留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第5話「悪魔の招待状」 その2

「今日はここまで。草津くんはあまり私ばかり見ていてはダメよ? それじゃ、昼休みに質問があれば職員室に来てね」

 

 ガッツ星人との会見から一夜明け、私は普段通り学園に通っている。

 4限目は紫苑の現代文の授業だった。紫苑レムは教師として高い能力を持っているようで、今まで現代文に興味がないと言っていた連中がいつの間にか真剣に授業を受けるようになっていた。しかも男女共通でその変化が見受けられたことから、この女がただの色目使いではないと証明されている。

 

「ふう……今日も良い日だ!」

 

 しかし草津は、相変わらず彼女の美貌に夢中になっているようだ。

 

「草津。キミはもう少し女性に対して節度を持ったらどうだ?」

 

 彼のもとに、やれやれと言った感じで零洸が近づいて行った。

 

「そう言わんでくれ、未来。紫苑先生は俺の天使なのだ」

「ホント、草津ってバカ」

 

 呆れた顔で草津の方を向きながら、早馴はため息を吐いた。

 

「愛美、それはひょっとしてそれは妬きも――」

「未来ー、お昼食べよ」

 

 早馴は草津を思い切り無視し、零洸の腕を引っ張った。

 

「ちょっと! わたくしを忘れていませんか!?」

「忘れてないよー。ほら、逢夜乃も食べよ」

 

 後からやって来た杏城も加わり、3人は共に、教室で机を囲んで食事を始めた。

 結局怪獣が現れないまま1日の半分が終わってしまった。昨日のガッツ星人の発言が本当であれば、怪獣が暴れていてもおかしくなかったはず。

 ガッツ星人め、本当に事を起こすつもりがあるのか――

 

「きゃっ!」

 

 その時、杏城の小さな悲鳴が上がった。

 

「地震?」

「大きいな」

 

 早馴と零洸は割と冷静だった。いや、早馴の場合は無関心といった感じだ。地震の中平気で食事を続けている。

 

「紫苑先生……好きだ……」

 

 もはや草津にいたっては訳が分からない。

 

『全生徒、並びに全職員に緊急連絡です。巨大怪獣が市街地に現れたため、ただちに体育館へ避難を開始してください』

 

 教室に校内放送が響く。

 ガッツ星人の放った怪獣だろう。急ぎ怪獣の近くに向かうか、この学園で生徒の動向を調べるか――私は現場に向かうことに決めた。私は早馴や杏城達と共に教室を出て体育館に向かう生徒の列に混じりながら、抜け出す機会を窺った。

 校舎を出て体育館に繋がる屋外通路に差し掛かる直前、私はトイレへ行くと言ってその列から抜け出した。それから再び校舎に入って昇降口から外に出て学園の正門までやって来た。

 どうやら学園内の人間はすべて避難を完了したようで、辺りは非常に閑散としていた。

 

「あら?キミは……」

 

 門を抜ける瞬間、私は後ろから声をかけられた。

 紫苑レムだった。彼女は訝しげに私を見つめた。流石にこの状況を怪しまないはずがないな。

 

「ダメじゃない、生徒は体育館に避難するはずだけど」

「そうでした。しかし先生こそどうしたのですか? 職員も同じはずですが」

「そうね。でも私は、あなたのように避難し遅れた生徒がいないか確かめているのよ。それで、どこへ行こうとしたの?」

「体育館に怪獣がやって来たら怖いですから、もっと安全そうな場所に避難したかったんですよ」

「本当かしら?」

 

 彼女は長い赤茶色の髪を耳にかけながら、私に歩み寄る。甘い香りが私の鼻をくすぐった。

 

「……むしろ私には、先生の行動が不自然に見えます」

「どういう意味?」

 

 彼女は微笑みを崩さなかった。私の無礼な発言を楽しんでいるかとさえ見えてしまう。

 

「先生こそ、学園から出て行こうとしているように見受けられます」

「根拠はあるの?」

「この緊急時、見回りとはいえ外履きの靴に履き替えるのは不自然でしょう? それに、見回りにハンドバッグが必要ですか?」

 

 4時限目の終わりの紫苑の言葉を振り返る。彼女は外出する気はなかったことを裏付けていた。外出するなら職員室に居るとは言わない。

 まさか彼女は、この騒ぎの中で何かするつもりだったのだろうか?

 

「……ふふふ。いいわ、私の負け。まるで探偵さんみたいね、レオルトン君。私は大人しく体育館へ戻るわ」

 

 しかしそんな期待はいとも簡単に裏切られた。彼女は悪びれる様子も無く、校舎の中へと戻っていこうとした。

 

「どうする気だったのですか?」

 

 私はその背中に問い詰めた。

 彼女は歩みを止め、こちらを振り向いた。

 

「このどさくさに紛れて帰っちゃおうと思ったのよ。でも生徒にばれちゃったら無理そうね」

「先生がいないと残念がる男子生徒が沢山います。お仕事頑張ってください」

「そうね。で、あなたはどうするの?」

「正直に言います。先生と同じ理由で帰るつもりでした」

「あらま。でも、私だって我慢するんだから、ニルくんも我慢」

「はい」

「じゃあ私も体育館に行こうかしら。ニルくんも、すぐに戻ってくるのよ? それじゃ、ばいばい」

 

 彼女は手を振って再び歩き始め、校舎の中へ戻って行った。

 無駄な警戒心を持って彼女に接してしまったが、不必要だったようだ。

 さて、急いで怪獣の所へ――

 

「っ!」

 

 正門から大分離れた場所に位置する駐車場の間を、人影がさっと抜けていった。

 一瞬でよく分からなかったが、見覚えのある髪型の女学生が軽々と柵を越えて敷地外に出て行ったのがかろうじて目に入った。

 あれは…たしか剣道部の――

 

「雪宮悠氷、か……」

 

 

―――その3へ続く

 


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