留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

161 / 167
更新遅くなり申し訳ございませんでした!
今年もよろしくお願いします!


第10話「ダークサイドムーン」(前編)

「戦士ゼロ。地球と、それに私まで救ってくれたことに感謝します」

 

 地球に戻ってきた零洸はまず、窮地に駆け付けたゼロに深々と頭を下げていた。

 休校状態の沙流学園の屋上には、私とルミも迎えに来ていた。零洸は我々に対しても律儀に礼を言ったが、何もできなかった私としては少々居心地が悪い。

 

「気にするな。地球を救ったのはオレじゃない。ソルと、それにニルとルミ。お前らが最後まで諦めなかったからだろ?」

 

 ゼロは仮の姿である成人男性の姿で、爽やかにそう答えていた。

 

「だがまだ戦いは終わってない。リンネの野郎を捕まえるぜ、ソル」

「はい。私には、奴から取り返さなければならないものがあります」

 

 零洸の言う通りだ。

 リンネは佐滝鈴羽の身体を乗っ取ったまま逃亡している。旧知の仲であった零洸と愛美は、佐滝を是が非でも取り戻したいはずだ。

 だが何かしら、奴がアクションを取らなければ手がかりが無いのは確かだった。

 

「……どうやら、向こうも黙って引き下がる気は無ぇみたいだ」

 

 ゼロが何かを感知したその時だった。

 私のスマートフォンが警報を鳴らしていた。地球各地で異常なエネルギー反応が続出している。1つ1つは決して大きくはないが、同時多発的であるだけに対応に苦慮することは間違いない。

 そして突如強風が吹き荒れる。遥か遠方では……巨大な砂嵐が巻き起こっていた。まるで地球の磁場に何らかの作用が生じたように、甚大な気象異常が生じている。

 

「地球の各地で怪獣が暴れ始めている……強いマイナスエネルギーに影響されたんだ」

 

 零洸がふと青空を見上げた。

 

「出所は……あそこか!」

「未来さん! さっきからどういうことなの?」

「ルミ、レオルトン。あれを見るんだ」

 

 零洸が指で指し示す。

 

「ど、どういうこと?」

 

 ルミもその異常に気付いていた。

 彼女たちが見ていたのは、月だった。青々とした空の中に、ほんのりと白く浮かんでいる地球の衛星。

 それが今、黒と紫色の醜い光に包まれていた。

 私がスマートフォンで月の観測映像を出すと、よりその変化が明らかとなる。

 月は少しずつ回転していた。地球からは観測できないその裏側――月の暗黒面が徐々に姿を現し始めているのだ。

 やがて露わとなったその地表。巨大な建造物と、それを取り囲むように突き出た禍禍しい岩石の棘。

 

「まさか、そんなことがあるのか」

 

 零洸とゼロが顔を見合わせる。

 

「間違いない。これは……怪獣墓場だ。怪獣墓場が月に現れたんだ」

 

 

 

   第10話「ダークサイドムーン」

 

 

 

 

 文化祭での大事件が忘れ去られてしまったかのように、沙流学園周辺住民の避難場所に指定され、多くの人々で溢れ返らんばかりであった。月の回転が引き起こした自然災害に加え、世界各地で怪獣が凶暴化し甚大な被害をもたらしている。怪獣たちは月から放たれたマイナスエネルギーに影響されただけでなく、本能的に地球の危機を感じ取っているのだろう。

 

「レオルトン。これもリンネという奴の仕業なのか?」

 

 多数の避難民と共に3年2組の教室に居る私と草津は、彼のスマートフォンで示した世界各国の被害状況を確認していた。それはあの『ガイアインパクト』に匹敵する勢いであった。一部の沿岸地域はシーゴラスとシーモンスの引き起こした竜巻と津波に押し流され、山間部ではゴメス、砂漠地帯ではアントラー、南極ではペギラが長い眠りから目覚めていた。

 

