雷を操る怪獣――巨大雷獣ガルガイオンが暴れた次の夜、巨大な地響きと爆音が深夜の街に響いた。新たに現れた飛行能力を持った怪獣を、ソルが地上で倒したのだ。
私はその光景を暗い工場の陰から見ていた。そこで、GUYS隊員二人組の興味深い話を聞くことができた。
「これを見てくれ」
佐久間と呼ばれていた隊員が、タブレット端末をもう一人の隊員に見せていた。
「リョータ、これなんだと思う?」
「これは円盤か?」
「せやろな。さっきの怪獣を倒した周辺を探っていたら見つけたんや。こちらに気づいていたかは分からん」
「いや、こうも長い時間カメラに収められたんだ。こいつは気づいてないだろう」
「しかしこの円盤、どこかで見た気がするんよなぁ」
「あぁ……思い出したぞ。これは数十年前に地球に飛来したーー」
「分身宇宙人ガッツ星人の円盤!」
「昨日からの連続の怪獣。裏で糸を引いていたのは奴なのかもしれない」
「よし、調査隊の設置を要請してみる」
「よろ」
この事実をガッツ星人に伝えるべきか、それとも……。
第6話「ソル捕獲作戦」
分身宇宙人 ガッツ星人
登場
工場から戻り帰宅すると、アパートの前に人間に変装したガッツ星人が立っていた。
『メフィラスよ』
「何の用です」
『話がしたい』
「分かりました。少し先の公衆電話まで歩いてください。その後を追います」
やがて公衆電話に辿り着き、怪しまれない程度の距離を奴と取ってテレパシーで話しかける。
「それで、用事とはなんです?」
『貴様が分かったことを話してもらおう』
「正直に言います。ソルの人間体についてはまったく分かりませんでした。ただし、戦闘面については多少。奴と正面から戦っても勝率はせいぜい五分止まりでしょうね」
『奴も馬鹿ではないからな。そう簡単に正体は晒さないだろうな』
「一つ確実な方法がありますよ」
『何?』
「奴を捕えてしまえばいい。あなたが使える駒を最大限使って奴を疲弊させ、あなたが直接戦う」
『……いいだろう。ならば次は私が自ら出よう』
「それが得策です。もはや怪獣たちだけではどうにもなりません。ソルは……強い」
『今まで得たデータを用いれば、ソルを捕えることなど容易だ。メフィラスよ、面白いものを見せてやる』
「それは楽しみですね。私も陰ながら応援しましょう」
『ふん、その必要はない。貴様は何もせずに見ているだけでいい。ではさらばだ』
奴は人通りの多い商店街へ消えていった。
その翌日、私はガッツ星人が何か行動を起こすと期待しながら学園に来たが、午前中は何事もなく終わりそうだった。
「零洸さんはお休みですか?」
「……」
「早馴さん」
「え、今の、私に聞いてたの?」
「ええ」
早馴はぼんやりと外の風景に目を向けていたが、こちらに向き直った。
「あー、また休みっぽい。ていうか、何で私に聞いたの?」
「いえ、零洸さんと仲が良い印象なので」
早馴は「うん」と即答したものの、一瞬だけ、不安げな表情を見せた。しかしすぐに普段通りの無気力な顔に戻った。
「いつものことだから、気にしなくていいんじゃない?」
「そうですね」
そう言いつつ彼女は、その後も外を気にするそぶりばかり見せていた。
この時間は自習だった。紫苑レムの現代文の授業のはずだったが、彼女は出張とやらで学園に来ていないらしい。それが理由か、教室内の男子たちはどこか覇気に欠けていた。
特に草津は……もはや屍のように机に突っ伏していた。
結局いつもとなんら変わらない午前中を終えることになりそうだ。
ゴゴゴゴゴゴ
「今の何?」
早馴が声を上げた。
「地震、いや地響きですか」
「お、おい!外を見ろっ!」
ある男子生徒が外を指さす。そこには怪獣が現われていた。しかも5体。かなり離れた場所だ。
ガッツ星人、ついに動いたか。
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ソルは若干の苦戦を強いられながらも5体の怪獣を葬ったが、ソルの疲労は限界に達していた。
『はぁ、はぁ……』
『この程度で疲れて良いのか、光の戦士よ』
そこに何者かの声が木霊した。
『我が名はガッツ星人。いかなる戦いにも負けたことのない無敵のガッツ星人だ』
『お前か……何度も怪獣を送り込んだのは!』
『気に入らなかったか。ならば私が直接相手をしよう』
ソルの目の前に現れたのは、縞模様の身体に鳥らしき頭部の宇宙人だった。
ソルはソールブレードで応戦、ガッツ星人は一瞬で切り裂かれた。
(もう、終わりか……?)
ソルが構えを一瞬説いた瞬間、先ほどの声が再び響いた。
『ふっふっふ……知っているぞ、その技は』
『っ!』
突如、切り裂かれたはずのガッツ星人が立ち上がり、2体に分身した。
『そんなこけおどしが!』
ガッツ星人は再び切り裂かれても、光線を受けようと幾度となく分身する。その数は、既に10体に上っていた。
『はぁ……はぁ……』
『疲れてきたようだな、ソル。残念だが、貴様が私の駒に放った技は全てお見通し。どれも私には通用しない。これまでの怪獣との戦いをじっくり分析させてもらったからな』
ソルの体力は限界だった。光の戦士の地球での活動時間――3分間――は、残り30秒も残っていない。
『そろそろ休ませてやろう』
分身したガッツ星人は次々に一つに集まり、残るのは2体のガッツ星人。そしてそのうちの一体が、透明な十字架に変形した。
『眠れ、光の戦士よ!』
十字架はソルに向かって高速で飛んでいった。そしてソルは十字架に身動きをとられてしまった。
『くっ!貴様…これを外せっ』
『制限時間まであと19秒。それまで苦しめ、ソル!』
『うっ……!く、くそ……』
ソルのタイマーの点滅速度が上がり、ついにタイマーから輝きが失われた。
『邪魔者は消えた。地球は私のものだ!』
十字架に縛られたソルを前に、ガッツ星人は高らかに嗤った。
―――後編に続く