留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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しばらく休んでしまいすみません……!
今週はもう1話投稿します!


第4話「次元を超えた戦士」(後編)

 

 宇宙人メフィラスとの戦いから3日が経過した。

 

「未来―っ!!」

 

 朝一緒に登校していた愛美は、通学路の先で待っていた零洸を見つけた途端に駆け出した。

 佐滝が教室に訪ねて来た時には様子がおかしかった愛美だが、結局その後はいつも通りの彼女に戻っていた。改まった話も特に無かったため、私からわざわざ事情を聞くこともなかったのだが、立ち入られたくない内容かもしれない。しばらくは静観していて問題ないと私は判断していた。

 

「未来っ!」

 

 走った勢いのまま、愛美は未来に抱きついていた。

 零洸は一瞬戸惑いを見せたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべて愛美の背に手をまわしていた。

 

「心配をかけてすまない」

「元気そうで良かったよ……ホントに!」

「他のみんなは変わらずか? 逢夜乃や唯たちは」

「うん! あーでも……」

「どうした?」

「樫尾さんは毎日そわそわしてた。未来は本当に大丈夫なのかって、いっつもニルに詰め寄ってたよ」

「ははは」

『あらぁ愛美ちゃん。私にはご挨拶ないのぉ?』

「うわっ!!」

「百夜。愛美を脅かすな」

「あ、え、どういうこと!?」

 

 零洸がことの顛末を説明すると、愛美は納得したようだ。零洸と百夜が肉体を共有しているという突拍子の無い話でも、愛美なら理解できたようだ。伊達に零洸との付き合いが長くないな。

 

「まぁ良かったんじゃない? そうやって生きてるわけだし」

『たまに未来ちゃんの身体借りて好き勝手できるしね』

「未来の姿で悪さしたら、ただじゃおかないからね」

『あら、こわぁい』

「百夜の言うことを真に受けなくていい。ところで愛美とレオルトンは、家の方向が逆だったはずだが、今日はたまたま一緒か?」

「今は同じ家に住んでますから、必然的に一緒になります」

「一緒に、住んで、いる?」

 

 零洸が目を見開き、立ち止った。

 

「ニルのばか。いきなり打ち明けないでよ……未来がびっくりするじゃん」

「い、いや……私は何も、気にならないが」

『ちょっと未来ちゃん。たかが同棲ってだけでヘンな妄想しないでよ~』

「……妄想などしていない」

『嘘よ。心拍数も体温もすごいわよ』

「していない!」

 

 零洸が自分の胸を思い切り叩いているが……はたから見ると異常な光景だな。

 

「レオルトン」

「何でしょう、零洸さん」

「愛美を泣かせたら……分かっているな?」

 

 ソル ノクティスの力を目の当たりにした後では……その脅しは効果絶大だった。

 その後学園に近づくにつれて何人ものクラスメートと会い、その度に零洸の復帰を歓迎していた。沙流学園生徒としての零洸未来は、やはり多くの人間に慕われていた。

 そして彼女の復活を待ち望んでいたあの男は、校門で零洸の姿を見るなり頬に涙を流していた。

 

「俺の愛が届いたのだ……こんなに嬉しいことはないっ!」

 

 号泣した草津は他の生徒の目もくれず、とてつもない速さで零洸をきつく抱きしめた。

 

「気持ちは嬉しいが……放してくれ」

「いいや放さん!」

「てめェ草津ゥ!! 未来が嫌がってるだろうがァ!!」

 

 そしてもう一人。零洸不在時は風紀委員の仕事も手につかなかったこの男の名前は樫尾玄。零洸の代わりに3年2組のクラス委員も務めている。今日も風紀委員の腕章がよく似合っている。

 

「でもよ……その気持ちは分かっちまうんだよ!!」

「やめないか樫尾! お、俺まで抱きしめるな! 俺は男の抱擁などぉぉぉぉ!!」

「ふっ……はははは」

 

