留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第10話「ダークサイドムーン」(後編)

 ババルウ星人が指定した場所は“月の神殿”の北端にあたる場所であった。宇宙の各地からはせ参じた軍勢が降り立つ西側に比べて、北側は静寂に包まれている。

 そこに一隻の小型宇宙船が着陸する。

 ハッチから降り立ったがニル=レオルトンであることは、ババルウ星人にはっきりと認識できている。

 

「かつて地球を我々から救ったにしては、随分早い決断だったな……自分だけでも助かろうとは」

 

 ゆっくり近づいてくるニルを、ババルウ星人は抜け目なく観察している。茶色のフードとマントに身を包むニル。そのマントの内側に何を仕込んでいるのか、ババルウ星人は警戒を怠らなかった。

 

「合理的に判断したまでです」

 

 フードを外すニル。

 

「本当にお前が、こうも堂々と現れるとは思わなかったぞ」

「勘繰りが過ぎます。貴方と1対1で戦って勝てるとは思いません」

「賢い判断だ。で、@ソウルは持ってきたのか?」

「その前に約束してください。後ろの宇宙船に乗っている者たちだけは見逃すと」

「たかだか数人の人間がどうなろうと、私には知ったことではない」

「では――」

「だがお前は逃がさん」

 

 ババルウ星人が頭髪を数本引き抜き、放り投げる。

 その一本一本が、彼と同じババルウ星人の姿となってニルを取り囲んだ。

 

「……@ソウルを渡せば用済みでしょうに」

「お前には@ソウルの量産に協力してもらう」

「このプロトタイプがあれば、リンネはいくらでも作れるはずですよ」

 

 マントの内側から、ニルは@ソウルを見せつける。

 そしてそれをババルウ星人の足元に放り投げた。

 

「たしかに、リンネなら可能だろう」

「……もしかして貴方は、リンネを裏切る気ですか?」

「裏切るのではない、奴こそ不要なのだ。もはや軍勢は我が手にあり、@ソウルがあれば更に戦力を増やすことができる。これを持たせた人間を先兵として、光の国に攻め入るのだ」

 

 5人のババルウ星人が、同時に低い声で嗤い始める。

 

「あの時もそうだが、お前の技術はお前自身には勿体ない。私の方が上手く使ってやれる」

「無駄です。もう私には作れません」

「お前は作るさ。後ろの連中を生かして欲しくば、な」

 

 ニルは怒りに満ちた表情で、奥歯を噛みしめている。

 その様子に、ババルウ星人は心底愉快そうに高笑いしていた。

 

「思い通りにいかないと感情が出るのは、他の個体と変わらんな……メフィラス! そうだ……お前が私に屈服し、悔しさにまみれる姿を心待ちにしていたのだよ、私は!」

 

 その時だった。ニルの後方――地球の方向に多数の光の点が明滅していた。

 それは地球を飛び立ったCREW GUYSの所属の戦闘機『メシア』数機、そしてその先頭を飛行しているのはソルだった。

 

「そうだな……お前が無策で来るとは思わんよ」

 

 ババルウ星人が、ゆっくりと左腕を上げた。

 

「フハハハハッ! だが甘い!」

 

 その瞬間、神殿の西側と南側から一斉に戦艦が浮上し始める。怪獣を収容できる規模の円盤や宇宙戦艦が20隻を超えている。他にも何百機もの小型円盤、そしてベムスターやアリゲラ、ナースといった飛行能力を有した怪獣が戦艦につき従っている。

地球からの攻撃隊を壊滅させるどころか、地球を火の海に変えるにも充分過ぎる数であった。

 

「奴らが月に降り立つ前に、宇宙の藻屑にしてくれる」

 

 星間連合の戦艦群が急発進し、地球からの攻撃隊に向けて前進していく。そして戦艦から無数の砲撃が開始された。

 

「言っておくが、私は怪獣墓場から目覚めて間もないとはいえ……ゴーデス細胞の濫用と自爆の後遺症を抱えたお前では、私は絶対に倒せん」

「……」

「そこで見ているがいい、メフィラス星人。仲間が塵となる様を」

「――だよ」

「ん?」

「ウザいって言ったんだよ、クソ野郎っ!」

 

 ババルウ星人の頬に、ニルの拳がめり込んでいた。

 

「ぐおっ!」

 

 不意を突かれたババルウ星人は月の大地に投げ出される。分身たちがすぐさま攻撃を開始しようとしたが、彼の本体が制止していた。

 

「他人の住処を狙う侵略者ってさ、どいつもこいつもいけ好かないわ」

「貴様……メフィラス星人ではないのか」

「アンタこそ、誰のこと言ってんだよ」

 

 本体の指令により、分身が動き出す。本体と同等の戦闘力を持つ分身5体が一斉にニルに襲いかかる。

 

「ちっ。気持ち悪っ」

 

 マントから飛び出す左腕。

そこには@ソウルが装着されている。

 

「@ソウル、スタンバイ!」

 

 山札から引き抜かれたのは――

 

『ウルトラマンレオ ――Spark Summon』

 

 ニルの身体が紅い光に包まれ、その姿は烈火のごとき燃えるような肉体に変身する。

 

「イヤーッ!」

 

 流麗かつ、怒涛。宇宙拳法の凄まじい打撃がババルウ星人の分身たちに叩きこまれていた。

 

「@ソウルを使って化けていたな……メフィラス星人に」

「こっちだって不本意だから。父親の口調真似るとかさ」

「差し出したのは偽物か……芸が無いな」

「同じ手に引っかかる方が悪いっての」

 

 レオの変身が解かれ、露わになるその正体。

 

「今度は私が、アンタのこと殺すわ」

 

 マントが脱ぎ去られる。

 脱色された金髪が揺らめく。

 ニル=レオルトンの娘――早馴ルミは気だるそうな佇まいながらも、冷徹な光をその瞳にたたえていた。

 

 

 

 

 

 月の上空で戦端が開かれ、早馴ルミとババルウ星人が拳を交え始めたちょうどその時、ルミが乗ってきた小型宇宙船が静かに発進する。それは地面すれすれの低空飛行で西へ西へと進んでいく。

 そして“月の神殿”の西門付近まで来ると、ハッチが開くのと同時に高度を上げ始めた。

 

「今だっ!!」

 

 草津の合図を皮切りに、4人の搭乗員がハッチから飛び降りた。

 そして宇宙船は一気に高度を上げ、黒い空に消えていった。

 

「さて、行くぜ」

「樫尾さん。必ずやり遂げましょう」

 

 樫尾と早坂、そして――

 

「レイ……絶対に助けるから」

 

 愛美を加えた4人。

 彼らはニル開発の強化宇宙スーツに身を包み、月に立っている。

 その眼前には“月の神殿”の巨大な門が口開けている。その奥にある、何もかもを飲み込んでしまいそうな暗闇に向かって、彼らは一歩を踏み出した。

 

 

ーー第11話に続く

 


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