留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

136 / 167
第1話「新たなる侵略の始まり」(後編)

====================================

 

 

 米国ワシントンDCホワイトハウスに、黒スーツのメフィラスは突如現れた。彼は仮面に変声期を付け、ノイズのかかった声で「ハロー」と口にした。

 米国大統領は室内に急に表れた男に度肝を抜かれ、握られていたナイフはテーブルにぽろりと落ちていた。

 

「メフィラスと申します」

 

 涼しい顔で大統領の前に近づいた彼は、その名刺をテーブルの端に置いた。そして大統領の会食相手にも同じ名刺を差し出す。

 差し出された男性は、冷静にその名刺を受け取った。

 

「GUYSの高官佐滝氏ですね。私のような存在には見慣れているご様子だ」

「いいや、正直驚いている。大統領に用事が?」

「いえ。お二人に」

 

 ただならぬ様子に、SPがようやく室内に飛び込んでくる。しかし大統領が手で制した。

 

「私に何の話だ?」

「貴国に、私の兵器を供与したく参上しました」

「兵器だと?」

「まずはこちらをご覧ください」

 

 メフィラスがタブレットで見せたのは、インターネット上にアップされた動画だった。トランプタワーを背景に、一人の女性が映っている。清掃員姿の女性は無表情でNYを闊歩している。しかしどう考えても異様な光景であった。

 

「人間が巨大化しているのか!?」

「肉体や衣服の耐久性も飛躍的に向上しています。貴国の兵器程度では傷一つ付けられないでしょう」

「ふざけるな。こんなのフェイク――」

 

 大統領のスマートフォンに着信が入った。国防長官からだった。

 

「……その犯人が今、私の前に居る」

「お騒がせして申し訳ありません。ですがこうでもしなければ、私の持つベーターシステムの有用性がお判りいただけないと思いまして。百聞は一見にしかず。私の好きな言葉です」

「それで、私を脅迫するのか?」

「いいえ。最初に言った通り、供与したいのです。これを使って怪獣や敵性宇宙人から地球をお守りください。その代わりに私を地球の上位存在として、居住を認めてもらいたい」

「ならば私からも条件を出そう。この兵器はわが国だけに――」

「大統領、そこまでです」

 

 佐滝氏が立ち上がり、メフィラスと大統領の間に割って入った。

 

「メフィラス。君のβシステムとやらは地球に混乱を招くだけだ」

「そうでしょうか。この惑星は既に『メテオール』という強力な兵器を正しく運用しているのでは?」

「……よく調べているようだな」

「もちろんGUYSに対してもベーターシステムを供与しましょう。ぜひ『F計画』に役立てていただきたい」

「まさか、そこまで知って――」

「スペシウム133……元素記号M2SH3GWAB1。それらを利用しておきながら、ベーターシステムを拒む理由はあるでしょうか?」

「全て、未熟な人間には過ぎたる技術なのだ……。だからβシステムとて――」

 

 メフィラスが指を鳴らした。

 その瞬間に佐滝氏の両手両足に金属の錠、その口には猿ぐつわがはめられる。彼は床に倒れるものの、必死にメフィラスを睨んでいた。

 

「大統領。GUYSにはこの件は内密にしてあります。ご自由にお決めください」

「……交渉を始めよう」

「佐滝氏の身柄はお好きにどうぞ」

 

 SPに抱えられた佐滝氏は連行されていったが、彼は拘束される直前に非常メッセージをGUYS JAPANに発信していた。

 たった一文のメッセージ。それにGUYSの精鋭たちが応えてくれることを祈りながら、佐滝氏は車に乗せられた。

 

『メフィラス、ホワイトハウスに現る』

 

 そのメッセージは、CREW GUYS JAPANの星川聖良隊長に届けられていた。

 

「CREW GUYS。集合せよ。地球が狙われているわ」

 

 地球は再び、宇宙人によって混乱に陥れられたのだった。

 

 

=======================================

 

 

「さぁ、もう一人の私(未来ちゃん)。命を懸けて殺し合いをしようじゃないの」

 

 零洸は百夜の手を払いのけ、立ち上がった。

 そして百夜に何か言わんと口を開きかけるが、私がそれを制止した。

 

「まずは現状を説明させてください。今回の侵略者について」

 

 私は今日のメフィラスとの接触、そして彼の話した内容を説明した。

 

「βシステムはいささか危険すぎる。今その力を手にすれば、人間の戦争に利用されるぞ」

「それにしても紛らわしい敵よねぇ。メフィラスみたいなヤツ、一人で十分よ。いっそアンタが別の星に行けば?」

 

 その表情に危機感を帯びている零洸と対照的に、百夜は呑気に欠伸をしながら私の話を聞いている。本当に聞いているのかも疑問ではあるが。

 

「私の読みでは、メフィラスはβシステムを人間に供与し、すぐに手駒の怪獣を出現させるでしょう。そうしてβシステムの有用性を知らしめるはずです」

「人間は更にβシステムを欲しがり、やがて取り合うように仕向けられる、か」

「そしてメフィラスは人間たちの争いの調停者を気取るでしょう。そのうちに人間はメフィラスを認め、彼に屈服し、支配されることになる」

「奴を、すぐにでも地球から追い出さなければならない」

 

 だが零洸は首を横に振った。

 

「しかし今の私には無理だ。ボトル一つ満足に持てない。それにもうすぐ消えるのだから」

「そうよねぇ。そもそもアンタがもっと強ければいいのにぃ」

「私は暴力を好みません。しかし今回の敵を退けるには暴力が必要です」

「失礼しちゃう。私たちの力をそんな風に言っちゃってさ」

「とにかく、光の戦士ソルが地球に必要な時なのです。それに方法なら――」

 

