第1部を読まないとキャラクターやストーリーが分からない所がありますので、ご了承ください……!
外伝1話「再・侵略の始まり」その1
カーテンの隙間から差し込む日の光。
掛布団からはみ出た肩に感じる、室内の冷気。
昨晩初めて体験した不意の眠りからの目覚め。それは不思議と心地良く思えた。
「……」
登校までの時間には随分と余裕があるが、私は先にベッドから出ようと上体を起こす。裸体のままではひんやりとする室温だ。
「ニル……」
私の名を呼ぶ声が、すぐ近くから聞こえる。
その声の主はまだ眠っているが、無意識なのか、私の腕を掴んで離そうとはしなかった。
仕方ない。もう一度布団にもぐろうか――
「寒い……」
「すみません、起こしてしまいましたね。愛美さん」
「……ニル?」
「ええ、私です」
「……そっか、そうだよね」
彼女は半分眠っているような様子で何かを納得し、もう一度瞼を閉じた。私が再度横になってみると、愛美は満足そうに私の胸に顔をうずめていた。
「……ん、んぅ!?」
すると突然、愛美は布団をはねのけて身体を起こそうとした。おかげで私の顎に彼女の頭が激突する。
「痛いですよ」
「あ、えっと……その、これは……」
「どうしました?もしかして具合が悪いとか?確かに顔が赤いようですが」
上半身だけ起こして呆けている彼女は、きょとんとした表情で私の目を凝視している。
「ともかく布団をかけた方が良いですよ。そんな恰好では冷えます」
「そんな恰好って――あれぇ!?」
ようやく目が覚めたのか、彼女は一糸まとわぬ白い胸を隠すように、私から布団を奪って背を向けてしまった。
「ねぇ、ニル」
「はい」
「昨日のこと……覚えてる?」
「もちろんです。記憶力には自信がありますから」
「今すぐ忘れてっ!!」
「そう言われましても」
後ろ向きの彼女の耳は、心配なほどに紅潮している。
私は、そんな彼女の耳と頬に触れてみた。
「愛美さんとの記憶は、全て覚えていたいのです。しかしあなたにとって良い記憶でないのなら、善処するつもりです」
「……そんなわけ、ないでしょ。忘れないでよ」
振り返った彼女の顔を見た瞬間、私は説明しがたい猛烈な感情に突き動かされ、唇を重ねた。
「に、ニル?」
「愛しています」
「急に、恥ずかしいよ」
「思ったままを、言いました」
「……ばか」
今度は彼女からの口づけ。
再び二人で布団を被る。
まだ時間には余裕があったことを、私は思い出した。
「あー。また遅刻だって逢夜乃に怒られる」
私の机の椅子に座らせ、彼女の寝癖を直す私。
あの後結局、私たちはベッドから出ることはできなかった。昨夜生まれて初めて“そういう行為”を体験した私も、つい冷静な判断力を失ってしまったようである。
こんな光景を昔の私が見たら、あまりにも理解不能と感じるに違いない。
「自分の髪くらい、自分で整えられるようにしないと困りますよ」
「今日だけだもーん」
机に置いた鏡に映る愛美が嬉しそうにしているのを見ると、全て許せてしまうから不思議である。
「先ほど先生と零洸さんには連絡しましたが、なるべく急ぎますよ」
「え、それって私のことは何て言ってあるの?」
「先生には何も言っていませんから、自分で言い訳してください。零洸さんは、まぁ、上手に解釈してくれますよ」
「……今日休もうかな」
「ダメです。私が零洸さんに叱られます」
「だって恥ずかしいじゃん!」
「彼女は大人ですから、大丈夫ですよ」
零洸は数万年生きている光の戦士なのだ。人間の営みにいちいち首を突っ込んだり、むきになったりすることもあるまい。
「はい、できました。あとはパジャマを脱いで、制服を着て下さい。あちらのハンガーにかけてありますから」
「ニル、私の家政婦とかなってほしい」
「では一緒に住みましょうか」
「そ、そういう意味で言ったんじゃないからね!」
愛美が立ち上がったところで、私はテレビの電源を入れた。
『昨晩未明に行われたGUYS総本部の記者会見の映像です。新型の地球防衛システムを試験的にJAPAN支部に導入するという発表により、日本政府はじめ国連なども続々と記者会見を予定しているとのことです。発表された新システム、通称“UNION”計画は地球に住む我々の安全保障をますます強化することが予想され――』
他の放送局も全て、話題は一色であった。
星間連合とヤプール人の大規模侵攻――世にいう“第二次星間戦争”から半年が経った。宇宙の“強豪たち”はほぼ地球から手を引き、最近は地球産の怪獣が時折暴れるだけで、光の戦士ソルが戦うことも珍しくなった。これまでのようなやり方で地球に攻めてくる者は、ついに居なくなったのかもしれない。
もちろん私も、穏やかな日々を過ごしていた。
「どうかした?」
「いえ」
制服に着替えた愛美を見ていると、自分がかつて地球を侵略しようとやってきた宇宙人――メフィラス星人であったことを忘れそうになる。あの時の私は、言ってみれば何も持っていなかった。
しかし今は違う。愛すべき人、友人、そして平和と、数えきれない程大切なものが増えていた。
「愛美さん」
「ん?」
「学園へ行きましょう」
「そうだね」
彼女の手を握る。
なんて温かい手なのだろうか。
外伝1話「再・侵略の始まり」
地底怪獣グドン
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登場
ようやく続編を始めることが出来ました!
皆様と再会できてとても嬉しいです。
その1はまだ導入ですが、ここから新たな物語が始まっていきます。
ぜひまた最後まで読んで下されば幸いです。