留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第11話「育ちゆく者の物語」その1

 

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 ――月での激戦が開始される時より、30時間前。

 私たちが集合しているのは、早坂之道の生家でもある「料亭 早坂」の座敷である。

 私と愛美、杏城、長瀬、草津、樫尾、早坂の沙流学園勢7人に、雪宮悠氷とリュールを加えた9人。そして零洸、早馴ルミ、ウルトラマンゼロの計12人である。

 

「本作戦の目的の1つは地球侵攻軍の阻止もしくは撃破。そしてもう1つは、リンネの撃破および佐滝鈴羽の奪還です。そのため、我々を複数の班に分けます」

 

 そして第1班の人員として、杏城と長瀬を指名した。

 

「イエッサー! 何でもやりますぜ」

「承知しましたわ。それで、一体何すればよろしいのでしょう?」

「お2人は、先遣隊として月に潜入してもらいます」

 

 当然杏城も長瀬も、唖然としている。零洸の額には早速青筋が浮かんでいた。

 零洸のように単身戦える者ではなく、あえて非戦闘員を最初に敵地に送り込むなど、常軌を逸していると思われても当然である。

 

「……それで、わたくしたちは何をすれば?」

「後続部隊の潜入ルートを探してもらいます。月の建造物は相当な規模ですから、いきなり攻めるのは効率的ではありません。杏城さんと長瀬さんにはリンネの居場所までの経路を見つけてもらわねばなりません」

 

 杏城はともかく、長瀬もいつになく険しい表情で顔を伏せている。

 

「レオルトン、あえて彼女たちを最初に送る理由はあるのか?」

「零洸さんの疑問はもっともです。しかしリンネとババルウ星人は感知能力に長けています。奴らと何度も接触している私や零洸さんは当然ながら、雪宮さんやウルトラマンゼロのように高い戦闘能力を持つ者も容易に捕捉されてしまうでしょう」

「それは、確かにそうだが……」

「レオルトンさん」

 

 零洸の言葉を遮り、杏城が私に問う。

 

「わたくしたちに用意いただける装備や道具はいかほどですの?」

「とある宇宙人に変装できるスーツを用意します。お2人が任務継続不可と判断した場合に使える緊急脱出装置も付いています」

「ルート確保は当然ですが、例えば他の方が後から潜入しやすいように陽動の役もできれば良いのですが……」

「遠隔操作で起動できる爆弾をお渡しします。タイミングはこの後決めましょう」

 

 この任務に杏城を付けた理由は、まさにこれだ。平時はともかく、土壇場における彼女の冷静な判断力や戦略的思考は武器になる。それに加え、長瀬の天性の社交力や会話の技術は、敵を欺き取り入る際に必ず役立つ。

 少々喧嘩っ早い愛美や樫尾には苦手な分野であるし、早坂と草津では宇宙人に扮する演技は難しいだろう。

 

「しかし危険な役回りになるでしょう。もちろん代替案は――」

「ニルセンパイったら、なーに言ってるんですか! めちゃくちゃ緊張しますけど、任せてくださいっ!」

「ええ。必ずやり遂げますわ」

 

 長瀬と杏城は顔を見合わせ、互いに力強く頷いていた。

 

「ありがとうございます。続いて第2班について説明します。第2班は草津に樫尾さん、早坂君と、愛美さんです。第1班のマッピングを基に、リンネを急襲することが目的です」

 

 そして自分のタブレット端末で、あるページを皆に示した。

 

「これは人間用に私が作成した、いわば“強化スーツ”です」

「うおぉぉぉ! なんだこれは!? 格好いいじゃないか!」

 

 草津が予想に違わない反応をする。

 だが意外にも樫尾と早坂、それに何故かリュールまでも興味津々であるのが意外であった。

 

「チブル星人という宇宙人が使用している戦闘用宇宙服『チブローダー』を基に、人間仕様に改造しました」

「いいないいなぁ! 僕も着たいよそれ!」

「リュールくんはご自分の宇宙スーツをお持ちでしょうに」

「分かるぞ少年……男にとって強化スーツを着るのは夢なのだ」

「草津まで何を言っているのですか」

「そうだ! 『チブローダー』をお前が改造したなら、このスーツは『ニルローダー』と名付けようではないか!」

 

