留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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最終話「ともに、あなたと」

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 ソルのラス・オブ・スペシュウムがテリブルゲートと異次元空間を破壊した丁度その時、グロルーラとテンペラー星人の激闘も最終局面を迎えていた。

 

「ヤプールも使えん奴だ! やはりこの俺が、艦隊を率いて地球を支配してやる!」

 

 彼はヤプール人と銃撃戦を交えていたGUYS初期対応班に目をやった。

 テンペラー星人の背後には、地面に倒れ伏せたグロルーラの姿もあった。

 

「こざかしいウルトラマンと人間どもめ……! 星間連合の本領を見せつけてくれるわ!」

 

 テンペラー星人が右腕を上げると、黒いオーラと共に数体の宇宙人が現れる。決して名の知れた宇宙人たちではないが、いずれも高い戦闘力を有していることに変わりは無かった。

 

「これより指揮は俺がとる。全艦隊に総攻撃の通達をしろ。こうなれば地球を焼き尽くしても構わん!」

 

 テンペラー星人の命令に彼らは頷き、その場を離れようとした。

 しかし次の瞬間、彼らの首が一斉に刈り取られる。

 

「ちぃっ! まだ息があったか、グロルーラ!!」

 

 わずかの隙をついて宇宙人たちを惨殺した彼女は、緑色の鮮血に染まった刃を構えた。テンペラー星人に注がれる彼女の眼光からは、鋭い殺気が放たれていた。

 

「生意気な小娘め!!」

 

 テンペラー星人の猛攻にグロルーラは抵抗するも、その身体は地面に叩き伏せられる。

 

「そろそろお前の息の根を止めるとしよう……二度と再生できないように、融かしてやる!」

 

 彼の腕先が、グロルーラの後頭部に向けられる。

 

「死ねぇ!」

 

 光線が放たれる。

 その瞬間、グロルーラは跳ね起き、腰に差していた銀色の鉄扇を広げて光線を弾き返した。跳ね返された光はテンペラー星人の顔面に襲い掛かり、そのダメージで彼は地面に倒れてのた打ち回っていた。

 そしてグロルーラの氷の刃が、テンペラーの心臓を刺し抜いた。

 

「くそぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 青い肉体は灰のようになって、跡形もなく消えた。

 その光景を見届け、グロルーラは人間態に姿を変える。彼女の視線は、左手に握られた鉄扇に注がれていた。

 

「レム、ありがとう」

 

 雪宮悠氷が鉄扇を閉じて再び腰に差したと同時に、空から暖かい光が差し込む。彼女の冷たい身体を、日の光がほのかに温めていた。

 

「……暑いのも、悪くない」

 

 わずかに口の端を上げ、雪宮は路地の奥へと歩き出した。

 

 

 

 

 

   最終話「ともに、あなたと」

 

 

 

 

 

 ヤプールと星間連合の襲撃は“ダブルインパクト”と呼ばれ、地球史に深く刻まれた。

 あの日、ソルが異次元空間を破壊したのと同時に連合艦隊も撤退、後に駆け付けたウルトラマンジャック、ウルトラマンメビウス率いる宇宙警備隊の追撃によって、ほぼ全滅という結果となった。

 その日から3か月が経過し――地球には平穏が戻ろうとしていた。

 4月、沙流市には綺麗な桜の花が咲きみだれ、市民は新生活への一歩を踏み出していた。

 

「来る3年生! 最高学年! 後輩2年生女子は俺に恋をし、新入生も俺に恋をする! これこそ桃色の季節というものよ!」

 

 沙流学園の正門で声高らかに叫ぶこの男ーー草津一兆も、新たな生活に心躍らせていたのだった。

 

「ちょっと、そこの草津さん! 新入生が気味悪がっていますわよ!」

 

 よく通る声で草津を呼ぶのは、生徒会長となった杏城逢夜乃だった。

 すれ違う生徒たちと優雅に挨拶を交わしながら、彼女は草津の腕を掴んだ。

 

「まったく……ちっとも変わらないですわね、草津さんは」

「それが俺の持ち味だ!」

「それだから、女性にモテませんのよ」

「や、やめろ! 縁起でもないことを言うものではないぞ!」

「それはそれでいいじゃないですの。いざとなったら、私が婿に貰ってあげ――」

 

 そこまで言って、逢夜乃は顔を真っ赤にして俯いた。

 

「……こ、こっちまで、照れるじゃないか」

 

 草津も一緒になって頬を赤らめて、2人は並んで校舎へ向かった。

 

「なんだァ? いつの間にか仲良くなっちまって」

 

 逢夜乃と草津の様子を、樫尾玄は少し離れたところから眺めていた。彼の腕には『風紀委員長』を示す朱色の腕章が巻かれている。

 

「大変です、樫尾さん! 登校中の新入生がガラの悪い若者に絡まれているとのことですっ!」

「ったく……初日からやってくれるなァ」

 

 樫尾はブレザーを脱ぎ、報告に来た風紀委員に預け、校門を駆け抜けた。

 そして、メインの通学路から一本裏手の道に入ったところで、彼は叫んだ。

 

「うちの新入生に、何か用か……?」

 

