留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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外伝4話「囚われの地球」その3

 

 

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『死ぬがいいっ!』

 

 魔王カーンデジファーが画面の向こうで叫ぶ。

 次の瞬間には、私の“円盤”は大気圏からのレーザー攻撃を受けていた。

 

「っ!!」

 

 私は咄嗟に、緊急脱出装置を起動した。“円盤”のシールドが破られたのと殆ど同じタイミングで、私の身体は外に射出された。脱出装置は発動したものの、その爆風の方が私を押し出す形となった。おかげで私は必要以上の威力で機体から投げ出された。近くの木に衝突しながら、私は無様に地面に転がった。

 視線の先には船体の半分が消し炭になった“円盤”が炎と煙を上げていた。そして燃料に引火し、大爆発を引き起こす――

 私の身体は爆風によって吹き飛ばされる。その勢いのまま崖から転げ落ち、何度か木の幹や岩にぶつかりながら地面に叩きつけられた。

 見上げた崖の向こうからは、黒煙が空に向かって上がっている。私は立ち上がりながらその様子を眺めていた。地球に来てからしぶとさだけは成長したのか、何とか歩けるようだ。

“円盤”と共に私は、対ウイルスプログラムという武器も失った。カーンデジファーに対し、まさに丸腰である。

 通信機器も無いため、誰とも連絡を取れない。テレパシーで反応してくれるとすれば零洸未来と雪宮悠氷だったが、零洸には頼れない事情があるし、雪宮が来たところで解決できることもない。それに、そもそもインターネットに接続された機器を手にしていればそれだけで、カーンデジファーに所在が知られてしまう。

 しかし指を咥えてカーンデジファーの支配を受け入れる気はない。一先ず人里に下り、変装しながら対策を立てねば――

 

「ここは……」

 

 思案しながら林の中を歩いていると、奇妙な場所に辿り着いた。

 おそらくは不法投棄場所なのだろう。廃棄物はどれも古めかしいモニターだった。既にどれもが傷だらけで汚れており、無造作に積まれている。中には画面が粉々に割れている物もあった。

 しかし奇妙だったのは、無数のモニターのただ一つだけが光を放っていることだ。私は吸い寄せられるようにそこに近づき、モニターに囲まれた中心に立った。

 

『ニル=レオルトン。グリッドマンと合体し、コンピューターワールドで戦っていたのは君だな』

 

 男の音声と共に、その姿が画面上で露わになる。

 ベージュのロングコートを着た、細身の人間男性だった。丸い大きな眼鏡と長い前髪が印象的だ。

 

「……何者ですか」

『僕の名はタケシ。藤堂タケシだ』

 

 目の前の画面が消え、今度は背後のモニターに彼の姿が映りだした。

 

「私の名を知っているとは、ただの人間ではありませんね」

『僕は今、君の存在する次元とは別の次元から通信している』

「多次元宇宙マルチバースですか」

『そうだ。詳しい説明は省くが、僕はかつて魔王カーンデジファーの傀儡となっていたんだ。その時グリッドマンに救われた』

 

 こちらの次元でカーンデジファーに操られていたフジドウヨシオと同じような存在ということか。

 

『そして今回、君のもとにグリッドマンを送り込んだのは僕だ』

「カーンデジファーを追って?」

『その通り。奴は一度グリッドマンに無力化されたが、蘇っていた。あの頃ほどの力は持っていないが、グリッドマンでなくては倒せない。だから彼を送った』

「彼は、そんなことは一度も説明していませんでしたが」

『不完全なんだ。君の次元へ送る際にデータ容量を縮小したために、記憶を失っているのかもしれない』

「……まぁいいでしょう」

 

 カーンデジファーの罠ならば、とっくに私はレーザーに焼かれているはず。彼の言葉を信じる理由にはなる。

 

「私に連絡を取った理由は?」

『もう一度、グリッドマンと合体して戦ってほしい。そうでなければ、君たちの地球は奴に侵略されてしまう』

「グリッドマンは無事なのですか?」

『ああ。彼が宿っているジャンクも無事だ。君たちグリッドマン同盟の仲間が探してくれている』

「っ!!」

 

 私は、右真横に映っていた彼に近づいた。

 

「余計なことをしてくれましたね」

『仲間を巻き込みたくない、ということか?』

「もし彼らに連絡を取れるなら、捜索を止めさせてください。そしてグリッドマンをここに呼ぶことです」

『それはできない。この次元ではジャンクだけが、彼と君たちを繋ぐ絆なのだ』

「貴方にはこちらの状況が分かっていないようだ。今こちらでカーンデジファーに反抗を悟られれば、攻撃を受けてしまう。これ以上彼らを危険には――」

『聞いてくれ、ニル』

 