 緊張感の無い奴だ。ここはスルーするとしよう。

 

「それでこの『ニルローダー』ですが――」

「お、名前気に入ったのか?」

「少し黙っていてください草津。まずこの[type-R]は早坂君に――」

 

 タブレットの画面をスライドさせながら、各スーツの特徴を一通り話し終える。

 

「次に第3班には、月戦力の指揮官であるババルウ星人を倒してもらいます。先陣を切るのは……ルミ、貴女です」

 

 強力な敵に相対することを要請されても、ルミは表情一つ変えずに了承していた。

 

「とはいえ単独でババルウ星人を倒すのは困難でしょうから、これを使ってもらいます」

 

 ルミが未来世界から持ち込んだ@ソウル。それを彼女にもう一度託す。

 

「ババルウ星人とも互角に戦えるでしょう。それに一つ作戦があります」

「これで敵に化けるわけ?」

「いいえ、私になってもらいます」

「……は?」

「私はババルウ星人に、@ソウルの譲渡を条件に取引を持ち掛けられています。今回はそれに乗った振りをし、貴女にババルウ星人のもとに向かってもらいます」

 

 私は@ソウルに付随していた別のカードを基に「メフィラス星人 ニル=レオルトン」のカードを作成していた。

 このカードを@ソウルに装填することで、ルミは私の姿やエネルギーの波長を完全にコピーすることができる。ババルウ星人とてそう簡単に見破れないはずだ。

 

「なんだかニルセンパイのブロマイドみたいですね」

 

 ルミが受け取ったカードを見て、長瀬がにやにやしている。

 

「ルミちゃん、使い終わったら手帳とかに挟んでおいたら? 良い記念になること間違いなし!」

「こんなの要りませんよっ! むしろママの方が欲しがるに決まってます」

「い、ら、な、い!」

 

 自分の写真付きカードを、未来の妻と子がつき返し合っている光景。なんとも複雑な気分である。

 

「最後に第4班に雪宮さんとリュールくん、そして零洸さんを配置し――」

「ちょっと待ってよ。肝心のあんたは作戦の間どこにいるわけ?」

 

 ルミの問いに、私は即座に回答した。

 私こそ、リンネとババルウ星人にとっての最優先ターゲットになることは必定である。

 彼らにとって私は、今後の主戦力となりうる『@ソウル』を製造するためのキーマンだ。だが両者とも感知能力は高い。対策を怠れば私の居場所は簡単に掴まれてしまうだろう。

 それでいて私は、リンネに接触しなければならない。奴から佐滝鈴羽の身体を取り戻すには、私の“能力”が必須のはずだ。

 

「――これが私の作戦です」

 

 作戦の概要を全て説明し終える。

 私自身が危険な橋を渡るならまだしも、この作戦は大切な者たちを死地に送り込み、その成否をも彼ら彼女らに委ねてしまう。

 そのうえで誰一人として死なせるわけにはいかない。

 成功率の算出などとても不可能だ。それどころか敵戦力には計算外の部分も多いだろう。

 私は今、これまで体験したことのない“恐れ”を感じていた。

 

「ったく、あんたがそんな顔してどうすんだ」

 

 呆れ顔のルミにそう言われ、私は全員の顔を見渡した。

 

「私たちの命、ニルに預けるよ」

 

 愛美と、そして皆の表情には一切の迷いは無かった。

 その“勇気”に、私は私の全てをもって応えなければならない。

 

 

 

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  第11話「育ちゆく者の物語」

 

 

 

 

 

『ラス・オブ・スペシュウム!』

 

 ソルの光線が円盤の一団を貫き、その奥を航行する宇宙戦艦のバリアに穴を開けた。

 

『うぃうぃ! 俺が仕留めてやらぁっ!!』

 

 CREW GUYS JAPANのユータ=オヤマ隊員の操るGUYS主力戦闘機『メシア』が高速で突進し、宇宙戦艦の横腹に付く。

 

