留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第11話「育ちゆく者の物語」その4

 

「レイっ!!」

 

 現実世界の月面に私の意識が帰還する。

 もはや飛行能力を喪失したType-Wを装着したまま、愛美は佐滝の小さな身体を思いきり抱き締めていた。

 

「レイ! レイだよね!?」

「……愛美ちゃん」

 

 虚ろな眼の佐滝は、なされるがまま愛美に抱きしめられ、腕の中で動かなかった。

 

「何で、来たの」

「レイと、もう一回話すためだよ」

「……愛美ちゃんなんて、嫌い」

「うん……」

「嫌い。大嫌い。私のこと忘れて、自分ばっかり元の生活に戻って」

「ごめん。ごめん、レイ」

「絶対許さない。嫌がらせしてやる。二度と仲直りしない」

「私はそんなのイヤだ」

「うるさい。また泣かせてやる……今度は、もっと、酷いことするから」

 

 佐滝の瞳に光が灯っている。

 今思えば出会ってからこの方、佐滝の瞳から温かい光を感じたことは無かった。綺麗な言葉遣いや美品のような笑みの一方で、彼女からは少しの温度も感じ取れなかった。

 

「愛美ちゃんなんて……本当に、本当に、嫌い」

 

 だが今は、刺々しい言葉の中に眩い光が輝いているように思えてならない。それは本当の意味で愛美と佐滝が対話を始めた証ではないだろうか。

 

「レオルトンさん! お身体は大丈夫ですか?」

「死なないでニルセンパイ――って、さっきまで本当に死んじゃってたんでしたっけ!? 生き返って良かったですよぅ……」

 

 杏城と長瀬が、いつの間にか膝をついていた私のことを起こしてくれていた。

 

「まったく……仮死状態でリンネに近づくなんて。無謀が過ぎるぞ。友よ」

 

 私の代わりにリンネに攻撃されていた草津も、背中を抑えながら近づいてくる。

 

「おいお前、顔が真っ青だな」

「先ほどまで氷漬けでしたから」

 

 特殊ゴム製のスーツを脱ぎ、私は薄いTシャツ姿になる。

 雪宮の能力で氷漬けとなって心肺を停止し、体内で生成されるエネルギーも完全にゼロにした状態ならばリンネやババルウ星人に気取られずにここまで来られると踏んだが、辛くも成功だった。

 しかし二度と同じことはしない。発熱と寒気が酷いし、意識も朦朧としている。早く回復させないと本当に命に関わりそうだった。

 

「草津。ルミから連絡は?」

「もちろんあったぞ。そろそろ……始まるはずだ」

 

 小型宇宙カプセルで破壊された外壁から外を覗くと、地球を背景にGUYSと星間連合の激戦が繰り広げられている。

 だがその時、戦場の中心で強烈な閃光が瞬いた。

 

『星間連合の者どもよ。急ぎ戦闘を中止し撤退せよ! 光の国から大軍勢が迫っている。このままでは全滅する。急ぎ撤退せよ!』

 

 ババルウ星人のホログラムが宙域各所に現れる。

 だがあのババルウ星人の正体は……@ソウルで変装したルミであった。

 

『それだけではない。我々を唆した“女神”リンネは、星間連合を囮に自分だけが地球を単身で侵略しようとしていたのだ……! これ以上奴に利用されてはならない。 再集合の地は追って座標を送信する。今はこの宙域から離れるのだ!』

 

 本物に比べると、少々威厳が感じられない。しかし所詮は寄せ集めで、一枚岩になり切れていない軍勢を混乱させるには充分だろう。

 

「後の問題は……」

 

 いつの間にか愛美を突き放し、少々気まずそうにしている佐滝の方に振り返る。

 今度は長瀬に強引に抱きしめられ、困惑気味であった。

 

『あーあ。ここまではしてやられた、って感じかなぁ』

 

 鈴のような少女の声。

 

『ここだよ、ニル。ほら、こっち』

 

 部屋の出入り口付近に、黒い靄が浮かんでいる。佐滝の記憶世界で目にしたリンネの“本体”であろう。

 

『ニルのせいで、全部めちゃくちゃだよ。どうしてくれるのかなぁ?』

 

 靄が一際濃くなり、渦を巻く。それはが人型の形に変わってゆく。

 そして現れたのは、深紅の瞳をたたえた少女の姿だった。

 

「今のニルには、この姿初めましてだね」

 

 白に近い肌を漆黒のドレスに覆い隠し、紫色のオーラに身を包んだリンネが両手を広げて立っている。佐滝の身体を操っていた時は比べ物にならないマイナスエネルギーが体内から溢れ出ていた。

 

「鈴羽ちゃんの身体も居心地よかったんだけどねぇ、やっぱりこっちの方が可愛いでしょ?」

 

 彼女の前には、ひびの入った@ソウルと、何枚ものカードが浮かんでいた。

 

「次に私がどう出るか、気になる?」

「それは、もちろん」

「でもお生憎さま。細かいことはね、なーんにも考えてないの」

 

 端正な口元が歪むと同時に、@ソウルが不気味な声を発した。

 

『Dark option ―― ギガバトルナイザー』

 

「とりあえず、全部壊してやり直そうかな♪」

 

 リンネを囲むように浮遊するカードが紅く発光した。

 それと同時に、月面中の様々な場所からマイナスエネルギーが湧き上がっている。

 

「レオルトン! あれを見ろ!」

 

 草津が指差す方向――それはここから見下ろした場所で、異様な形状の岩石群が屹立していた。あれが“怪獣墓場”だ。

 その怪獣墓場全体も紅く発光し、幾つもの閃光と共に何かが飛び出してくる。その一つ一つが@ソウル用のカードである。怪獣の怨念がカード化し、リンネの@ソウルに向かって一斉に集まって来たのだ。

 

「100体モンスロード」

 

 GUYS勢と戦闘していた怪獣が消滅し、やはりカードとなる。それらは全て@ソウルに吸い込まれていった。

 

「怪獣たちの怨念を一つに束ね――出でよ……ベリュドラ」

 

 リンネと@ソウル、幾枚ものカードが一つとなり、天井を突き破る。

 そして月面の城壁外から、全身を震わせるほどの醜悪な波動が放たれたのだった。

 

 ――そして最終話へ


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