 無表情だった藤堂タケシの声色に、わずかながら熱が込められていた。

 

『僕はかつて、たった一人だった。周りを馬鹿にし、一人で何でもできると思い込んでいた。しかしそれ故にカーンデジファーに付け込まれ、悪の道に堕ちた』

 

 彼の姿と、画面に反射して映る私の姿が重なっていた。

 

『君は宇宙人だ。確かに人間なんかよりずっと強い。しかし一人でできることなんて限られている。それは人間も、君も同じはずだ』

 

 彼の言は正しい。

 私は一人で戦おうとして敗れた。そして今も、1人では何も手立てがないことは自分が一番理解していた。

 

『僕を救ってくれたのはグリッドマン一人ではなかった。彼にも仲間が――グリッドマン同盟という強い人間の仲間がいたんだ』

 

 タケシが右腕を挙げる。

 

『仲間を信じるんだ。信じることを恐れてはいけない』

「私は、」

 

 平時はお調子者だが、誰よりも勇敢な草津、

 

「もう一度、」

 

 いつも私を温かく教室に迎え入れてくれる、杏城たちクラスメート、

 

「彼らを、」

 

 そして、誰よりも私を愛してくれる彼女。

 

「頼っても――」

 

 その時、ポケットの中に何か熱い物を感じた。

 それはグリッドマンと別れた際に腕から外れ、いつの間にか持ち歩いていたアクセプターだった。

 

『ニル。君はグリッドマン同盟の仲間だ。その仲間を頼って何が悪い。仲間なら、必ず応えてくれる』

 

 タケシの右腕にも、アクセプターが装着されていた。

 

『そしてグリッドマンも、君の帰還を待っている』

 

 私は頷いた。

 そしてその場を去ろうとした時、タケシが言った。

 

『忘れるな。彼と共に戦う戦闘コードを。アクセスコードは――』

 

 問題無い。

 そのコードを忘れたことなど、出会った時から一度も無いのだ。

 

 

 

 

 そして私は、戻ってきた。

 

「愛美さん。もう一度だけ、私と一緒に戦って下さい」

 

 両腕で抱きしめた愛美にそう言った。

 

「それ、私が断るわけないじゃん」

 

 顔を上げた彼女は、きっと強がっている。

 長いまつ毛にまだ涙が残っていた。

 当たり前だ。誰だって戦うのは恐ろしい。

 しかしそれでも応えてくれるのが、私の地球侵略を打ち破った人間の“心”の強さなのだ。

 

「ここにジャンクがあるのですね」

 

 早坂の家というのは意外だったが、私は彼女に連れられ、ジャンクの元へ向かった。

 

「てか、よくここが分かったよね」

「私にも理由は分かりません。ただ」

 

 私は右手のアクセプターと、首にかけていたペンダントを彼女に見せた。

 

「これらに導かれて、ここまで来れたようです」

 

 部屋の扉を開くと、見知った顔ぶれが揃っていた。

 

「皆さん、ご迷惑をおかけしました。一応は無事です」

「まったくもう……男の人は何でこう、傷だらけになるのでしょうね」

 

 杏城がやれやれといった感じで小さくため息をついた。

 

「でも、戻って来てくれて本当に良かったですわ」

「私も嬉しいです!家焼け仲間が居ないと寂しいですよっ」

 

 直接長瀬の無事を確認し、私も一安心だ。

 

「詫びた直後ではありますが、一つ皆さんにお願いしたいことがあります。ですが100パーセントの安全を保障できるものではなく――」

「レオルトン!先に言っておくぜ。俺たちはお前の頼みなら、何だってやってやらァ!」

「樫尾さんの言う通り。ニル君、たまには僕らのことも頼ってよ」

 

 樫尾と早坂の言葉に後押しされ、私はここまでの道中で練った作戦を話した。

 

「……レオルトン」

 

 話を聞き終えた草津が立ち上がり、私の前まで進み出た。

 

「戦いが終わったと、俺と愛美に嘘をついたな」

「……ええ。本当に申し訳――」

「許す!同盟メンバーの帰還に万歳だっ!」

 

 両腕を挙げて叫ぶ草津に、一同笑う他なかった。

 

「さてレオルトンよ。俺たちがやることは把握した。最後はお前と彼に託すぞ」

 

 草津に肩を叩かれ、私はジャンクを前に声をかけた。

 

「……グリッドマン」

『ニル。君の無事を嬉しく思う』

「もう一度、私に力を貸してください」

『もちろんだ。私こそ、君たちに協力を要請する!』

 

 これはカーンデジファーへのリベンジだ。

 しかし今度は負けられない。

 私には、守るべき、そして共に戦う仲間がいるのだから。

 

「グリッドマン同盟の最終作戦を、開始します」

 

 

―――その4へ続く


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