『おらぁっ!!』

 

 人型のバトルモードに変形したメシア。その手に構えるバズーカの射撃が、宇宙戦艦の装甲を貫いた。動力系を損傷した戦艦は航行能力を喪失し、そのまま月の大地に向かって落下していき、最後には巨大な爆炎と共に宇宙の塵となった。

 その様子を見送った後にオヤマ機の退路を確保しようとしていたソルに、別の機体が並んだ。CREW GUYS JAPAN隊長の星川聖良の駆るメシアである。

 コックピット内で目配せする星川を見ることは当然、彼女には不可能だ。だがソルはひとたび頷き、別の戦闘域でGUYS勢を手こずらせているベムスターの攻撃に向かった。

 

『まだ持ちこたえているが……』

 

 ソルとGUYSの月攻撃部隊は、ぎりぎりのところで星間連合軍を足止めしている。しかしほんのわずかでも戦線が崩れれば、星間連合軍に地球への侵攻ルートを奪われてしまう。そんな戦いであった。

 

『ルミ……キミの戦いに懸っているぞ』

 

 ベムスターの放ったビームを避けながら、ソルは月面で戦う仲間たちのことを想っていた。

 

 

 

 ――“月の神殿”北門。

 

「うあぁぁっ!!」

 

 @ソウルの力でウルトラマンレオに変身していた星野ルミは、ババルウ星人の強烈な蹴りをその身に受けていた。彼女の身体は後方にそびえたつ城壁に向かって吹き飛ばされ、そのダメージによって変身が解除されてしまった。

 

「所詮は玩具だな、@ソウルとは」

「く、くそがっ」

「本物のウルトラマンレオの体術はその程度ではない。貴様は猿真似にも劣る」

 

 ババルウ星人の手に、鈍い光を放つブレードが現れる。

 

「切り刻んでやろう」

「お前なんかに、やられるかよっ!」

 

 ルミは汗で額に張り付いた金髪を思い切りかき上げ、新たなカードを@ソウルに装填した。

 

『ウルトラウーマンラス Spark Summon』

 

 ルミの姿が瞬く間に変わっていく。それは百夜過去の真の姿――別次元最強の名を欲しいままにした強大な戦士である。

 

「いくら強者の力を使ったところで、本来の力には遠く及ばんぞ」

「ぐだぐだうるさいっての!」

 

 ルミも光のブレードを構え、一気にババルウ星人に肉迫した。

 

「ふはははっ!! 一瞬でバラバラに――」

 

 ババルウ星人のブレードが高く振り上げられる。

 

「――愚かな!」

 

 迎えうつ態勢のババルウ星人に対し、ルミは突進を止めない。むしろ更に地面を蹴って、その速度を上げて接近していた。

 ババルウ星人が刃を振り下ろせば、確実にルミは真っ二つになる格好となった。

 

「自ら死を選ぶか――」

 

 ババルウ星人が、ルミの顔面を狙う。

 しかし――

 

「っ!!」

 

 突如ルミは空中で身体をひねる。まるでわざとブレードすれすれを避けるように、その肢体はしなやかな軌道を描きながらババルウ星人の背後に回り込んだ。

 

「ぐあぁぁぁ!!」

 

 光刃の一閃は、ババルウ星人の背中を一文字に切り裂いた。

 

「くっ……」

 

 即座にババルウ星人は、追撃をかわすために距離を取る。

 だが光の戦士ラスに変身したルミは、返す刀でババルウ星人を追い立てる。

 

「貴様……レオの時より戦えるではないか」

「百夜さんとは何度も戦ってんだ。身体の使い方くらい知ってる」

「ふん。油断は禁物だな」

 

 力強い一撃でルミを後退させ、その隙にババルウ星人は4体の分身を作り出した。

 

「遊びは終わりだ。すり潰してくれる」

 

 本体と同等の戦闘力を持つ分身が、一斉にルミを襲う。

 ラスの力を充分に発揮できていたルミだが、さすがに4体の相手をするには荷が重い。徐々に彼女の動きが鈍り、隙ができ始める。

 