 大人しそうな新入生から金銭を巻き上げようとしていた4人組が、一斉に樫尾を睨み付ける。

 

「おいおい、一人で来るってのか?ばかじゃねーの!」

「馬鹿はてめェらだぜ」

 

 その後4人組がどうなったかは、想像に難くないだろう。

 微笑ましくもあり、騒がしくもある沙流学園の新学期は、こうして始まったのだった。

 

 

 

 賑やかな登校初日の朝から時間は過ぎ、4時限目の体育館。

 3年2組の男女合同体育の授業が行われている。

 

「じゃあ今日から剣道の授業ですけど、皆さん頑張りましょうね」

「あの、一つ質問良いですか?」

 

 男子生徒の辻沼が、担当教師の菊地教諭に声をかける。

 

「菊地先生って、国語の先生でしたよね?」

「そうそう。紫苑レム先生が家庭の事情で退職なさったから、復帰したんです。ただ昔ちょっと剣道を嗜んでたもんで、その時だけ体育の担当もします」

 

 紫苑レムという名前に、草津が悲しげなため息をついた。

 修学旅行先のNYで死亡したデスフェル――紫苑レムは、表向き退職という説明が生徒たちになされていた。真実を知っている者はごく限られた学園関係者しか居ない。

 もちろんこの場には、一人もいなかった。

 

「というわけで、まずは剣道の試合というものを皆さんに見てもらいます。早坂君」

「はいっ!」

 

 凛々しい返事で答えたのは、早坂之道である。

 防具を身に着け、竹刀を握る彼は、どこか常人離れした雰囲気を醸し出していた。

 

「早坂君は剣道部の新部長で、巷ではインターハイ出場最有力候補と言われてるんですよね?」

「そ、そんなことないですよ! たまたま前部長の雪宮先輩が凄かっただけで……」

 

 一か月前、この学園の生徒として卒業した雪宮悠氷のことを、早坂は思い出した。

 

 “ダブルインパクト”の後剣道部の部長を早坂に譲り、彼女は特別推薦としてある大学に入学した。インターハイ準優勝という成績を持つ彼女は、入学早々から注目を浴びているようだった。

 

「ではでは早坂君、僕と手合わせ願います。本気でいいですよ。はじめ!」

 

 菊地教諭の間延びした合図が出される。

 その瞬間、早坂と菊地教諭の距離が一気に詰まる。

 

「面っ!!」

 

 目にも止まらぬ早さの一閃が、菊地教諭の面に叩きつけられた。

 

「い……一本……」

 

 情けない言葉を残し、菊地教諭はへなへなとその場に座り込んだ。

 

「早坂君、カッコいい!!」

「すげぇ早坂!俺、お前に惚れるわ!!」

 

 クラス中の熱い歓声を受けながら、早坂は照れ臭そうにしていた。

 

「早坂め……必ず勝って、今度は俺が女子の声援を独り占めしてやる……!」

 

 その後、対抗心を燃やした草津が何度も早坂に挑みかかり、返り討ちにあったことは言うまでもない。

 

 

 

 放課後となった。

 下校中の生徒たちは、放課後の過ごし方を話し合いながら、晴れやかな表情で校門を出て行く。

 その面々の中に、長瀬唯の姿ももちろんあった。

 

「夕花! もう私『カエル人間シリーズ』は観に行かないからねっ!」

「そんなこと言わずに、ね? 新作も行こうよ~」

 

 クラスメートで親友の北河夕花と並んで校門を抜けた2人の目の前に、何者かが突然飛び込んできた。

 

「唯ねーちゃん、夕花ねーちゃん!」

 

 はつらつとしたその声の主は、リュールだった。

 

「リュールくんっ!! お久しぶりだのうっ!!」

 

 唯は小さなリュールを抱きしめ、その頬に思い切り口づけした。

 

「ちょっ! 唯ねーちゃん……恥ずかしいよぉ」

「よいではないか、よいではないか~」

 

 されるがままのリュールは、顔を真っ赤にしていた。

 “ダブルインパクト”の混乱の中、ドラゴンを操って多くの人命を救ったリュールはGUYSの保護下におかれ、親しい人間たちと共に平穏な生活を送っていた。

 今でも時たま、地球産怪獣が暴れた時などはGUYSに協力しており、その可愛さも相まって一部の女性から熱烈な人気を得ているという噂すらある。

 

「夕花ねーちゃん、助けて……」

「唯さん!! リュールがゆでだこみたいになってますわっ」

 

 そこに駆け寄ってきたのは、校門でリュールと待ち合わせをしていた逢夜乃である。

 

「おねぇ様! リュールくんを私に下さいっ!」

「そ、そんな……まだ、早すぎますわ……」

「あやねーちゃんもふざけてないで、助けてよぉ!」

 

 やっとの思いで唯の腕と唇から解放されたリュールは、唯と夕花に別れを告げて逢夜乃と手をつないで帰路についた。

 

「今日の夜ご飯、何にしましょうね」

「ハンバーグ!」

「いいですわ。じゃあ帰りにスーパー寄りましょう」

 

