留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第2話「守護者の帰還」(前編)

 地球から数光年離れた小惑星帯で、2つの閃光が火花を散らしていた。

 

「こっちよ、未来ちゃん」

 

 宇宙空間に散っている小惑星の間を縫うように、百夜過去=光の戦士ラスが飛行する。

 

「エボリューション・ソニック……ッ!」

 

 小威力の光線でラスの行く手を阻みながら、超速で追走する零洸未来=光の戦士ソル。しかし光線を放つ度、その声には苦悶の色がうかがえる。消えかけの身体を酷使すれば当然だろう。

 一方のラスも、やはり平時よりは手数は少ないが光線技で反撃する。その軌跡は蛇のようにしなやかに伸びていき、ソルの背後を突く。

 

「……まだ終わってないわよねぇ?」

「……ハッ!」

 

 瞬く間にラスに肉迫していたソルのブレードが振り下ろされる。

 

「そうこなくっちゃ!」

 

 ラスも同様に、光の刃で受け止める。

 その衝突点から飛沫のようにほとばしる光のエネルギーは、小さな岩石ならば蒸発させてしまうほどの熱量であった。

 

「百夜、最後にもう一度聞く。キミは本当に私たちと袂を分かつ気か」

「だからぁ、仲良しこよしのつもりなんて、はなから無いのよ!」

 

 互いに刃をはじき合い、距離を取る。

 そして隙など一瞬も与えない。目にも止まらぬ速さのモーションで放たれた光線は、両者の中間点でぶつかり、爆散した。

 

「あぁ……愉しくてたまらない! 未来ちゃんにそうやって見られてると、すごく興奮する……身体のナカが、きゅんとしちゃう」

「狂ってる。こんな……こんな戦いを楽しむなんて」

「狂わせたのはぁ、アナタなのよ?」

 

 ラスの銀色のフォルムが波のようになって、消えた。

 

「ねぇ未来ちゃん、感じてくれてる? 私の胸の音、熱い視線、燃えそうなほどの体温を」

「なぜだろうな、キミの位置が手に取るようにわかる」

「嬉しいっ! そう、そのまま目を離さないでね」

「……最後だ」

「そうよね。お互いの最高の技を披露しなくっちゃ」

 

 ソルは両腕を広げた。

 そして胸の前で両手を交差する。L字型に構えられた腕に、全身からエネルギーが送り込まれていた。

 彼女にとって、今より放つ必殺技は命と引き換えの一発となる。

 そしてラスにとっても同じだった。

 静寂が訪れた。

 彼女たちは何を思っているのだろうか。

 ソル――零洸のことだ、百夜との因縁を振り返っているのかもしれない。

 初めて転校生として沙流学園に現れ、教室を引っ掻き回していた百夜。

 零洸との死闘を経て、別次元での過去の記憶を取り戻した百夜

 星間連合との闘いが始まってからは、その態度とは裏腹に人間たちの側に立っていた百夜。

 そして幾多の死地を乗り越えて、芽生えていたのかもしれない。友情にも似た奇妙な絆――それは次元を超えた半身との絆でもあろう。

 

「百夜」

「未来ちゃん♪」

「ラス・オブ・スペシュウム」

「レクシュウム光線」

 

 刹那のきらめき。

 黒い宙を突き抜けていく2本の光の槍。

それらが交わり合った時、宇宙空間は白く照らされた。

 やがて小さくなった光の後には、小惑星は姿を変えていた。それらは砂同然に粉砕されただの靄の様に化していた。

 そんな苛烈な破壊の後に残ったのは、たった2つのシルエットだった。

 ラスの半身は、ラス・オブ・スペシュウムによって消し飛ばされ、その身体は背後でかろうじて形を保っていた小惑星にふらふらと落下していった。

 しかしソルも、残されたエネルギーを使い切っていた。彼女は今にも止まりそうな心臓と、消えかけた肉体を無理やり動かしていた。

 

「百夜……」

 

 彼女は、ラスが横たわる小惑星に降り立つ。眼下に倒れたラスの身体も、ほぼ透明になっていた。

 

「こんな結末で、満足か?」

「うん……気持ち良すぎて、天に昇る気分。未来ちゃんは?」

「私は、最低の気分だ」

 

