留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

127 / 167
外伝3話「孤独の戦士」その4

 

『……しばらく、会えないと思います』

 

 ニル=レオルトンの、いや恋人の突然の言葉に、早馴愛美は息を呑んだ。彼の切迫した様子に彼女の眠気は吹き飛び、パジャマ姿のままベッドから飛び起きていた。

 彼の言葉の理由や、その真意を推し量る前に、彼女の口からは言葉が漏れる。

 

「何、言ってんの?」

『いちいち説明しないといけませんか?』

「そんな言い方――」

『とにかく、私に従って下さい。いいですね』

 

 電話はニルから一方的に切られ、無慈悲な電子音が耳に入ってくる。

 愛美はもう一度かけ直そうとしたが、その前に草津から電話がかかってきた。ニルから頼まれた草津への伝言をどうしようか一瞬迷ったが、彼女はすぐに通話ボタンをタッチした。

 

『愛美!もしかして今、レオルトンと話していたか?』

「あ、うん。そうだけど」

『そうか、奴は無事か!実はな、レオルトンの家が……火事になった』

「な、どういうこと!?」

『詳しくは分からん。ただニュースによると、レオルトンの自宅の住所が火事と言うことだけだ……』

 

 先ほどニルの声聞いていた愛美は、一瞬は安堵した。

 だがすぐに彼女は重要なことを思い出した。

 あまりにも悲惨な想像が、彼女の脳裏をよぎる。

 

「待って!アイツの家の隣って――」

『安心しろ。唯ちゃんとはずっとメッセージでやり取りしていたんだ。レオルトンも火事を知って唯ちゃんに電話していたみたいだ。あの子、火事なんて冗談かと思っていたらしいが』

「ニルが雑な説明したんでしょ……」

 

 安心して気が抜けたように、彼女は再びベッドに倒れ込んだ。

 本当に雑な説明だった。いや説明など無く愛美を突き放したニルに、彼女の感情は怒りと悲しさがない交ぜになっていた。

 

「ニルがね……しばらく会えないって言い出したの」

 

 愛美の声がわずかに震える。

 

「ニルの家と、ジャンクの言ってた中古ショップ……それにあの“円盤”にも来るなって!」

『中古屋?まさか――』

 

 少しの間を置いて、草津が絞り出すように言った。

 

『今調べたが……あの中古屋付近の住所も、レオルトンの家と同様火事が起きたようだ。もしかすると何者かの攻撃――いや、間違い無い!愛美、テレビを付けてみろ!』

 

 愛美は、焦る手つきで枕元のリモコンに触れた。

 普段は通販番組しか放送していない時間にも関わらず、緊急のニュースが流れていた。GUYSの緊急報道の映像に、各局のアナウンサーやコメンテーターが神妙に解説を加えている。

 

『状況は全く分からないが……何か大きな事件が起きていることは確かだ』

「じゃあニルは、もう巻き込まれて――」

 

 半年前、一度ニルが消えてしまったあの日――また同じことが――

 

『愛美!まだ涙を流すには早すぎる!』

 

 いつの間にか流れていた涙に、はっとする愛美。

 

『アイツが置いて行こうとするなら、俺たちが追いかければいい!それだけの話だ!それに、あのスカした男の言いなりばかりじゃつまらんだろう?』

 

 しかし無理に威勢よく振舞う草津に、彼女は少しだけ慰められた気がした。

 そして目じりに浮かぶ涙を拭い、立ち上がった。

 

「明日、ニルの家に行ってみる」

『なら俺も行こう。家に迎えに行く』

「ありがと」

『男草津!親友の想い人を守れなくして何が男か!まぁ、その姿に惚れて俺のもとに来ることは大いに歓迎だ』

「ばーか。じゃ、明日ね」

 

 絶望しかけた愛美の気持ちが、少しばかり希望に向かって頭をもたげた。

 そして改めて彼女は、ニルを想った。

 

「……おばかニル」

 

 ひとり呟いて、テレビ横のスタンドにかけられた細い銀色の鎖に視線を注ぐ。

 

「一人でなんて、絶対行かせないから」

 

 鎖に繋がれた、半分に割れたペンダント。

 愛美はそれを手に取り、首に下げた。

 

 

 

 

 愛美は一睡もしないまま、朝を迎えていた。

 だが不安で眠れなかっただけではない。ニルを追うなら、彼の置かれている状況を少しでも理解しておきたいと考え、インターネットやテレビの報道を追っていたのだ。

 目も冴えている。草津の来訪時間を外で待つ余裕もあった。昨夜の雨は既に上がっているが、曇天の空から降り注ぐ光は少ない。

 合流した草津とは、互いに得た情報を共有した。ニルの家を破壊したのがメシアだったことはもちろん2人ともニュースで知っていた。また、深夜に決行されたGUYS・NYの“UNION奪還作戦”はメインAI奪還に失敗し、システムは暴走したままであることも報道されている。

 

「やはりGUYSの兵器を乗っ取ったのはカーンデジファーだろうか」

「そうだと思う。グリッドマンを敵だと思ってる奴なんて、他に居る?」

 

 2人は昨夜のニルと同じ結論に辿り着いていた。

 だからこそ改めて彼の家が“あった”場所を前にした時、背筋が凍るような感覚を得ていた。

 何もかもが破壊された跡地。周りの家屋も大きな被害を受けており、黄色いテープが立ち入り禁止を告げている。

 この惨状を前にして2人は、ニルの「戦いは終わりだ」という言葉の真意を痛感せざるを得なかった。

 

「……もし3人で一緒だった時に狙われていたら、助からなかっただろうな」

「ニルはこうなることを分かってたってこと?」

「そうかもしれん」

 

 2人は次に、グリッドマンと初めて出会った中古品ショップに向かった。

 やはりそこも破壊しつくされた後だった。店そのものも、あれほど並んでいた商品も見る影もなかった。

 

「ニルはジャンクを手放したって言ってたけど……ここに返してたのかな?」

「俺は何も聞いていない。仮にそうだとしたら、グリッドマンは、もう――」

 

 彼らは、あの“鋼鉄の武人”の姿を反芻していた。

 自分たちを温かく見守ってくれていた姿、

 たまにせっかちで、騒ぐ私たちに出動を急かす姿。

 脅威に立ち向かう勇気ある姿。

 

「カーンデジファーにグリッドマン無しで立ち向かうなんて……無茶だよ!」

 

 愛美は走り出した。

 

「おい愛美!どこへ行くんだ!」

「ニルの所!多分“円盤”に――」

 

 その時、鉛色の空が、桃色の光に染まった。

 そして雲が割れ、光が矢のように一筋突き抜けて、地上に消えた。

 次の瞬間には、雷のような凄まじい爆発音が空気を激しく揺らしていた。

 

「あれは……ビームか?」

 

 草津が呆気に取られて爆発音の方向に目を凝らすが、そこからでは何も見えなかった。

 走り出していた愛美も、この異常事態に立ち止まることを余儀なくされた。彼女の急な動きで、首もとのペンダントが大きく揺れる。

 ペンダントの鎖は、音も無く切れた。

 それが地面に落ちていく様は、何故だか愛美にとってはとても長い時間に思われたのだった。

 

 

――外伝4話へ続く


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。