 まるで親子のような会話をしながら、2人は歩いていた。

 しかしふとした瞬間に、リュールの表情が曇る。

 

「ねぇ、あやねーちゃん」

「なぁに?」

「……ううん、やっぱり何でもない」

 

 首を横に振ったリュールを見やり、逢夜乃は立ち止まった。

 

「……言ってごらんなさい」

「……あのさ――」

 

 そこで放たれたリュールの言葉ーーそれは彼らの“日常”が、実は完全に戻ってきていないことを逢夜乃に再実感させるのには充分だった。

 彼女だけではない。

 “あの日”の裏側を知る者たち全員の心に残った大きな穴は、未だに少しも塞がっていないのだ。

 

 

 

 

「それでは、まだ危機は終わっていないということですか?」

 

 ここは零洸未来の自宅である。

 彼女は自室のベッドの端に座りながら、何者かに話しかけるように声を上げた。

 

「テリブルゲートは確かに破壊された……戦士ゾフィーも見ていたはずです」

 

 一見独り言を並べているように見えるが、彼女はテレパシーを使って遠く離れた宇宙に居るゾフィーと会話をしているのだ。

 

『その通り。しかしヤプールや“星間連合”の残党が黙っているとは思えん。これまでことを鑑みると、奴らは必ず仕返しに来る』

「ですが、この3か月……宇宙人の襲来はありません」

 

 未来は自分でそう言いながらも、その事実を素直に受け入れられずにいた。

 これまで未来は、地球に仇なす数々の敵性宇宙人と戦ってきたが、これ程長期間襲来が無かったのは初めての経験だった。

 だからこそ未来も、そしてゾフィーも不可解と思わざるを得なかった。

 

『地球の周辺では何者かが地球を狙って暗躍していると報告を受けていた。だが不思議なことに、いずれも地球に実害を及ぼすまでもいかず、沈静化している』

「機会を窺っているのでしょうか?」

『かもしれん。まだしばらくの間は、襲撃に備えておく必要がある』

 

 そう言ってからゾフィーは、少しだけ間をおいて話を続けた。

 

『とは言え、平和であることは喜ぶべきだ。君はまだ、完全に身体の調子が戻っていないだろう。今はゆっくり休むと良い』

 

 ゾフィーの気遣いに、未来は黙ったまま頷いた。

 

「あの、戦士ゾフィー。やはり“彼”の行方は……そちらでも掴めていませんか?」

『残念だが、何も』

「そう、ですか。それでは、失礼します」

 

 交信を終え、未来はベッドに仰向けに寝転んだ。

 不意に指に触れたスマートフォンを手に取り、彼女は画面に目をやった。

 

Ayano.A:明日の宿題プリント、未来さんまだ提出していませんでしたよね? 必ず持ってきて下さいね!

Ayano.A:あ、そういえば今日のMステ、早坂さんたちが大好きなジルタス=メデューナルさんが出るらしいですわ!

Ayano.A:未来さんは観ます??

零洸未来:一応

 

 未来は、逢夜乃とからのメッセージに返事をし、スマートフォンを置いた。

 この3か月、未来はそれまでの激闘の日々が嘘だったかのような平和の中に居た。時々地球産の怪獣が暴れ出す災害は起こるものの、何者かの悪意を思わせる事件は無い。それが束の間であろうことは分かっていたが、未来はこの日常がいつまでも続けば良いと願っていた。

 

「……だが、奴は――」

 

 ふと、未来の口から小さな呟きが漏れる。

 同時に彼女は、自室の窓の向こうに何者かの気配を感じ取った。

 

「っ!」

 

 未来はカーテンと窓を勢いよく開けた。

 

「はぁい♪ 久しぶり、未来ちゃん」

 

 淡い月明かりと街灯に照らされた銀色の髪が、未来の視界に入る。

 百夜過去は宙に浮きながら、窓枠を指差して未来に目配せした。そして窓枠にひょいと腰を掛ける。

 

「目立つじゃないか……普通に来れないのか?」

「こんな時間だもの、誰も見てやしないわ」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべて、百夜は続けた。

 

「未来ちゃん、調子はどう?」

「特に問題は無い。むしろ、以前より身体が軽い気がする」

 

 ヤプールらとの死闘の後、未来と百夜はほとんど和解して交友関係となっていた。百夜は学園を去ったため頻繁に逢うことは無いが、時折こうして彼女が訪ねてくることがあった。

 

「そういう割には、会う度に浮かない顔してるけど?」

「……そう、だな」

「もしかして、まだ気に病んでるわけ? アイツのこと」

 

 百夜はため息をつき、窓から部屋の中へ入った。そのまま慣れた感じで、未来のベッドに寝転び始める。

 

「未来ちゃんが気にすることじゃないわ。アイツは自分から居なくなっただけよ」

「しかし、せめて消息くらいは知っておきたいんだ」

「そうねぇ……いつまた悪だくみを始めるか分かったもんじゃないものね」

「そういうことじゃない! 私は……」

 

 未来は開け放された窓を閉め、そこにもたれかかった。

 

「ヤプール達を退けたあの日、ニル=レオルトンは姿を消した。自分の“円盤”を破壊して、それきりだ」

 