 零洸がくだけた笑い声を出したのを見て、愛美と私は顔を見合わせた。

 そして言葉には出さなくとも、愛美は改めて零洸の帰還に喜びを隠さなかった。

 

「おっといけねェ……俺はよう、新たな問題児をどうにか更生させなきゃならねぇんだ!」

 

 気を失った草津をそのままに、樫尾は走っていく。

 

「おい星野ルミ! 今日も制服着てこなかったのかよ!」

 

 制服のブレザー代わりにピンクのパーカーを羽織っている女子生徒。しかも何をしに学園に来ているのか……彼女はいつも手ぶらであった。

 

「おい、レオルトン。奴は――」

「零洸さん、今は抑えてください」

 

 星野ルミは、樫尾に叱られてもどこ吹く風といった感じだ。金に脱色した髪をくるくると指でもてあそびながら、彼女はふとこちらに気づいたようだった。

 そして星野はきつく睨みを利かせながら、こちらにやって来た。

 

「何か用か?」

 

 零洸が進み出る。

 

「アンタに関係ねぇよ」

「……」

 

 零洸は無言の圧力をかけているが、星野はやはり動じない。

 零洸が何者か知らなくとも、常人なら彼女のプレッシャーに多少なりとも反応してしまう。しかし星野は、零洸がソルだと知ってなお、臆する気配もなかった。

 

「アタシが興味あんのは、てめぇだけだから」

「……私、ですか」

「逃げられると思うなよ。ずっと見張ってるからな」

 

 星野は吐き捨てるように言って、校舎の方へ去ろうとした。

 しかしその肩を掴んだのは、愛美だった。

 

「ニルのこと、どうして目の敵にしてんの?」

「……放してよ」

「ニルに何かしたら、私許さないから」

 

 しまった。愛美は星野ルミが普通の人間ではないことを知らない。もし星野が人目をはばからずに暴力沙汰を起こせば、巻き込むことになる。

 いや。愛美のことだから、相手が何者だろうと手を引くことはないかもしれない。

 

「ふんっ。普通の女の子に庇われるなんて、情けないヤツ」

 

 星野は愛美の手を振り払い、私を一瞥して離れていった。

 

「なんか、ヤな感じ」

「愛美さん。星野ルミにはあまり近づかないようお願いします」

「でもさ、今にも殴りかかってきそうな感じだったよ?」

「大丈夫です。私は宇宙人ですから、簡単にはやられません」

 

 数日前に星野に殺されかけたとは、とても言えない。

 

「それに、彼女があのような態度を取っていることには心当たりがあります」

「え、そうなの!?」

「その、まだ地球に来たばかりの頃に色々ありまして、酷く嫌われてしまったようです」

「ふーん。なんとなく、想像ついたかも」

 

 若干不機嫌そうな愛美が何を想像しているかは置いておき、今は詳細を語るわけにはいかない。

 それは零洸も察してくれたようで、彼女は話題を変えて教室に向かうよう私たちを促した。

 

 

 

 

「それでよ、このメンツってことは……結構真剣な話ってことだよな?」

 

 放課後。私は零洸と樫尾を屋上に呼び出していた。

 

「星野ルミさんは宇宙人の可能性があります」

「っ! いきなりだな、おい!」

「数日前、私は彼女に襲撃され、それなりに負傷しました」

「そう簡単にやられないって言ってたじゃねェか!」

「それは面目ない」

「しかしよォ……そんな凶暴な奴、放っておいて良いのか?」

 

 樫尾が零洸に問うが、彼女は首を横に振るだけだった。

 

「星野ルミさんが宇宙人であることは、ほぼ間違いありません。しかし彼女が悪意をもって地球に訪れたかどうかは不明です。もし何か正当な理由があって地球に滞在しているのならば、彼女の立場を危うくすることはできません」

「でもよ、レオルトンをボコるような奴だぜ……?」

「まぁ、私の方が元来は悪意をもってこの星に来ましたからね」

「ははは、違ェねえ」

 

