留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第3話「メフィラスの遊戯」(後編)

 私とメフィラスの前に展開された4つのホログラフィックモニター。そのうち2つのモニターに異変が起こった。

 

「地球や人間を侮れば、痛い目を見ますよ。これまでの侵略者たちと……同じように」

 

 巨大人間と怪獣の戦闘が拮抗しているところに“横槍”が入ったのだ。

 

「……ウルトラマンパワード、それにグレートか」

 

 メフィラスと私の目の前で、アメリカとオーストラリアの巨大人間が突然姿を消した。その代わりにウルトラマンパワードとウルトラマングレートが現れ、怪獣との戦いを引き継いでいた。

NYの摩天楼の中、パワードは“太極拳”を模したような独特な動きを取る。緩やかながらも力強い打撃で怪獣を追い詰める。いわゆる“気”を用いる攻撃は、宇宙最強と言われる『コスモ幻獣拳』やレオ兄弟の『宇宙拳法』に通ずるものがある。

 そして必殺技の『メガスペシウム光線』が、エレキングを消滅させた。威力だけを見ればウルトラマンの『スペシウム光線』を凌ぐその光線は、彼の気がなせる技だろうか。

 同じく、オーストラリアの赤い大地ではウルトラマングレートが怪獣と対峙していた。長身から繰り出される多様な光線技に怪獣はなす術がない。起死回生の技を怪獣が放つもののグレートには効き目がない様だ。グレートは指から光波ブレード『グレートスライサー』を出し、怪獣を切断した。

 戦闘を終えた彼らの手にはそれぞれ、銀色の機械が握られている。彼らが回収したベーターシステムだろう。それを目にしたメフィラスは何の反応も見せず、ただアメリカとオーストラリアのモニターを消滅させていた。

 

「失礼。電話が入りました」

 

 私はスマートフォンをスピーカー通話に設定した。

 電話の相手は、CREW GUYS JAPANの星川聖良隊長である

 

『レオルトン君。たった今アメリカのケンイチ=カイ、オーストラリアのジャック=シンドーから報告があったわ。ベーターシステムの回収に成功よ』

「さすがの人脈ですね」

『しかし中国とフランスは――』

「すぐに済むでしょう」

 

 私は電話を切り、残る2つのモニターに視線を戻す。

 中国で暴れていたゴモラに襲い掛かったのは、白銀色の体躯に青い眼をそなえたドラゴンだった。ドラゴンは雲の間から颯爽と飛来し、その口から嵐のようなエネルギー弾を放つ。被弾したゴモラは苦悶の叫びを上げながら火だるまになっていた。

 更にフランスの映像。ネロンガは透明化によって巨大な女性を翻弄していたが、突然地面から突きあがった氷の柱によって身動きを奪われた。次の瞬間にはネロンガの身体は腰を境に一刀両断される。エッフェル塔の影に一瞬映りこんでいたのは、銀色の鎧を身にまとい、両腕のブレードを武器とする巨大宇宙人の姿だった。

 その後中国とフランスに向かわせた“仲間”からメッセージが届いた。

 

雪宮悠氷(グロルーラ):対象を破壊した。礼はアイス10トン

リュール少年:ニルにーちゃんごめんなさい! 言われてた機械、持っていこうとしたら壊しちゃった! 間違えてドラゴンが握りつぶしちゃったんだ(‘Д’)

 

 やはり彼らのような一人で対軍、対星規模クラスを相手にできる者たちに、回収という細かいミッションは難しいか。仕方あるまい。

 

「氷の宇宙人に、ドラゴンを操る宇宙人(ドラゴンマスター)の少年か。君は味方が多いようだ」

 

 大げさに感心するような素振りが癪に障るが、雪宮とリュール少年に感謝を述べなければならないのは事実だ。

 メフィラスの計画を破綻させるために最も必要なのは“圧倒的な力”である。地球は既に実力者によって護られ、人間がベーターシステムという胡散臭い兵器に頼る必要が無いと思わせることが肝要なのだ。