 まくしたてるように、彼女は言った。

 

「奴が何を考えていたのか……私はそれを知りたかったんだ」

 

 苦々しい表情でそう言った未来に対し、百夜は意地悪く鼻で笑った。

 

「だったら探しに行けば?」

 

 未来は百夜の言葉に、すぐさま反応した。窓から離れて百夜に詰め寄り、その両肩を掴んだ。

 

「私だって、そうしたい!」

 

 未来はすぐに、自分の行動を顧みてばつが悪そうに表情を歪めた。百夜の両肩からそっと手を離し、足元に視線を落とす。

 

「私は地球を護る戦士だ。勝手なことは……できない。長期間ここを離れて探しに行くわけにはいかないんだ」

 

 悔しさに言葉を震わせた後、未来は押し黙った。

 

「暇さえあれば、ウルトラ念導使って探してるくせに」

 

 依然として口を挟まない未来を見つめる百夜は、軽くため息をついてから言った。

 

「……じゃあもし、すぐに見つけられそうなら、どうする?」

 

 ゆっくりと顔を上げた未来の目の先には、不敵に微笑む百夜の姿があった。

 

「私、アイツの居場所見つけたわ」

「本当なのか!?」

 

 今にも掴みかからん勢いの未来を制しながら、百夜は話を続けた。

 

「宇宙で暇つぶししてたら、偶然見つけたのよ。今金星に、アイツの円盤そっくりの宇宙船が停まっていたわ」

「あの男が……金星に?」

「目的は知らないけどね。ま、行ってみる価値はあるんじゃない?」

「……そう、だな」

 

 しばし逡巡した後、未来は小さく頷いた。

 

「いや、待て。しかし地球が――」

「ちょっとの間くらい、私が代わりになってあげるわ」

 

 目を見開いて驚く未来に、百夜はふくれ面で言い添える。

 

「そんなに驚かなくていいじゃない。たまの親切くらい」

「……頼んで、良いか?」

「特別よ?」

「……恩に着る」

 

 未来は振り返って窓枠に手をかけ、飛び出した。

 

「言っておくけど、帰ってきたら私の言うこと一つ、聞いてもらうからね」

「ああ」

 

 未来は二つ返事で答えて、夜の闇の中に飛んで行った。

 

「馬鹿な未来ちゃん」

 

 百夜は楽しげにベッドに寝転がり、仰向けになった。

 

「あまぁ~いキス、させてもらおっと♪」

 

 彼女は大きく伸びをして、布団をかぶって寝息を立て始めるのだった。

 

 

 

 金星は地球から最も近い地球型惑星でありながら、未だに多くの謎に包まれている。無人探査船が幾度か打ち上げられているが、その過酷な環境のために探査計画は難航し、もちろん有人飛行は非常に危険であるとされていた。

 しかし超常的な力を持つ光の戦士にとって、金星の環境など恐れるに足らない。未来は変身することすらせずに凄まじい高気圧の空を抜け、その大地に踏み入れた。

 わずかのエネルギー反応を辿りながら、彼女は雷鳴の中を歩き続けた。

 そして彼女は目視した。

 黄色い靄がかかったような不毛な大地の上、一隻の“円盤”が佇んでいる。

 その前に立つ人型の影は、彼女に気付いて近づいてきた。

 

「思いの外、早く見つかってしまいましたね」

「……ずっと、探していたんだ」

 

 未来の視界に“彼”の表情が映る。

 

「ようやく見つけた……ニル=レオルトン」

 

 その名を呼ばれ、ニルは歩みを止めた。

 黒いローブに身を包んだ彼は、人間態の姿で未来を見つめていた。

 

「お久しぶりです。零洸さん」

 

 知的な光を宿す瞳、不敵な響きを持った声色に慇懃な言葉選び、しかし時には優しげな雰囲気を醸す。どれも未来が知っているニル=レオルトンを象徴するものだった。

 

「何をしに、ここまで来たのですか」

 

 わざとらしく迷惑そうに眉をひそめるニル。未来は意にも介さず、返事をした。

 

「聞きたいことがある」

「今非常に忙しいのでゆっくりお話はできませんが、それでも良ければ」

「あの日、一体キミの身に何が起きたんだ?」

 

 ニルはしばし黙ったままであったが、一つため息をついて話し始めた。

 

「貴女が身体を取り返した後、私はキングヤプールを追って異次元空間の中へ入りました」

「奴は……まだ生きていたのか」

「気配を隠して逃げたようですが、侵略者たるヤプールがその程度で地球を諦めるはずはありませんから」

 

 ニルはどこか自虐めいた笑みを浮かべた後、続けた。

 

「その異次元空間で、私とヤプールは戦いました」

 

 

――――――

――――

――

 

 

 “メフィラス大魔王”の姿となったニル=レオルトンと、自らの肉体を取り戻したキングヤプールの戦いは熾烈を極めていた。

 

「どうしたメフィラス星人!!もうお終いか?!」

 

 所々にひびが入ったアーマー、自らの血液で汚れた白いマント――既にニルの体力は限界に近づいていた。

 

「……」

 

 キングの問いに何も答えないニル。いや、答える余裕が無いのだ。

 