 こんな会話で笑い合えるとは、数カ月前には想像もつかなかった。

 

「で、俺にそれを話した訳は……」

「キミには愛美や他の皆を止める役目を任せたいんだ」

 

 零洸が真剣なまなざしで樫尾に言った。

 しかし樫尾はどこか顔を赤らめて照れた様子だ。

 

「キミになら頼めると思ったんだ。どうだろう……?」

「み、水臭いこと言ってんじゃァねぇぜ! 何でも言ってくれよ」

「ありがとう」

 

 彼女の笑みに、樫尾は更に顔を赤くした。

 樫尾……零洸への恋慕はまだ健在であったか。

 

「そうと決まれば、俺は早速愛美と杏城のところに言ってくるぜ。あいつら学食で茶飲んでたからな」

「よろしくお願いします」

「おうよ!」

 

 樫尾はサムズアップと共に校舎に戻っていった。

 それを見計らって、私は零洸に別件について話すことにした。内容はもちろん、先日メフィラスから聞き及んだことである。

 

「私も微弱ながら、その気配は掴んでいたんだ」

「タイミングとしては、星野ルミとは別人物でしょうね」

「そうだな。それより――」

 

 私たちは同時に、屋上のフェンスの方に移動した。そこからは校門に向かっていく生徒たちの列を見下ろすことができる。

 

「あそこだ」

「はい。私も気づいてはいました」

 

 かれこれ30分ほど前。ちょうど下校時刻ぐらいから、校門付近を徘徊している人物があった。ここからも視認できるのだが――

 

「……普通の不審者か?」

「普通の不審者とは、面白い表現ですね」

「ふざけている場合か。誘拐犯だったら撃退するべきだ」

「しかし……どうにも私には、そうは見えませんが」

 

 その人物は、一見普通の会社員風の男だった。眼鏡をかけた30代くらいの男性で、まるで誰かを探しているように学園の敷地を覗き込んでは、また距離を取ってきょろきょろと辺りを見回している。

 しかし彼と私の視線が交差した。

 彼は素早い動作で、眼鏡を外した。

 

「零洸さん。彼がこちらを見ています」

 

 零洸は、彼の位置から見えないように数歩下がった。

 

「彼が、跳躍しました」

「何?」

「こちらにやって来ます」

「何だと?」

 

 次の瞬間には、校門に居たはずの男が我々の目の前に立っていた。

 そして接近されてようやく気付いた。眼鏡を外したこの男……只者ではない。まるで臨戦態勢の零洸並みのプレッシャーを平然と放っている。

 そして何より、内側からあふれ出るエネルギー。それはまるで――

 

「これしきで驚いてるようじゃ、まだまだ修行が足りないってことだぜ」

 

 男はキレのある動作で、ポーズを決めた。

 

「俺はゼロ。ウルトラマンゼロだ!」

「ウルトラマン……ゼロ……?」

 

決めポーズのウルトラマンゼロを前に、零洸は眉間にしわを寄せて考え込んでいた。どうやら知らない相手のようだ。私も彼の名前は初耳だった。

だが確実に言えることがある。彼の全身から発せられているエネルギー――それは正真正銘の“光の戦士”を示すものに他ならない。

 

「……そうか。この世界は、俺が存在しないマルチバースってことだな!」

 

 ゼロは少々わざとらしく咳払いし、決めポーズを解いた。

 

「まぁ、もっと未来になれば俺が生まれるかもしれないけどな。ところで、お前らのことも教えてくれよ」

 

ゼロは零洸と私を見る。

 

「私の名前はソル」

「へぇ! ウルトラウーマンとは珍しいな!」

「戦士ゼロ、マルチバースと言いましたが、まさかあなたは別の次元から来た戦士なのですか」

「そうだ。その様子だと、次元を超えてきた事例はあんまりないようだな」

 