「零洸さんとウルトラマンゼロによれば、おそらくリンネは怪獣墓場とやらの一部を月に転送したと」

「俺の頭ではついて行けんな!」

 

 正直な所、私も困惑している。

 ウルトラ戦士たちに倒された怪獣や宇宙人の悪しき魂は、その強靭さによって簡単には消滅しない。その代わり怪獣墓場と呼ばれる場所に集まり、永い眠りについているという。

 

「リンネは地球を侵攻するにあたり、その前線基地として月を利用するつもりでしょう」

「地球に、勝ち目はあるのか?」

「普通に戦えば無いでしょうね」

「ふははは! お前は正直だから助かる。政府の発表なんて慰めにもならんしな」

 

 避難場所の一つである3年2組教室のテレビには、現状を説明する官房長官の姿が何度も映っている。彼の口から怪獣墓場などというワードは出ず、もっぱら偶発的な怪獣災害と自然災害と言い張っている。

 

「先ほど零洸さんと連絡を取りましたが、GUYSその他の組織は各地の怪獣鎮静化に追われているようで、月に攻撃を仕掛ける余裕はあまり無いようです」

「だったら、ここで悲嘆に暮れている場合ではないな!」

 

 草津は私の手を掴み、強引に教室を抜け出した。

 廊下には丁度、連れ立ってトイレに行っていた愛美と杏城、長瀬が立っている。

 彼女たちは待ってましたと言わんばかりに、大きく頷いていた。

 

「作戦会議だ! 俺に続けっ!」

 

 草津の掛け声に続き、私たちは廊下を突き進む。疲労と絶望に打ちひしがれた避難民たちをしり目に、私たちは校舎を抜け出した。

 行きついたのは、文化祭中断後から放置されたままの屋外ステージだった。リンネが起こした事件後から何も片付いておらず、その時の混乱がまだ居座り続けているかのようだ。

 

「レオルトンさん。一つよろしいでしょうか」

 

 最初に口を開いたのは、意外にも杏城であった。

 

「レオルトンさん。わたくしたちも何か役に立てないのでしょうか? ゼットンの時……未来さんやルミさんに全てを委ねることしかできず……」

 

 私は気にしないようにと返したが、彼女は首を横に振った。

 そもそも杏城たちに何も知らせなかったのは私や零洸の決めたことであったし、結果的に零洸は無傷であった。だが杏城や長瀬、そして愛美は、それで良しと済ませる気は無いようだった。

 

「レイのこと取り戻したいの。そのために私ができること……何かあるはずでしょ?」

 

 愛美たちを戦いに巻き込むわけにはいかない。

 だが何もできずに無力に打ちひしがれる苦しみは、私にも理解できてしまう。先刻ゼットンを前になす術なかった自分を思い出す。

 私は、彼らの想いをくむべきなのか――

 

『地球に暮らす脆弱な人間たちよ。滅びの恐怖に震えていることだろう』

 

 何者かの声が空から響き渡った。

 それが何者か、私はすぐに思い出す――それは、かつて私がこの手で殺したはずの宇宙人だった。

 

『我が名はババルウ星人。私は今、月面にて怪獣の大軍勢を従えている。地球を1時間で火の海にできる程の戦力だ。そして我が軍勢は目下増強を続けている。万に一つも、貴様ら人間の勝利は無いと知れ』

 

 私たちは一斉に空を見上げた。

 ここからでは軍勢や基地の姿かたちを視認することはできない。しかし当たり前に空に浮かんでいた天体が恐怖の対象になってしまうとは、人間にとってこれ程の重圧は無いだろう。

 

『我が要求は一つ。抵抗するな。我に従え。そうすれば命だけは保証しよう』

 

 月面に怪獣墓場が現れ、死んだはずのババルウ星人が復活し怪獣の大軍勢を従えて地球を侵略しようとしている――その裏には、間違いなくリンネが潜んでいる。

 

「今ごろ月を攻略する算段でも立てているのか? メフィラス星人よ」

「ニルっ!!」

 