「ふん、つまらん奴だ」

 

 黙ったまま膝をつくニルに、キングはゆっくり近づいた。

 光線技の応酬によって、大地には無数のクレーターが形成されていた。岩は粉々に砕け、もはや砂のように崩れている。

 そんな噴煙立ち込める異次元空間の中心で、彼らは向かい合った。

 

「必死だな、メフィラスよ」

「……そう、ですね」

「貴様の力は十分に理解した。私は力ある者は嫌いではない。今なら降伏を許してやろう」

「万に一つもありえません」

「訳のわからん奴だ」

 

 キングの右腕の刃が、ニルの喉元に強く当てがわれる。

 浅い切傷から、緑色の血液が一筋流れ落ちた。

 同時に、彼が早馴愛美から受け取っていたペンダントが、彼の懐からこぼれ落ちた。それは小さな血だまりの上に落ちる。

 

「地球に与する愚かな宇宙人よ。死ね」

 

 キングが右腕に力を込めようとしたしたその時、地面に転がったペンダントから凄まじい光が放たれた。

 

「ぐおっ!!」

 

 キングはその光を嫌うように後ずさった。

 それに対してニルは、まるでその光を求めるように手を伸ばした。

 ――温かい。

 ニルはそう感じた。

 痛みで感覚が消えかけていたニルの指先に、力が戻ってくる。

 

「まだ……死ねない……!」

 

 ニルは、光に悶えているキングの胸に両手を向ける。

 

「超魔……光閃!!」

 

 今までは真っ黒い光線だった。

 しかし今放たれたニルの必殺技は、まるで虹のように美しく輝いていた。

 

「ぐあぁぁぁ!!!」

 

 キングの胸に風穴が開く。

 

「これ……しき……すぐに再生させて――」

 

 ニルのあらゆる攻撃によるダメージを瞬時のうちに再生させていたキングの身体には、何の変化も現れなかった。

 

「何故だ……何故だ!!」

 

 キングは両手で胸を抑え、マイナスエネルギーを流し込む。それでも傷は塞がらなかった。

 

「忌まわしい……呪わしい光めぇっ!!」

 

 ニルは、愛美のペンダントが放つ光のエネルギーがキングの身体再生を阻害していることをすぐに理解した。

 だが彼に残された体力では、キングの身体を砕くに足る攻撃は不可能だった。

 

「――仕方、ありませんね」

 

 ニルは立ち上がり、キングに迫った。

 

「貴様は、苦しくないのか? これ程の光を目の当たりにして!」

「苦しみなど――」

 

 覚悟を決めたニルは光に包まれながら、左手でキングの首を強く掴む。

 

「――むしろ、心地良いくらいです」

 

 その瞬間、ニルの脳裏にいくつもの光景が浮かんだ。

 “誰か”と並んで歩いた通学路。

 “誰か”と隣り合っていた教室の座席。

 “誰か”の頬を伝う涙。

 “誰か”の、笑った口元。

 

「そうか、私は“あなた”を――」

 

 ニルは体内のエネルギーを、自ら爆発させた。

 彼の身体もろともキングヤプールの身体は粉砕し、そして巨大な爆発が異次元空間を震わせた。

 

――

――――

――――――

 

「私はキングヤプールと共に死んだはずでした」

 

 ニルはそう言って説明を終え、黒いローブの内側から銀色のペンダントを取り出す。

 

「気が付いた時には、これを握りしめて知らない惑星に放り出されていました。恐らくヤプールの異次元空間を通してどこかに転送されていたのでしょう。おかげで貴女の光線からは逃れることができました」

「そのお守りが、キミを救った……そういうことなのか」

「さぁ。私にも皆目見当は付きませんが、そう考えるのが妥当かと」

 

 彼は小さく微笑んで、未来に歩み寄る。

 彼女に差し出されたニルの手には、そのペンダントが握られていた。

 

「これを、返しておいてください」

 

 ペンダントは半分に割れていた。

 

「私のせいで、壊れてしまいました。が、無いよりはましでしょう」

 

「……分かった」

 

 未来はそれを受け取り、ポケットにしまう。

 

「私に会ったことは、他言しないでください」

「地球に戻る気は無いのか?」

「ご冗談を」

 

 ニルは未来に背を向け、円盤の出入り口に向かった。

 

「レオルトン!!」

 

 未来が叫ぶ。

 

「キミは地球を救ったんだぞ! 私だけじゃない、皆が知っていることだ! もちろん“彼女”も! だからキミ自身が……したいように、決めろ」

 

 ニルは振り返らなかった。

 未来はその姿を見て、自らも踵を返してその場を後にした。

 やがて彼女の姿が粉塵の中へ消え去ってから、ニルは振り返った。

 

「……したいように、していますとも」

 

 彼はローブの内側から、銀色に輝く欠片を手に取った。それは未来が受け取ったペンダントの片割れであった。

 

「ですから……これだけでも、私に下さい」

 

 ニルはそれを握りしめ、黄土色の空を見上げた。

 そして何を決心したように目を見開き、円盤の中へ入り込んだ。

 

 

 

「で、結局あのスカシ野郎を連れ戻せなかったわけね?」

 