 先の宇宙人メフィラスが、恐らくは他の次元からの来訪者だった。

 そして彼が語った新たな“脅威”も、恐らく同類のはずだ。

 

「オレは、次元を飛び越えてきたばかりで、しばらく元の姿には戻れない。地球では以前の相棒の姿を借りてるってわけだ」

「そうでしたか。お会いできて光栄です」

「へへっ。よろしく頼むぜ、ソル」

 

 2人は固い握手を交わしている。

 同じ光の戦士とはいえ、別次元の存在同士がこうも簡単に友好を結べるというのは、驚きであった。それだけ互いの正義の心を感じ取れるということなのだろうか。

 

「それで、ソル。この男は……」

「ニル=レオルトンと申します。零洸さん――ソルとはクラスメートです」

 

 一応名乗った私に、ウルトラマンゼロはわずかながら警戒心を向けていた。やはりメフィラス星人という正体を見抜いての反応だろう。

 

「戦士ゼロ。彼は共に戦った友人です」

「そうか。俺にも色んな仲間がいるが、ソルの仲間もなかなか変わってるんだな」

「ふふっ。そうかもしれませんね」

「話が逸れちまったな。時間が無いから簡潔に話す。この宇宙に危機が迫ってる」

「他の次元に居たあなたが、感じるほどですか」

「ああ。厄介な敵だぜ。一度会ってるんだが、取り逃がした。そいつを追ってここまで来たんだ」

 

 ゼロは苦々しい表情を浮かべ、語りだした。

 

「俺が追っている奴の名は、リンネ」

「宇宙人、ですか」

「いや……宇宙人とも、怪獣とも言えない奴だ。詳しいことは俺にも分からねぇ。だが、これだけは言える――」

 

 ゼロがその拳を震わせながら言った。

 

「奴は既に、いくつもの次元宇宙を崩壊させてきた――ッ!」

 

 その時、遠方の森林地帯から怪獣の雄叫びが上がった。

 

「ちっ! こんな時に怪獣か……」

「戦士ゼロ、忠告感謝します。私が仲間と共に戦います」

「任せたぜ、ソル!」

 

 ゼロが屋上からジャンプして去っていくのと同時に、零洸は反対方向へ跳躍した。

 それにしても妙だ……あの怪獣、何の前兆もなく突然現れたように見えた。まるで無から生み出されたかのような――いやむしろ、どこからか“召喚された”という表現が合っている。

 ウルトラマンゼロが語る脅威――“リンネ”と関係があるのだろうか。

 

 

 

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「……」

 

 沙流駅前の繁華街を、星野ルミは一人で歩いていた。ポケットに手を突っ込み、ヘッドフォンで雑音を遮断している。時折ナンパ目的の男たちが声をかけるが、わずかも反応を示さない。

 彼女はふと立ち止まる。

 そこには古びたゲームセンターがあった。店内は煙草の臭いが充満し、数十年前に流行したゲーム機が設置されている。まるで時代に取り残されたような場所だった。

 格闘ゲームの前に腰かけると、小銭を投入してプレイする。次々にCPUプレイヤーをなぎ倒していくが、少しも愉快そうにはしていない。むしろ回を重ねるごとに、その表情には不快感が現れていった。

 そして退屈そうに席を立つと、彼女はポケットから“それ”を取り出した。

 

「これを使えば、殺せるかな」

 

 デバイスとセットになった数枚のカード。

 彼女はそのうちの一枚――黒い身体に金色の瞳の戦士――その名を『ゾーフィ』と刻まれたカードを無表情で見下ろす。

 

「ニル=レオルトン。みんなを騙して、利用して……お前は最低なヤツだ」

 

 彼女はデバイスを持ったまま、店を出た。

 それと同時に、遠方の森林地帯から怪獣の咆哮が轟く。星野ルミはその方角を、憎しみを込めて睨みつけていた。

 

「絶対に殺してやる……お前はこの世界に存在しちゃいけないんだ」

 

 

―――第5話に続く

 


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