 ソルは人間態に戻り、同じく人間態の百夜を抱きかかえる。

 

「キミを殺したくない」

「もう、遅いわ」

 

 百夜の肉体が淡く光りだす。そして輪郭がぼやけ、それは粒のような輝きとなって零洸の胸に導かれていく。

 

「見てよ。私は死ぬけど、私は未来ちゃんの一部になるの。ステキよね」

「キミはまだ満足できてないだろう……!」

「バカねぇ。なんで泣くの? 私は、未来ちゃん怒らせたのに」

「馬鹿はキミだ! そうだ、私たちのどちらかが別の次元に――」

「そんなことよりさ、一つ、お願いが、あるの」

「なんだ?」

「キスして」

「そ、そんなことで――」

「ただのキスは嫌。優しくてとろけるような、熱いのが、欲しい」

「……」

「あぁ……キスしてくれないと意識が飛びそう」

「わ、分かった」

「ふふっ。心を込めてね。ありったけの愛を込めてね」

「……分かったよ」

 

 零洸はたどたどしい手つきで百夜の頭を引き寄せ、唇を重ねた。

 しかし、百夜の身体は粒子のようになって消えていく。それは止まらなかった。

 

「ありがとう。大好き」

 

 声が途絶えた。

 岩の上に残された『シュリティムア』も光の粒になり、それは零洸の『クリティムア』と一つになった。

 この次元に、零洸未来は一人になった。

 もうひとりの零洸未来――百夜過去と融合し、彼女は唯一無二として存在を確かにしたのだ。

 

「馬鹿だ……百夜、キミはどこまでも!」

「終わりましたか」

「レオルトン。君は無事――」

 

 零洸は、はっとして私を凝視した。

 

「……ずっと見ていたのか」

「ええ、まぁ」

「腕の傷は再生したのか」

「ええ、まぁ」

「……キミにそんな超速再生能力が、あったのか」

「……ええ、まぁ」

「私の記憶違いか。以前バルタンに傷つけられた時には死にかけていたような――」

『あのさ、そんなのどうでも良いから地球に戻れば? あーあ。もう疲れたから未来ちゃんも休んでくれない? 未来ちゃんがいつまでもボロボロだと、こっちも休まらないんだけど』

「誰だ! どこから話している!」

『私よ、私』

「びゃ、百夜なのか?」

『今未来ちゃんの中から話しかけてまーす。なかなか居心地良いわよ、ここ』

「……」

「零洸さん。ここは百夜さんの言う通り、早く地球に戻りましょう」

「キミはいやに冷静だな、レオルトン」

「そうですね」

「だったら、この状況を説明できるな?」

 

 零洸が立ち上がり、私の目の前に迫る。

 これはなかなか……先ほどまで彼女が百夜に向けていた気迫に劣るまい。

 

『ドッキリ大成功〜ってこと。メフィラスの悪知恵と私の名演技で、見事未来ちゃんは踊らされたってわけ』

「……つまりキミたちは、最初から私を騙して、戦わせようとしたのか。ならあの裏切りは……」

『ああでもしないと、未来ちゃん戦ってくれないでしょ?』

「百夜さんとは随分前から打ち合わせていました。どのタイミングで切り出すか思案していましたが、丁度良く敵も現れましたし、零洸さんも信じ込んでくれるだろうと」

『私の演技が迫真だったのよ。なのにメフィラスのやつ、本当に腕を切るのはよしてくれって泣きついて偽物使おうだなんて、興ざめじゃない』

「しかし首絞めからの投げ飛ばしは予定にありませんでした。おかげで本当に怪我をしてしまいました。やはり貴女と組むのはこれきりにさせてもらいます」

『こっちから願い下げよ。自意識過剰の気持ち悪い奴ね、ほんと』

「はぁ……喧嘩は止めてくれ。とにかく一度地球に還ろう。侵略者の話はさすがに本当だろう?」

「もちろんです。では行きましょう。よろしければ肩を貸しますが」

「それには及ばない。ところで、レオルトン」

「はい」

「還る前に、一度殴らせてくれないか。本気で」

「そんなことされたら私は死んでしまいますが」

「冗談だ。行こう」

 

