留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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投稿が一日遅れましてすみません。

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第9話「最後の抗戦」その1

 

『メフィラス星人 アーマード・ダークネス――Dark Fusion Summon』

 

 ビルの屋上に響き渡ったのは、私の左腕に装着された@ソウルの放った音声だった。

 @ソウルの紅い光と共に、2枚のカードに宿る暗黒の力を身にまとう。

その名はアーマードメフィラス。私本来の漆黒の肉体に、銀と青の鎧が装備された姿であった。

 

「やっぱりルミから奪ってたんじゃない」

「手札は隠しておくものです」

 

 鎧が放つマイナスエネルギーが、リビングデッドの触手を燃やし尽くす。

 自由を取り戻した私は『メフィラスブレード』を構える。あまり得意ではない武器ではあるが、その刃に込められたエネルギーを活用しない手は無い。

 

「アリアちゃん」

 

 リビングデッドが再び私に迫る。

 

「ダークネスレイ」

 

 私は左手から光弾を放り、けん制を図る。

 いやけん制以上に、リビングデッドには相当なダメージが加えられている。アリアを模した表層が剥がれ落ち、醜い筋肉と骨だけが露わになっていった。

 

「ちょっと! 早く殺して!」

 

 焦れるリンネの指示を受け、リビングデッドの体内に高エネルギーが充填されていく。凄まじい熱気は、ダークネスレイを打ち消す程であった。

 リビングデッドの両腕が広げられ、そのまま突進してくる。

 私はブレードを両手に持ち、迎え撃つ。

 

「っ!」

 

 以前早坂が剣道の試合で見せてくれた動きを模倣し、私はリビングデッドの腹部を真二つに斬り裂いた。

 だが同時に、分断された腹部から強烈な熱波が私に襲いかかった。

 

「あははは! ばぁーか!! 一緒に爆散しちゃえ!」

 

 轟音と共に、リビングデッドの二つの身体が爆炎に包まれていく。当然その衝撃波と超高温は私をも巻き込むが――

 

「その程度では……この鎧を破ることは出来ないようですね」

「――っ!」

 

 剣をリンネの頭上に振り下ろした。

 メフィラスの不可視のバリア程では無いが、リンネもそれなりの防御手段があるようだった。彼女の身体が倒れてコンクリートに叩きつけられていたが、殆どダメージは無さそうだった。

 

「女の子の頭を殴りつけるって……信じらんない」

「貴女は敵ですから」

「はぁ……ホント、イライラする」

 

 立ち上がろうとするリンネに、私は再度ブレードで攻撃を試みた。

 しかしリンネに触れようとした瞬間、突然ブレードの動きが止まってしまう。

 

「あのさ、私は@ソウルの生みの親だよ? 私を殺すために使えるわけなくない?」

「でしょうね」

 

 私は変身を解除し、今度は自身の蹴りを繰り出す。

 

「無駄」

 

 今度も、私の攻撃はリンネに届かなかった。

 だが妙な感覚だった。物理的に防御されているようには考えられない。そもそも私がリンネに触れることが出来ないと解釈した方が正しいのだろうか。

 

「ニル。あなたのことはよく知ってる」

「まさか……別次元の私を?」

「そう。ある次元ではね、ニルはとっくに私の手に落ちて、死ぬまで調べ尽くされてる。ニル自身の身体とエネルギーは、私には干渉出来ないようになってるの」

 

 リンネは平然と立ち上がる。

 その一方で唐突な目眩を感じ、私は膝をついた。

 

「あれれ~? 苦しい? 苦しいよね? ニルの身体にとって毒になる成分が、私の身体から出てるの。あははは! ごっめーん、ちゅーした時にも使っちゃった♪」

「くっ……」

 

 眩暈が更に強くなる。

 しかし意識を失うわけにはいかない。脳だけでも保護すべく全身のエネルギーを頭部に送り込むが、リンネの毒素にまったく抵抗が出来ない。

 

「じゃあ、もう死んでもらうね。私、この後もいっぱいやりたいことが――」

「お前が死ねっ!」

 

 リンネの顔面に、小さな拳がめり込んでいた。

 彼女は後方に吹き飛ばされていき、私の苦痛が一時的に和らいできた。

 

「ほら、早く立ちなよ」

 

 私の前で背を向けているのは早馴ルミであった。

 つい先頃までは私への殺意の塊のようであった彼女は、まるで庇う様に私とリンネの間に立っていた。

 そして私を支え起こしてくれたのは、愛美だった。

 

「ニル、大丈夫!?」

「愛美、さん」

「助けに来たよ」

 

 愛美が私を支えて起こそうとすると、直前までの眩暈や痺れが嘘だったように立ち上がることが出来た。

 