 私の背後を見た愛美が叫ぶ。私も振り返る。

 

「久しぶりだな。メフィラス星人」

 

 黒いオーラに包まれながら突如現れた宇宙人――黄金色の髪をなびかせ、漆黒の衣装に身を包んだババルウ星人は、穏やかながらも威圧的な笑みを浮かべている

 私はエネルギーの込められた左腕ですぐさま攻撃を仕掛けるが、ババルウ星人の頭部をすり抜けただけで、何の感触も無かった。

 

「安心したまえよ……これはホログラムだ。こんな簡単に復讐を終わらせてはつまらないだろう?」

「……ヤプールの次はリンネに服属ですか。落ちたものですね」

「つまらん挑発だな。随分人間らしくなったものだ」

「目的は私やソルへの復讐ですか?」

「私の野望は変わらんさ。滅すべき相手は、のうのうと光の中で暮らす“奴ら”のみ」

 

 リンネの狡猾さや残虐性とは違う――純粋な戦闘力が放つプレッシャーとでも言うべきか。ババルウ星人の底知れぬ恐ろしさに、私はわずかに動揺した。今真正面から戦って勝てる相手ではない。かつて殺した彼は、キングヤプールとの戦闘を経て疲弊していたにすぎないのだ。

 

「それはそうと、未来の貴様が作り上げた装置――@ソウルだったか。あれはなかなか便利だな。私の変身能力に劣らぬ性能だ」

 

 奴はリンネの指示で、私から@ソウルを回収する腹だろう。

 

「その@ソウル……この私に差し出せ」

 

 だが奴の言葉に含まれるニュアンス――それはババルウ星人が単なるリンネの手先ではないことを物語っていた。

 

「メフィラス星人。もし私に従うならば、そこに居る人間たちも、お前の娘のことも見逃してやる。もちろんリンネの手に落ちぬよう取り計らおう」

「魅力的な取引ですね。しかし――」

「ふっ。これ以上貴様とは話し合わん。貴様の口に乗せられると……痛い目を見るからな」

 

 ババルウ星人は口の端を釣り上げ、暗黒のオーラを身にまとう。

 

「単独で月に来い。出迎えてやろう」

 

 そして彼は姿を消した。

 ホログラム相手とはいえ、あれ程の敵を前にした時の緊張感に喉が渇ききっていた。

 

「なんでアイツが……? 修学旅行で、私たちを襲ったやつだよね?」

 

 私以外で唯一ババルウ星人と対面済みだった愛美。彼女は胸の前で自分の拳を掴んだまま、かすかに震えている。

 あの時、愛美はババルウ星人の策略によって私や零洸に対する負の感情を煽られ、ヤプールに身体を乗っ取られるきっかけとなったのだ。その時の記憶は、いまだに彼女を苦しめているだろう。

 

「愛美さん」

 

 彼女をそっと抱きしめる。

 

「に、ニル!?」

「安心してください。二度と奴の好きにはさせません」

「ニル。み、みんな見てるから……」

「そうだそうだ! 目の前でイチャイチャされたら、俺まで混ざりたくなるだろう!」

「ほら草津が馬鹿言いだしたじゃんっ!」

「あぁ羨ましい! 俺も抱き合いたい! 逢夜乃、俺とハグしないか?」

「わ、わたくしはお断りですわ! 長瀬さんどうぞ!」

「ノー! 草津センパイじゃなくて逢夜乃センパイとだったら、ウェルカムです!」

 

 私は愛美から手を離した。いつの間にか愛美の不安は消えてしまったようだ。

 そして私も、どこか気分が安らいだ気がしていた。

 

「レオルトン、あんな甘言に惑わされるなよ。俺たちは逃げない!」

 

 草津がぐっと手を差し出す。

 

「お前や未来、ウルトラマンやGUYSだけに頼ってばかりじゃいられないんだ。レオルトン、俺たちも一緒に戦わせてくれ……この生まれ故郷を守るために」

 