 明くる日、金星から帰還した未来は、普段通り学園に通っていた。そんな彼女を問い詰めに、百夜が校舎の屋上で待ち受けていたのである。

 

「連れ戻しに行ったわけじゃないんだ」

「じゃあ、何で3か月もアイツを探し回ってたわけ?」

「一言だけ、言ってやりたかっただけだ」

 

 フェンスの上に座っている百夜を見上げたまま、未来はそう答えた。

 

「どうするかはレオルトンが決めることだ。そうでなければ、意味が無い」

「まぁ未来ちゃんは自分の意志は関係なしに、みんなにソルだって知られちゃったけどね。自分から話しそびれて」

「わ、悪かったな」

 

 未来は若干顔を赤くして、視線を百夜からそらした。

 

「私は逃げ続けた結果“彼女”を苦しめた。だからこそ、彼には自分で決めて打ち明けてほしい。本当の、彼自身の想いを」

「あの朴念仁にできるかしらね」

 

 百夜はフェンスを飛び下り、未来の前に軽やかに着地した。

 

「それはそうと、そのペンダントはどうするの?」

「……残された円盤の中から見つかったとでも話すさ」

「まるで遺品ね」

「レオルトンの選択次第では、そうなるかもしれない」

 

 彼女はそう言い残し、屋上を後にした。その表情からは、苦々しさがにじみ出ているばかりだった。

 だが未来は、信じたいと切に願っていた。

 ニルが自身の意思で、全てを告白することを。

 自分ができなかった形で彼が決着を付けることを信じながら、彼女は階段を駆け下りて行った。

 

 

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 それは完全な失態だった。

 私は零洸未来との再会の直後、すぐさま円盤を動かし地球に向かっていた。まさか零洸を追うわけではない。追っているのは、別の対象だ。

 

『ある地球人を連れ去るため、元連合所属の宇宙人が秘密裏に地球に進入する作戦が決行されている』

 

 某惑星で殺害した宇宙人が吐露した情報である。地球に対して敵意を持った宇宙人は未然に抹殺してきたつもりだったが、どうやら今回は漏れがあったらしい。

 そんな理由で再び地球に向かうことになったのだが、やはり宇宙から目にする地球の全貌は、美しかった。

 光の戦士に愛され、数多の宇宙人が欲したこの惑星を手にする――難易度の高い目標は、惑星侵略というゲームを更に刺激的にしてくれた。

 当初はそうとしか考えていなかったが、いつの間にか妙な思い入れができてしまったようだ。

 そんなことを思い出している内に円盤はGUYSスペーシーの防衛網をすり抜け、何の問題も無く夜の地球に進入できた。円盤は目的地から少し離れた山中に着陸させた。

 

「さて、人間に変身するか」

 

 円盤のハッチが開き、私は久方ぶりに地球の空気を吸った。相変わらず居心地の良い惑星だ。先ほどまで滞在していた金星とは大違いである。

 その後すぐ、私は山を下りた。目立たぬよう人間の一般男性が身に着けそうな服を着て、野球帽を目深に被った。

 3か月ぶりに降り立った沙流市中心街には“ダブルインパクト”の爪痕がまだ残されていた。使い物にならなくなった建造物の取り壊しや、損傷したインフラの整備は目下続行中である。しかし街を歩く人々の表情は既に明るく、元の喧騒が街路に満ちていた。

 そのざわめきを抜け、私は閑静な住宅街へ足を踏み入れた。

 しかしすぐに私は、暗い細道に身を潜めた。部活動帰りの沙流学園生が相次いで道を歩いて行った。私は帽子をさらに深くかぶり、背中を丸めて歩き出した。

 幸い、地球滞在時の記憶は鮮明だった。ゴーデス細胞を濫用し極限まで体力を使っただけでなく、ヤプールとの戦闘で死にかけたぐらいだ。記憶が飛んでいてもおかしくはなかった。

 だが目の前の光景は、私の記憶と寸分違わず存在していた。

 

「そろそろ、ですね……」

 

 私は小さなレーダーを取り出し、その画面を凝視した。目標を示す反応は、徐々にこちらに近づいて来ている。

 私は注意深く周囲を観察しつつ、そのレーダーの画面に視線を落とした。

 そして時は来た。

 私の目の前を、黒い人影が通り過ぎた。

 人影は足早に、学園生たちが通る道路に出ようとする。

 私は素早くその人影に近づいた。

 

「っ!!」

 

 その時、人影が私の存在に気づき振り向いた。

 その手が私を襲おうと前に突き出される。

 

「ぐあぁっ!」

 

 小さく響いたのは――私ではない、奴の悲鳴だった。

 

「き、貴様は……」

 

 心臓部を私の左手で貫かれながらも、奴は必死に呻いた。

 そして人影の真の姿が、月明かりに照らされた。

 

「マグマ星人。爆破した“円盤”ごと死んだものかと」

 

 半身に火傷らしき損傷を得ていた彼は、私を突き飛ばした。その口元に卑しい笑みをほころばせながら。

 