「愛美さん。ありがとうございます。そしてすみません」

「なに謝ってんの」

「私の言葉が足らず、不安にさせました」

「……確かに、色々嫌なこと考えちゃった。でもニルのこと、ちゃんと信じてた」

「何故、そこまで私のことを」

「言ったじゃん。ニルは、私の好きな人だから」

「……ありがとうございます」

「あのさ、そこでイチャイチャしないでくんない?」

 

 ルミが呆れたように指摘すると、愛美が全力でそれを否定していた。

 

「言っとくけど。未来のあんたら、私の前でも平気でべたべたしてたからね? 結構今更なんだけど」

「み、未来の話なんて知らないし!」

「あーはいはい。それより、こいつどうすんの」

 

 むくりと起き上がったリンネが、首を手でさすっている。ルミの攻撃はさほどの効果は無かったようだ。

 

「クソが。私のことも解析したのかよ」

「ルミちゃんの解析はまだこれから……探してる真っ最中だよ」

 

 リンネがこめかみに指を当てて、何やら小さく呟いている。あれが他次元のリンネとの交信なのだろうか。こうしてあらゆる相手への対応策を巡らせるのが、彼女の強みなのだ。

 

「ま、取りあえず知ってる限りのメフィラス星人の解析結果を基にして組み立てれば、対ルミちゃんに代用出来るか――」

 

 再びリンネの頬に、ルミの拳がねじ込まれた。佐滝鈴羽の姿をしているせいで、非常に痛々しい場面に見えてしまう。

 ルミは容赦が無かった。後方の壁に追いつめられたリンネに強烈な飛び蹴りを入れていた。そして苦悶のうめき声を上げたリンネに馬乗りになり、ルミは何度も拳を振り下ろす。

 

「ルミ! その身体を傷つけないで!」

「大丈夫。死んでなければ、どうとでも、再生出来るから」

 

 しかしその直後、遠方から何者かが飛来してルミを攻撃する。

 

「リンネ嬢、大丈夫か?」

 

 ソルと戦っていたはずのシュラが、@ソウルの変身を解除して救出に現れたのだ。

 だがそれが命取りだった。

 ソルは瞬時に人間大となって目の前に現れ、シュラの左腕を切断していた。@ソウルを装着したままだった腕はコンクリートの地面に投げ出され、そこに血だまりが広がっていった。

 

「リンネ。もう終わりだ」

「シュラまで……そんな、ひどいよ……」

 

 駆けつけてきたソル、ルミ、そして私と愛美に囲まれたリンネ。

 まだ何か手駒を残しているかもしれないが、彼女にとって状況は絶望的だろう。

 

「零洸さん。リンネは特定の相手の攻撃を一切受け付けず、害になる成分を放ちます。不用意に近づかないでください」

「私が取り押さえる」

 

 ルミが一歩踏み出した。

 その時だった。シュラの傍らに倒れていた大剣が、念動力で動き出した。

 刃の切っ先はしかし我々への攻撃には向いていなかった。リンネ自身の首筋に触れんばかりの位置で制止していたのだ。

 

「あーあ、ムカつくなぁ。下等生物が寄ってたかってさぁ」

 

 リンネはまだ諦めていない。我々に対する挑戦的な態度が変わる気配は全く見受けられない。

 

「この首、刎ねちゃっても良いんだよ?」

 

 佐滝鈴羽の身体、いや命をも人質にする気か。

 しかし効果は充分だった。佐滝と旧知の零洸は手出しできなくなり、それを察しているルミも同様に攻撃を躊躇せざるをえなかった。

 

「ふふふ……大人しくしてくれたら、ちゃんぁと鈴羽ちゃんの身体を返してあげる」

 

 リンネの指が、再びこめかみに触れた。

 

「まずい。リンネはここから逃亡する気です」

 

 私の言葉に、リンネが意地の悪い笑みを返してくる。

 奴はこの次元で得た記憶を他のリンネ個体に共有させようとしている。現在の個体が死んだとしても、別の次元の個体に計画を引き継がせる気だ。

 この危険な敵を、ここでみすみす逃がすわけには――

 

「レイっ!!!」

 

 響き渡った叫びは、愛美の口から発せられていた。

 

「レイ! そんな奴に、もう好き勝手させちゃ駄目っ!」

「あははは!! ばぁかっ! そんなの無駄な――」

 

 こめかみに当てられたリンネの指が、ほんのわずかの間だけ震えた。

 そしてこの一瞬がリンネにとって致命的なエラーとなったことは、その後の奴の表情によって明白となった。

 

「な、なんで……?」

 

 リンネの目が見開かれる。

 何度もこめかみを指で小突くが、その表情には徐々に焦燥感が表れ始める。

 