 リンネは言った――地球と人間は未だ幼年期。愚かな弱者であり、成長させなければならない存在だと。

 だが私の目の前にいる彼らは、リンネの語る人間像とはあまりに異なる。

 自らの足で立ち、再び平穏を取り戻すために戦うことを決意したその姿は、屈強な光の戦士や宇宙人たちと何ら変わらない。

 

「早まらないでくれ、みんな」

 

 ステージ下に広がる観客席の端。零洸未来がいつの間にかそこに立っていた。

 彼女は足音を立てずにゆっくりと近づいてくる冷静さを見せる反面、固い表情で草津や愛美たちを見回していた。

 

「ババルウ星人と戦うのも、リンネから鈴羽を取り戻すのも、私やGUYSの役目だ。キミたちを巻き込むことなんて絶対にできない」

「じゃあ未来センパイが戦って傷つくのを……ただ見てろって言うんですか!?」

「唯……」

「私たちが弱くて、役に立てないって思われてもしょうがないです。でも……それでも何かしたいんです。それってダメなことですか……?」

「違うんだ。私が言いたいのは――」

「もうよせよ、ソル」

 

上空からさっと飛び下りてきたウルトラマンゼロが、口を開きかけた零洸の肩に手を置いた。

 

「自分の居場所は自分で守りたい。その気持ちは本物だぜ」

「戦士ゼロ、あなたまで何を言っているのですか! 彼らは我々が守るべき――」

「ソル。俺たちが守るのは命だけじゃない。その気持ちだって、守ってやるのが戦士じゃないのか?」

 

 彼は親指を立てて、自分の胸を指し示す。→ダイゴのウィッシュ

 

「大丈夫だ。いざって時は俺も出る」

 

 そして彼は零洸の背中を軽く叩き、今度は私の方に視線を投げかける。

 

「ニル。ただ俺たちが突っ込むだけじゃ、今度の敵は倒せない。そうだろう?」

「ええ」

「お前の作戦、頼りにしてるぜ」

「レオルトン!」

 

 零洸が最後の頼みの綱とばかりに、私に場を収めるように促している。

 だが私は、彼女が求めている答えを返すことはできそうにない。

 

「すみません零洸さん。ですが私の計画には、彼ら人間の力が必要です」

「……みんな、正気なのか」

 

 この場に居合わせる全員に見つめられ、零洸はいつになく困惑した様子だった。しかし数秒悩んだ末――突如自分の両頬を叩いたのだった。

 

「ちょ、ちょっと未来! 何やってんの!?」

「お顔が真っ赤ですわよ!?」

 

 愛美と杏城に止められる零洸。彼女は一言「すまない」と漏らしていた。

 

「私は……みんなを見くびってしまった」

 

 愛美、杏城、唯、草津と、一人一人を真正面から見つめる零洸。

 

「皆の想いの強さを、私は戦士ゼロに言われるまで気づけなかったようだ。私やレオルトンでも緊張せざるを得ない相手――あのババルウ星人を前にしても、その想いに少しの陰りも無かった。私がとやかく言う前に、とっくにキミたちは――」

「違う。違うよ、未来」

 

 愛美が強い力で未来を抱きしめる。

 

「未来が、ニルが、進んでくれるからなんだよ」

 

 杏城と草津、唯が頷く。

 

「私たち、2人の背中を見てるだけじゃない。一緒に進みたいの」

「愛美……大きくなったな」

 

 零洸は愛美から離れながら、その手をがっちりと握っている。

 

「レオルトン。キミの作戦を聞かせてくれ」

 

 実のところ自分でも“まさか”と思っている。

 かつて脆弱と断じてしまった人間の強さを理解しただけではない。

 今度は、彼らの手を借りなければ勝てないと考えている自分が居る。

 それだけ今の私は、彼ら人間を真の意味で信頼しているのだった。

 

 

――中編に続く


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。