「なっ――」

 

 そしてついに、2体同時の一撃がルミの腹と顔面を捉えた。

 地面に倒れ伏したルミの両手両足を、4体の分身が取り押さえる。そしてルミの変身も解除され、生身の彼女は口の端から血を流しながらババルウ星人を睨みつけていた。

 

「ふぅ……多少は愉しめたが、もう終わりだ」

「くそっ……くそくそくそっ!!」

「悔しかろう。だが恨むべきはお前の父親だ。メフィラス星人の愚策を憎むがいい」

 

 ブレードの切っ先が、ルミの首に触れる。

 

「お前の父親は、こうやって私を斬った」

「……」

「同じように殺してやろう」

 

 ルミの眼に写る、ババルウ星人の歪んだ口元。

 そしてその向こう側――ババルウ星人の背後、その遠方の宇宙に小さな光が瞬いたのを見た。

 その刹那、ババルウ星人の全身に緊張が走る。

 

「馬鹿な――」

 

 次の瞬間、ババルウ星人の胸を何かが貫いていた。

 

「氷の矢、だと……まさか……貴様かァ!」

 

矢傷を中心に、彼の身体はみるみるうちに凍結していく。その冷気は、近くに居るルミの肌ですらわずかに凍らせていた。

 

「こ、これしきで、殺せたと思うなァ!!」

 

 壮絶に叫んだ顔つきのまま、ババルウ星人の身体は完全な冷凍状態となる。固い音と共に灰色の地面に倒れた身体からは、邪悪なエネルギーも消え失せているのだった。

 

「……た、助かった」

 

 分身たちも消滅したことで自由を取り戻したルミは、顔に張り付いた薄氷を拭いながら矢が飛んできた方向を見やる。

 

「ルミねーちゃんっ!!」

 

 彼方から飛来したのは、濃紺の肉体に氷の鎧を纏うドラゴンだった。その背にはリュールと、そして雪宮悠氷が乗っている。その手に握られていた氷の弓は、彼女がリュールと共に地上に飛び下りると同時に水になって解けていった。

 

「ルミねーちゃん、遅くなってごめんね」

「マジに死ぬかと思った。ありがとね」

 

 ルミはリュールの頭をわしゃわしゃと撫でながら、雪宮に頭を下げた。

 

「雪宮さん、ありがとうございました」

「うん」

「でも弓矢なんて使えたんですね」

「さっき思いついた」

「なにそれ。すごっ……」

「リュール。このドラゴンちょうだい。強いし冷たい。私のカプセル怪獣にする」

「えぇ!? ドラゴンに聞いてみないとわからないよぉ」

 

 2人のやり取りに思わず笑みをこぼしたルミだったが、彼女はすぐに自らの任務に意識を傾ける。

 

「ルミねーちゃん、もう行くの? 怪我してるのに」

「ううん。私ばっかり休んでらんないから」

 

 ルミは口の血を拭いながら、@ソウルの山札から別のカードを抜き取る。

 

「はぁ……もう二度とこんなの使いたくない」

「え、そしたら僕が代わりに変身してもいい?」

「じゃあこれ使う?」

「あっ……そのカードはいいや」

「だよねぇ」

 

 ルミはため息交じりに@ソウルを起動する。

 

「うん。全部終わったら、@ソウル貸したげる」

「やったぁ! じゃあまたね! ほら、早くいくよ雪宮ねーちゃん!」

「分かったから急かさないで」

 

 気だるげな雪宮を引っ張りながら、リュールは戦場に似つかわしくない満面の笑みで手を振った。彼と雪宮は再び氷のドラゴンの背に乗り、ソルと星間連合軍が激突する宙域に向かって飛翔した。

 

「さてと……」

 

 ルミは痛む腹を抑えながら、城壁の向こう側に思いを馳せる。

 

「ママ、みんな……絶対に死なないでよね」

 

 そして彼女は@ソウルで変身し、リュールと雪宮の後を追う様に飛び立った。

 

 

――その2へ続く


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