぞ……」
沙流学園裏手にある、小高い丘の上、ガッツ星人は全身から緑色の血液を垂れ流している。彼はふらつきながらも、隠していた円盤にたどり着き、その操縦席に座った。
その瞬間、目の前のメインモニターに光が宿る。
『もうお帰りですか』
「な、何故貴様が……メフィラス星人!」
モニターに映った少年――ニル=レオルトンの浮かべる冷笑に対して、ガッツ星人はぎりぎりと歯ぎしりを立てた。
『出会って以来、ずっと貴方の円盤を探していましたが、案外近くにあって驚きました。同じく貴方を追っていたGUYSの連中にとっても意外でしょう』
「ずっと裏切っていたのだな……密かに探っていたとは!」
『甘いですよ。私は貴方が味方だと考えたことは一度たりともありません。ところで、いくつか質問があります。何故貴方は私の居場所と正体に気付いたのですか?』
「貴様に教えると思ったのか?」
『そういうと思っていました。ですから、せめて貴方には二度と私の邪魔が出来ないようにしておきます』
「画面越しに何ができると言うのだ!」
『それでは、そろそろ失礼します。さようなら』
モニターから光が消えた。
「……まぁいい。今回のデータを基に、もう一度挑戦してやるぞ、ソル!」
彼はモニターの下のキーボードに触れた。
その瞬間、モニターに表示された文字は――All data is deleted――だった。
「まさかメフィラス……くそぉぉ!!」
ガッツ星人の握り拳がモニターに叩きつけられた瞬間、彼の目の前で真っ白い閃光が煌めいた。
そして巨大な爆発音と共に、彼の意識も肉体も、塵となった。
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「さようなら、ガッツ星人」
私は秘密裏に、学園の体育館に戻っていた。
草津の隣で毛布にくるまりながらスマートフォンを確認すると、その画面上に“目標爆破完了”の文字が並んでいる。
奴とソルの対決のさなか、私は既に特定していた円盤の隠し場所に向かい、ガッツ星人の集めてきた様々なデータを盗み出し、さらに爆弾を仕掛けておいたのだ。
直接彼に会って拷問にかけ、私の正体を知った理由を吐かせるのも手だったかもしれない。しかしそう言った野蛮で暴力的な方法は、私は好きではない。
もっとスマートに効率良く、私は目標を達成できればそれが良いのだ。
しかし、たとえ手段は選んだとしても、敵を選ぶつもりは無い。ガッツ星人だろうと、その背後に誰が居ようと、地球侵略の邪魔をする者は全て敵――全て消し去るのみだ。
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森林で起きた謎の爆発を察知したGUYSは、その現場でガッツ星人の円盤の残骸を発見した。
「あらら。隊長、円盤のコンピュータも死んでますね。と言うよりは、それを狙って爆破したって感じっすわ」
佐久間隊員が、壊れかけの円盤内機器をいじりながらそう言った。
「ともかくとして、何者かが人為的に円盤を破壊し、ガッツ星人を殺害したことは明白ね」
佐久間の後ろに立っているのは、藍色の長い髪の女性であった。その腕章には、CREW GUYS JAPAN隊長を表す紋章が刻まれていた。
「星川隊長、誰の仕業だと思います?」
若き女隊長である
「……どうやら危険な宇宙人が、他にも潜伏しているようね」
「せやろなぁ」
佐久間が機器の操作を諦め、手首の関節を鳴らした。
「学園に居る彼女にも、連絡しなければね。警戒を強めるようにと」
星川は、沈痛な面持ちで、ガッツ星人の円盤から出て行った。
―――第8話に続く
読者の皆様には大変申し訳ないのですが…一身上の都合により、次回からの更新は火曜日と金曜日となります。
次回は7日(金)の更新です。
引き続き、本作品をお楽しみ頂けたら幸いです。
それでは!