「なんで、なんでなんでなんでなんでなんで!?」

「愛美さんの言葉に、佐滝さんの身体が応えたのでしょう。貴女の支配から抵抗しようと」

「だから何!? たった一瞬で、何が――」

「たった今、この地球は“次元遮断”されました。形あるものはもちろん、貴女の意識共有も妨害するでしょう」

 

 愛美の声が、彼女の友人への想いが作り出したわずかの時間が決め手だった。

 その間に発動した私の新装置は、地球全体を遮断フィールドで包み込んでいる。次元を渡って来る敵を一時的に足止めすることを期待したまでだが、リンネが他の個体間で交わす記憶の共有を妨害出来るかどうかは賭けであった。

 

「この次元の貴女が持つ記憶は、もう誰にも渡せません」

 

 リンネの顔が、恐怖に歪められた。

 複数個体で意識や記憶を共有する生物にとって、その“死”は終わりではない。別の個体に引き継がせれば、結局は生きていることと同義なのだ。

 だが目の前にリンネは、既に我々と同じように“死”を認識する。意識と記憶の、永遠の終焉――それがもたらす恐怖に抗うことは誰にも出来ない。

 

「やだ! やだやだやだやだやだ!!!」

 

 爪で肌をえぐるほど、リンネはこめかみに指を突き刺している。

 

「お前たちのような、下等生物と、私は、違うっ!!」

「もはや違いませんよ」

「ふっ、ふふふふ! いやいやあり得ない! そうだよ……次元遮断なんて、そう長い時間続けられるわけがないんだ」

 

 その通りである。それどころか装置は未完成であり、膨大なエネルギーを必要とする遮断フィールドは短時間で収縮、今や地球の半分程度しか覆えていない。あと5分もすれば我々の立つ地点でさえ保護できなくなるだろう

 しかし私はただ黙っているだけで良い。

 

「答えろ! ニル=レオルトン!」

 

 もはや苛立ちを隠そうともしないリンネ。

 確証の無いリンネにとって、自殺によってこの場をしのぐのはハイリスクな賭けとなる。

 こうして恐怖で冷静さを失った今、その選択は困難だろう。

 

「ルミ。リンネを拘束します。私や零洸さんでは近づけませんので」

「分かってる」

 

 ルミが近づいていく。

 リンネは一歩、また一歩と逃れようとするが、背後は壁であった。それに気づいた彼女は、とうとう言葉を失って項垂れた。

 私は再度拘束装置を手にした。

 

「っ! レオルトン! 様子がおかしい」

 

 零洸が、リンネから少しだけ離れた場所を指し示す。

 @ソウルだった。その装置が突如紅い光に包まれ、宙に浮いたのだった。

 そして差し込まれた山札から、一枚のカードが飛び出す。それは自動的にセットされ、@ソウルが音声を発した。

 

『ゼットン ――Dark Ritual Summon』

 

 禍禍しいマイナスエネルギーが@ソウルから一気に湧き出ていた。もっとも近くに居たルミはともかく、私や愛美、零洸までもがその衝撃波に立っていることが出来なくなった。

 そして@ソウルは傍らに倒れるシュラの、まだ残る右腕に吸い込まれるように装着された。シュラの肉体は全体がひび割れ、まだ残っていた彼女の生命エネルギーは全て@ソウルに流れ込んでいく。まるで彼女を生贄に、とてつもない何かが現れる予感があった。

 次の瞬間、紅い光が一層の輝きを見せたと思うと、その光が一気に収束する。シュラと@ソウルは小さな物体に変化し、それは空の彼方へ瞬く間に消えていった。

 

「零洸さん。位置を追えますか?」

「ああ……強いマイナスエネルギーがここまで届いているんだ。地球の衛星軌道に留まっているようだ」

「未来さんっ! リンネが!」

 

 ルミの呼び声に応じてリンネを捉えると、既に彼女の身体の半分が闇のオーラの中に消えていた。私たちがほんのわずかの間気を取られた隙に、逃亡を図ったのだ。

 

「ふぅ……何もかも失敗しちゃった。この地球は諦めるよ」

「レイを返せ!」

「愛美ちゃんってホントに馬鹿だよねー。もうそんなこと言ってる場合じゃないと思うよ」

 

 リンネは不貞腐れた態度で、上空を指差した。

 

「みんなどうせ死んじゃうんだから」

 

 リンネは完全に消失していた。

 そこに残された私たちは、口惜しさにただ閉口することは許されなかった。遥か上空の宇宙空間に存在する脅威に相対しなければならない。

 そんな折に私は、隣のビルの屋上から空を見上げる男に視線を移す。

 黒いスーツの男――宇宙人メフィラスに。

 

 

 

 

   第9話「最後の抗戦」

 

 

           天体制圧用最終兵器 ゼットン

                           登場

                       

――その2へ続く

 


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