 だから私は零洸の復活後、すぐに彼女らに協力を求めていた。しかし私が地球上で協力を要請できるのは彼女ら2人だけだったため、メフィラスが仕掛けたベーターシステム世界同時発動が一枚上手だったのは確かである。世界のどこか1か所でもベーターシステムが活躍してしまえば、人間はそれを必要とするだろう。それこそメフィラスの狙いなのだ。

 そこで決め手になったのが、一度は私を敵と認識したGUYSであった。ヒロ=ワタベが佐滝家を去った直後――今から1時間ほど前に、星川聖良から電話が入っていたのだ。

 

『レオルトン君。あなたを追い回すような真似をして申し訳なかったわ。追跡部隊には撤退を命じました』

「どういう風の吹き回しで?」

『賢いあなたにしては、少し稚拙な作戦に思えたのよ。メフィラスという架空の侵略者を作り上げて我々を誤魔化そうだなんて』

「良い評価をいただいているようで」

『あなたが本気で地球を侵略しようと思ったら、他に手があるでしょう?』

「しかしCREW GUYSの追跡には手を焼きました」

『……人間は疑り深い生き物なの。GUYSの人間、特に上層部には君を敵視している人が少なくはない。彼らの気持ちだって理解できるはず』

「そうですね」

『でも、あなたを信頼している人間も確かに居るのよ。星間連合やヤプール、それにカーンデジファーから地球を救ってくれたこと、決して忘れてはいないわ。追跡部隊のメンバーたちだって、本気であなたを傷つける気は無かったわ。どうか許してほしい』

「では詫びついでに、私の頼みを聞いてもらえますか?」

 

 星川は私の要請に応えた。世界各地の仲間に声をかけ、集めた有志達に準備をさせていた。そのため素早くベーターシステムを奪取することができたのだった。

 

「それにしても、私がどの国にベーターシステムを供与するかどうやって予測したのか」

「予測などできません。地球の主要都市には瞬時に移動できるよう、随分前から空間転移装置を設置していただけですよ」

「まるで地球は君の庭だな」

「天の時は地の利に如かず。貴方も好きそうな言葉ですが」

 

 メフィラスはわずかに不機嫌そうに一息ついた。しかし彼は冷静で悠然とした動作で、指を鳴らした。

 すると奴の背後に、2つの巨大な機械が現れ、浮遊している。中心に赤い球体を据えた四角い装置であった。

 

「それがベーターシステムですか」

「正確には『ベーターボックス』という。パワードとグレートに回収された2つは返してもらう」

 

そう言ってメフィラスは、空から降りてくるソルの姿を捉えていた。

 

「……ここまでは君の勝ちだ、ニル=レオルトン。私の予想に反し、地球の人間――いや多くの者から信頼を得ていた君に敬意を表する」

 

 再びの指鳴らし。

 彼の身体が変化し、その本来の姿が露わとなった。

 非常にスマートで、流線形を描く黒いボディ。その瞳も細く鋭く吊り上がっている。

 

「私に比べると大分細身ですね」

「肉体改造は私の趣味でもある」

 

 そして後方のベーターボックス3つのうち一つだけが、形状に変化を起こした。銀色の筐体部分が横長に展開し、中心の球体が発光し始めた。

 

「私は暴力を嫌悪する。が、必要とあれば出し惜しみはしない」

 

 ベーターボックスが輝きを放つ。

 メフィラスの黒い身体は一瞬で巨大化した。崩れる団地から逃れるように、私は敷地外へ走った。

 

『強い能力には代償が付きもの。お疲れでしょう、ソル』

 

 メフィラスは巨大化したものの、何の動きも見せない。EXレッドキングを倒して基本スタイルの『プリズムタイプ』に戻ったソルを、ただ見据えているだけだ。その様は不気味なようでもあり、どこか気品すら漂わせてもいる。

 

『メフィラス、ベーターシステムを持ってこの地球から立ち去れ』

『謹んで、お断りする』

 