「メフィラァス! 会えて嬉しいぜ!」

「貴方の謀略は既に“星間連合”の仲間から聞き出しました。再び“ガイアインパクト”を起こすべく、連合の残党が暗躍していたようですね」

 

 私の言葉に、奴は愉快そうに返事をした。

 

「そいつらは囮よぉ、メフィラス」

「囮?」

「そうだ! もはやガイアインパクトなど関係ない! このマグマ勲章を使って、地球を木端微塵にしてやるのだァ!!」

 

 マグマ星人は胸の紋様に触れ、興奮に顔を歪ませていた。

 あれは地球のマグマと接触して発動させる勲章――行動に移しているということは、その噂は本当なのかもしれない。

 

「そのついでに……お前が入れ込んでた地球人を殺してやろうと思ったんだがなァ」

 

 焼けただれた肩をかきむしりながら、マグマ星人は私に近づいて来る。

 

「だとすれば、尚のこと生かしておくわけにはいきません」

 

 私は、マグマ星人の眼をじっと睨みつけた。

 彼は一瞬、呆けたように動きを止めたが、まもなく声高らかに嗤った。

 

「はははは! 調度いい! ここは地球の地核じゃあないか! 俺がここに居る時点でお前の負けだぁ! このマグマに触れれば地球もお前も――!?」

「お前も?なんです?」

「そんなまさか……さっきまであったマグマがない!」

 

 すでにマグマ星人は私のかけた幻覚を見ている。先程まで奴が目にしていた風景、感じていたであろうマグマの臭い、熱さ――全てはまやかしである。

 狼狽し、もはや正気を失って無力となった宇宙人のマグマ勲章をグリップビームで打ち抜く。

 マグマ星人は息絶え、その場に倒れた。

 

「……ふぅ」

 

 私は腕に付いた緑色の血を拭いながら、私はレーダーとは別の端末を操作した。それを使ってGUYSのコンピューターに侵入し、ここの位置情報を送信、同時に出動要請が発せられるように細工した。

 実際に宇宙人の侵入があったと知れば、GUYSの警戒も一層強まるだろう。

 だが問題なのは、連合の残党が付け狙っていた人物だ。それを明らかにしなければ対策を立てることが――

 

「――っ!!」

 

 その場を去ろうとした時、不意に通学路に向けられた私の目は、確かにそれを捉えていた。

 その姿は、まるでスローモーションで動いているかのように見えている。

 

「さ――」

 

 私は口をつぐみ、通学路に背を向けた。

 同時に私は理解した――狙われていたのは“彼女”だったのだ。

 恐らくデスフェルが“彼女”を利用して“ガイアインパクト”を起こそうとしていたことが、連合内部で知られていたに違いない。 

 私はその場を離れ、不自然に見えぬよう早足で路地を通り過ぎていく。

 急ぎ策を練らねばならない。一個人の護衛となれば、地球外からの観測は難しい。いや、市街地の監視カメラ映像を傍受すればあるいは――

 そんな取りとめの無いことを思案しつつも、先ほどの光景が私の頭でフラッシュバックする。

 “彼女”は、泣いていた。

 その手に、半分に割れたペンダントの鎖を握ったまま、涙を流して走っていた。

 たった一瞬しか目にしなかったはずなのに、驚くほど鮮明に、その姿は私の脳裏にこびり付いた。

 だからだろうか。私の足は、突然動きを止めた。

 自分が護りたいと思った人々を、どんな形であれ護ることができれば良い。

 だが、それだけでは足りなかったのだ。

 あの“彼女”の涙を見て、ようやく気付いた。

 私が本当にしなければ、いや“したい”と強く願うこととは――

 

「行かねば」

 

 すぐさま、私は駆け出した。

 来た道を再び、全速力で戻る。途中で帽子を落としたが、構ってはいられなかった。 

 しかし先ほどの通学路に着いた頃には“彼女”の姿は無い。

 私は立ち止まり、全神経を使って周囲を探知した。

 思い出せ。

 “彼女”の気配、体温、匂い、音、その声を。

 

「――見つけた」

 

 私は再び駆け出した。

 行き着いたのは、私が最も見慣れた場所だった。

 初めて人間としての生活を始め、“彼女”と一緒に行った不動産屋にいくつもの注文をして選んだアパートだった。

 その扉の前で、やはり“彼女”は泣いていた。

 ペンダントを握りしめたまま額をドアに押し付け、止めどなく涙を流していた。

 それを道路の真ん中に立ち止まったまま、私は目にしていた。

 ――会う必要などない。陰から護ればいい。零洸未来に託せば事足りる。

 そうじゃない。

 刹那の迷いを振り払い、そして一歩踏み出す。

 今私を突き動かしているのは、目的意識や理屈ではなかったのだ。今まで感じたことの無い情動に、私は逆らうことができずにいるのだ。

 コンクリート製の階段を一段飛ばしで登る時も、2階に上がり通路を突き進む時も、私の頭は一杯だった。

 

「ニル……」

 

 こちらに振り返らないまま“彼女”が発した私の名。

 

「帰って来てよ……」

 

 私に気づかないまま、紡がれた願い。

 それに、今、応えたい。

 

「早馴さん」

 

 “彼女”――早馴愛美の身体が、ぴくりと震える。

 