 

 

 その後まだ機能している転送装置を使い、私と零洸は地球に降り立った。私が最初にやって来た山林の中である。

 

「つまり、私と百夜は光の戦士だったから、融合することができた。そうすれば同次元で共存できるということか?」

「はい。過去に地球を護っていた光の戦士が、人間と身体を共有した事実を参考にしました。しかし融合のためには互いの肉体だけでなく、精神状態も近しい状態にする必要がありました。零洸さんが百夜さんとの融合を拒む限り、不可能だったのです」

「……なら最初からそう言ってくれれば良かったものを」

『だってぇ、自分だけの身体があるうちにもう一回未来ちゃんと遊びたかったんだもん♪』

「彼女の我儘はさておき、これで貴女はこれまで以上に強くなったはずです」

「ああ。百夜の力がそのまま私に加えられた感覚だ」

 

 零洸が力強く、その拳を握った。

 

「しかし長い休息は難しいかもしれませんね」

 

 私はスマートフォンで動画共有サービスの画面を見せた。

 アメリカ・NYの映像だ。警察や軍用ヘリの攻撃にもびくともしない巨大人間が、呆然と立ち尽くしているだけの動画である。しかし反響は凄まじく、再生数はみるみるうちに上がっていった。

 

「これがメフィラスのベーターシステムです。人間を巨大化、強化する機械でしょう」

「早速地球を混乱させる気だな」

「しかしメフィラスの居場所は、私にも掴めていません。ですから時が来るまでは休んでいて下さい。まずは私が彼を見つけ出します」

 

 別に地球を護るために戦うわけではない。私が護りたいのは、数少ない私の友人と、たった一人の恋人だけだ。

 しかしメフィラスの野望は、間違いなく私の護りたい人々を傷つけることになる。

 

「侵略者は抹殺します」

「敵意があれば、私は戦うだけだ」

『ふふふっ。退屈しのぎには丁度良いかしらね』

 

 地球に手を出したことは、必ず後悔させる。

 

 

 

 

   第2話「守護者の帰還」

 

             宇宙人 メフィラス

             

                         登場

 

 

 沙流市に帰るタクシーの中で、私とメフィラスとの会合を記録した動画を見せた。

「この動画、監視カメラか?」

「カーンデジファーの一件を教訓にしましてね。店内に設置されていたので、その映像を拝借しました」

 

 地球のオンライン端末は監視下にある。カーンデジファーの手先にされていた沙流学園生徒のヨシオに基礎を作らせた。

 無論彼は、自分が何を作ったか分からないだろう。だがコンピュータ技術の新鋭でもある早坂の姉に紹介したことだし、充分な礼は尽くしたつもりだ。

 

「そのメフィラスとやらは、キミは知らないんだな?」

「同胞ではありません。メフィラスを名乗る別の宇宙人か、もしくは別次元のメフィラス星人と考えられます」

「すぐに星川隊長に知らせよう」

「既に終えています。GUYS JAPANが警戒態勢に入ってくれれば良いのですが」

「大丈夫だろう。彼らは怪しい宇宙人の言葉を簡単に信用する人々じゃない」

「……なら良いのですが」

「何か心配か?」

「いえ。今は、まだ」

 

 この程度のことは、あのメフィラスも予測しているだろう。

 その上でアメリカで堂々とデモンストレーション。おそらくかの国なら兵器供与の話に飛びつくと踏んだに違いないが……あまりに正直な一手と言わざるを得ない。次元が違えど同種族なら、もっと狡猾な策を張り巡らせていると思ったのだが。

 

「運転手さん、このあたりで結構です」

 

 零洸は住宅街に入りかけの場所で降車し、帰宅した。

 私はそのまま愛美の家まで乗り、そこで降りる。

 

「ただいま帰りました」

 

 暗い室内に声をかけると、愛美はすやすやと眠っている。いつの間にかベッドの真ん中に寝ているところが彼女らしい。

 

「……」

 

 私はスマートフォンを操作し、“ある人物たち”と連携を取った。これで戦力は充分だろう。

 あとは相手の出方を待つだけだ。

 

 

―――後編に続く

 


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