 メフィラスとソルが、陰鬱とした曇天の下に対面する。

 

『肉を切らせて骨を断つ。私の苦手な言葉です』

 

 両者が一斉に光線を放った。

 ソルのラス・オブ・スペシュウム。

 メフィラスのグリッドビーム。

 二つの閃光はぶつかり合い、互いを食い破ろうと拮抗する。飛散したエネルギーの花火は周辺の建造物を溶かしていく。

 そんな高エネルギーを放ちながら、2体の巨人は一歩、また一歩と距離を縮めていく。

 

『残りのエネルギーという意味では、私の方が有利だ』

『その前にお前を撃ち抜く』

 

 ソルの出力が一段階上がった。

 それを迎え撃つように、メフィラスも更なるエネルギーを放出する。

 やはり両者は互角に見える。しかしメフィラスの言う通り、ソル ノクティスの力を使った後では、ソルはかなり消耗しているだろう。あの狡猾なメフィラスが直接戦闘に臨んだ時点で明白だった。奴には勝ち筋が見えているのだ。

 やがてメフィラスのグリッドビームがじりじりとソルに迫っていく。

 いざとなれば、私も加勢するしか――

 

『……ソル、よそう』

『っ!?』

 

 その時、両者の光線が同時に途絶えた。

 先ほどまでの凄まじい熱気は霧散し、戦場は一気に静けさに包まれた。

 

『ソル。私はこの星から手を引く』

 

 メフィラスは前方に突き出した両腕を下ろした。

メフィラスはまるで戦意の無いことをあからさまに示しているが、ソルは戦闘の構えを解かなかった。

 

『どうやら、少々面倒な輩がこの地に足を踏み入れたようだ』

 

 メフィラスは巨大化を解き、そのまま姿を消してしまった。そのあまりに呆気無い終わり方は、ソルも私も同様に疑念を抱かざるを得ない。

 そして最後の言葉……手の込んだ計画で地球を狙っていたメフィラスが、こうも簡単に手を引いた理由は一体何か。彼はもしかすると、地球に何らかの異変を察知していたのだろうか。

 だがひとまず、メフィラスの地球侵略計画には痛烈な一撃を加えられたと言って差し支えはないだろう。

 

「さて……」

 

 私は衣服についた土埃を払いながら、ふとガラスに映った自分を眺めた。星野ルミに殴られた顎のあたりが腫れている。以前ならすぐに再生できたが、ヤプールキング戦を経て弱体化した私では今日一日くらいは傷が残るだろう。

 帰宅して愛美にどう言い訳したものか……目下の検討事項はそこである。

 

 

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 沙流市内、とあるビルの屋上からソルとメフィラスの戦闘を観察する2人の宇宙人姉妹。

 妹のチークは熱心に戦闘データを収集しているが、姉のシュラはコンクリートの上に寝そべってうつらうつらとしている。

 

「シュラお姉さまぁ~、聞いてくださいよぅ。あのメフィラスってやつ、退散しちゃいましたぁ」

「あぁん? マジか――」

 

 その時、チークが持っていたタブレット型端末がある異変を感知していた。

 

「あらぁ~。これはまずいかもです」

「だりぃ言い方してないで、結論を言え、結論を」

「別の次元から誰か入ってきたみたいです。まさか私たちを追って……」

「んなわけはねぇ! くそ、どこのどいつだ!」

「分かりません!」

「ちっとは考えろや!」

「だって結論からって言うからぁ」

「リンネ嬢に言っとけ。次元を超えられるようなやつが、弱いわけがねぇからな」

「はぁい」

「ちっ……早く“やつ”を見つけねぇと――」

 

 シュラは足元に置いてあったデバイスを手にする。

 そしてポケットから数枚のカードを取り出す。いずれも怪獣の名前と写真が記されている。

 

「こいつを使って、すぐに殺してやるよ」

 

 2人の宇宙人は屋上から静かに姿を消した。

 

 

―――第4話に続く

 


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