 私は百夜の方に視線を向けた。

 異次元人ヤプールによって侵略され崩壊したとある次元で、百夜過去は光の戦士と近しい存在――戦士ラスであった。ヤプールは彼女を瀕死に追い込み、その身体を改造してソルと対決させたのだった。

 しかしヤプールは地球での決戦に敗れた。百夜は光の戦士ゾフィーの協力によってヤプールの改造から解き放たれて以前の姿に戻ったのだが――

 

「百夜さんは、零洸さんにとっては異なる次元の同一なる存在です」

「だからと言って……私に百夜を消滅させて、この次元に留まれとでも?」

 

 ひと月以上前、零洸の身体に異変が起こった。突然体内のエネルギー量が著しく減少し、変身して戦うことが困難になったのだ。その異常は百夜にも同時に現れていた。

 

「恐らくこの次元が、貴女たちの共存を何らかのエラーと認識したのです。そもそも次元間を移動すること自体が不自然ですが、同一の存在が同じ場所にいることなど、もっと不自然ですからね」

 

そんな”異物”を排除しようと、この次元は貴女たちを消滅、もしくは別次元にはじき出そうとしているのだ。

もし別次元に飛ばされでもすれば、ここに再び戻ってくることは困難だろう。少なくとも私の技術では、他次元の情報を得ることすら不可能なのだから。

 

「以前キミにそう説明された後……光の国に連絡を取ったら、あの戦士ヒカリが調べてくれたんだ」

 

 光の国随一の科学者の名前を、私は少なからず意識していた。命の固形化という超技術の研究によってゾフィーと同じ『スターマーク』を授与され、戦士としてもウルトラマンメビウスと共にかのエンペラ星人を破った英雄である。

 彼ならもしかすると、私には見つけられなかった解決法を――

 

「しかし、彼もキミと同じ見解だった。以前ヤプールが『テリブルゲート』で次元の壁に穴を開けようとした影響で、この次元は不安定で特殊な環境らしい。分からないことが多いそうだ」

「はぁ……説明パート終わり? もう飽きたんだけど」

 

 その時、私の首が百夜によって掴まれる。私の身体は軽々と持ち上げられ、壁に押し付けられてしまった。

 

「な、何を――」

「良いこと思いついたの」

「百夜! レオルトンを放せ!」

「未来ちゃんとメフィラス、ここで殺すことにするわ」

「何を言ってるんだ!」

「未来ちゃんはその気なさそうだし、私が未来ちゃん殺してこの次元で生き残ることにする。それからメフィラスだっけ? あぁ紛らわしい。新しい方のメフィラスも殺して、私が地球支配するってのはどう?」

「ふざけるなよ百夜……キミは共に地球を護ったじゃないか。私を殺すなら、君が代わりに地球を護れ!」

「バッカじゃないの?」

 

 百夜は私を締め上げたまま、高らかに嗤っていた。

 

「私はね、未来ちゃんが好きなだけ。ヤプールや星間連合と戦うことになったけど、そんなのたまたまなのよ? もし未来ちゃんが消えちゃうなら地球なんてどうだって良い」

 

 それに、と言って、百夜は私を反対側の壁に投げ飛ばした。

 

「私ぃ、未来ちゃんが私のいない世界で生きていくのは、ちょーっと許せないの」

 

 百夜は零洸に近づき、その頬を赤い舌でべろりと舐めた。

 

「未来ちゃんはぁ、私だけのモノだもん♪」

 

 彼女はそれから私の右腕を掴み、持ち上げた。

 

「でもお別れしないといけないんだもんねぇ。だったら最後に、気持ちよく殺し合ってからにしたいじゃない? 私、未来ちゃんとの殺し合い以上に好きなことなんて無いのよ?」

 

 百夜のもう片方の手が、青いエネルギーに包まれる。それを手刀のように私の肩に振り下ろした。

 私の右腕は肩から斬り落とされた。緑色の鮮血が、銀一色の壁に飛び散っていった。

 

「未来ちゃんが戦ってくれるまで、こいつの身体バラバラにしちゃお」

「やめろぉ!!!」

 

 零洸の身体が、はっきりとした実体を持った。

 そして彼女は瞬時のうちに百夜に肉迫し、肩を掴んで壁に叩きつける。壁は衝撃で粉砕され、両者は宇宙空間に飛び出した。

 

「あははっ♪ その顔、その顔!! 憎たらしい獲物を見据えるその顔! 未来ちゃん、今最高に綺麗よ!」

「キミは、共に戦ってくれる仲間だと思っていた」

「だから私を殺すのを躊躇ってたわけ?」

「キミだって、同じじゃなかったのか?」

「私はねぇ――」

 

 百夜は変身デバイス『シュリティムア』を握っていた。

 

「どうすれば未来ちゃんを一番怒らせられるかって、考えてただけ。そしたら今が最高のタイミングって思っただーけ」

「キミを、信じていた」

 

 零洸も同じように、変身デバイス『クリティムア』を構えた。

 

「でも間違っていた」

「そ。未来ちゃんはお馬鹿さん」

「その間違いを、今から正す」

「いいねいいね。殺してみてよ、この私を!」

 

 二つの光が宇宙空間を照らす。

 光の戦士ソル。

 別次元の光の戦士ラス。

 次元を超えて邂逅した戦士たちが、今死闘を始めようとしていた。

 

 

―――第2話に続く


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。