「泣かないでください」

 

 早馴は頭を上げ、ゆっくりとこちらを向く。そして小さな歩幅で、少しずつ彼女は近づいてきた。

 

「そんな悲しい顔をさせるつもりは、ありませんでした」

「ニル……なの?」

「そうです」

「生きてたの?」

「はい」

「なんで……今まで……」

「会わせる顔なんて、無かったんです」

「何よ、それ」

「私は悪質宇宙人メフィラス星人です。貴女がた人間のて――」

 

 熱を帯びた早馴の唇が、私の口を塞いだ。

 私の胸に飛び込んできた彼女の顔が、目の前にある。

 やがて長い口づけの後、早馴の顔が徐々に離れていく。

 

「好き」

 

 早馴が口にしたのは、たったそれだけの言葉だった。

 だが充分だった。

 私はただ頷き、彼女の涙をそっと拭った。

 

「愛美さん」

 

 私は彼女の名を呼んだ。

 

「もう、二度と泣かせません」

 

 私が、本当にしたかったこと。

 

「あなたの前に帰って来ても、いいですか?」

 

 本当に言いたかったこと。

 

「……ばか」

 

 涙でいっぱいの目を細め、悪戯っぽい笑みを浮かべた彼女は、もう一度私の背中に手を回した。

 

「ダメって、言うと思った?」

「ふっ。どうでしょう」

 

 小さな身体を、強く抱きしめる。

 懐かしい体温が、私の身体をも温めてくれているようだ。

 しばしの間そうしてから、一度離れて私は口を開いた。

 

「1つ、謝ることがあります」

「ん?」

「ペンダント、壊してしまいました」

 

 私が持っていた片割れを渡すと、愛美は自分のそれと合わせてみせた。

 

「これ、半分あげる」

「いいんですか?」

「その代り」

 

 彼女の手が、私の手に重なる。

 その2つの手の中で、2つのペンダントも重なった。

 

「ずっと、一緒にいて」

「もちろんです――」

 

 私は彼女の手を握り返した。

 

「――いつまでも、ともに、あなたと」

 

 最後に取り戻したかった、彼女の笑顔。

 それは今間違いなく、私の目の前にあった。

 

 

 

 

 私はメフィラス星人。

 人間の“心”を知るべく、人間として地球にやって来た侵略者である。

 

「おはようございま――」

「レオルトンさん! また一部の生徒から苦情が来ていますわ! 新入生の女子を早くも手籠めにして公共の場でいちゃついているとか!」

 

 教室の扉を開けた瞬間に、杏城のやかましい怒鳴り声に面食らう。

 

「ですから、それはいつも誤解だと説明を――」

「やかましいっ! 最近の貴様の行動は目に余る……久々に戻って来たら途端に人気を博すとは許せん!!」

 

 杏城と並んでいきり立つ草津も、相変わらず騒がしい奴だ。

 

「よゥ、人気者。今日も苦労が絶えねェな」

「頑張ってね、ニルくん……」

「樫尾さん、早坂君。おはようございます」

 

 2人に挨拶を返し、がやがやした教室を横切って自分の席に着く。

 

「あぁっ! ニルセンパイ居た! 昨日センパイのお部屋にシュシュ忘れちゃったんですけど、ありませんでした?!」

「長瀬さん。今その話題はちょっと……」

「どういうことですのっ!!」

 

 廊下から顔を出した長瀬のもとに、杏城と草津が何やら問い詰めに飛んで行った。もう放っておこう。

 

「やれやれ。キミはいつまでたっても、落ち着かないな」

「そう思うなら、学級委員として助けて下さい。零洸さん」

「ふふっ。そのうちな」

 

 少しだけ髪を伸ばした零洸が、軽く私の肩を叩いて自分の席へ戻っていった。

 

「朝から疲れますね……まったく」

「そう思うなら、少しは行動を改めたらどうですかー?」

 

 そして、私の隣の席。

 早馴愛美が、眠そうに目を擦りながら椅子に座る。

 

「おはようございます、愛美さん」

「うん、おはよう」

「念のため言っておきますけど、私は愛美さんだけを愛していますから」

「え、い、いきなり何なの!? こんなところで急に……」

「思ったことを言っただけですが」

「もう……いちいち恥ずかしいからやめてよ」

「そういう表情も可愛いですよ」

「だーかーらー!!」

 

 私は、人間の“心”の強さを目の当たりにした。

 だがそれだけではない。

 私は“心”を手に入れ、強くありたい。

 愛すべき者を、いつまでも護り続けるために。

 この微笑ましい日常を、いつまでも守り続けるために。

 

 

―――fin.




これをもって『留学生は侵略者!?メフィラス星人現る!』は終幕です。
今まで読んで下さった皆様、本当に本当にありがとうございました。
毎話のアクセス、評価や感想、お気に入り登録など、多くの方に支えられてここまでやってこれました。
また制作に関わった友人にも、この場を借りて感謝申し上げます。

最終話を迎えたとは言え、私自身はこのサイトにずっと出入りしていますので、いつでも感想やメッセージお待ちしております。

改めまして、ありがとうございました!!

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